忍者ブログ

なつめっぐ 保管場所

倉庫です。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

華9・10・最終話

コレにて完結

★華=九=★

がらっと開け放たれた総司の方をセイは見ないように背を向けている
肩に刀で切り込まれた跡がはっきりと浮かび上がるのを総司が目に捉え
真っ赤になる
動かない気配にセイが気になり振り向こうとする
「先生・・・?」
「うわっ、ダメですよ!私だって一応恥ずかしいんですからっ」
セイが慌てて前を向きなおし、真っ赤に染まる
だが非情なもので・・・此処に来てセイの体に異変が起こる
(そんな・・・だめ・・・うう・・・・苦しい・・・薬を・・・・)
ぎり・・と、風呂の端に爪を立てるセイ
総司は気が付けず、わしゃわしゃと頭を洗い流し終わった時には
セイの姿が何処にも無かった

「神谷さん?」「あ、はい・・・のぼせて・・・しまったので脱衣所に移動しました・・・」
その声に異変を感じ、桶に汲んだお湯を一度自分に掛けるとセイを追って脱衣所に向かった
「っ・・・・」体を丸く縮め、苦しみに耐えるセイ
一枚だけ軽く羽織った着物だが、帯さえしていない

総司だって男なのだ、こんな状況で抑え等効く訳も無く
セイの体にそっと手を伸ばした
「んっ・・・・」甘い声が総司を掻き立てる

濡れた髪が、ぽたり・・・と雫を落とす音で、総司の自我が揺れる

だが、その思いを頭を振って無理やりに封印し、総司はセイを抱きかかえ
蔵へと向かった。


(ああぁぁあ・・・困りました・・・・)
下腹部に感じる熱に、顔を赤らめ口を覆うと
(こればっかりは。。。。仕方ないですよね・・・・はぁ・・・)

セイは、すぅすぅと寝息を立てては居るが
眠ってる彼女をも蝕んでいるのだろう、眉間に何度も皺を寄せる


(寝ててくれて良かった・・・・・)頭をがりっと掻き毟り
横目でセイを見やると、胸が肌蹴てて、セイが15の頃に見たそれとは違い・・・

「はぁ・・」深い溜息を落としながら、セイの体に布団をそっと掛けた

(はげてしまうかも・・・・)総司が頭を下にうな垂れさせると、しょんぼりと
そして、恨めしそうにセイを見やった

見てるしか出来ないと思えば、これくらいしなくちゃと
総司は決意をしたのだが・・・先ほど口にした言葉・・・・
(神谷さんを抱くとか言ったんだ!!!あぁああ・・・・どうしましょ
自分で自分を深みに落としてるかも・・・・・・)

セイの胸はもう、形を成し、男を誘うには十分の色気と
男を受け入れるには十分の身体を持っている事に
総司は泣きそうになる


「こんな形で、神谷さんを更に辛い目には会わせたくありませんからね・・・・」
セイの前髪をサラリと撫で上げ、蔵の一番奥に小さくなり座りこんだ


「セイ・・・・」総司がポツリと言葉を放った

切なそうに、苦しそうに遠くから見守る総司
気持ちは今にでも抱き締めたいのに、総司の男がそれを許してはくれない
今までにこんな感情を抱き苦しんだ事がない己を、無闇に側に行かせられないと
総司は頭をフルフルと振った


「あ・・・先生?」その声にビクリと身体が反る
反動で、ゴンと頭をぶつけてしまい頭を撫でながらセイの側に寄った

「だっ、大丈夫ですか?」「えぇ・・・」「見せて下さいっ」
「ちょ、っちょっ 神谷さんっ!!着物っ、きき・・・きものっ」
唯一・・・セイを包む着物の胸も膨らみが解るほど押し開いて
交差するはずの着物の御組は、無残に開け放たれ、足までも隠し切れずに迫出していた

「え?ああああああ!」前を必死に隠し着物をしっかりと着込んでちらりと総司を見やった
「み・・・ました・・・よね・・・・?」真っ赤になっている総司に
セイは背中を向けて、真っ赤になって正座した。
「へへ・・へんな物を見せてしまいすいませんでした!」胸元をきゅっと握り締めながら
見られたセイは涙を目の横に浮かべる
「すいません・・・お風呂場で貴女が倒れたので慌てて・・・・
でも、着物は着てました!羽織ってただけですが・・・全部は見てはいないです・・・・
それに、変なものでは・・・無かったです。」
総司の言葉に真っ赤になり知りませんと、怒りながら布団に隠れてしまったセイに
何度か、すいませんと囁き、ずっと、セイの枕元で正座をしたままの総司に
セイの方が折れた


「すいません、見られた恥ずかしさより、先生が運んでくれた方を感謝しないといけないのに
私ったら、自分の事で一杯でした・・・助けてくれてありがとうございます・・・。」

セイの言葉に、ほっと胸を撫で下ろし、総司は布団の横に身体を転がした
「もう眠くないですか?」「え?」「お話しましょうよ!お団子のお話♪」
(・・・・。団子かい!)

「神谷さん・・・そろそろ私眠いです・・・・」
子の刻まで話し込んで、総司は甘いものが食べたい~と駄々をこね
やっと他の言葉を発したのが・・・眠いである・・・

ウトウトとした総司に布団をふわりと掛けるとぽんぽんと規則正しく手を置いていく
「あぁ、これなら・・・すぐにでも眠れそう・・・で・・すよ・・・・」
いつもの総司であれば、こうはいか無かったのだが、何せ今日は我慢続き
ついでにセイの看病と重なり、睡魔はすぐに総司を迎え入れた

セイは涙を流しながら感謝の言葉を捜していた
きっと、恐ろしいほど総司には自分の醜態が見られているはずなのに
彼は何一つ文句も言わず、セイを守ってくれている
生きているだけでも感謝しなくてはならないのに、それ以上を求め
求める先から答えが降り注ぐ

「っ・・・大好きです、沖田先生・・・・」
眠っている彼に伝えるのは、思いの深さ
「私もで・・・す・・・よ・・・・」
返事に驚き聞かれたと、セイは真っ赤に染まって口を押さえた
(聞かれた!・・でもでも、先生も・・・私を?まさか・・・・)

だが、総司は動かない。セイの想いとは裏腹に・・・彼はぐっすりと
寝入っているのだろう。
「ね・・・寝言?」

ほっと胸を撫で下ろすセイの心拍音が静まらなくて
眠る総司の頬に軽く唇を落とし、セイもころんと横になった

さほどなく、セイが寝息を立てる

すぅすぅとゆっくりとした時間が流れる

そんなセイを横目に真っ赤になった総司がむくっと起き上がり
頬に手を当て真っ赤に染まる
総司は眠っては居なかったのだ。
セイの前髪に手を差し伸べるとサラサラと流れる前髪を撫で上げると
目を細め、クスリと微笑んだ

「寝ている貴女にしか伝えられない私を許してくださいね
セイ・・・私も大好きですよ」

髪を持ち上げると、セイのおでこに唇を落とし、総司は月を見上げた
三日月が綺麗に姿を現し、総司を包み込む



貴女を好きだと伝えたら、きっと浮ついてしまい隊務さえも手に付かなくなりそうで
まだ、心が初めての事ばかりで戸惑ってる、だからゆっくり整理していきます。
今は・・・こんな形でしか伝えられなくてごめんなさい。
でも、貴女が私を思ってくれるなら、私もいつかこの思いを・・・貴女に・・・


翌朝、静かに目を覚ました総司ににっこりと微笑むセイが飛び込んできた
「あ・・・神谷さん」「はい!」
元気に返事を返すセイの頭を苦笑いしながら撫でる
そんな大きな手が好きで、セイは少し赤くなりながらその手を受け入れた

「今日は存外調子が良いんです、良ければ剣でも振りませんか?」
「まったく・・・ダメですよ、あなたはまだ薬が抜けていないんですから」
その言葉にしゅんとし、ハイと小さく頷くと、総司に引き込まれ腕の中にぽすっと収まった

「え?」

「明日になればある程度回復すると法眼が言ってましたから
今日は我慢して下さい。」

「ハイ・・・。」

「朝餉まだかなぁ・・・・・」
(この黒ヒラメ、私を抱き締めながら言う台詞ですかっ!)
総司の身体にここ数日ぴったりと寄り添わせて貰える喜びが
セイの中にはあった、無論総司にもあったのだが、野暮天のセイには解る訳も無い

「神谷さん、早く良くなって下さいね」「はい・・・本当にご迷惑を・・・」
総司が謝りきる前に、抱き締めていた腕を強くする
「まだですよ、すっかり治りきってから聞きますから」「はい・・・。」

朝餉を食べ終わり、そのまま顔を洗いに出て、再び蔵に戻るとセイが青ざめているのが見えた
慌てて総司が蔵を閉め、セイを抱き締める

「大丈夫ですか?」「はい・・・変な思いは出てきませんけど、まだ身体が・・・・」
会話が通じる・・・・?総司がセイを見やった
「大丈夫ですよ・・・はぁ・・・前みたいに・・っ・・・記憶がボーっとはしていません」
「今日法眼が往診に来てくれますから。それまで頑張ってくださいね?」
セイは青ざめた顔のままハイと答えた。辛そうだと、総司は手でセイの頭を自分の胸に押しやった

「良く頑張りました。特別今日だけはうーんと甘えなさい・・・」返事は聞こえなかったが
総司の胸に頬を摺り寄せてくるセイを感じ、薄く微笑んだ

なぜか、昨夜までの羞恥に近い感情が総司から消え去り、確かに脈動は
高鳴ってはいるが、穏やかな感情が此処にはあった

(共に頑張り切れたら、もっと晴れやかに成れる気がしますよ・・・)

セイを抱き締めたまま、総司もセイも眠りに落ちたのだろう
法眼が、扉を開くとニヤリと笑った

総司に抱かれ眠るセイを少しでも労わる様に抱き締めている

「沖田!おいっ!」その声に、目を擦りながら総司が怪訝そうな顔で覗くと
慌ててセイを横に寝かせ、よろしくお願いしますと言い残し蔵を出た


「ん・・・沖田せんせ・・・・?」身体から離れた温もりを求め
セイが薄く目を覚ますと「法眼っ!」「よー・・・沖田先生じゃなくて悪かったなっ」
真っ赤になりながらセイがどたばたとする姿を見て法眼が目を見開いた
「おめぇ、薬抜けてるのか?」
「え?あ・・・わかりませんけど、身体は昨日よりは軽いですよ?」
そうか、と答えセイを診察し、問診をする

「うむ、これなら、明日までには抜けるかもしれないな・・・
ただ、最後の足掻きを処理するのは沖田おめーだからな?」
「処理・・・ですか?」「あぁ、中毒患者に良く見られる症状だ。」



====================================================





★華=十=★


夜は更けて・・・・

セイが苦しみを耐え抜く時に必ず総司がセイを抱き締め
夜を越えた

朝餉を他愛も無い会話で笑いながら取ると
セイの微笑んで居た顔が急に引きつった

「え?」
胸元を握り締め、セイがお膳を下げてと総司に告げる

言われるがまま、総司はお盆を下げ、セイの側に近づく
「神谷さん・・・大丈夫ですか?」
「ごめんなさい・・・頭が・・・ぼーっとしちゃって・・・っぐ・・・」

最後の足掻き・・・・法眼の言葉を思い出し、総司がセイを抱き締めた


「かはっ・・・っ・・・・」セイの身体を抑えて来た総司の腕さえも跳ね除けそうな勢いで
セイは背中を仰け反らせると、白い喉元が晒されて、総司がぎゅっと抱き締める手を強めた


「もう、これが最後の苦しみのはず。早く・・・楽になって・・・」
セイの手を拘束するのを・・・・忘れていた
昨日までのセイとは思えないほどの力で、総司の首を絞めたのだ
「っ・・・かみ・・・や・・さん・・・・」
ひゅっと喉が鳴いた

セイはぽろぽろと涙を流しながら総司から手を離すと、急に確保された空気を
力一杯吸った・・・・げほほっ・・・・
凄い力で総司を制していくセイを止める為に

その状況を後悔するとも知らずに、馬乗りになった
総司の身体はセイの上

両の手を己の両の手で止めて足を絡め、セイを上から見下ろす

「う~・・・あー・・・ぐうう・・・・っ」
セイの逃れようとする力を押さえ込むと、セイの手が血色をなくし
捕まれた手首が赤く染まった
呼吸を荒げるほど、抱き締めたり、押さえ込んだりとした総司が呟く
「はぁ・・・すいません、神谷さん」


目を見やった時だった


「っつ・・・」なんて表情・・・・
潤んだ瞳は艶やかで
暴れた為に着崩れた着物は、既に隠す役割を半分以上放棄している
開け放たれた胸元に見える火傷の痕に総司がクラリと眩暈を起こす

(あぁ・・・自制が効きそうに無いです・・・・神谷さん早く・・・・戻って)

総司の思いに答えるかのようにセイの口から甘い声が響く
「んあぁっ・・・・っはぁ・・・・」
体中を甘美が走り抜ける
この最後の足掻きを、捨てきれず妙は今も尚慎之介を求めているのだ

「沖田先生・・・助けて・・・・身体が・・・熱い・・・・」
セイの声にビクッと背中を粟立てる

「苦しい・・・ですか?」
「あぁ・・・・ん・・・・熱いんです・・・・焼けちゃう・・・・」
迸る熱にセイの腰がクンと押し上げられ、総司の身体が押し上げられると
再びビクリと背中を粟立て繋いでいた理性の糸が今にも引き千切られそうな衝動を抱えてしまう

「神谷・・・さん・・・」真剣な眼差しを送られ、セイはその瞳に微笑み返す

「せんせ・・・っ・・・熱くて・・・体がおかしいの・・・・」
セイが暴れ出したお陰で、片丘がひらりと押し出され
白い肌の上につんと突き立った蕾が総司の目に入る

(だめだ・・・見てはいけない・・・・)

視線を外に投げかける事で気を反らそうとしたのに
総司が次に気が付いた時は、セイの唇と己の唇が重なった時だった
途端にマズイと身を離そうとしたのに・・・・

セイの舌先が総司の中へと熱を逃がす為に入ってきた

(うわーうわー・・・ほんとっっまずいですよ・・・・)
されるがままの総司
ちゅっちゅと卑猥な音が響きセイの甘い吐息が総司の脳内を痺れさせる

        (本当にダメだったら、神谷さんが傷付かないのであれば・・・
                       最後の手段として貴女を抱きます。)

今が、最後の手段の時なのだろうか?
考えるのが苦手な男は必死に頭を働かせようとするが
総司を千人動因してもこの状況下では答えが出なかった
ただ、あの時・・・

ダメだと言ったセイの顔が焼き付いていて
それだけが理性の最後の糸だった

「せんせぇ・・・ああっ・・・もっと・・・」
その声に、理性の糸がぷつりと切れた



「セイ・・・・」
総司の想いが溢れ出て、総司が自分の意思で唇を押し付けた
甘くてとろんとした感触に、今まで食べた最高峰の甘味だろうかと
思えるほどの甘さ
舌先を囚われた時の痺れを思い出し、総司の舌先がセイの歯列を割って入る
ちゅっと吸い上げられた舌が、快楽の渦へと飲み込まれ溺れ行く

「セイ・・・・」
人知れず、名前を呼ぶ
女のセイを知るのは自分だけで良い・・・
この温もりを知るのも、自分だけで良い・・・・

力が抜けているセイの手を開放すると
あっという間に縋り付き、総司の身体を引き寄せてくるセイに
可愛いと心底思った

「あなたは・・・私に抱かれますか?」

抑えれる訳が無い・・・なのにどうして?
どうして自分は、セイに答えを求めるのか・・・・・

「っく・・・・いいえ・・・・ダメ・・・です・・・」


あぁ・・・再び理性の糸を、絡めてしまった・・・・

絡みついた糸が総司を縛り、すっと身体を離した。



総司は己の滾る思いを堪え、セイを抱き締めていた・・・。


3日は要した
だが、二人が交わる事はなく、セイも、この事に付いては何も言葉にしなかった
総司も、あの甘く柔らかい感覚を、きっともう味わえないと心に決めて
その言葉を紡ごうとはしなかった

だって二人は、武士なのだから


セイの療養は里の家で行え、総司も隊務へと戻る事が出来た
数日の穏やかな日々を過ごしていた時だった
「私、妙さんに会って来るよ」
里に伝え、セイは脇差を腰に納めた

「行くんでっしゃろう?、だったらこれ・・・・」
「あ・・・これって・・・・」

「沖田はんが、打ち直しに出してくれたんどす。
神谷はんに渡してくれと言い残して巡察にいかはったんよ」

セイは刀を抱き、涙を滲ませる
「ありがとう、お里さん・・・ありがとう・・・沖田先生・・・」

武士の魂を波に奪われ、きっと、探し出せないと思っていた物が
綺麗に修理され、再びセイの手に戻る
大好きなあの人がくれた、私の魂・・・・セイの心でそれを熱く刻む


====================================================





★華=十一=★


「お妙さん・・・」セイの声に驚いたように振り向いた

「帰ってきてくれたの?」セイに問いかけると、妙には甘い香りがまだ
身体を支配していた
「薬、止めないんだね?」その言葉にビクッと体を震わせる

「薬の切れ際・・・一番苦しかった・・・だから、妙さんが何故慎之介さんを
必要とし、愛するかも・・・解った・・・・そして好かれていないと思う心も・・・・」
じゃり・・・とセイが一歩前へ進む
「なっ、何言ってるのよ!あんただって、この前一緒に来た男と
満足行くまで抱き合って、薬が切れたから貰いに来たんだろう?」

その言葉にセイは唇を噛み締めた 確かに求めてしまったから・・・でも・・・・

「残念ながら、薬はもう必要ありませんし、あの人に愛されても居ません」

「あはははは、嘘嘘嘘っ、ほら、見て?こんなにあるよ?」
にっこりと笑いながらセイに阿片の塊を見せるが、セイはその塊に見向きもしなかった

「もう、私にはそれは必要ありませんから」
セイが、微笑むと妙の顔が歪んだ。

「慎之介っ!慎之介っ!こんな女、女郎に売ってしまって!」

恐らく、刀に覚えがあるのだろう
慎之介がセイの背後から現れ、長い刀をすらりと抜いた

「慎之介さん・・・・」
「ありがとう、セイさん・・・」
「え?」

慎之介が、セイの横を通り過ぎ、剣先をしゅっと振り下ろした

「っ!!!だめぇ!」キィン・・・・・
妙に向けた剣が、セイの弱腕に止められ、身を離した

「お前は・・・・お前は、やっと・・・やっとその気になってくれたのか?
やっと、私を殺してくれるのか?」
男に縋り付くように、妙は慎之介を抱き締めた

(え?やっと・・・?)
不思議そうなセイに慎之介が困ったような表情でセイを見やる

「この人は阿片を止めれないんですよ・・・・身体がもう、病に蝕まれているから
痛み止めとして使うんです・・・・」

(痛み止め・・・??)

「この人を苦しめたのは私です、阿片を吸わせ苦しい思いから解き放ちたいと
願ったのですよ。だけど、妙はそれを嫌がり、殺せと何度も何度も言いました
その度に彼女を抱き、快楽で押し流そうと必死にやってきました。
殺してあげた方が、彼女は楽になれるんです。」

「病とは・・・なんですか?」セイは妙の身体を抱き締めながら聞いた

「お腹が痛むんですよ。。。。苦しがって汗も酷い。
医者に見せても解らないの一点張りで、もっと良い医者を探してたんです
けれど、この人はこの場所に留まると言い、苦しみながら生きていたんです」


「妙さん、横になって貰えますか?」
「イヤです」
「私は少しですが医学に心得があります・・・
医者ではないですが、何か解るかも知れない・・・・ですから・・・・」

頑として、セイに身体を見せないと言う妙
セイは仕方なく慎之介に視線を投げた
「セイさん、無理ですよ・・・妙はもう死にます。」
「なぜ解るんですかっ!」
「怒鳴らないでよっ!私が一番解ってるの・・・・
もう、中が膿んで阿片が無ければ身体だって思うように動かせない。
止めたかったけど・・・・そうする事で慎之介が泣くのよっ
好いた男に泣かれる辛さは、あんたにはわかんないでしょ?セイさん・・・・」


セイは握り拳に力を入れると、必死に涙を我慢した


「私だって・・・この数日薬を抜くのに、どんな犠牲を払ったかっ
涙が枯れて・・・落ちる事は無かったけど
だけど、あの人は悲しんでくれたっ・・・だから・・・だからっ・・・
好いた人に泣かれる辛さは、私も解るつもりです・・・・。」

「あなたも、私も・・・・ただの狂った女なのかもね・・・・
けどね?あんたは刀を振るい女の癖に人を切り殺し
それを正当化しているのよ?
私よりも、性格が悪いじゃない・・・あんたを守る男なんてただのバカ。
そしてその狂った感情で出来ているあんたは、もっとバカよ」

妙は、その言葉をセイに向けると慎之介の刀に手を掛けた
セイが言葉に打ちひしがれ動けずに居た時だった

「ぐっ・・・・」
妙の喉の奥から聞こえる声と血生臭い香り

「妙さんっ!」
セイが慌てて側によると、慎之介がそれを止めた
「このまま、逝かせてやってください・・・」

慎之介の刀が、妙の身体に突き刺さり、おびただしい血液が流れ出る
血の香りまでも甘かったと・・・セイは思った

「壬生浪・・・許さない・・・」その言葉を残し、妙は事切れた

「え?壬生浪って・・・・」
「えぇ、妙を手篭めにしたのは、隊士だったんです」

胸の中にどろどろと渦巻く言葉・・・・

「新見と言う男でした」

セイの頭がぐるぐると回り出す。
あぁ・・・・自分の居る隊で、そんな事が起きていたなんて
だが、新見は、沖田が・・・・命を取った・・・・そして
その責任は全て近藤がそして他の隊士が背負う責・・・・・

「申し訳・・・ありませんでした」
「え?何故貴女が?」

「いいえ、ごめんなさい、なんでもないです・・・・」
自分が女だと解られている今、新選組だと名乗れない
謝る事すら許されない・・・・・・・・・

「セイさん、私も切腹します。介錯をお願いしても?」
「えっ?何故ですか!?慎之介さんが追い腹を切るなんて!
妙さんの分まで生きてくださいよ!」


「だめです・・・妙を一人には出来ませんから・・・・
本当は良い子なんです。彼女にもっと早く思いを伝えれたら

擦れ違いの想いが、重なる事は無かったんですよ。。。。
だからこれから妙を追って、腹を切ります。セイさんは介錯をして下さい」

「・・・・はい」


自分を重ねてしまう・・・。
きっと、総司が命を落とせば自分も同じように追う

隊で何度か見たあの光景はいつもセイにとっては嫌な思いだった
たかがお金を無くしただけでとか、戦ったのに背中に傷が付けられたからだとか
くだらないとさえ思った

だが・・・

それが武士なのだ

「慎之介さん、介錯は初めてなんです・・・苦しまない為にはどうしたら・・・?」
「苦しんでも良いんですよ、妙はもっと苦しみましたから」
「ダメですよっ!出来る限り、やってみますから・・・・お願いします」

「・・・・首の付けより少し上を狙って、一番細いと見える場所に刀を振りぬけば良い」
「はい・・・・」

「遺体は、奥の洞穴へ入れてくれると・・・嬉しいです」
「し・・・承知っ・・・っ・・・・」
「介錯する人が泣かないで下さいよ・・・・」
「すっ・・・すいません。もう大丈夫です」



では・・・・・


(セイさんの恋が擦れ違わない事を祈っています・・・・)

慎之介が脇差を抜き、自分の着物で包むと、その先を自分の腹に宛がった
深く息を吸い込み、少し引き上げその先は腹に吸い込まれた

「ぐっ・・・・おねがい・・・しま・・す」

「・・・・。」

ざしゅっと振り落とされた刀が慎之介の首を綺麗に落とした

事切れたその姿を信じられないほどの感情が襲う
何故死ななければいけないのか
何故追わなくてはいけないのか

けれど、セイの中の恋情もまた
慎之介と同じ思いがある
たまらなかった


人の首が転がり、その最後を自分が背負う重さに


たまらなかった


何人もの介錯を勤めた総司の想いが



がさっ・・・・
「神谷さ!・・・・っ・・・何を・・・・」

追ってきた総司が目にした光景
下から上に突き上げたように斬られた妙
その傍らに正座をし、腹を己で裂いた慎之介、その後ろに

ただ無機質な目をした・・・・セイ

刀が握られ、返り血を浴び
ただ呆然と立つ女・・・・


「神谷さん・・・・介錯を?」
状況を逸早く察知できるのは、きっと・・・沢山の介錯を背負ってきたから

「す、すいません・・・すぐに片付けますんで・・・」

震える指で、懐紙を出し、刀を拭うと
震えたままで、慎之介の首を持ち洞穴へ向かう
涙は流れては居なかったが、顔色は十二分に悪く総司がふぅ・・・と
深い溜息を落とした

「貴女に介錯は・・・荷が重過ぎるのに・・・・」
慎之介の身体を持ち上げ、総司がセイの向かった方へと進んだ

二人を寝かせ、セイと総司は川を黙って見ていた

(この子にはまだ早い経験だっただろうなぁ・・・・)


「沖田先生・・・妙さん、壬生時代の被害者でした・・・・」
セイの足りない言葉で理解しようと総司は頭を捻った
「あぁ、まだ壬生浪士の時代ですかね?」
えぇ・・と言ったっきり言葉を返さないセイの頭をゆっくりと撫でた

「あの頃は、なんでもやり放題な所ありましたしね・・・
でも、手篭めにするのは良くないとは思いますが・・・・」

セイはまだ涙が出せないで居た

出ないのだ

「妙さんが自分でお腹を突き刺しました・・・・。」
傷を見れば解る。総司はえぇとだけ答えるとセイはやっと全貌を話した

「擦れ違う恋情・・・ですか・・・・」


互いを思うのに
互いを思ってると言えない

悟られないように

大事にしていたのに

最後にこの恋情に焦がれ、二人は果てた

(私もこうなるんでしょうかねぇ・・・
      まぁ、神谷さんが許してくれる訳無さそうですけど・・・・)


「あぁ・・・近藤先生をお守りするのが私の役目ですから
私も局長が果てた時は、追い腹切りますよ・・・・・」

「解っています・・・・。」


止めたい訳ではない、総司の思いは知っているから
そして、総司が逝った後は自分も腹を切ると決めているから
武士とはそう言うものだから・・・・・・。


「先生・・・帰りましょう」
立ち上がったセイの手をぎゅっと引き胸に押し込めた

「貴女の涙を見てませんけど、このまま帰っても大丈夫ですか?」

「はい・・・涙が出ないんです」

「あんなに泣き虫さんなのにおかしいですね?」
「私を泣かせたいんですか!」
「えぇ、そうですよ・・・泣いて下さい」

「泣けませんっ」
「えー泣いて下さいよ~貴女は今泣かなければこの重荷に堪えられませんよ?」

「・・・・・・・・・・・。」


重かった・・・苦しかった・・・でも・・・・

「先生はずるいっ・・・いつも感情を押し殺していろって言うような事言いなが
泣けとか言って見たり・・・・泣いたら・・・っ・・・武士として恥ずかしいのにっ・・・
苦しくて・・・でも、先生はもっと苦しくてッ・・・ううう・・・・っ・・・・」

「そうですね・・・介錯って人の命の最後ですからね
胸が焼けるように苦しかったりする思いは何度もあります
慣れる事は決して無いでしょうね・・・・・
でも、その命の最後に立ち会える自分も誇りに思えるんです
そして、そんな私を信じて介錯を頼んでくれる人に答えなくては成らないんです」

「はい、それは先程感じました・・・・」

「先生・・・私がもし切腹をするなら、先生にお願いしますね・・・・っく・・・・」

「あ・・・えっと・・・・そうですか・・・私ですか・・・・」
ここは、普通であれば、解りましたと言うはずなのに
総司は答えを出しかねている・・・・何故?
セイの頭が考えた所でこの男の頭の中は解らない・・・・

「やっぱり、武士ではないのでしょうか?私が女だから先生は戸惑われて居るんでしょうか?」
セイの言葉にビクッと背中が汗をかく

「いえ、貴女を守りたいと願ってると・・・先日も言いました
出来れば切腹などはして欲しくは無いんですよ」

「さ、帰りますよ!」総司はセイを思いっきり引き連れ
屯所へと戻った

土方に経緯を説明し、明日から神谷清三郎は復帰する
苦しかった阿片の苦しみや、総司の優しさ、妙の思い、慎之介の心
セイはその思いを自分の糧にして再び歩き出す


拍手[0回]

PR

comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]