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【贖罪】35 記憶回廊
【贖罪】36 目覚め
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【贖罪】35 記憶回廊
カタン…カチャッ。
開かれた鍵が、音を成し、ギィィと開かれる重厚の扉の奥に
台座に置かれた石があった。
綱手がそれを執務室の机の上に置くと
カカシを見やる。
「割るんだったな?」
「はい…」
チチチチィ…と、カカシの手にチャクラが集まり、周りに
収まりきらない雷がパチパチと線香花火のように火花を散らす。
「机は壊すなよ?」
「解ってますよ…ま、壊れればヤマトに頼むからイイんですけどね」
その言葉の後にカカシは手刀を振り上げ、振り下ろすと
一気に石が砕け飛び、綱手は目の前を、着物の袖で覆うと、ドサッと
カカシの倒れた音が聞こえ、慌てて傍に寄ると、すぅすぅと眠るカカシ。
首筋に手を当てて、綱手は脈を確認するとカカシの体を暗部に頼み
ナルトの待つ部屋へと向かった。
回る回る…蘇る欲望と愛の狭間。
まどろみながら彼女を強く求め、穿っては満たされた。
欲情に任せながら抱いた記憶は次々と蘇り、その時己が何を求め抱いていたのかを
思い至って苦笑いを零した。
彼女を抱きながら感じた違和感が今なら何故かがわかる…
そして、記憶のない己が惹かれたナルト…
もう既にそれが答えだと、言わんばかりの感情を持て余した己
全ての記憶が、ひとつになって行く。
それ程までに、ナルトを想い続けていた己に
すごい執着だとさえ思える。
写輪眼で、時折映り込む金髪…当時は誰かと悩んだが
いとも簡単に暴かれた正体。
女を抱きながら、高みに昇った時求めたのは…彼女ではなく
あのしなやかに伸びる体躯…
気持ちが高ぶるに連れ、彼の体と、女の体の違いに違和感を抱いて当たり前だった。
そして、女も深く繋がりを求め、毎夜のように布団に忍び込まれ
触れられれば、男の性とも言おうか…
出すものは出したい欲望に従ったまで。
記憶があれば確実に拒めたその行為は、夜が明けても尚続けられ
彼女と一つに溶け合いたいと感じていたのだと
そんな感情まで、不要ではあったがカカシにしてみれば己のしてきた行動
全てを、どんな事があっても受け入れればならない。
「ナルト…悪かったね、こんなに長い間お前を一人にしてたんだね」
ゆるりと、目を開くと同時に出た言葉だった。
周りの暗部が、大丈夫かと寄り添ってくれたが
今はナルトの顔が見たかった。
「ナルトの所へ…」
その言葉に従い、まだ覚醒しきってない頭で
カカシは暗部に支えられナルトの居たあの部屋までを歩いた。
長く細い道…
両サイドに暗部が居てくれて助かった。
チャクラも、あの石にかなり吸い上げられたようで
手がフルフルと震えを見せ、息が上がる。
忍を忘れてた時期の自分の体の変調と現在チャクラを溜め込んでいる自分の
体との作りが大幅に違うことで、脳が驚いているのかもしれない。
ひとつ、カカシにはナルトを助けれるかもしれない…
手段が記憶には隠されていた。
スイが生まれて2ヶ月ほど経った時、大泣きするスイを二人で交互にあやしながら
スイが、体から黒い塊のようなものを吐き出すと言う不可解な現象が起きた。
その時、ウズリが使った言葉…
「ナルト!?」
ベットの上に寝かされたナルトは青白い顔で、ハァハァと息を荒げ
喉の奥からくぐもった声とも言えない音が吐き出される。
近くまでカカシが歩を進め、ナルトの体に触れると
あの言葉が鮮明に思い出せる。
「天翔ける龍の金色の背に輝く鱗…
あらゆる苦難を背負い、あらゆる滅罪を背負う背に
この者の苦行をも…乗せたまえ」
スッと…ナルトの腕に刻まれた文字が動き出し、一度は消えるものの
腕に再び文字が浮き出した。
「ダメ…だったのか?」
カカシがジッとその印を見るが何も変化は起きなかった。
だが、サスケがその印が動きを見せた事から
術を解くにあたって、カカシは然程遠くない事をやったのだろうと
思って声を掛ける。
「カカシ…それは龍の言霊じゃねぇのか?
ナルトに刻まれている梵字は…子だ」
その言葉に頭の中で徐々に整理されていく記憶…。
「子?スイはこれで…収まったんだけど…はっ!スイだ!」
カカシが一人で記憶と格闘する中、一つの思考が生まれた。
「ウズリは、術を掛けたのは自分じゃないと言った…傍に一緒にいたのはスイ…
スイは生まれて然程経たない内に、体が黒く濁った何かに包まれ、ウズリがこの言葉を使った…
それと同様で、もし…もしも、スイが何らかの力を使ったとすれば?
憶測でしかないが、スイを連れて来ます!」
動きの鈍い体を動かして、カカシがドアに手を掛けると
クルリと振り向いて、叫ぶように言葉を残して部屋を出た。
「ウズリの所でなにか解ったか…誰かに聞きに行かせてください」
その言葉に動いたのはサスケ。
カカシは、アカデミーのイルカの元へと急いだ。
もし、スイがナルトを何らかの形で縛ろうとしているならば…
それを解かせる方法など存在するのだろうか?
まだ、2歳と言う年齢上、スイが自我でナルトを開放するとは思えない…
ウズリだげが頼みの綱となってしまうのか…
まだ、しっかりと感覚が戻らない自分の体を引きずりながら
どうにかたどり着くと、イルカの机の横で、預かってもらったままの
眠ったスイが視界に入った。
「一度も目覚めてない…んですか?」
その声に、書類に通していた目を上げ、イルカがええ、そうですよ…と
返事を返す。
「すいませんでした、いきなり預けちゃって…」
「あぁ、気にしないでください…ずっと寝てましたし大丈夫でしたよ?
時折唸ってる事はあったけど、軽く揺すれば、ニッコリと表情を変えて
寝てましたから」
スイがいくら子供だからといって…こんなに長い間寝ているのは
どうにも腑に落ちない。
カカシは感謝を述べて、スイを抱き上げると、ナルトのいる火影邸へと向かった。
「スイ…起きなさい」
歩きながらではあるが、ペチペチと頬を叩いてみるも反応がない。
カカシは、もう一度強めに叩いても反応がない事を確認すると
急いで綱手とナルトの待つ部屋へと入った。
「カカシ!ナルトが…」
呼吸がままならず、時折 かはっ と、どうにか息を吸い込む程の
衰弱に、呼吸マスクを付けられたナルトの横にスイを寝かせる。
「スイ…ナルト…お前たちは何で繋がってるんだ?」
並んだ二人の顔が、ゆるりと微笑んでいるように見えた。
その後を追うように、サスケがもどると
カカシの独断でスイをナルトの横に寝かせている状況に胸をなで下ろした。
「カカシは知ってたのか?」
「え?」
「スイが、傍に居ればナルトの様態が落ち着くと…」
そう言われて二人を見やると、先程まで血色を無くしていた
ナルトの頬に赤みが差していた。
「どういう事だ、サスケ!」
自分の力でどうにも出来ない歯がゆさが、綱手の言葉を荒れさせる。
「これは、陰陽師独特の習性らしい…しかも結構な力を持つ者にしか現れない
自分が気に入った者との契約らしい」
二人が、目を丸くする。
「契約?」
「あぁ、だけど…スイが契約印を組めない以上
その術は契約されることはなく、一方的に二人共縛られてしまうんだ
おそらく、妖狐が居る御蔭でその契約が発動したって訳だ…」
「人柱力故…って事か?」
「平たく言えば、そうなるな…」
二人の会話に、カカシが、その場でナルトの頭とスイの頭を交互に撫でながら
言葉が発された。
「前に黒い靄が出た時には収まったけど、それって…妖を持つ者が居なかったから?」
カカシは一度その力を抑えるウズリを見ている。
だからってそれを何かの術と結びつける事が出来なかったのは
記憶を抜かれていたからだろう。
「その抑えた時の事は判らないが…契約をしなくては
スイも弱るし、無論契約をされた妖しも…同様だと言う
ただ、互いに傍に身を置けば、契約はされる物だと呪印が動きを
弱めるらしいんだ…だからスイを傍に置けば…どうにか時間稼ぎにはなるって事だ」
二人がジッと見る中、綱手がナルトの口に当てていた呼吸器を取ると
スースーと穏やかな息が続いている事にホッと胸をなで下ろした。
「カカシ…最後の仕上げはお前だ…」
サスケに言われて、首を傾げながら問う。
「え?どう言う事よ」
「ウズリが、術の解除方法を教えてやるからお前が来い…とさ。」
「…そう、解ったよ」
そっと二人の頭をさらりと撫でると
カカシは指を立て、ボフンと姿を消した。
「サスケ、ナルトを見ててやってくれ、私はもう一度
陰陽師の文献を読んでみる」
「あぁ…解った」
カカシの座っていた椅子をグッと足で引き、腰を落とすと
「バカが…」
と、ナルトの頭を軽く小突き、フーっと溜息を吐き出した。
「サクラオマエもこっちへ」
「え?あ…うん」
ずっと、奥の方で何も出来ず歯がゆい思いをしながら座っていたサクラが
その椅子を持ち上げてサスケの横にその椅子を置き、腰を下ろした。
「ナルト…ホント、バカ…誰にでも好かれてるんじゃないわよ!」
手をグッと持ち上げたサクラの腕をパシッと掴んだのは、サスケだった
「…サスケ…くん?」
「何頬染めてるんだ…お前が軽くでも小突けば、ナルトが吹っ飛ぶだろうが」
「ひどっ!恋する乙女にそれは酷いっ!」
「あ~もう、解ったって…今はナルトだ、サクラ」
「うん……」
眠る二人に何も出来ずにいる二人が、黙って見守っていた。
◇
ぴちゃり…
ぴちゃ…
響く水音に、カカシが視線を上へと向けると
牢の中に水責めでもされたのであろう、水浸しのウズリと目があった。
「…か、わ…」
「カカシだよ」
「…まだあなたの名前は呼べない」
「…なに?」
ジャラリ…縛られた鎖が音を成す。
ウズリの両手が、上に高く釣り上げられ、立ちっぱなしの姿。
眠る事も、座る事も出来ない拷問術の一つ…
「アナタの名前が…スイを解放する私の鍵なの」
「っ…どう言う事?」
「さっき言った事も全て本当よ…でも、スイを縛ったのは私
記憶がもう戻ってるなら、いつそれがされたか…アナタは解るわよね?」
「生まれて…すぐの時」
「そう、あの黒いモヤは妖を呼ぶの…不吉のモヤと
陰陽師を知らない人はそう呼んでいた。
でも、あれは契約をする為に自ら発する妖を呼ぶ気…
スイは、無意識であの子の中の狐を見付けてしまった…
だから、スイはあの子にはさぞ懐いたでしょう?
私はあまり見ていないから解らないけど…きっと、アナタが驚く程
あの子を、気に入ったはずよ…」
「……確かに驚いたね、誰彼構わず抱けば泣くスイが
ナルトの腕の中だけは、黙って身を委ねていたからね…」
「だから、あの子を開放すれば…あの子の中の黒いモヤは再び動き出すわ…
あの子に掛かった術は直接スイから受けたはずだから
スイの拘束能力が低くなれば、自ずと解放される」
カカシが、目の前に置かれた監視用の椅子に腰を掛け
鉄格子越しに話を続ける。
「…解った、信じよう」
「貴方を愛してた…」
「………うん」
「凄く…大事で、離したくなくて
嘘を重ねて、アナタの逃げ道を全て絶った。」
弱々しく吐き出された言葉に、カカシがあぁ…と返すと
ウズリは話を続けた。
「あの、赤い目の子…いえ、スイが全てを狂わせるなんて…計算外だったのよ。
あの子があんなに陰陽師の血を濃く受け継ぐはずもなかったし
アナタの血を引いてるだけあって、身体能力も高い。
あの子はどちらにでもなれる力を今に身に付ける…
ねぇ、アナタはどっちにしたい?やっぱり、忍?」
「……スイは、好きな道を歩めばいい、オレだってこの道を己で選んで
忍に身を置いたんだ…オレは少し特殊でね自慢に聞こえるかもしれないけど、
身体能力や忍としての力が突出していたんだよ…
幼い頃からそれが誇りだった…父もそれを見て喜んでくれてたし
だから、オレはこのまま、忍を辞めるつもりもないし、この里を出る気もない」
チャリ…と、鎖が揺れる。
「スイをお願いできるかしら?」
「……そのつもりだよ」
「潮時って事かな?」
「あぁ…そうなるね」
シン…と静まった空間に二人の息遣いだけが微かに聞こえるその場所で
二人は、言葉を紡げずにいた。
カカシにも精神訓練を受けたからといって、全く無情な訳ではない。
どちらかと言うと、忍と言う仕事を無くしてしまえば
優しい男と、定義されてもおかしくはない男。
「最後に…お願いがあるの」
「なに?」
「アナタの…名を呼んで解印する前に…最後にキスして欲しい」
自分を愛した女…
自分が愛した女…
無碍になど出来ずに、鍵を持った門番に一言告げて鍵を開けてもらい
中へと身を滑り込ませた。
ガチャリ…と、締められた鍵。
「カワ…」
「本当に最後だよ…これ以上は、気が長いオレでも、待てない」
「…解ってるわよ。離婚もするし、もし生きて出られるなら
私は、幸せをもう一度見付けるわ…殺されるなら…アナタの手で私を…」
「もう…黙って」
スッと下ろされた口布から、形のいい顔が晒されると
久しぶりに見たと、彼女は微笑んだ。
先程の話を聞いていた一人の暗部が綱手の元に走ったのは
気配で感じていたから、解印されても何らかの手はずは出来るだろうと
カカシは、ゆっくりと顔を傾けて唇を重ねた。
「ありがとう…カカシ」
そう、呟いた彼女は、ガクンと力なくその場で脱力し気を失った。
廊から出たカカシが門番に鍵を掛けて貰う前に
恐らくもう、脱獄はないから手を離してあげてと
伝言を頼みナルトの元へと走った。
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【贖罪】36 目覚め
『あ”あ”あ”ぁ”……』
目指している場所から聞こえる音が、声なのか?
何かが苦しむような…そんな音を何度も耳にするのに
瞬身を使ってるはずの己の時間がゆっくり動いているかのように
カカシには感じた。
ナルトか?
スイか?
どちらにしろ、己の大事な人である事に変わりはない。
どうにか辿りついたドア一枚の先に声が荒ぶる。
「シズネ!ナルトを!サスケ!スイを抑えろ」
バタバタと中で何が起きているのか手に取るように分かってしまう。
スイの体が再びモヤに包まれているのだろう
それにナルトの九尾の力が反応を示し…
グッと一度手を握りしめてから、ドアを開いた。
「カカシ!お前も手伝え!」
スイの体が、昔のように黒いモヤを産み出し、ナルトの体を包んでいた
それに引き込まれないように、サスケ・サクラ・シズネが二人の体を引き離し
円形の呪印が施されているそこで、綱手は座り込んで印を結んでいた。
「静まりますか?」
グッと、スイを支えていたサスケに手を貸しながら言うカカシに
「無理にでも沈める!」
と、やっと女傑らしい言葉を聞いた気がした。
ナルトは、”やめろ!”と、何度も叫んでいたが
何に対して叫んでいるのかは一向に解らない。
ただ…彼の言葉が戻った事…ウズリの術は、しっかりと解かれたのだと
ようやく確認出来た気がした。
スイは意識はまだ覚醒しておらず、モヤだけがナルトの生命力を
欲するように、ナルトへと何度も襲い掛かっていた。
綱手の印がそのモヤを引き寄せるも、やはり九尾の妖力には叶わないのか
どうにも上手く引き寄せられないと、綱手が徐に指先を噛み切ると
カツユを呼び出した。
「済まない、手荒いがコレしかないんだ」
カツユがふわりと、ナルトの体を包み込むと、黒いモヤが
一度カツユを包み込むが、スススッと、離れると行先を失い
全て綱手の手の中へと集まっていく。
その集まった塊を、綱手がチャクラを練り込みながら
小さな形へと凝縮すると雫型の黒い石のような塊が出来上がった。
「これで…暴走は止まるだろう」
ガックリと膝を落とした綱手に、シズネが駆け寄り体を支える。
「恐らく…スイは何度かこうやって力を持て余す事が起こるぞ?
カカシ…お前がそれをこれから抑えていけるか?」
正直自分の専門分野からかけ離れた事。
綱手は、今回やってのけたが、かなりの疲労を漂わせているのは
一目瞭然…。
「…努めます」
とは、言ってみたものの…不安は残る。
「オレも、いるってばよ」
カツユから解放されたナルトは
ベタベタするーと騒ぎながらも、カカシの横へスルリと立つと
ニッコリと笑った。
「お前…」
「良くわかんねぇけど…クラマがある程度ならどうにか出来るらしい」
腹に手を置いて、ナルトが告げると
どうやら綱手も興味を引いたらしくどういう事だと
問い掛けてきたが、体力の消耗が激しく
詳しい事はまた後でと、クラマは眠ってしまったらしい。
どうにか危機は脱した…と、一言いいおいて綱手は執務室へと戻っていった。
「んじゃ、俺らも帰るぞ…サクラ」
「え?あ…うん」
後ろ髪を引かれるようなサクラを、サスケが引いて部屋を出ていくと
カカシとナルトの二人…そしてスイが残った。
カカシが、荒れた場所の片付けをしながら大丈夫か?と、聞くと
ナルトはコクコクと首を上下に振った。
「先生…迷惑かけてごめん、オレこんなんなるなんて思ってなくて」
しゅんとしたナルトが、今回の事に付いて謝ると
カカシがソっと横に立ち、グッと腕を首に絡め抱き寄せた。
「いや、オマエのせいじゃない…」
全ては、己が巻き起こしてしまった失態と
昔から何度も経験した事のある恨み復讐……
今回は、ナルトを、スイを失わずに済むのだろうか…
カカシは不安に襲われる胸をナルトを抱きしめる事で
打ち砕いた。
「…スイはどうなったんだってばよ?」
きょろりと、辺りを伺うと、ベットに寝かされたスイが目に入り
あっさりとカカシの腕の中を離れ、ナルトはスイを見やった。
「あは…すっげー爆睡してんのな…」
サラリとナルトが髪を撫でると、ん…と、身じろいでからスイが、意識を覚醒させた。
「にゃ?なっとぉぉお!」
起き抜けに叫びだしたスイに心底驚いたナルト。
「うぉ!なんだってばよ!」
ベットから起き上がると同時に、ナルトの名を呼び抱きついてくるスイ
一歩下がって逃げてみると、みるみるうちに、瞳の下瞼にこんもりと盛られた涙。
それを見てヒクリ…と、頬を歪めるナルトに、容赦なく幼い思いが突き刺さる。
「うあぁぁあ…ん!なっと、なっとぉぉ」
「こらこら、スイ…ナルトも疲れてるのよ?」
と、両手を出すが、どうもカカシより今はナルトにくっ付いて居たいらしく
カカシの手には見向きもしなかった。
(あらら…完全にナルト大好きっ子になってるよこりゃ)
はぁ、と深い溜息を吐きながらカカシが苦笑いをナルトに向けると
ナルトは笑顔でカカシに答えた。
「ねぇ、ナルトさえ嫌じゃなければ…ウズリに会ってみない?」
「え?…」
「あ、嫌だったら良いんだよ…ただ、彼女との離婚は決まったし
この先ウズリが子をオレに託してくれるって言うからさ
オレがきっと、ダメって言ってもナルト…スイはお前から離れないよ?」
「へ?なん…で?」
「一つは、お前が九尾の器って事が大きいけど…お前に懐くのは其れだけじゃ
無いとオレは思うんだよねぇ~…ナルトを大好きなはたけ家族は
常にお前の傍に居たいって願うんだろうねぇ…厄介なのに好かれたね?
だから、ウズリと…と言うより、スイの母親と話ししてみないか?」
「……考えておくってばよ」
実際…何を話せば良いかも判らないが、カカシとウズリは別れる道を選んだ…
それは互いの為であり、スイの事もきっとあるだろう…
そんな家族との話に自分が入るのはおかしい事だとナルトは思った。
会えば、なぜ奪った…と、またあの時のように言われるかもしれない
返せと…泣き付かれるかもしれない。
ただ、カカシがそれを、自ら言ってきた事…それが唯一引っ掛かる事ではあった。
ナルトが辛くなるような事は、任務以外ではヤレと言わない人だったし
今でも、言わない人だと思っている。
そんな事を悶々と考えていると、クスッと笑い声に視線を向けた。
「オマエに考えるって言葉が一番似合わない」
クスクスと笑うカカシに、なっ!なにおぅ!と、意気込むともう一度笑われて
頬が紅潮する…恥ずかしいと言うか、本当にこの男は考える事が不明だろう!とナルトは思う。
けれど、カカシは一頻り笑うと、スッと笑顔を口布の下に隠し、ポツリと呟くように
言葉を発した。
「こんな時だから…さ、ナルト…お前に言わなくちゃならないことがある…」
急に真剣な眼差しを受けてドキリと胸が鳴り響く…が
笑われた事もあって、口をへの字に曲げながらナルトが答える。
「…なんだってばよ?」
人呼吸おいて、弓なりに曲げられた目尻…
「なぁーるとっ ただいま。」
その言葉にグッと、胸が締め付けられた。
ずっと…待って探して…そして見つけた彼は、もう
自分の知っている人とは違って…その言葉は
もう二度と言えないだろうと…そして二度と聞けないだろうと
諦めに似た感情で押さえ込んでいたのに…。
「なっと?めんめ、イタイイタイ…」
キョトンとしたスイがナルトの目を必死に拭うほど…
ナルトの目からは、涙が溢れ返っていた。
「っ…おか…り、カカシ…せんせ…」
「うん、お前の元にやっと帰って来る目処が付いた…
コブ付きだけど、オレは前に言った通り…お前を手放す気はないんだ
こんなオレと、ナルトはまた一緒になってくれる気ある?」
スイの首筋に顔を埋めたナルトを見やると、真っ赤な目と出くわし
真っ赤になったナルトが、小さく頷いた。
スッと…カカシがナルトの髪を梳き、その頭を自分の体の中に
再度包み込むと、真ん中に挟まれたスイがキャハキャハと二人を抱き締める。
カカシが、スッとナルトの腕からスイを抱き上げ、肩の上に乗せると
首をゆっくりと傾けて、軽く唇が触れた。
「っ…先生!」
「クスクス、隙アリ!ってね…」
「なっ!」
片手で腰の周りに腕を回されて動けないナルトが
グイグイと腕を突っ張るが、どうも逃げ切る事が出来ず
真っ赤になってバタバタともがく。
「ほらほら、体力回復したら綱手様に報告しなくちゃね?
それと…オレたちの住む家探さないと」
そう言いながら、ドアを開く。
「は?」
意味が分からないという表現が一番近いだろう素っ頓狂な声に
「逃がさないって言ったよね?」
と、カカシが顔をナルトに向けてニッと薄く笑った。
「んななななな、何言ってるんだってばよ!」
「え?何って…ねぇ、スイ?
ナルトと一緒に住みたいよね?」
「なっと~すむーなっとなっと~キャッハッハ」
と、意味も分からず高笑いするスイにガクンと首を項垂れたナルトは
カカシの腕を捉えると、ギッと睨んだ。
「そう簡単に…手に入ると思うなってば!」
と、カカシを追い越してズンズン歩く姿に
今度はカカシがポカンとする番だった。
だが、確かにナルトの顔は真っ赤だったし、耳まで赤いのを確認はしている。
「あ~らら、前途多難かなこりゃ?」
簡単に口にしてしまったかもしれないが、本気の想いだと
ちゃんと彼に伝えなければならないな…と、カカシは髪をポリッと掻いて
部屋をでた。
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