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短編
苦笑しながら総司は屯所とは別の方へと足を進めた
苛立ちが募る、女と言う生き物が全く解らない
否、解りたくも無い
恋心が産む狂気を知らない訳ではない、けれども
(神谷さんが聞いたら、妬いてくれますかね・・・?ねぇ、神谷さん・・・)
ふふふと、薄く微笑んで総司は宛ても無く向かった道からずれ
法眼の診療所へと向かった
会いたくて仕方がないと言う思いから
蒸し暑い中、汗も拭う事無く総司は診療所の前に立ち尽くしていた
診療所の前まで来たは、良いが・・・
会いに来た理由が無い
「・・・・・はぁ。無理ですよね」
ざりっと、踵を返した時だった
ガラリと開かれた診療所の扉から慌てて出てきた南部と鉢合わせになった
「あれ?沖田さん、先ほど帰られたのでは?」
「え・・ああ、ちょっと近くまで用事があって通り掛ったんです」
「あぁ、神谷さんだったら起きてますから、会って行って下さいな」
クスクスと笑いながら総司を迎え入れる南部に
きっと先程の嘘は見抜かれていると総司は感じ真っ赤に染まりながらも言葉に従った
襖を開くと、蒼白い顔で布団に横たわるセイと視線が絡んだ
「あっ、そのままで・・・・」
慌てて身を起そうとしたセイにそう告げると、総司はセイの横へちょこんと座った
長身の総司が、ちょこん・・と言う表現もどうかと思うのだが
なにせ、この男がセイの前だとめっきり小さくなる事がある
まさに今が其れだと察して欲しい
懐に忍ばせた桜餅をセイの前に出して赤らんだ頬をそのままに、笑顔でお土産ですと
そう告げてくる総司はまるで子供のようだった
何かに縋りたい・・・そんな目をされてセイが気が付かない訳が無かった
「なにか・・・ありましたか?」
「あ・・ええ、変な女子に言い寄られましたかね」
から笑いが、部屋を埋めると、セイの表情がピシリと強張った
(そんな顔をしてくれるんですね・・・)
総司が薄く微笑むと、セイがあからさまに背を向けて寝返りを打った
「どうしたんですか?」
「いえ・・・」
しばしの沈黙。無論総司もその空間が自分で理解したうえで作り上げているものなのだから
問題はなかったのだが、セイの方は嫉妬と言う言葉に飲み込まれそうになる
「神谷さん?」
どう答えれば良いんだろう?どう聞けば良いんだろう?
セイの心の中では結果だけがイヤに気になる
けれども、其れを聞く事は私情なのだ。
けれど、けれど・・・自分は総司を思い、命を賭してまでも守りたい人
其れほどまでに恋情を持つ相手
聞かないで済ませる訳には、いかなかった
「言い寄られて、浮かれて私に報告に来たんですか?」
嫌味臭かっただろうか?けれども、怒って話すしかこの恋情を隠す事などできやしなかった
「おや?悋気ですか?」
「え?ええええ?悋気って先生・・・アナタナニヲイッテルンデスカ・・・・・」
語尾がおかしくなりながらも、セイが慌てて言葉を繕うと、総司がフッと微笑んだ
「神谷さん、貴女は好いた男性に恋情を打ち明け、願いが届かなければどうしますか?」
まるで今の自分ではないか・・・セイはその質問にうーんと唸りながら気付かれない答えを探した
けれど、本来総司は野暮天の中の王様
気が付く訳が無いと、溜息を付きながら言葉を発した
「ダメだったら、それで良いです。相手の邪魔はしたくありませんから
でも、諦めるとは言いませんし、諦めるつもりも多分無いと思います・・・・
惚れた相手が、確りと今を生きていると言うのを見続けたいと思いますね」
多分ですけど・・・と、続けるセイに総司の凍った心が一瞬で溶け出した
自分の待っている答えが、其処にはあった
(やっぱり、神谷さんだなぁ・・・)
セイと会話をすると心が安心する
胸が熱く込み上げてくる思いを、留めると、総司がそっとセイの頭を撫でた
「せんせい・・・?」
「神谷さんは女子の考えで其れを言ってるんですか?」
「はあ?何ですか全く・・・私は私です、男も女も関係有りませんよ」
口先を尖らせてセイが告げると、その姿が又愛しく思う
「変な事聞いてごめんなさい」
総司が素直に謝ると、セイが何かを察したのだろう
頭の上に置かれていた手をぎゅっと握ると、総司の顔を見上げた
「なんですか・・・急に・・・」
「先生、何かありましたか?少し様子が変ですよ?」
「あは・・・神谷さんには隠せませんね。」
先程の経緯を話し、昔にそう言う事があったのだと伝えた
無論セイは他の隊士に聞き知っている域だったのだが、其れを総司の口から再び聞けるとは
思いも寄らない事だったし、同じ思いをして
最後には自分の所に来てくれたと言う甘い感情がセイの身体を駆け巡った
「命を・・・なんだと思っているんでしょうかね?」
総司の問いにセイがグッと唇を噛み締めた
(私も・・・そう言われるかもしれない・・・)
総司を守り盾となり死ぬと決めた自分も、その女たちと同じなのかもしれない
けれども、決して・・・・
「決して、決して私は、恋情では自刃はしません」
セイがそう告げて総司の手を強く握った
「ええ、其れを聞いて安心しました」
「え?」
総司の本音がポロリと落ちた
けれども慌てて其れを繕っていく
「あ、いえね・・・神谷さんがこの先ずっと命を繋いで行くのだと信じているんですよ」
「信じて・・・ですか?」
「ええ。貴女はどんな事があっても死なないと思っていますからねぇ」
「人を幽霊みたいにっ!私だって斬られれば死にますよっ!」
「私の目の黒い内は、貴女を誰にも斬らせませんから・・って、あ・・・そろそろ帰らないと」
その言葉をセイに吐いた自分を後悔し、慌ててその場を立ち退いた
恋情が時に言葉を深い意味に繋げてしまう
一生かけても、命に変えても・・・守りたい人間だと
そう伝わってからでは、取り繕う事すら叶わない
「可愛い部下を死なせる訳には行きませんからね。早く治って帰ってらっしゃいね」
総司はそう告げてセイの元を離れた
不可思議な一日だった
倒れたセイを心配するだけだったらまだ、心乱れなかっただろうに
(神谷さん・・・本当に大好きなんですよ、貴女が、誰よりも・・・)
微笑みながら、夕焼け空の下総司は屯所へと帰って行った
FIN
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2010.3.8
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