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なつめっぐ 保管場所

倉庫です。

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偶然なんです!



★唇★



寒さが厳しく肌をピリピリと刺す。
鼻の頭を赤く染め上げ、頬までも染めると
きゅっきゅと雪を踏みしめる音が響いた

新撰組屯所
そう書かれた表札が、雪に染められて居るのを
小さな少年が払っていた

「あれ?神谷、今日は非番だろう?何やってるんだよ」
後ろから響く声に小さな少年が振り向くと頬を膨らませ小言の一つを落とす

「私が居なければ、大掃除が進まないでしょう?いっつもかっつも、皆遊んでばかりで」

「そうかそうか!っはっはっは!」
新撰組と言う場所には女の姿は一人も居ない。
掃除洗濯全て男達が賄う事になっているのだが
どうも、女性のような決め細やかな掃除を出来る男が居なかった
そんな中、この小さな隊士はそれをやり遂げる力量を持っているのだ
無論。
本来の性は『富永セイ』と言う立派な女
ソレを知る者はたった数名、そして其れを表に出さないように必死に
隠し続けている甲斐があってか、今や古参の隊士の一人であり、信頼の置ける武士となっていた

「はぁ、寒っ・・・」指先が赤く染まり、セイは指先を擦り合わせて暖をとった
その時にフッと背中に気配を感じ、振り向こうとしたとたんに

「!!!?」

振り向いた先には気配を殺すのに長けた隊士
いつも自分に厳しく優しく、諭してくれる男
そして、恋情を燃やし続ける相手・・・・・

背後から手を差し出し、セイの手を暖めようとでも考えたのだろうか?
背丈が高い男が珍しくも身を屈め、首と肩の間から
両の手を出した状態
そして・・・・・

その先に振り向いたセイの唇と相手の其れが軽く触れ合ったのだ

無論、総司とて驚き、目を丸く見開き、この状態をどう説明して良いかと
慌ててセイの身体から離れた

唇に着物の裾を当てながら真っ赤になったセイも、この状況下で
なんて声を掛ければ良いのだろうかと、一瞬頭の中にある言葉の羅列から
見当たる言葉を捜したが、到底見付かる訳も無く
スイマセン!と、謝罪の言葉を残し屯所に吸い込まれるように逃げ帰った

「うわぁ・・・」
残された総司も、既にセイへの恋情を認識している
唇を吸いたいなどと言う思いが今まで沸いて来ることは無かったと言うのに
触れた途端にその欲が芽を出し、抱き締めて深く深く唇を重ねたいと
言う願望を押さえ込み、驚いていた相手へと謝罪するはずが
その願望との葛藤中にセイの姿は屯所へと消えていったのだ

徐に早い心拍数と、寒さで赤くなった其れとは違う赤みが
総司の中を駆け巡り、素直に驚きを口にしたのだ

(神谷さん・・・怒っちゃいましたかね?)
はははと軽く恥ずかしさを逃す為に笑うと、頬をぽりっと掻き
袖口から両の手を通すと、腕組をした状態で屯所へと戻った

まずはセイに謝らないと・・・そうは思うものの
どうしてもセイの唇の柔らかさが忘れられない
おもちみたいな柔らかさと、冷たい風を遮った暖かさ
なによりも、何時ものセイから香る匂い袋の香りが
総司の鼻腔を擽り、簡単に忘れる事などさせて貰えなかった

(困りましたねぇ・・・はぁ。)

やり場の無い思いが、何度も何度も胸を締め上げてくる苦しさに
少しばかり眉間に皺を寄せてみる
けれども、忘れる事など出来ない甘味のような唇を思い浮かべては溜息を落とした

考えることが苦手だと、周囲も無論知っているほど、
総司の頭の中は思考に向いていない
戦いと成ると、まるで今の彼が嘘のようなのにと思う人も少なくない

「なんだ、また考え事か」
溜息を吐き終わる前に声を掛けられ、慌てて後ろを見ると
ニッコリと微笑んで、総司は又前を見直した
「考えているように見えますかね・・・」
「あぁ、少なからずと見て取れるが」
「やっぱり、斉藤さんには叶わないや・・・・」
その言葉に、総司が相当頭を悩ませているのだろうと察した斉藤が
総司の横に座り、空を見上げた

「なんだ、またアレの事で頭を悩ませているのか?」
「え?・・・・ぁ・・・わかりますか?」
(あんたの悩みは其れ位しかなかろう・・・・怒)

どうせ、あんなに可愛いのは何でだとか、華奢な身体に困っていると言う悩みであろうと
推測した所で総司の横顔を見、ハタと思考を止めると一気に顔が青ざめてくる

(この赤くなりようは・・・・何時もとは違う)
鋭い悟りを思い浮かべ、ともあれ、無体な事はしていないだろうと願いながら総司に聞く
なにがあったのだ・・・・と

総司は悪びれている訳ではない、だが・・・・

「なっ!くっく・・・口を!吸っただとぉおおおお!」
「ちょ!斉藤さん声が大きいですよぅ・・・吸ってませんし・・・・」
「あ、う・・・うむ。すまん・・・イヤ!すまんじゃない!アンタは何を考えて居るんだ!」
「だ、だから、偶然ですよ!しようとなんて・・・思って・・・ませんでしたし・・・」
耳まで真っ赤に染まった総司が今何を思い浮かべたかなど手に取るように解った斉藤が
座っていた場所からスクリと立ち上がり、刀を腰に差し込むと額に血管を浮かせながら
その場を離れる事と成った

(あいつは絶対わざとだ・・・黒ヒラメめ)
斉藤の後姿をただ、ぼけーっと眺める総司を他所に心中穏やかに居られない斉藤であった


同時刻、神谷清三郎は土方の部屋で机に向かいジッと座り込んでいた
机の上には本が置いてあるが視線はその本には向いていない
時折唇に指を滑らせては溜息を深くしていた

土方がその異変に気が付かない訳も無く、体調が悪いのかと問い質したが大丈夫だと返事を返し
今に至る。無論、土方には何があったかなども解らぬままではあったが
セイのその姿に女の姿が重なり目を擦る
(俺も、どうかしちまったか・・・・ったく、変な病に掛かったもんだな)
切なそうにセイを見やると、そっとしておこうと戸を閉めた

二人はその夜、眠れる事は無かった

寒さが厳しい中、睡眠不足からくる倦怠感、重たくなった身体を引き起こし
互いにどうせ寝れぬならと、道場へ向かった

勿論、鉢合わせになってしまい言葉が出ない

やけに早く高鳴る、けれどもこの二人の状態をそのままにして置けるわけも無かった

「あっ・・・先生・・・」
「けっ・・・稽古ですか?」
「えっ・・・あ・・はい。先生もですか?」
「寝付けなくて・・・・あはは」
乾いた笑いで言葉が一瞬にして固まってしまう
二人は無心に勤め竹刀を振ったが、どうしても互いの息使いが気になってしまう

(あがなう事は叶わないと・・・言う事ですか・・・・ね・・・)
総司が振り上げた竹刀を振り切る事無く下ろすと、セイの横へと立ち
すっと、持ち上がった竹刀を手首を掴む事で止めた

「え・・・?」

「あの時は申し訳ありません。」
「あ・・い、いえこちらこそ急に振り向いてしまい・・・申し訳ありません」
耳まで赤く染まった二人がぽつぽつと交わす会話に
甘く切なく思いが交差する

「好いても居ない人との口付けは、女子には辛いでしょう・・・本当にスイマセン」
「前にも・・・・言いましたが」
「え?」
セイの言葉が後から連なって来るなどと予想をしていなかった総司が素っ頓狂な声を上げる
「先生でしたら、嫌ではありませんから」
其処まで言い切ると真っ赤に染まった頬を手で押さえ、俯いてしまったセイを
総司の視線が捕らえると、愛しさだけが総司の胸を熱く燃やしていった

無意識に抱き寄せた身体
細く華奢なこの身体にどれだけ守られてきたのだろうか
不意に浮かんだそんな思いさえ一瞬で消え去るようなセイの香りに頭が心地よい痺れを誘った

「嫌では・・・・ないんですよね・・・?」

自分は一体何を言っているのだと、心の中で意識が叫んでいるのに
総司の指先がセイの頬に当ててあった手に重なり
その中心に咲く、薄紅色の唇に心拍数が上がっていった

「せんせ・・い・・・?」

「嫌ではない、そうでしたよね?」
「え・・あ・・はい・・・」
セイの心臓が外へと飛び出るのではないかと言うほど強く打ちたて
目の前で切なげに見つめて来る総司の視線に瞳を閉じた

(ばか、セイ・・・先生がそんなことする訳ないのに
何度も期待しては駄目だと言うのに、どうしてこうも期待してしまうの!?)

目を伏せてから時間だけが過ぎ去る
けれども総司の息がセイにかかる距離に居るのは肌で感じ取れている
けれども、唇を重ねて来るわけが無い・・・・・
だってもし其れであれば既に重ねられていてもおかしくないだけの時間は過ぎているのだから

ふっと、心を落ち着かせると、目をそっと開いたセイの眼に一瞬にして入り込んだ総司
驚きの声も上げれず、ただ、もうすぐ重なる寸前まで寄せられた唇が
ドキドキと強く心臓を打ちつけ、逃げ出したくなる
視線が合うと、総司がニッコリと微笑んで来て唇を動かした
「今度は事故ではないですよ・・・・」

「え?・・・・・あっ・・・」

セイの視界にあった唇が重なった


広い道場、男の臭いが染み付いた聖域で
二人が唇を寄せ

柔らかい感触と、甘く切ないほどの鼓動
嬉しさがセイの胸を焦がしていった

何時も子供じみていて
セイに叱られている総司。
けれども、そんな片鱗さえ無くし男としてセイの唇を重ねた
セイもその総司の唇を受け入れ、首の角度をそっとずらすと、唇が少し深く重なり
身体に痺れが走る

一瞬離された唇は惜しげもなくまた重なり
互いの温もりと、柔らかさを確認し合っていたときだった

唇が離れ、セイの身体をぎゅっと抱き締めたのだ

「ごめんなさい、こんな事はもうしませんから・・・・」

やり場の無い感情が総司を苦しめている
その招待が恋情だと言う事も解っている
けれども、こんな事を二度としてしまえば
その甘さに溺れてしまいそうになる自分を戒めた

「・・・せんせ・・・い・・・?」
高潮した頬に総司が軽く唇を落とし、申し訳なさそうに抱き締める
「ごめんなさい・・・」
「謝らないで下さい、今日の事は忘れますから」
「・・・はい」
「女子のセイだけが知っていれば良いことです。だから忘れます」
「女子の?」

「はい、女子のセイだけは忘れたくないと・・・申していますゆえ」

「神谷さん・・・ありがとう」
抱き締めた温もりが、抱き締められた温もりが
互いの心まで一つに解け合わせ、新年を迎えた


(心から・・・お慕い申し上げます)

総司の胸の中で眠るセイ
離せなくて、未だ抱きかかえる総司

きっとこの先、互いの思いは触れ合わなくても
この一瞬一瞬が大切なのだと

総司は自分に言い聞かせた


================fin


2010.1.25

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