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パラレル注意>現代版
★=近藤勇=★
第一章:近藤勇
4月25日の終春の事だった
「起きて下さいよ・・・ねぇ、あなた・・・・」
雀の声がチュンチュンと耳に入り、寝汗で酷い自分の身体を起こした
「あなた・・・?」
心配そうに自分を覗き込む孝(コウ)に。先程までに
夢に出た沢山の思いが思い起こされ、胸に掻き抱いた
「勇さん、こんな朝っぱらから・・・・」
ぽっと頬を赤くした孝に、近藤はホッと息を付き辺りを見回した
ベットの上で寝ていた自分
首を切られ、一思いに命を削った自分
指先が震え、孝を抱き締める事によって
無念と恐怖から逃れた
「あぁ・・・私は・・・この名前は・・・・
偽りではなかったのだ。」
近藤勇、新撰組局長と同名でこのアスファルトの上に立っていた
高層マンションが聳え立ち、木々の会話も、草木の語らいも
全ては車のエンジン音により消されていく
違和感は無かった
ただ、其の名前が同じ事に、自分なりに新撰組と言うものを
意識はしていたが・・・・まさか
「夢を見たよ・・・孝」
「夢・・・?ですか?」
必死に戦い抜いたあの乱世を乗り越え
共に戦った仲間を思い涙が溢れた
「笑うかい?」
「いいえ・・・・道場を継いだあなたの剣が
私の記憶はありませんが・・判りますよ」
近藤勇33年越しの記憶
それからの勇は、無心に道場の経営と二束の草鞋で新撰組についてを調べた
文献をあさり、池田屋の記事に目が触れ、ほう・・と声を上げる
(神谷君の存在が記載されていないな・・・あの子は無事だったのだろうか?
それに、総司は結核などではなかったのに・・・・宛てにならんもんだな。)
と、苦笑した。
それから人を探し、電話帳を見ながら目に留まった名前
「山南敬助」
(京都の電話番号か・・・・・)
ぴっぴっぴ・・・と番号を入力し受話器を耳に当てると
「山南ですが、どちらはんですか?」優しい女の声
「近藤と申しますが、敬助さんはご在宅でしょうか?」
逸る心、あの時何も言わず自分の元を去った人
「近藤さん言いはりました?勇さんどすか?」
「え!?貴女は知っているんですか?」
心臓がバクバクと音を立てる
「良くは解りまへんが、山南が其の名前から電話が来たら携帯を教えてくれと
伝言は預かっとりますえ?」
どたばたと慌ててメモ帳を引き出しから探り、携帯番号を教えられた
ありがとう御座いますと電話を切り、その場にへたり込んだ
「信じられん・・・・山南さんが・・・生きている」
逸る気持ちで、近藤は山南の携帯と聞かされた番号を押す
プルルル・・・プルルル・・・・
「近藤さんかい?」出て直ぐの言葉に、勇はそうだよと答え
二人は長い時間話をしたが
急患が入ったと、とりあえず電話を切った
山南は、京都の病院で医師をし、今生計を立てていた
結婚もし、幸せな人生を歩んでいるのだ
(あぁ・・・良かった・・・本当に・・・・・)
今更あの時何故死を選んだかなど聞く気は無かった
ただ、懐かしさが胸の中をドンドン埋め尽くし、込み上げて来る
「孝・・・私は幸せだったんだよ・・・今も昔も・・・」
「あら、知ってますよ?私が側に居るんですからね」
孝が幸せそうに近藤の胸に頭を寄り添わせ呟いた
「メーン!」
道場での仕事は、子供や大人の剣術の稽古
それで生計が成り立っているのは、近藤の人を寄せ付ける力
であるのは間違いないだろう
「よし、今日は此処で終わりだな、君達離れにスイカを冷やしてあるから
片付けたら、行ってお食べ?」
小学生の部の子供達は大喜びで、道場を綺麗に磨き上げる
この神聖な場所を汚さないように
一生懸命磨き上げ、荷物をしまうと一斉に離れへと走っていった
そんな日々の中。道場に人影
「山南さんっ!」
繋がれた輪は、何処までも果てしなく
二人の会話は止め処なく続いた
「では、何か合ったら連絡を下さいね」
「あぁ、そうだね・・・歳や総司にも逢いたいし・・・」
二人で他の人を探すという決意を持ち、山南はその場を去った
皐月の晴れた昼下がり、近藤はある予感をしていた
山南が記憶を取り戻した日は、彼が腹を切った日
そして、自分が目覚めたのは首を落とされた日
死の連鎖で起きている記憶帰りならば、きっと5月11日は、土方が蘇る
誰に何を言われた訳でもないが、ただ漠然と近藤は皆が集まる予感を拭い去れなかった
総司は既に蘇っているはずだろうが、彼については電話帳にも載っていない
探しようがなかった。ただ、藤堂平助と思われる人がこの道場の周りをうろついている事と
原田佐乃助らしき人が、京都に居るという情報は掴めていた
「孝、私は北海道へ発ちたいんだが、どうも平助が居そうなんだ・・・
土方歳三だったら、俺を探し出してくれるだろうか?」
「ぷっ、歳三さんだったらあなたに惚れまくってる人ですよ?
探し出さない訳ないでしょうに・・・」
くっくっくと笑う孝にそうだなと呟き、孝は洗濯物を取り入れた
勇は意を決して、この場で仲間が集う事を待つ事にした
そして夕方、異変は起きた
「先生っ!!!!変な人がっ、門の前で倒れてます・・・」
意味が解らない、近藤は横においてあった竹刀を持って
その場へ押し進んだ
風が運んだ・・・・
一陣の風が・・・・・
「っ・・・神谷・・・・君か・・・?」
土の上に横たわった子
頬の傷はまだ新しく、血の香りを漂わせている
袴に着物、この時代ではないと解る物ばかりを身に付けて
刀が鞘から抜かれ、その場にポロリと落ちていた
「これは・・・・」
刃引きのされていない刀、血が染み付いている
倒れている身体にも返り血が無数に飛び散り、見るからに怪しかった
だが・・・・
肩に掲げられた誠の文字
近藤は慌てて、其の身体を抱き上げ、部屋へと連れて行った
「きゃぁ!」血まみれの人を目にし、孝が悲鳴を上げると勇が薄く微笑んだ
「この子が神谷君だよ・・・孝すまないが、風呂に行き、この子を洗ってはくれないか?」
どうしてこんな事に・・・・
それは戦から帰った時の姿そのままだった
ぐったりと倒れこんでるセイを孝が洗い終え、近藤がセイをベットへと寝かせた
すぅすぅと眠るセイの顔を覗き込み、少し跳ねた頭頂部の後れ毛を見やった
「総司が逝った後髪を伸ばしたのか・・・・・」
「勇さん、この子体中に傷が・・・火傷の跡や、切られて縫った痕や・・・・・
こんなに・・・こんなに成るまであの時代は戦わなくては成らなかったの?
新選組はこんな幼い子までも・・・戦わせていたの?」
「あぁ、そうだね・・・・」
悲しげに瞼を下げるとぽつぽつと語り出した
「総司の大事な子だったからな・・・この子は
私の死後総司は私を追って追い腹を切ると誓っていた
死など怖くないと・・・・・・・
けどな?そんな事を思われても、やっぱり総司には天命まで生きて貰いたかったんだよ
当時は、其の思いだけでも生きて行けただから、総司は常に俺の為に先陣を切った
ふわふわと、今で言えば風船のようなそんな総司を支えたのがこの子なんだよ・・・」
セイの前髪をサラリと撫でるとぽつりと名前を呼んだ
「神谷清三郎・・・女でありながら男と名乗り新選組を生きた立派な隊士だったよ」
孝は話を聞き、可哀想で、不憫で、悲しくて涙を流した
この時代を生きれば、きっとこの子の気持ちも楽に成れると信じた
「神谷セイでいいかな・・・こっちでは性別は然程必要ではないから
もう女に戻してやっても良いさ・・・・・」
孝が、コクリと頷くと、早速買い物へと出かけた
セイが着る服を買って、夕飯の準備をした
「んっ・・・・あ・・・・ここはっ!?」セイが慌てて身を起こし刀を探す
「ない!」
命より大事な刀、総司から受け継いだ魂
探していると、手が空を舞った
「うっわぁ!」ドン・・・・ベットから落ちたのだが
セイは先程の自分の居場所と、座っている場所の違いや
身の回りに置かれた、不思議な物に目が留まる
好奇心が旺盛なのは、相も変わらずだった
これは?あれは?次から次へと手に取る
そんなセイをドアの外からぽかんと眺める孝に気が付き
頬を染めた
「すっ、すいませんっ、私あの・・・神谷清三郎と申します
この場所は、蝦夷でしょうか?新選組はどうなったか土方さんは
どうなったか・・・解りますか?それともここは・・・・・」
どこだ・・・・・
クスクスと笑う孝の後ろからひょっこり覗いた顔を見てセイの瞳が更に開かれた
「まさかっ・・・・え・・・どうして?」
「目が覚めたかい?神谷君・・・」
「あぁ、其の声、局長!無事でいらっしゃったんですね!
ここは、死界でしょうか?私は土方副長と最後を遂げれたのでしょうか?」
本来ならこっちが質問するはずなのだが・・・・
と勇は頭をぽりぽりと掻く
「気を落ち着けて聞きなさい。そして答えなさい・・・わかったかい?」
興奮気味のセイを諌めて、ポンポンと背中を叩くと落ち着きを引き戻しセイが正座をし
近藤と向き合った。
「局長申し訳ありませんっ。」
「今の時代は、神谷君、君が先程居たまはずの時代とは違う」
えっと言う声に、セイは頭を抱えた。
「今は其の時代から100年は優位に越えている、新選組も、長州との戦いも
そんなものはない時代、のんびりと過ごせるこの時代に私は生を受けたんだ
だから、転生と言うものなんだろうな。。。同じ名前を持つ局長の記憶は
私が死んだ時に蘇った。だから、神谷君・・・君の事もすぐに解ったよ」
それから現代に付いての沢山の事を語り合い
セイはこの家に住まわせて貰える事まで話を進められた
「待って下さい!そこまで、お世話になる訳には・・・」
だが、行き場所など・・・ない・・・・
「大丈夫だよ、神谷君はここで剣道を教えてくれ」
「え?剣道ですか・・・?」
「この道場は、沢山の人が来るからね。其の前に剣の腕を見せて貰わないとならんが・・・」
「局長・・・・?」
緊張感が手にじんわりと汗を溜める
(これは・・・殺気か・・・・・)
「どうしました?」
「いや、打ち込んでくよ?・・・」
ハイと答えセイは再び勇と向き合い、剣を滑らせた
パンパン・・・「面ッ」「胴」
一気に面から横腹へと滑らかに滑らせる竹刀が近藤を捕らえた
「さすが神谷君だな・・・・強い」
セイは其の言葉は耳に入らなかった
ただ、解らない違和感に自分の手を見つめるだけ
(なんだろう?この感覚・・・・
なんだろう・・・・物足りなさ
下手くそとかではない・・・だが、この・・・感覚・・・)
「くん・・・・神谷君!?」
「あっ、はい!」
呆けているセイの瞳が戸惑っている・・・・
無理もない。
「神谷君・・・この道場で、師範代の名をあげるよ
他の子の面倒を頼むね・・・・それと
今の君にはこの命のやり取りのない剣を
きっと、変に感じると思う・・・」
「あっ、解っていたんですか?」
ぱっと、解らない不安な心の謎が理解できてセイの目が輝いた
勇はそれでも、この世代に流れたのだから。此処の生き方で
生きて欲しいと告げ
セイはそれを承諾した。
初めてのベットにポンと腰を落とし、いつも寝ていた煎餅布団を思い出した
「ふっかふかだぁ・・・・暖かいし・・・・」
昨日まで寝ていた臭い布団ではなく、新しい布団
土方が去った・・・あの時に確かに聞こえた・・・
沖田先生・・・何故私を呼んだのですか?
あの世界が、私の全てだったのに・・・何故・・・・
死ぬなと言い残していたのは解る
自分を大事にしてくれるのも解った・・・・けれど
この世界を・・・自分は生きれるのだろうか・・・・
「沖田先生・・・・なぜ?」
2009.09.27
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★=師範代 神谷セイ=★
其の名を受け、セイはぼんやりと空を眺めた
腰に掛けられない刀、命のやり取りのないこの場所
信じられる誠を沖田と決めてきた今
どうして良いのかと、思い悩む
「ねぇ、沖田先生もどこかで転生してるのかな?
私は、先生に呼ばれて来たのに、此処に先生は居ない
何故私だけ、この場所に呼ばれたのかがわかりません・・・・
セイはどうしたら良いですか?
セイは、この多くの命を絶ったこの手で何をすれば良いのですか?
教えて下さい・・・・・
沖田先生・・・・・・」
月に手を翳し、ぎゅっと掴むと胸に其の拳を当て目を強く瞑った
「今日から新しくこの道場の師範代を任せた神谷セイ君だ、よろしく頼む」
近藤の声に、ざわざわと声が上がり、セイは首を傾げる
あの頃は近藤が話をするだけでシンと静まり返り、受け入れたものを
時代が、緩やか過ぎるんだなぁと、セイは肌で感じた
「先生!女なのに師範代とかありえないと思います!」
一人の男の子17歳位だろうか・・・・・セイに、睨みつけると声を荒げる
そうだそうだと、徒党を組んで口にする子供達に、セイの額に青筋が立った
「てめぇら、いい加減にしやがれ!近藤さんが言う事なんだから仕方ねぇだろうがっ!」
まるで土方・・・・・そんな怒声を聞いたら、勇だとて噴出さない訳がない
「はははっ、神谷君は相変わらずだなぁ・・・・どれ、裕おいで」
真っ赤になったセイを横目に笑いながら、先程叫んだ子を呼び竹刀を持たせた
「神谷君、悪いが相手をしてやってくれ」
セイが、目を丸くするが、今は師範代と言う名を此処で勝ち取らなくてはならない
溜息を付きながら竹刀を持ち上げようとした手を、近藤がやんわりと止めた
「手刀で充分だよ」
その強い視線に頷き、裕の前へと進んだ
「てめぇ、俺をバカにしてるのかっ!これでも剣道の段を持ってるんだぞ!
竹刀を持てよっ!」
近藤が口を開く前にセイが声を掛けた
「コレくらいしないと、あんたが私を認めないだろう?掛かってきなさい」
間合いに既に入り込むセイに裕は剣を振り下ろせないで居た
気が圧迫され、身を縮める
(くそっ、まけねぇ・・・・)
裕の足が一歩引いた時だった、振り下ろした先のセイは居なく
竹刀だけが空を切った
慌てて、セイを視界に戻そうと周りを見やると、背後に・・・・・
ぞっと、寒気が走る。
「うわぁ~!!!!!面面面っ!」
どんなに打ち込んでも、手に答えてくれるのは風の抵抗だけ
汗が目に入り、流れ落ちる・・・・其の汗に足を取られるとドンと尻餅を付いた
「くそぅ」 竹刀を投げようとした時、セイの手が裕を止めた
「ハイ、一本。コレで良いでしょ?そして、竹刀をそんな風に扱ってはダメちゃんと大事になさい」
セイはそう言うと勇の前へ戻り、先程の場所に座った
「確かに、私は師範代なんてありがたい席に付けないかも知れませんが
近藤さんが私に与えてくれた大事な場所です、精一杯頑張ります
厳しく行きますので、反論のある人は私に直接言って下さい」
フン・・・と、鼻から息を吐き出し、セイは近藤を見やった
「っ・・・なに笑いを堪えてるんですかっ!」
「くっくっく・・・いやいや、男らしいなと・・・くっくっく・・・・」
「からかわないで下さいよ・・・もぉ・・・・」
真っ赤になったセイに、近藤は最後には腹まで抱えて笑い出した
カタリ・・・名前の列の先頭に 師範 近藤勇
其の横に自分の名前が書かれているのがくすぐったい
「本当に良いんですか?私が師範代で・・・・・?」
横で腕を組む勇に問いかける
「あぁ、大人の部にも顔を出してもらうと思うけど、君の剣術は確かだからね、総司が
必死にしごいてきた剣術を今他の子に受け継ぐのは何も問題はないさ、師範でも良い位だしね
それに・・・私は子供をあやすのが下手でねぇ・・・・」
拳骨を口の中に入れてあやすなどありえん、セイはそれを思い出しあぁ・・と納得した
「解りました、では、私はもう少し剣を振ってきますね」
気持ちを落ち着かせるには、少し限りの修練では物足りない
毎日が修行で毎日が、命を掛けた戦いの場だったセイは必死に剣術を磨き上げた
時同じくして、近藤道場に一人の男がやってきた
すいません~?と、どこか緊張した声に孝が出る
近藤に客だと知り、セイは汗を流そうと風呂へ向かった
セイはまだ、現代の状態をあまり知らない
いつもは湯を張っていたが、今日はそれではなかった
漠然とすっぽんぽんで佇む・・・・・
(わかんない・・・これか?)
シャーっと水が管を通してセイに降り注ぐ
「わぁ、雨みたいだぁ~」一人きゃっきゃと楽しむセイ
やっと流れた汗をタオルで拭くと、孝が夕食の用意を始めていた
ひょっこりと横から顔を出し、手伝いましょうか?と声を掛けた
セイの髪から滴る水が、孝の腕に落とされる
「え?冷たい・・・」「は?」「セイちゃん、蛇口っ、青い方回したの?」
うーんと考え込んでハッと思い出したように目が輝く
「うんうん、青い方を捻ったら出たので、そのまま使いましたよ。
それにしても・・・・便利な世の中ですよね~」
きっと、お湯が赤い方から出るなんて・・・・解らないんだ・・・・・
孝は頭を抱えた。
「じゃー、コレをお願い」
ジャガイモと人参をセイに頼み、孝は鍋の中で玉ねぎを炒める
然程時間も掛からず出来ましたよっ!と声を掛けられ切り口の鮮やかさに孝も目が丸くなる
「あ、ありがとう、後は煮込むだけだからセイちゃんはゆっくりしてて?」
手持ちぶたさに、リビングへ行くと、机に置かれたリモコン「なんだろ?」つんつんと突付くと
ぱちっと、大型のテレビに人が映りこんだ
「うわーうわー人が話してる~でも、、、あ・・・キャー」どたばたとテレビを見ながら騒ぐセイに
後ろから、孝も説明しながら仕事を進める
「うーん・・・人は”てれび”に何人入れるのだろうか?」と、孝に聞いて笑われていた
「おーい、神谷君~道場まで来てくれないか~?」
其の声に、セイが急いで向かった
「お呼びですかっ、局長!」すらりと、入った先に
「お~神谷っ!」其の顔、その声・・・・・
「ととと・・・藤堂さん!?」セイは驚き、その場で座り込んだ
「うわぁ~神谷だぁ・・・・全然変わらないな・・・・
転生したらある程度代わりそうなもんだが」
平助の言葉にセイが瞳を伏せた。
「あぁ、神谷君は別なんだよ・・・転生ではなくてトリップして来たらしいんだ」
「えぇ!?なんでまた・・・・」
解らない、解る訳がない・・・ただ、総司に呼ばれ気が付いたら此処だった
セイは其の事を説明し、またしょんぼりと萎んだ
この雰囲気に、平助も堪えられなかったのだろう
ちらちらと道場内を見やると
「神谷お前、師範代って・・・・随分・・・・」
「え?あ・・・はい、凄くありがたい場所に置いて頂いて、幸せです・・・・
まだまだ未熟なんですけど・・・でも、嬉しいですっ」
前向きなセイに、平助も安堵の息を吐いた
「俺この近くに住んでて、コンビニでバイトしてんだ
なんかあったら、3丁目のコンビニまでおいで?
おでんぐらいだったらご馳走するよ♪」
平助の言葉がわからない・・・・
(こんびに・・・・?
ばいと・・・・?
おでんは、あのおでんだよね・・・・?)
クエスチョンマークたっぷりなセイに平助が笑う
「近藤さん、流石に門下生にはなれないけど、此処にちょくちょく遊びに来ても良い?」
気にしないでおいでと言われ、平助が近藤道場に本当にちょくちょく現れるようになった
陽だまりの下、セイと平助が縁側で会話を紡ぐ
「なぁ、神谷ぁ~お前なんで仕事してんだよー暇だよ~構ってよー」
「昔と変わらないですねぇ~ダメですよ、今は洗濯干すんですっ」
パンと弾かれ、洗濯物が綺麗に並べられる
「昼過ぎたらバイトだもん~時間ないぞー遊べよ~」
「だぁめっ!何言ってるんですかっ」
「あ・・・俺さ、23なんだけど神谷って今何歳?」
「突拍子も無いですね・・・20ですよ。」
黙々と洗濯物を干して行くと総司と知り合った歳を越えたんだね~と
何の気なしに発した言葉に、慌てて口を押さえた
「そうですね~」と、気にも留めてなさそうなセイの言葉に
ほっと胸を撫で下ろす
最後の洗濯を干し終えると、セイは平助の横に腰を掛けた
「あのぉ・・・”ばいと”ってなんです?それと”こんびに”って?」
其の質問にあぁ、と説明をすると、セイがふぅ~んと考え込む
「って事は、バイトとは仕事であり、コンビニと言うのは商屋さんみたいなものなんですね」
生きる為には働く、それは理解している根本は何も変わっては居ないんだなと
セイも思っていた
「ね?神谷一緒にコンビニ行ってみる?」
「えぇ?ダメですよ、これから私道場ありますもん。」
しゅんとなった平助に今度連れて行ってくださいねと言い残しセイが
胴着に着替える為に部屋へと戻った
「平助、すまんな・・・神谷君ももう少ししたら外に出れると思うけど
今は、まだ、知識が・・・・」
平助は大丈夫だと声をかけバイトへと向かった
「はい、では始めっ!」セイの声で皆が一生懸命竹刀を振るう
筋が曲がってる者には厳しく、小さい子には優しく
セイの先生としての素質は開花する
「なぁ、神谷、お前なんで手本見せないんだよ」
裕が声を掛けると、セイがふぅと溜息を付く
「そうですねぇ・・・では、裕が手本の相手に成れるようになったら見せますよ」
「っ、ふざけるな!教える立場だろう?金払って教えて貰ってるのはこっちぢゃねぇか」
「親の金の癖に、随分強気だね」
セイの言葉にぐうの音も出なかった
裕は反抗ばかりするが、それもセイにしてみたら可愛い弟子なのだ
大事に思う心をふっと思い、あぁ、コレが沖田が思っていた心なのかと
クスリと微笑んだ
2週間が過ぎ、山南と原田が一緒に近藤道場へ顔を出した
セイはそれこそ喜び、二人に飛びついた
「山南さん~」セイの大事な人、そして大事な理解者だった
だからこそ、山南を慕っていた
「神谷君久しぶりだね、元気そうで良かったよ・・・・」
其の声に元気良く返事を返す
懐かしいなんてもんではない
目の前で命を落とした者達が、目の前に集うのだ
嬉しくて嬉しくてセイは感情が高ぶっていた
日が過ぎ、セイはふっと自分の手を見やった
穏やかな空気に、セイは目を瞑る
沖田が逝ってからセイはひたすら戦った
人を何人も斬り、何度も狙われ、何度も・・・・痛みを背負った
土方を総司の代理として守り、最後は自分も共に逝けると思っていた
「この世界に、私の居る価値はあるのかな・・・・」
沖田が恋しい、逢えると信じていない訳ではない
だけど、総司に合わせる顔が無い気もしている
土方を先に死なせてしまったから・・・・・
「沖田先生は・・・あの時に死んだんだ
あの時に女のセイも置いて来たのに・・・・又逢えるんだ・・・生きた先生に」
ぎゅっと胸を熱くするセイだったが・・・ふっと
悪い予感が胸を過ぎる
近藤先生も、山南先生も・・・結婚してるんだ・・・・
総司は・・・どうだろう?
近藤の読み通りならば、25歳
彼女の一人位居るのだろうか・・・・
「だめだ、生きてる先生に逢えるのが幸せだとを思おう・・・・」
セイは悶々としている頭を振りきり、竹刀を持った
「先生っ!神谷先生っ!」道場に泣きながら入って来た女の子
「さっちん、どうしたの?」「裕兄ちゃんがああああ~ううぅ~」
泣きながら縋る尋常では無い態度に、居場所を聞き出すとセイは
木刀を持って、その場を出た
「裕・・・・待ってて」
セイが向かった先は川原。幸子(さっちん)が道場前に遊んで居た時に
変な男に声を掛けられ、振り向いた時に手にした草が男の服に当たった
それを弁償しろと言われてるのを通り掛った裕が助けたのだ
急いで走ると、裕が男に殴られ、地べたに身体を横たえている
急いでそこへ駆けつけると、セイは裕のまえへと立ち塞がった
「ぉ?可愛いね~?そのガキの知り合いか?」
二人の男が品定めするようにセイを見やる
「かみ・・・や・・・逃げろ・・・・」
「悪いね、もっと早くに来てやれなくて」後ろは見ない・・・・
見やれば男が襲って来たときに反応が遅れるから
木刀の先端を男達に向け、セイは睨む
「あら、可愛い顔が台無しだぜ~?これから良い所いこうぜ」
手を伸ばす男へと剣先が軽く木刀で叩き落す
「あーあ、骨が折れたよ?お金頂戴よ~治療費~」
セイの身体に抱き付こうと男が身を寄せた瞬間
裕の視界からセイが消えた
素早く男の後ろに立つと、木刀で腹を狙った
「ぐっ・・・・・」打ち込まれた衝撃に男が膝を付きその場でゲーッと
胃の中身を曝け出す
「さ、残りはあんただけだよ」
セイの剣先が男に向かうと、男は胸から刀を出した
「この時代に、それは必要ないんじゃないの?」
普通の女ならば、それを出しただけで腰が引けて言う事を聞くのに
セイはひるむ気配を見せない
逆に裕が、ワタワタと慌てているのが気配で感じ取れた
「裕っ!黙って見てなさい、師範代の腕を」
其の言葉にビクッと背中を震わせ、セイを見つめた
男は悔しさが溜まりかねてセイの腹目掛けて飛び込んできた
「うぉおお!」
さらりと・・・・横に一歩避けるとセイはにっこりと笑い
「遅い。」とだけ呟くと、男の首元に軽く木刀を振り下ろした
ずさっと倒れ行く男
「すげぇ・・・・」
心底からでた裕の言葉に、くすっとセイが微笑み、裕の手を肩に回し
裕の身体を、道場まで連れ帰った
「あの・・・あ・・・ありがとう・・・・」
セイの耳に届いた言葉はくすぐったくて
風に吹かれ乱れた髪を押さえながら、どういたしまして。と答えた
2009.09.28
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