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なつめっぐ 保管場所

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お菓子に誘われ

★鏡★





人の心を映しだす。
どんなに綺麗な心にも潜む内面の自分が居る
ひっそりと、蓋をしたままの自分が動き出したら

独りでにその自分が動き出していたら
あなたは何を思う

【鏡】

ある日の夕暮れ、小さな寺の中で沖田総司と言う武士が禅を組んでいた

なんでもない・・・
別に雑念を払う為ではない

なんて事はなく
ただ、近くの団子屋で教えられ、この禅を終えると貰える和菓子が目あてなだけだった

(ふふっ、美味しかったら神谷さんも連れてきましょうかね?)
そんな事を不意に考えた


夕暮れに染まる紅葉は美しく焼かれ
真っ赤に彩られた新緑の葉は、まるで秋の風景を香持ち出していた
シン・・・と、静まり返った境内のホンの一角で
自分がただ、和菓子を食べたいが為に禅を組んだ

「ほぉ、お主は心を無にするのは得手(えて)なんだな。」
黒装束に身を包み、戒めの棒を持った男がひっそりと呟いた
「えぇ、お団子が早く食べたいですからね」
瞳を伏せたまま、姿勢を伸ばし呟いた

「隠しても、隠し切れない邪念はそこの鏡台に祭られている仏様が食べてくれよう」
「え?」
「いや、お前さんは我を封じ込めすぎておる。だからこの鏡様が食べてくれるであろうって事だ」
「・・・・はぁ・・・・」
良くは解らなかった・・・けれど、自分は食べれさえすれば良いのだ
だからこそ、そんな世迷言を信じもしなければ
不安に思う事も無かった・・・・あの時までは


それから幾日が過ぎただろう
秋口に差し掛かり、夜になると蒸し暑さも和らぐ季節
一番隊へと復帰したセイが、総司の腕をグッと掴み無言のまま道場へと引いた
「ちょ・・・どうしたんですか?・・・・・・神谷さん・・・?」

彼女はどうも機嫌が悪いらしい
無言で引いた手に力を篭めてくる
それに合わせて、握り返すと、セイがバッと手を離した
「え・・・・?」

今日は、セイと時間を共有する事は無かった
隊の仕事でちょっと出かけて戻ったら今度はセイが土方の使いで出かけ
やっと、逢えたのが今
怒らせる事をした自覚も無ければ、そう言う言葉を吐いた記憶も無い

溜まりかねて道場へと入る前に声を掛けて見ることにした
「あのぉ・・・?怒ってます?」
「いえ」
即答で返された答え、そして怒気を含んでいる声だったのは
総司も理解できた
「また・・・私貴女になにかしましたかね?スイマセン・・・・」
「怒ってません!ただ、何故あんな事をしたのか聞きたいんです」

あんな事?

眉間に皺をよせ、最高潮に考えても思いつかない
何をやったんだ!沖田総司!!!!
自分に説いても・・・・全く答えが出てこない

道場へと入ると人の気配も無い静かな空間
その中でセイの周りだけは空気が痛いほどに張り詰めている

「・・・・。」
何をしたかも解らない、ただ、セイの言葉から察する事が出来たのは
自分が何かをしでかした・・・・
と言う事だけであった

「先生・・・・なぜ、あのような事をされたのですか?」

真っ赤になったセイが、道場の中から声を上げた
全く心当りが無い
問われても、何をしたのか・・・それすら解らない総司が
下駄を脱ぎ、道場へと足を進めた

「ごめんなさい、神谷さんが何に怒っているのか私には見当が付きません」

その言葉に、セイの顔が青く変化を起し、その場にへたり込んでしまった
「ちょ!神谷さん?」
「本当に・・・・覚えてらっしゃらないんですか?」
床に視線を投げ出し、セイは呟くように声を掛けると、ええと言う言葉に
がくりと項垂れた

「寝ぼけていた・・・んですよね?」
「え?」
セイが、しゃがんで視線を合わせてくる総司の眼を真っ直ぐに捕らえ
下唇を噛み締めて見上げてきた

(あぁ・・・この姿は知っている、私も苦しい時悩んでいる時・・・こうやって我慢をしていた)
不意に総司がセイの頬へと手を掛けようと伸ばした
けれど、視線の先の少女が、その手をかわし、そっぽを向いてしまった

「触られるのも、嫌・・・って事ですか」

「っ・・・・違っ!」
「もう良いですから、私がなにかしたのでしょう?スイマセン、もう近寄りませんから」

今まで、避けられた事は無い
日の光に、嫌われてしまえば光の恩恵は受けれない
ならば、彼女が苦しむのであれば、自分は闇に身を投じよう

すっと、立ち上がり、総司はセイに背を見せ歩く
足が下駄を履こうと前に出された時だった
ドンと、背後から柔らかい塊が総司を包む
けれど、対峙してしまえば彼女を抱き締めかねない

冷たいだろうか・・・・?
    けれど・・・・・

「離しなさい」
一言低い声で呟くと、背後でその言葉を受け取った彼女はビクっと身体を旋律させた

「先生っ・・・もう、問いませんから・・・・」
「何をですか?」
「近寄らないだなんて言わないで下さい・・・・」
「神谷さん?」
泣いているのか?
背後で身をカタカタと震わせて、それでも抱き縋ってくる手がきつく総司を包んでいた

瞳を月へと向け、困った・・・という表情をしたまま月に、どうしましょう?と
問いた所で、答えなど出してくれる訳も無いのに
総司はどうして良いのかも解らず、深い溜息を落とした
「私は、問われる事を嫌だとは言っていませんよ・・・ただ、私が何をしたのか
貴女にそんな悲しい顔をさせるまでの事をしたのか、それが知りたいだけです」

不意に・・・・

総司の体がセイに引き寄せられた

暖かい・・・・・

そして、心地良い・・・・・

ふんわりと香ってくる、セイの香り
目の前にある大粒の涙にチクリと心の臓に棘が刺さる
けれど・・・・

「っつ・・・・何を!」
唇に袖を宛て、総司は真っ赤になりながらセイの体から逃れた
ただ、セイは悲しげに微笑み、総司の横を走り抜けていった


何の答えも

言わないまま

暫く、呆然とその場に立っていた

指先で何度も、セイと触れ合った唇をなぞりながら
ただ、ボーっと

甘く、優しい口付けは、決して深く交わるものではなかったが
心を掻き乱し、心臓を一気に殴られたような
胸苦しさの中、何故あの子がこんな事をしたのかと目まぐるしく考えていた


「私、本当に覚えていないんですよ・・・・」
ぎゅっと、手を握り締め、先程まで並んであった下駄が角度を変えているのを
ただ、見つめていた

セイが恐らくは戻っていっただろう
一番隊の部屋へ戻れば、セイが怖がるかもしれない
そして、自分も唇へと降って来たセイの柔らかさを又求めてしまうかもしれない
戻れない・・・・・
道場にへたり込んだ総司は膝を抱え、そこで夜を明かそうと思った


「沖田先生?」
不意に、野太い声が聞こえ、誰の声か直ぐに察した総司が刀を手に
立ち上がり、どうしましたか?と、聞く

「すいません、お節介なのは解っていますが神谷が戻って泣いていたもので」
「・・・・そうですか」
「あの、昨夜も神谷が泣いていました・・・・先生は覚えてらっしゃいますか?」
「え?相田さん!貴方知っているんですか?」
失礼しますと告げ、相田は総司の横に座ると、はぁと深い溜息を落とした


「先生昨夜神谷に夜這いを掛けたんですよ」
「えぇっ!?よば・・よば・・・夜這いって!」

その反応に、相田が苦笑いを向けた
「覚えてないって事ですよね、だったら神谷が可愛そうですよ・・・・」
「・・・すいません、でも、どっ・・・・・ど・・・・どんな・・・・事」

昨夜、息を殺してセイと総司が寝静まるのを毎度の事ながら待っていた時だった
人が動く気配で、皆が布団から頭だけを覗かせ何が起きたかと視線を闇に這わせた
セイの上に乗る人影
障子側の二人は月の灯りで直ぐに誰かなど理解できる

胸元を開き、ぺちゃりと舌を這わせる音に
男達がうわうわぁーと悶えるのを知ってか知らずか
セイの甘い吐息に、心拍数を上げていった
「んっ・・・・あっ・・・・・っ!」
眼覚めたそこには総司
びっくりしたセイが、声を上げようとすると
総司の唇がセイの口を塞ぎ、そのまま首元から、胸元にまで口付けの嵐
セイは、慌てて総司を押しのけ、泣きながら部屋を飛び出したが
総司は何事も無かったように、布団へと戻り眠ってしまったとの事
それを聞けば、セイのあの反応もおかしい事はない
全ては自分がやった事

「私は、なんて事を・・・・・」
頭を抱える総司に、相田が、苦笑いを向けながら神谷を呼んできますと
言葉を掛けてその場を離れようとした

「迷惑・・・・掛けちゃってスイマセン」
「いいえ、ただ、神谷が黙って泣いてるのは俺たちにも忍びないんで・・・」
照れくさそうに伝えてくれた相田にペコリと頭を下げ、セイが戻るのを待った

それから直ぐ、人の気配に、総司は立ち上がり、道場から手招いた
セイは目を紅く腫らし、まだ滲む涙を手で拭いながら道場へと辿り着くと
下駄をゆっくりと脱ぎ、蝋燭の明かりの中総司の側へと歩みを進めた

正面に立つと、真っ赤になったセイが下を向く事しか出来なかった
「ごめんなさい」
総司が、セイの前で正座をし、頭を下げる
「ちょ!先生ダメですよ、私なんかに頭を下げるなんて、よしてください」
「不甲斐ないんです・・・自分でしでかした事も覚えていないだなんて」

その言葉にセイが深く息を吐くと、総司の横に腰を落とし
暗がりの道場の床を見つめた
「その・・・先程は、く・・・口付けを・・・その・・・スイマセン
先生が先にしたんだと、伝えれば良いだけだったのに
忘れられているのが悔しくて・・・つい・・・」

正座をしていた総司も、足を崩し座るとセイの横で小さいまま呟いた

「忘れてしまってスイマセン、好いても居ない相手に無理に・・・あれ?」
「私からもしましたから・・・・」

互いに押し黙ってしまった

総司は意識していない中でしてしまった・・・・けれど、セイは
確りと意識を持っているのに・・・・・では、何故?

互いに聞くのが怖かった
無意識にでも、唇を重ねてきた総司
意地になって居たけれど、それでも、唇を重ねたセイ
互いの思考がフルに回転をしてみても、答えなど出なかった

「あのっ!お嫌では無かったですか?」
「え?」
「その・・・あのっ・・・・」
「あぁ・・・神谷さんは、嫌では無かったんですか?」

「あ、え?・・・ええ、嫌ではないです・・・嫌だったら私からなんてしませんし・・・・」
「・・・・そうですか、良かった」
多少なりとも、自分は嫌いの分野に入っていないと言うのが解り
総司はホッと息を付いた

こんな事をする事など考えても居なかっただけに
自分もどうして良いものかと、悩んではいたが
セイの赤らんだ頬を見ると、悩むことも然程無かったのだろうかとさえ思えてくる

「でも、どうして私は神谷さんなんかに口付けをしてしまったのでしょう?」
「え?・・・・私なんか?・・・なんか・・・・ですか」

悲しいとはまさに今。
総司の口から、吐き出された言葉に少なからず痛みを抱きかかえた

「あっ、すっ・・・・・すいません!あの、いえ・・・・」
「良いですよ、したい相手ではなかったってだけですし、怒ったりしませんから」
「違うんです、そうじゃなくて・・・・したくないはずないし・・・・・」
小さく呟いた言葉が今度は熱くセイの耳たぶに絡みついた

「違うんです、失礼な言い方してすいません、ただ、自分で無意識に神谷さんを
襲ってしまうなんて、ありえないし、あったらいけないんです・・・・だって・・・
神谷さんの秘密を守りきれなくなるのに、どうして私はそう言う行動を取ったのか
それが、思い至らなくて・・・・すいません」

頬を紅く染め、手の指をくるくると絡めながら総司が呟いている姿が
嫌に可愛く思え、クスッと笑ってしまった
鬼の隊長とは思えないほど、小さくなっている
「神谷さん・・・・」
「はい。」
「怒ってます?」
「いいえ、忘れてしまったんですし、私も仕返し出来ましたから」
「えええ?あれって、仕返しだったんですか?」

セイの肩を両手で抑えて、聞きだそうとしたが・・・・

その体勢がどうも、密着度を強めている
慌てて総司が小さな肩から手を離し、ごめんなさいと呟いた

「ぎこち・・・無いですね・・・・私」
総司の言葉にプッと噴出し、そうですねと伝えると
総司の肩に手を乗せ、ニッコリと微笑んで見せた
「神・・・やさ・・ん?」
「先生、私先生にされて嫌だとか思ったことありませんから
だから、もう謝らないで下さいね?私も謝りませんから」

セイがそう告げると総司の背中にもたれ掛かるように座った
「神谷さん?」
「先生の背中を守れるほど強く在りませんし、未熟ですが・・・・でも、
こうやって先生の背中を守って行きたいです」

「全く貴方って人は・・・・」
溜息交じりの総司の言葉にショボンとなったセイが言葉を返す
「迷惑ですよね・・・すいません」
「いいえ、どちらかと言えば迷惑と言うより、嬉しい・・・かな?」
「え!?」
「何時も守られているのは私なのかもしれませんね?」
総司の体重がふっとセイに乗せられ、真っ赤に染まった
「なっ!何を仰っているんですか!?」

「あっ!そう言えば」
総司が何かを思いついたように顔を上げると、セイの身体を自分の方へと引き寄せ
両の肩を掴むと、もやもやが晴れたような清清しい顔をセイへと向けた

「明日!妙掠寺(みょうりゃくじ)に行きましょう!きっとそこで謎が解けますよ!」
「謎?ですか?」
「ええ、貴女と一緒に行こうと思いながら忘れていたんですけど・・・・」
「私と?ですか・・・・?」
「ええ、美味しい甘味があって、それを頂く為には座禅をしなくてはならないんです」
「はぁ・・・」

結局は、話の的を得ないまま仲直りをしてしまった?感があったが
セイとしても、総司としても、互いの思いが伝わらなかった事に多少
胸を撫で下ろしている節があったため
無事に翌朝を迎える事となった


「さぁ、行きますよ~」
翌朝、朝餉を下げたと同時に言い出す総司にウンザリ顔のセイがハイハイと二つ返事をした
馬に跨ると、セイを後ろに乗せ意気揚々と早馬を走らせた

朝の香りがセイの頬をかすめ
総司の熱が、着物を通して伝わってくる
その熱を何時までも感じて居たいと贅沢を思える自分が
セイにはとても嬉しかった

「さぁ、着きましたよ」

近くの木へと馬の手綱を掛け、セイの手を取ると二十ほどの石段を駆け上がった
触れている手が、嬉しくて
セイがちょっとだけ握り返してみる
たったそれだけで、幸せに成れる自分が居る
だったら、この幸せを壊さないように、総司を守って行こうと
心から思えた


「和尚!」
庭先で、ゆるゆると箒を動かして居る黒装束の男に
総司が声を掛けると、ニッコリと笑って箒を門へ立てかけ、総司の側へと近寄ってくる
「おや?今日はお連れ様もいらっしゃるんですね?」
ニコニコと笑っている和尚に釣られ、セイもニッコリと微笑んで自己紹介をする
「おやおや、よろしくお願いしますね」
と、これまた悠長に挨拶を交わすと、総司の肩へと手をポンと掛けた

「鏡様のお話でも聞きにきましたか?」
「えっ?あ・・・ハイ」

「では、中へ・・・・・」

中へ入ると、大きな鏡と、座布団が3個並べられていた
そこへ座ると、温かいお茶を出され、茶菓子に砂糖菓子を一つ添えて貰った

丁寧にお辞儀をすると、総司は真っ先に茶菓子を頬張り既にニコニコと
ご機嫌である
セイが、そっと総司の盆の上に砂糖菓子を譲り置き、それが当たり前のように
総司が口へ入れる様を見て和尚が声を上げて笑った

「沖田君、この子に君はなにかしたかね?」
にこやかにモグモグと口を動かしていた総司が急に噎せ返った
セイも、お茶を熱いまま飲み込んで、涙目になっている
それほど、二人に衝撃を与えたと言えばそれまでなのだが

「あの・・・・はい。しました・・・・」
その言葉にセイも、平常心では居れる訳も無く
真っ赤に染まった紅葉のようになった頬を手で隠すしか術が無かった

「まぁ、鏡様に沖田君の邪念を食べてもらったからね、それから幾分日数が過ぎた
恐らくはそれで、邪念に囚われたのだろうさ」
ニコニコと言葉を続ける和尚に不可解なのは総司である
「邪念なんて・・・・そんなに無いと思ってましたが」
「一度綺麗に成った心にまた邪な者が住み付いたんだ、仕方あるまい
神谷君も、然程嫌でもなさそうだし、良かったではないか?」

「ちょっと待って下さいよ!私はそれで神谷さんに嫌な思いをさせてしまってるんですよ?」

「ほら、神谷さんも言って下さいよ!嫌な思いしたんだって!」

総司の言葉には一理ある・・・けれど
嫌な思いでは・・・ない

「いえ、あの・・・・凄く驚きました」
紅くなったセイがモジモジと答えるのを他所に、総司が再びこのような事を起さない予防策を聞いている

「和尚!」

「沖田君、素直になったらどうだね?神谷君は素直に嫌では無かったと言いたそうだが?」
「え・・・? 神谷・・・・さん?」
真っ赤になったセイを見て総司も同じ様に耳まで真っ赤に染まった

そんな二人を見て、ニッコリと笑うと、和尚は二人の肩をポンポンと叩き
互いに素直に言葉にするも一つの手段とだけ伝え
その場を去ってしまった

折角触れないで居られた恋心を
このように暴かれるとは

総司もセイも言葉を紡げないで居た

重たい空気がただ時間を奪う・・・それに堪りかねたのはセイだった・・・
折角の時間を無駄にしたくはなかったから

「あの・・・・先生、帰りませんか?」
それが、一番良いだろうと思えたから、そう伝えた
「はいっ!・・・あ・・・・え、ええ、帰りましょうか・・・・」

さわわっと、木立が揺れ、髪がそれに合わせて揺れ動く
凄く静かな時間が、二人を包んでいた
馬の所まで戻ったが、総司としては腑に落ちないどころか
又同じ事をしでかすかもしれないと言う恐怖があった
だから・・・・

「此方へ」

セイの手を引き、馬とは逆の方へと進んだ
「神谷さん、もし私が同じ事をしでかしたら、殴って良いですから!」
「え?あ・・・ハイ・・・」
「貴女に嫌な思いをさせるのも、貴女が隊に居られなくなるのも、私は嫌ですから」
「え!?」
「嫌ではないと言ってくれてましたが、女性が触られたりするのはやっぱり、嫌でしょう?」
その言葉にセイがカッと血を上らせた

「先生は解っていませんっ!」
「え?・・・・・神谷さん?」

「女性だからとか男性だからとかそんな事ではないんです
先生に触られるのも、叩かれるのも、触れられるのも、今までだって嫌だと感じた事は一度もありません
それに・・・・もっと触れて欲しい時だって・・・・・」

真っ赤になったセイが総司の眼を見て話していたのに
急に総司の視線から眼を離した
真っ赤になったセイが可愛くて
気が付いたときにはもう、腕の中にセイを掻き抱いていた

「ごめんなさい、無意識でなんて私が嫌なんです・・・・」
「沖田先生?」
「その・・・・口付け・・・・なんですけど」
「・・・ハイ」
「私も、してみたいんですけど・・・・」
「は?」
(いや、普通聞かないですよ?何故聞くんですか!恥ずかしいっ!ってか・・・ありえない!)

真っ赤に染まった総司の顔を見上げると、視線が絡み合った
言って置きながら、とても恥ずかしいのだろうか?
腕の中で身長差がある中抱き締められているのに、この状態からどうやって
唇を重ねようというのか?
それほど不器用なこの男に
本当に口付けは出来るのだろうか?と
セイの頭を疑問符が走り抜ける

だが、勿論一度は半分夢の中でだったが
重ねられた唇
そして、己から重ねた唇

眼を・・・・閉じるべきか?

セイの中で自問自答していると、総司がクスっと笑った

「神谷さん?百面相になってますよ?」
「え?あ・・・・」
抱擁が解かれ、緊張した雰囲気が一気に凪いだ

肩に総司の手が乗り、ビクッと体が反応を示すと
笑顔のままで総司の顔がセイの顔と同じ高さまで降りてきて
「恥ずかしいので眼は伏せて貰えますかね?」
と、息がかかる距離で呟かれ、セイが慌てて眼を伏せた

「柏餅・・・・帰りに食べによりましょうね?」
その言葉に、総司らしいと、噴出したと・・・・・
不意に暖かさが唇へと降り注いだ

軽く、触れるだけの口付け

仕返しでもなく
意識が無い訳でもない

思いが通じて居る訳ではないにしても
それに程近い・・・・口付け

「神谷さんの唇って柔らかい・・・・」
重ねたまま少し離れてそう紡いだ後、セイの唇をそっと吸ってみると
甘い声が鼻から漏れ出る
「んっ・・・・」

(うわぁ、凄く色っぽい・・・・)
上気した頬、長いまつげ、全てが艶やかに視界に入ってくるのを
慌てて総司が自制を効かせる事で踏み止まった

「あの・・・・嫌じゃなかったですか?」
そんな質問しか投げれない自分に、溜息を落としたくも成るが
セイとの関係をギクシャクさせたくないが為にした行動だったのに
結局、自分が良い思いをして終わりでは
意味がないのだ

「嫌だと思った事は一度もありませんから・・・・」
小さな声で、それでも、答えてもらえて、心底嬉しかった

「これで、あいこですね?」
「え?」
「神谷さんもしたんですから、私だってするんです!」
「えええええ!?」
「なんですか、大声で・・・・」

セイが深い溜息を落とした
総司とて、解らない訳ではない
そう、野暮天のままの方が、きっと
この先を一緒に乗り越えるのにはこれくらいが丁度良いのだと
思ったのだ

「神谷さんに唇奪われたんで、私も仕返しなんですよー」
チャキッと・・・・・聞こえ総司が慌てて振り向くと
抜き身を携え、セイが総司を睨んでいた

「うわぁ~そんな怒らなくても~」
「柏餅は、お預けですよーっ!」
バタバタと・・・・二人の時間が流れる

互いに思いは理解している
否、思いを深めている

だからこそ

色恋沙汰を隊にまで持ち帰るつもりはない

二人は・・・・武士なのだから

====================================2010.05.03

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