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SS(拍手ログ)
それは夕暮れ時だった
黒谷のお使いの途中に団子を頬張る総司と出くわし、一緒に
お使いに出ると言い出し、一緒に歩いていた
何事も無かったように過ぎていたはずだったのに・・・。
小さな子供が、3人ほどでどうやらかくれんぼうをしているらしい
無邪気に総司の背後に隠れようと子供が駆け寄ってくる
そんな様を頬を最大に綻ばせて喜ぶ総司の表情が
一瞬にして曇った
「っつ・・・・・」
パタタっと落とされた鮮血に、セイが眼を見開き
総司の背後に隠れていた子供を払い除けた
「先生っ!」
「大丈夫ですから・・・・・」
総司の苦しそうな声にセイの胸が熱く煮え立ち上がった
パン・・・・
きょとんとした子供の瞳が一気に水分を蓄え
涙がポロポロと止め処なく落ちていく様をセイは冷静に見つめた
「なんて事をしたんだ!」
セイの怒りがそのまま口を伝い落ちる
「こいつは、悪い奴だって言ってた、壬生の狼は消えろと」
「誰だそんな事を言ったのは!」
「おとうが・・・死ぬ時に言ったんだ!壬生浪には近寄るなと!」
その言葉に胸が締め付けられるほど痛みを覚えた
けれど、だからといって・・・・
「お前はまだ自分で責さえ負えないではないか・・・・
お前がしでかせば、母親や父親のせいになるんだぞ?
それでも、良いと思ってやった事か?」
「いいさ!壬生に近寄るなと言ったのはおとんだ!」
「だったら・・・・」
セイの怒りが、頂点に達したのだろうか?
凄まじいほどの殺気が噴出す中セイが薄く唇を開いた
「だったら、刺さなくても近寄らなければ良いだけではないかっ!」
「だったらおとんを返せっ!!!お前達が奪ったんだっ!」
涙目で訴える子供に、小さなこの子まで犠牲にしたのだと
痛く思い知ってしまった
「私たちに反感を抱くのは、仕方がないかもしれない
・・・・・叩いてすまなかった。」
セイはそう伝えると総司の脇腹の傷を見ようと着物の衿を掴んだ
けれど、大きな手が其れをやんわりと止めたのだ
「え?」
「だめですよ・・・此処では子供が居ます、場を変えましょう?」
「でもっ!先生がっ」
「傷はそこまで深くはありませんから、ね?」
ちらりと、セイの視線が辺りを見回すと
泣きそうな子供の視線とかち合い、申し訳なさそうに総司の身体を引き起こした
「お騒がせしました・・・・」
その言葉を残し、セイは総司の肩を支え、近くの茶屋へと姿を消した
「っつ・・・痛いですよぅ」
「黙って下さい、まったくもぉ・・・・」
内心は冷や冷やとしていた。
総司の穏やかさは何時もだが、こんな子供に傷を付けられたと知れば
鬼副長が黙っていないのではないかと・・・・
そんな、セイの思いなど届くわけもなく、総司に治療を止められる
事となった。
「っつ・・・先生!」
「大丈夫ですよ・・・・神谷さんはお使いを終わらせてらっしゃいな」
土方に頼まれた書物がまだ、セイの懐にある
其れを届けなければ、其れこそ一大事
セイは総司の脇腹を布で抑え、茶屋の女将から借りた針と糸で
丁寧に総司の脇腹を1針縫い上げると、セイの唇が総司の脇腹辺りで
糸を切り落とし、てきぱきと作業を終わらせると
急いで、飛脚を出し、総司の休暇を一日伸ばしてもらう懇願書を
屯所へと送った。
次いで、セイの休暇と外泊の届けも一緒に出したため
きっと何か疑われるかもしれないとは解ってはいたが
時間がないため用件だけを託し
セイは黒谷へと向かった
書状を届け終えると、近くの問屋さんへと足を向け
消毒用に毒消しを買うと急いで茶屋へと走った
傷は大した事がなかったとはいえ、大事な人が
自分の守ろうと決めた人が、痛みを堪えているのだと思うと
それはそれで、苦しいものだった
自分が変われたら・・・・などと、願っても届かない事を繰り返し願った
すっかりと日が暮れ、提灯も持たないセイが
慌てて茶屋の暖簾を潜ったのは、既に猿の刻
総司のことが心配で出迎えてきてくれた女将に頭を下げ
階段を登ろうとした時だった
「あの・・・お侍はんお熱出されているみたいなんで」
と、手桶の中に水を張って持って来てくれていた
その言葉に、慌ててお辞儀をすると
桶を持ち、総司の寝ている部屋の戸を引いた
「・・・せんせい?ただ今帰りました」
うっすらと潤んだ瞳がセイを見つけニッコリと微笑むと
力なくお帰りなさいと告げるが、今までに見た事もないような
そんな弱り方に、セイが慌てて駆け寄った
汗が、びっしょりと身体を濡らし、髪が肌にへばりついている
そんな総司を見て、額に手を当てた
「ひどい熱・・・・」
セイが、総司の身体を抱き起こすと、着物を脱がせ手拭で汗を拭った
「かみ・・やさん・・・こちょばしいですよぉ・・・」
「だって、先生汗ひどいですよ!?拭かないと」
「自分で・・っは・・・できますよぉ・・・・」
「お熱があるんですから、寝ていて下さい」
「はいはい・・・」
高潮した頬に、苦しそうに眉間に皺を寄せ
総司は、くたりと力を抜いてきた
セイに力が掛かると、安心して身体を預けてくれている事に
喜びを感じてしまう
「傷・・・見せてくださいね」
晒しで、巻いていた物を外し、布を取ると、少し熱を持っている
恐らくはその場所から発熱しているのだろうと
セイは慌てて消毒の草を噛み砕き、口から出すと傷口の上へ貼り付けた
「んっ・・・・」
総司のくぐもる声が、セイの耳にイヤに妖艶に響いてくる
「かみ・・・寒いです・・・」
恥ずかしがって対処していたお陰で、布団から離された肌は
寒さを訴えフルフルと震えを引き起こしていた
着物を着替えさせ終えて、布団に総司を寝かせて
夕餉をお粥に変えてもらい持参したが
総司の震えは納まらず、セイが唇を噛み締めた
医者を呼べば、総司の怪我がどうして起きたか
其れを問われる
子供好きの総司が子供を処罰の対象にしたいはずがない
だとすれば、彼はきっと口を閉じてしまうに違いない
法度がある以上、そうしてしまえば、幾ら総司であろうと・・・・
セイは意を決し、スルリと袴を脱いだ
「え?」
ニッコリと微笑むと、総司の布団を捲り上げ
「失礼します」
と、身体を押し込み、総司の身体にペタリと身体を押し付けた
「ちょ!神谷さんっ!なに・・・」
「早く、熱を下げないといけなんですから、黙ってください」
恥ずかしさが込み上げる中
セイが違う意味で震えながら総司に抱きつく姿に
眩暈が甘く襲ってくる
(まずいですよぅ・・・・)
総司がセイを見ると、見上げてくる瞳に又クラリと眩暈がする
「あ・・あの・・・熱下がりますから、そこまでしなくても・・・」
「寒くは、ないですか?」
少し離れて問い掛けて来るセイの視線に、ドキドキと心音だけが
ひどく総司を苦しめていた
「んもぉ、貴女って人は・・・・」
セイの身体をギュッと抱き締めると、総司の声が急に掠れて来る
「スイマセン・・・体温頂きますね」
セイの頭をグッと引き込み、セイの身体を自分の体の上に引き上げると
今度はセイがドキドキと脈を強めた
「お・・おきっ」
「暖めてくださいね?」
「・・・は・・・はい・・・」
総司の身体に跨るようにセイが身体を乗せている
重みなど心地良い重みにしか感じない
苦しかった胸も落ち着きを取り戻し、そっとセイの身体を抱き締めた
「心配かけてスイマセン」
直に耳に響く声が、セイの身体を熱くさせる
汗の香りと、総司の温もりと
自分が抱き締めているはずなのに
総司に包まれているようで
セイは、瞳を伏せた・・・・・
FIN
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