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優7

ちょっと、えってぃな表現アリ
=============

★=幻の花=★






「んっ・・・・」
酒で頭がまだ朦朧とする・・・
優しい香りに包まれ、目が覚めた総司は、ぐるりと寝返りを打つ。
「!」

振り向いた先には・・・愛しい人
口を慌てて押さえ、驚きの声を上げないようにすると
視線が絡んだ。

「起きていたんですか・・・・」

寝起きのせいで、声が掠れている総司にセイがゆるりと起き上がり
横に置いてあったペットボトルを手渡した
「あ・・・すいません・・・・」
この状況は一体なんなんだ・・・・蘇らない記憶を辿るが、その記憶は
どんなに辿っても土方の横で眠った己
「私・・・勝手に入って・・・来ちゃいました?」

おどおどと聞く総司に頭を振って答えるセイ
その大きな瞳に吸い込まれそうになる理性を繋ぎ止めるべくもう一度口へと
水分を流し込んだ。
「神谷・・・さん・・・ごめんなさい、寝るのにお邪魔ですよね?」
「いいえ、もう皆様眠っていますからご心配なさらないで寝て下さい。」
「あ・・皆も泊まっているんですね?」
「ええ、居間の方で眠っています。なので先生は此処でお休み下さい」
セイがにっこりと微笑むと、総司は起こした体を横たえた

「あの・・・嫌じゃないんですか?」
「え?何がですか?」

この子はこの状況で本当に言ってるのか?と言う疑問が浮かび上がるが
そうだ、この子は昔も今も変わらない・・・野暮天なんだった・・・と
不意にこみ上げて、頬を軽く掻いた

「私と此処で共に寝るのが・・・です。」
「・・・・・です。」
「え?」
「嫌ではないです・・・・」

嬉しい、心からその想いが沸き起こりセイを布団の中で抱き締める
「せんせ・・い・・・?」
「拒まれたら、どうしようかと・・・」
抱き締められた腕にすっぽりと収まるセイを肌で感じると再び熱い想いが湧き上がる
だが、これ以上を求めればどうなるのだろうか・・・・・

「く・・・苦しいですよ・・・」
「あ・・ごめんなさい、あの・・・その・・腕枕とかって、してもいいですかね?」
総司の言葉に、セイは赤くなりながらも自分の頭を軽く持ち上げ枕を外した
その行動で、今の問いに了解したのだろうと思い腕を伸ばす
二の腕に乗せられたセイの頭の重みがやけに心地良い

二の腕と肩の間にセイの頬が擦り寄り、手が総司の胸に置かれると
居ても立ってもいられない状況に総司は真っ赤になる
自分から言い出した癖に、この行動に堪えれる心臓を持ち合わせてはいなかった

「ぷっ、先生 心の臓が早いですよ・・・・」
「えぇ、幾分緊張していますから・・・」
「私も凄く緊張しています・・・お酒飲んでらっしゃるし、変な事しないで下さいよ」

釘を刺された・・・・。

「・・・は・・・い・・・・。」

「では、寝ましょうか・・・」
セイの声が遠くなる。
邪な欲望を知られたくないと言う思いと
知って欲しいと言う思いが行き交う中
総司は目を閉じる・・・が。

「クスクス・・・」
「?・・・・神谷さん?」
とんとんと総司の胸の上をセイの小さな手が宥めるように動く
「心の臓が早すぎですってば・・・耳に響いてきちゃって可笑しいんです」
「あぁ、では離れましょうか。」
「先生は離れたいのですか?」
「・・・・いえ、でもこのまま自制を効かせる自信もありませんし」

その言葉に自分はとんでもない事を言ったと悟った総司が慌ててセイの顔色を伺った
「先生が私を好きなのは知っていますから・・・自制など為さらないで下さい」

その言葉に、理性の糸がプツリと・・・切られた
セイの唇に己の唇を押しやると、深くセイを飲み込んだ

指に、体全てで反応をしめす
舌先に遊ばれ、体がヒクヒクと喜びを表す
言葉にする思いを、彼女は受け入れ、共に居ようと
彼女も告げてくれた

信じられない・・・
この間まで、恋愛を蔑ろにしていた彼女ではない

けれど信じたい
今の彼女が全てなんだと・・・・


「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
がばっと起き上がった先にはセイの寝顔
汗が酷く纏わり付き、体が未だ求めている
燃えるような情事の夢に自分は何をしたのかと問い掛けたくなる

好きだから守り、好きだから大事にしたいと願いながら
セイをいとも簡単に抱いてしまった

夢の中とは言え、罪悪感と言う名前が付き纏う

威きり勃った己の下腹部に、ぞっとすると
総司はそのまま、トイレへと向かった


吐き出す欲望を・・・・どうにも出来ず
こんな夢をなぜ見てしまったのだという
悲しい思い

けれど、愛され、愛し満たされた思いは・・・全て幻

遣り切れない

苦しいと叫ぶ自分が、体の中に居るのだ

リビングを通り少し進むとトイレがあるのだが
その寝転がる仲間達を見ると、気持ちも落ち着きを取り戻した

「総司か?」ぼそりと呟かれ、ええ・・と返答をすると
一番奥のほうでごそりと動く人間がこちらへ向かってきた
「夢見が悪かったようだな・・・・」
「・・・」
リビングの横にあるダイニングキッチンで、総司は水を一気に喉へ通す
椅子を引き、そこへ腰を下ろすと、ギロッとその相手を睨んだ
殺気が篭ったような視線に、土方も悪ふざけをし過ぎたと自覚すると
「すまねぇ・・・・」
素直に謝った
「すいません、苛立ってしまって・・・・」
「神谷と何かあったのか?」
「いいえ、横でぐっすり眠っていましたよ」
「そうか・・・」
「指一本触れてませんから・・・勘違いしないで下さいよ?」
「おめぇの顔色見りゃ~解るさ・・・気軽に寝せてしまった俺が悪いんだ」
罰の悪そうな表情を相手に贈ると、先程の澱んだ感情がサラサラと流れ出た
(そう、指一本触れては居ない・・・だから・・・夢だったんだから仕方が無い・・・)

「総司、もう神谷は諦める事出来ねぇのか」
コクリと頭を上下に振り話し始めた

「恋がこんなに苦しいとは、あの時は思いもよらなかった・・・・
いえ、あの時は、剣との狭間で揺れ過ぎていたから・・・
ましてや、相手はもう恋はしないと言う、だったら・・・
その思いを受け取った上で彼女を思うのが一番良いんだと思います。

神谷さんが私の心を溶かし、彼女を愛せたように
私も、彼女を溶かせればと思います。
あの子も随分辛い思いをしたんでしょうね・・・

もう、あの子と出会い触れてしまった
言葉を交わしてしまった
囚われてしまった・・・・

逃げたくても、逃げ出せないですよ・・・」

切なげに、総司の瞳が揺れる
それを黙って見ている土方とて同じ様に心が痛む
大事な弟みたいな存在は今でも変わらない
大事で、大好きで、自分を理解してくれる弟
その弟が苦しんでいる
だったら、手を貸すし、助けてもやろうと思うのが当たり前だろう

「お前は、不器用だからな・・・・」

「ええ、それは承知していますよ。
神谷さんが辛い思いをしないのであれば、私は我慢もします
あの子が大事だから・・・
幕末の乱世であの子は強い精神力と剣を勝ち取った
けれど、それを与えてしまったのは私ですから。
人を斬る思い、それはきっと、今凄くあの子を蝕んでると思います
苦しくて、遣り切れない想いが、あの子を飲み込んでいるんです

ずるいですよね・・・あの時は自分の精神が堪えられなくて
女性を避け、壁を見ないで進んでいた・・・
その壁をあの子に見せられ、それを乗り越える度にあの子の存在が大きくなった
そして、気付いた時にはもう、私は世に残る事の許されない身になってしまっていた

罰が当たったんだと・・・思いましたよ

残して逝くのが嫌で、苦しくて・・・一人で泣いた日もありました
それでも・・側に居て欲しいと願えばあの子は、側に居てくれた
感染するかもしれない病だったというのに
無償に愛を注いでくれたんです。だから
私は、麻耶を愛せなかった
生まれる前から、神谷清三郎に逢うために、恋心をあの子に預けてしまったんです
好きになろうと、努力もしましたし、あの子の頑張りを見る度に
胸の奥が、見てはいけないと悲鳴を上げた
だから、神谷さんを呼んだ・・・私はもうあの子しか見れないんですよ・・・きっと・・・」

総司の瞳が揺れると、一筋だけの涙がぽろりと流れ落ちた

「辛いか?」
「ええ・・でもね?神谷さんも当時の私に同じ様に感じてくれたんです
だったら、今度は私が耐え抜きますよ、あの子が私にしてくれたんです
それと同じ事をあの子に与えれるように、努力しますよ」
「健気な嫁みてぇな事言ってんじゃねぇよ、馬鹿が・・・・」
「健気なお婿って言ってくださいよ~」

総司はコップに入った水をもう一度煽り、落ち着きましたと言い残し
セイの部屋へと戻る

先程までの澱んだ空気も自分自身すっきりとしていた


ギイィ・・・
押し開けたドアの先、じっ・・・と見つめてくる視線と不意に絡んだ

「神谷・・さん」
「居なかったので・・・・」
不安そうな視線に、苦笑いを向け横に座った
「喉が渇いて、水を飲んでたら土方さんが起きてたので話をしてたんですよ」
「あ、そうなんですか・・・」
「不安・・・でしたかね?」
ギシッとセイの横に座り、布団の中に足を滑り込ませると
にっこりと笑いながらセイの横へ並んで横に成った
「え・・あ・・・いいえ、違います」
真っ赤になってそっぽを向くセイに、違いますと言われても真実味が無い
「ねぇ、神谷さん・・・そんなに赤くなって桜餅になってますよ?」
そっと、赤くなっている耳に指を軽く触れると
肩をすくめて総司を睨んだ

「桜餅って、失礼な・・・・」
「甘くて美味しいのに・・・・まぁ、まだ時間ありますから寝ましょうか」
セイに極上の笑みを向け、総司は布団に仰向けになって自分の頭に両の手を組んだ

「せんせ・・・い・・・」
「ん、なんですか?」視線だけをセイに向けると、どことなく
震えてるように見えた総司が、セイの次の言葉を待った

「いいえ・・あの・・すいません、なんでもないんです」
「どうしたんですか?そんなに震えて・・・」
総司はその恐怖なのであろう正体がセイの口から紡がれるのを待った
だが、なんでもないですと答えられては、それを拭い去る事も出来ない
ふぅと、深く息を吐き出すとセイを背中から包んだ
「先生・・?」
「震えてるから・・・話を聞けないんでしたら、こうするしかないでしょ・・・」
「先生・・・・先生っ・・・」
抱き抱えられた腕の中、セイは必死にしがみ付いた


2009.10.21


============================

★=刹那=★








総司と死別をした時
セイの心を更に追い込んだ事件があった
誰にも語られていない
誰も知らない

この秘密を今更曝け出す気は無かったが
時折この恐怖心と言う名前でセイを痛め付けていた

「先生・・・すいません、もう少しこのままで居てもらえますか?」
「・・・・。」
ポンポンと背中を叩いてくる手が優しくてセイの瞳から涙が流れる
総司は何も告げては来ないが、身を離しもしない
だったら、このまま甘えてしまおうとセイは止め処なく流れる涙を
総司に向けた



《「此処で良いですか?先生・・・・」
墓石を撫でながらセイが紡ぎ、総司の身の回りの品を
姉のミツに届けると言う重大な作業をしているセイ
総司の墓を確りと側で守って居たかったが、それは叶わないと判っていた
総司を継ぐものとして、自分は土方を追う決意もしていたのだから

ミツに全てを話し、総司のありのままを伝えられたと思う
姉もそれを聞き涙ながらに、病で死んだのが悔やまれると
剣を愛した男の最後を悔やんでいた
一通り話が終わり、セイはまた総司の居た長屋へ向かう途中に事件は起きた

言い例えようの無い事件が・・・・

(泣かない・・・・)そう思いながら、乗り越えるしかなかった
自刃など、許されないのだから。
乱世を生きるのに、セイは女を捨てている
心が痛まない訳ではない、充分すぎるほど痛いだが、その痛みを感じるのは
自分は女だからだと、知っている・・・だったら
捨てれば良い・・・・
今は、恋心を抱く相手もこの世にはいない・・・・・女を残す意味などない
躊躇うな、セイ。

そうしてその事件は事なきを得た。》


「大丈夫ですか?」あまりにも、優しい声にセイはコクンと頭を動かすだけの返事を返し
総司の服をぎゅっと掴むと震えていた体が、ゆっくりと落ち着きを取り戻してくる
落ち着きを取り戻して来たのを感じた総司がもう一言、彼女の名を呼びたいと
搾り出した
「セイ・・・」

女の名、富永セイ・・・それを捨てきれずに居た
けれど、その名前を呼ばれるのは今は・・・・
「その名は、穢れていますどうか神谷と・・・呼んで下さい」

「穢れてなど居ませんよ」何があったかなんて、聞かない
穢れてると言うのであれば、それを否定してあげれば良い
「神谷さんは神谷さんです。セイでも、清三郎でも神谷さんに変わりは無いんですから」
ぎゅっと抱き締めて総司が紡ぐ
その言葉に、抵抗しようとセイが見上げたその先で
今にも泣き出しそうな総司の瞳とかち合った

「ぷっ 神谷さん目が腫れていますよ」親指で涙を拭い再び抱き締めて
眠るように促した。
「忘れなくて良いんです・・・傷も痛みも・・・私が引き受けますから
泣きたいなら、私の服を提供しますだから、今だけでもゆっくり眠って下さい」

セイは温かい総司に抱かれ、目を伏せた
汚い感情と、総司の温かい言葉と
入り乱れながら、セイの意識はゆっくりと落とされた


すぅすぅと寝息を立てるセイ
髪を耳に掛けてやると、美しい顔立ちが総司の視界に入り、悲しそうな目で
セイを見やった

(神谷さん
あなたを今も守れる事を誇りに思います
あの時代に置き去りにしてきた後悔を今この手で晴らせる喜びを感謝します

私の心を攫った罪は重いですよ・・・)

クスッと笑い総司は再びセイの身体を起きないように優しく抱き締める

(今は眠りなさい、私があなたを咎ごと引き受けますから。)



翌朝、セイは総司の寝返りによって覚醒した
「うわぁ・・・沖田先生だぁ・・・・」すやすやと、安心しきったように寝ている
そんな総司の頬を指でぷにぷにと突付き、じっと見つめる
昨日の言葉が蘇りセイの頬がほんのりと染まる

だが、この自分の過去を曝け出せる訳が無い
闇に囚われる思いが逡巡する。だが
総司が昨夜痛みも、悲しみも引き受けると言ってくれた事が嬉しかった
もう、自分は総司以外の人間を男と見る事など出来ないのだろうなと
意識の奥で思った
(先生は何も知らない・・・知らなくて良い事を教える事はしなくても良い・・・
あなたの目に映る純粋なままのセイで居させて下さい。先生の彼女が目覚めるまで・・・)


共有できる時間が愛しかった



何事も無かったような朝を二人で迎え
互いに思いも認めた

二人はやっと、思いに向かえる心を宿した


「神谷さん!試合ってくれますか?」
総司が、胴着を着込み、試衛館の面子が道場に揃った
近藤も胴着を着込み、そこには藤堂、山南も勿論いる
そして、総司、セイ、原田

なんて懐かしい風景・・・心から同じ思いを巡らせた


「へぇ、総司と神谷かぁ、あの頃は赤ん坊のように神谷が転がってたな」
原田がニヤニヤとセイに告げると、少しは成長しましたよと反論する
そんなセイが可愛くて
原田がセイに襲い掛かるが・・・・風、否光だろうか?
目指した先に彼女は居なかった

「・・・・・。」
「あっはっは、相変わらず早いな、神谷君」
セイと手合わせをした事のある近藤と総司だけは解ってはいた
だが、当時より遙に速さを備え、身体を躍らせるように動く
「神谷君・・・総司にそこまで鍛えられたのか?」
「あはは、沖田先生は鬼でしたから」
その声に反論するのは、無論鬼扱いを受けた総司である
稽古では出来るだけ手加減をしていたはずだと、プリプリしている
そんな姿を見る人々が一斉に笑い出し、セイを中心として
一斉に手合わせの試合が始まった


「ダメですよぅ。神谷さんは私と試合うんですっ」
原田に半ば強引に引き摺られるセイを奪い返し、我が物顔でセイを連れ去る
そんな総司を見て、苦笑いを向ける藤堂と山南

屯所の風景が蘇る

あの頃も

今も変わらないと


パンパン・・・スパーン
何度も互いに打ち、総司の一本が決まると、セイが悔しそうに俯く
「なんですか~? そんなに悔しそうにして・・・・」
「だって、あれだけ頑張って修練したのに、やっぱり先生には勝てないんですもの」
握り締めた手が握力でフルフルと震える
そんな姿を見ると本当に可愛いと総司は思った
(負けて上げる事が出来ないんですよ、特に貴女には)

男には男の矜持がある
総司は何が何でもセイに負ける事は許されなかった

(あなたに剣で負ける時は貴女を手放す時なのかもしれませんね)
総司がにっこりと笑うと、いやだなぁ~と声を掛け、セイの肩をポンポンと叩く
「あなたは充分強いですよ、ただ、私は先生とずっと呼ばれて来ましたからね
貴女に剣を教えた人間が、負ける事は許されないでしょう?」

「でもっ・・・悔しいんです・・・」
「だったら、原田さんでも叩きのめして来なさい」
にっこりと笑いながら、総司はトン・・と背中を押した

踏みとどまったセイの心が又
総司の手により前へと進む

「原田さん、お願いしますっ!」
「おいおい、マジで俺かよ・・・・」
大人しく叩きのめされる気は無いぞ?とだけ付け加え、剣を交える
一番隊の隊長だった総司、剣戟の師範でもあるこの男と剣を交えるセイにとっては
原田の剣先は恐れるほどでもないが
それでも、新選組と言う鬼の住処の住人なのだ
あらゆる手法でセイを叩こうと向かってくる

だが・・・・

スパーン 「一本、そこまでっ」
総司の判定は贔屓ではない。見事に左胴に差し込まれた
「神谷すばしっこすぎだっ」怒る原田に満足したのかセイの頬から微笑が漏れる
弱い訳ではない・・・・総司とて、気を許せば叩かれるだろう
ソレほどまでに剣を磨いた彼女に敬意を払えるほど

「神谷さん・・・・」
「ハイっ」
「お疲れさま」タオルをぽいっとセイへ向けて放った

それからの時間は、山南に稽古をつけてもらったり、土方とやりあったりと
セイにとっては充実した時間が過ぎる

(やはり此処は天国かもしれない・・・・)
などと、錯覚するほどの楽しい思い

屯所に居た頃は、特に八木邸に居た頃は
楽しくて、嬉しくて、悲しみもあったがそれでも総司と言う目標を見つけ
楽しく日々が過ぎれば良いと願った

けれど・・・・

一人・・・又一人

側に居た人々が命を落とし、新しい隊士が増える

新撰組の名を轟かせ、近藤勇の名をあれだけ広げたのに
幕府は衰えるばかりだった

信じた未来は・・・・
      セイを優しく受け入れてはくれず

悲しみを抱えるだけになってしまったのだ

「神谷さん?」ひょっこりと、物思いに耽っていたセイの前へ顔を出した総司に
慌てて、目を逸らす
「幕末の記憶でも巡っていましたか?」
当てられた。
「なぜ・・・ですか?」
「殺気が凄いですよ?」
ふっと、身体がやけに緊張感に包まれていたのに気が付き
セイは慌てて、深呼吸をした
「すいません・・・ちょっと思い出してしまって・・・」

総司はにっこりと笑うと、良いんじゃないですか?思い出も大事ですからねと
サラリとセイに伝え、着替える為に更衣室へ消えていった


「では、これで・・・」
集まった隊士達がまた散っていく
再びセイは、現代の生き方を学ばなければいけない

深い溜息が落ちるのを、誰も聴いては居なかった



「おーい、セイ!」「呼び捨てですか・・・・全く」
へへっと笑いながら、門で掃除をしていたセイの手を握り、道場へと引き入れると
静まり返った道場でセイの身体を掻き抱いた

「なっ!裕っ、離してっ」
「少し・・・だから・・・・」
17歳の男にさえ、叶わない力
想い起きたのは幕末の記憶

「いやっ、やめてっ」ドンと払い除け、セイの身体がカタカタと震える
その震えを抑えるために、自分の両肩を必死に掻き抱いた

(なぜ?・・・・なぜ、今になって思い出すの・・・・)
女を捨てた自分、なのになぜ・・・・


「セ・・・セイ?」
戸惑いがちに話しかける裕、彼はただ、抱き締めたいだけだったのだが
「あ・・・ごめん、ちょっと体調が悪くて・・・ごめんね」

逃げるようにセイはその場を走り出した

川原を吹く風が、セイの頬を撫で上げる
水の香りと、排気ガスの香りに顔が歪む

(逢いたい・・・・・
沖田・・・先生・・・・・)


セイの心は既に総司の出現により女を取り戻してしまっていた
そして、全てを引き受けると、彼は折角凍らせた心を
その一言により溶かしてしまったのだ

セイの必死な抵抗は、総司により、いとも簡単に解きほぐされ
再びあの恐怖を想うと心が痛んだ

カサっと音が聞こえ振り返った先・・・・
「ごめん、俺・・・怖い思いさせたみたいで」
今にも泣き出しそうな裕に首を振って違うと表現した後
口を開いたのはセイだった

「裕、さっきはごめんね・・・・
私は、裕の思いには答えられないの。本当に申し訳ないと思うけど
私には私の恋の形がある、咎人でも恋はするし、思いもある
だって、人間なんだから・・・・
だからね、恋を実らせようとは思わない、けれど
忘れられない人が居るの。」

「うん、ごめん・・・いきなり抱きつかれたら驚くのも無理ないし・・・
でも、セイを好きで、止まらなくて。だけど俺を見るセイが辛そうだからさ
抱き締めたらソレが消えると思ったんだよ・・・・けど、抱き締める相手が俺ではないって
解ったからさ・・・
ごめんな?神谷・・・・
ごめん・・・・・」

指を左右で絡め、もぞもぞと動かしながら罰の悪そうな表情をする

狂気に囚われている目ではないと
セイは思えた。

彼は本当に、謝り、同じ事を二度としないであろうと
そう思える

「ごめんね・・・これからは、仲良く頑張ろう?」
「うん、淡い初恋を神谷に奪われたからねっ、彼女紹介してよ?」
「ぷっ・・・もう次なんだ?流石裕だ」
「だって、めげてられねぇし、次は剣道の地区大会が学校であるしね~」
すくりと、立ち上がった裕ははれた表情でセイを見やり、優勝するからね?と
問いかけるように投げかけて去っていった

きっと、無理をしているだろう
そう簡単に忘れられる恋ではないだろうけど

彼なりに答えを導き出したのだ

恋情に囚われる時間など無い・・・・
剣道に生きるさ・・・と裕は心に焼き付けて進んだ


残されたセイは、ぽつんと夕闇を待った
肌寒さが包んでくるが、それを両手で抱き締めて
自分を暖める

(逢いたいよ・・・・・・
沖田先生に逢いたい・・・・・・)

不意に立ち上がり、セイはその場を後にした

家に戻り、セイは孝に話しを2・3伝えると勢い良く家を飛び出して行った

「孝・・・?」
「セイちゃんも正念場なんだとおもう。沖田さんに逢いたいからって
帰らなくても心配しないでって、言って行ったから」
近藤が深く溜息を落とし、眉間に皺を寄せるとうーんと唸る
その背後で、孝が上手く行けば良いね?と微笑むと
近藤も薄く微笑んで孝の肩を抱き締めた





============================ 2009.10.23

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