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なつめっぐ 保管場所

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優8

続きます

★=認=★





闇が押し寄せ、セイの影を深く刻む
聳え立つマンションは20階立ての立派なものだった
そのマンションの入り口はオートロックで使い方も解らない
ただ、ただ逢いたくて

そっと見上げると、3階に住居を持つと聞いていたセイは
その部屋を目で探す

「右から・・・2個目」
じっと、大きな瞳が見やった先に、総司の影
「あっ・・・」
胸が高鳴った
逢いたい人がそこには居る
側に行きたいと願う人が、そこに・・・・・

ほんの数分だった
じっと見つめていると不意にベランダへと出てきた総司
その時だった

ぴろろん・・・ぴろろろん・・・・
携帯が、セイのポケットから鳴り響き、慌てて携帯を取った
「あ・・神谷さん?」「は・・はい・・・」
「あれ?どうしたんですか?声が沈んでますね・・・なにかありました?」
なんで、この男は自分の不安に敏感なのだろう?
どうして、こんなに側に居たいと願った時に電話をしてくるのだろう
「先生・・・」 「はい」  「先生っ」
「どうしました?泣きそうな声ですよ・・・・どこにいるんですか?」
セイは既に止まらない涙を流し、総司を見上げた
「ここ・・です・・・・」
「え?どこですって?」
ベランダで、檻に入れられた動物のように狼狽する総司の姿に
胸が熱くなり、涙が止まる事をしない
「こ・・・こ・・・です・・・」
グズグズと鼻を啜りながら、セイが伝えると
電話を切るなとだけ告げられ、視界に入っていた総司が姿を消した

「せんぜぇ・・・・・うえ”ぇ・・・・」
「其処に行きますから、場所を教えて下さいっ、神谷さんっ」
何時もの柔らかい声ではなく、緊迫感のあるちょっと焦ったような口調
迷惑を掛けているのは承知だ
けれど


この時代に流れ
疎外感を一身に受け
死を認識した者達に囲まれて
なぜこの場所に居るのか判らない不安と
また、めぐり合った総司の優しさと温かさと
その全てを、もう求めてはいけないと思っているのに・・・・

求めてしまう不安

どうしていいのか

自分で決めるには、あまりにも負担が大きかった


うぃぃ・・・・開く自動ドアを、待てないと言わんばかりに総司の身体が開ききる前に
隙間から、強引に飛び出してきた
「えっ・・・・? 神谷さんっ!」
携帯を片手に驚いている総司が目に入り、逢いたい人の驚いたような
照れたような、そんな表情を代わる代わるしている総司に
セイは飛びついた

「っつ! かか・・かみっ」
「先生っ、先生先生・・・・せん・・せぇえ」

とりあえず、この場所で泣かせておくと、近所に なにこそ言われるか解らない
部屋へと案内し、セイを自宅へと招きいれた



「落ち着きましたか?」

目がぽってりと腫れ上がったセイの目に、氷を宛がうと
気持ち良さそうにその氷へと目を埋める

「気持ち良いです・・・こんな時間にすいません、迷惑でしたよね・・・・」

「迷惑なんて・・・泣きながら此処に来て、私が行かなければ泣いて其処から離れたでしょ?」
「いいえ・・・」
「え?」

「すいません・・・先生に甘えてはいけないと思いながらも・・・
先生に逢いたくて・・・・来て・・・しまい・・・まし・・た・・・」

段々と消え入りそうな声に、総司は必死に耳を傾けた
そして最後まで聞き取ると、泣きそうな、嬉しそうな笑顔をセイに向け
椅子に腰掛けているセイの背後から抱き締めた

「逢いに・・・来てくれたんですね」

「全てを・・・・聞いて欲しいんです・・・神谷清三郎の全てを」
「解りました、でも少し落ち着いてからの方が良い・・・ちょっと待ってくださいね」

パタパタと、総司がその場から離れると携帯電話をズボンのポケットから取り出し
土方に電話を入れる。
セイが一人にならないように、明日の勤務を交代してもらう交渉だったのだが
土方が電話に出るなり、自分が用事があるので明日と、明後日の仕事の交代を言い出した

「あぁ、良かった・・・実は神谷さんと少し話をしたいので
明日の勤務を交代して貰えないかと思い電話したんですよ・・・」
ホッとしたように告げる総司に土方が交渉成立だと伝えガンバレと一言残して電話を切った

実の所、土方が総司の家へ遊びに来ていたのだ
ただし、彼が現れるのは何時も不定期
彼女が家に来ている訳でもない総司の家はある意味職場にも近くて絶好の場所なのだ
電話も入れず、車を止めた先で見たセイと総司の抱擁に、その場を去るしかないと
薄く微笑み車を走らせたのだ
だから、総司から電話が来た折に、休みの話を持ち出し
一日ゆっくりセイと話させてやろうと思っていた
この男は不器用な上に物凄い照れ屋である。
正直に伝える事は無いにしろ、そう言った行動を見せる男だと総司も充分に理解している


電話を切り、セイの元へ戻ると
椅子に腰掛けていた彼女が、リビングのソファーへと移動していた
総司の部屋は一個の小さな灯りだけで、電気を点す事はあまりしない
帰宅して、家の事をやる時と書類を纏める以外はその小さな灯りだけで過ごし
昔を懐かしむような、その灯りが好きで
わざと電気を灯してなかったのだが、セイが居る今はつけた方が良いと思い
電気をパチリとONにする

暗がりで目が馴染んでいたお陰で眩しさが襲い、セイの目が細まる
「眩しいですか?消します?」
「あ、はい・・・お願いします」
泣き腫らした目にはきっと、何倍もの強い刺激だっただろうと、申し訳なさそうに電気を消し
ソファーに向かうと、セイの横に腰を掛けた

「はい、お茶ですよ」そっと出されたお茶を受け取り
ずずっと飲み込むと、ゆっくりとセイは口を開いた

過去の自分・・・・
曝け出してはいけないと何度も思いとどまった
伝えたら、総司が悲しむかも知れない・・・・・
なぜか、そう思えて伝える事を戸惑った


あの時のたった一言が
流れ出す感情を止められなかった

「忘れなくて良い」と、言ったあの言葉を


あれは・・・・

その言葉から始まった、セイの話しは長く続く。


総司が死を迎え、セイは総司の思いを紡ごうと
北を目指す決意をし、遺品を整理した
総司の姉へと全て届けセイは長く居た、あの長屋を後にした

3か月分の金子と、少しの食料、そして偽の手形
その残りは、総司の家へと半分、里へと半分渡し先を考えずに進んだ

二本差しで道を歩けば、無論目を付けられる
セイは、薩摩の藩士に捕獲され、鞭で何度も打ち付けられた
何処の間者だとか、密偵か?とか疑われ出したら止まる事をしない
薩摩の隊士に良いように殴られ呼吸さえ止まるほどだった
だが・・・・
そこで女だと露見して、逆にソレが命を繋いだのだ
男装して、この地を抜けようとしていると伝えたお陰で
命を取られる事は無くなった

ただ、男達は女と知ると、欲望をぶつけようとしてくるのは
何処の世界でも同じなのだろうか?
死に掛けた体力は抵抗さえ出来ず、好きに弄ばれると覚悟を決めた刹那

「すまんが、その子はわしの知り合いじゃき・・・・」
その声は・・・・
誰かは解らなかったが、セイを助けてくれたであろう人は
連れ出してくれた。解き放ってくれた・・・あの拷問から
そして気が付いた時は、お竜さんが心配そうに覗き込んでいた

「生きとったんやね」と、彼女は悲しそうに微笑み
そして、抱き締められ初めて涙が流れた

もう、総司は居ないと何度も自分に言い聞かせ封印した涙を
こんなに簡単に女の部分は流そうとするのだと呆れたりもした

お竜の家からまた、北へ向かうと告げ
セイは其処を飛び出た
無論、もう沖田が死んだのだからとお竜も止めた
けれど、それでも、総司の意思を土方に告げる為に

刀を差して歩いては、又同じ事になりかけないと
お竜から2枚の着物を貰い、刀はもう一枚に包み抱きかかえて向かった

女の格好は本当に人目についた
自分が女なんだと、本当に嫌と言うほど痛感させられたのは
北へと渡る船に向かう途中だった

小さな集落で、寝る所を求め、尽きた金子の代わりに簪や
自分の懐刀を売り、どうにか凌いでいたが
村の男が数人を従え、セイの刀を狙った

「女は犯って女郎にでも売れば良い」
そんな言葉を掛けられ唇を噛み締めた目の色を変える雄の目力に
そして、女であるが故に叶わぬほどの力でねじ伏せられ持って行かれた刀は

総司が自分の為に用意した大

渡す事など出来なかった
村人だと、知っていたのに
鬼が目覚めた

事は一瞬で終わった、返り血を身に受け、また咎を背負った

3人の命を奪い思った事は、ただ・・・
新選組に居た頃とは違う。あの頃は沖田が守ってくれていた
あの頃は、不逞浪士こそは斬ったが、村人に手を出す事などあってはいけなかった
武士としてあるまじき行為・・・・
法度にまでも、背いてしまったのだ

もう、自分が何者か解らない
ただ、人を斬った感覚が総司を失ってからは重く辛く圧し掛かってきて
セイは見定める方向を失い、ただ、新選組に居た時の優しさを求め北へ向かった

その際に、金子は奪われたし、売るものも無くなり村の住人から食料を分けてもらおうと思ったのだが
何処の家もそんな蓄えがある訳ではない、ましてや戦の最中自分が食べるので一杯だっただろう
それを理解していながら、セイは留守の家に押し込み、自分には使命があると
言い訳を付けて食べ物をくすね、必死に生きることに執着した
そんな自分が凄く嫌だった

穢れてしまったと。

汚れてしまったと。

そう想いながらも、北へと辿り付き、土方を見つけた
最後の戦いかもしれないと
解っていた、否
セイは死に場所を探したのだ

新選組として、最後まで戦えた事に感謝しながら
土方の背を総司と重ね
追いかけた


「それが全てです・・・・。」

涙すら流さないこの子は、先程までの激情は、また押し殺しているのだろうか?
あまりにも儚く消え入りそうなセイを、総司は抱き締めるしか出来なかった

「苦しかったんですね」
そう、本来だったらそんな事をする子ではない
人の家に押し入るなどありえる訳が無い
「神谷さん、私でも恐らく同じ事をしていましたよ・・・・・」
「え?」
「拷問で殺されていたかもしれませんけどね・・・でも生き延びたなら
恐らく神谷さんと同じ道を辿ったと思います・・・だって
それが私の人生ですから。私はそれを咎とは思わず歩んだかもしれません・・・
北で孤独に戦う土方さんを追うのを止めない思いも勿論ありますしね
だって何が何でも、私はあの人を側に行こうとしたでしょうから
だから・・・あなたは、私の咎を全て引き受けてしまったんですよ。」


「神谷さん、あなたは、私の道を歩いたのです」

この小さな身体で・・・と、再び強く抱き締めてくる総司の胸に顔を押し込めた
先生と何度も何度も呼びながら


罪が流される

総司の手によって

それはセイが望んでいた答えなのかは解らないけど
愛しい男が自分の代わりをしたと伝えてくれる嬉しさに
セイの心が緩んだ

「先生・・・私は・・・っく・・・」涙を流すはずではなかった
だが、罪を身体から吐き出すように
穢れを払い除けるように流れる涙は
総司の目には美しく浮かび上がる


「先生・・・の無念を・・・・思いを叶えたくて・・・・」
愛しい彼女が、男の自分をここまで癒すとは・・・そう思ったのは
幕末時代
気付かない振りをしていたあの頃はもう要らない


「神谷さん、私はあなたをずっと・・・ずっと」

「思っていました」

(どう伝わるだろう?この子は自分の思いには真っ直ぐな癖に
私の感情には、すこぶる鈍い。
好きだと伝えてこの子が苦しむなら、逃げが用意できる言葉であなたに伝えよう)

「心配掛けて申し訳ありません。。。。」
(ほら・・・あなたは、いつもそうだ・・・・)

「心配性は幕末時代も今も変わりませんよ」
(ならば・・・いっそ、嫌われようか・・・?)

そっと、総司の手がセイの頬を撫で、その手がやんわりとセイの顎を引き上げた
「相変わらず・・・可愛いですね」
「えっ? かか・・可愛いなどと・・・いきなりなんですかっ」
(嫌われてしまいますかね?・・・・ねぇ、神谷さん・・・・)
「イヤなら、振りほどきなさい。」
(それだけ伝え、逃げ道を作ってあげたから・・・・後は知りませんよ?)


何の抵抗も無く触れるだけの口付けは落とされた
ずっと求めていた果実を口にしたような、我慢した甘味をやっと食べれたような
幸福感と充実感が総司を襲った

恐る恐る、セイの顔を見やると、驚いたような顔

やはり、まだ早かっただろうか?

この子の気持ちは今までに十二分過ぎるほど解ってきたつもりだ
それを知るのが怖くて溺れるのが怖くて、一歩を踏み出せなかった自分が悔やまれる

だが・・・その思い巡らせる中再び重なってきた唇

「嫌なわけ、無いじゃないですか・・・」
真っ赤になりながら、震えながら重なった唇が愛しくて
その言葉が心を満たしていく

「その口付けが答えと見て良いのでしょうか?」
不安げな顔を惜しげもなく見せる総司に微笑んだのはセイだった

「先生の質問が何か解りません・・・・」
(ずるい・・・・あなたのその言葉で私は言わなくてはいけなくなった・・・・)


「では、言い方を変えましょう」
「はい。」

「あなたに、今も、そして幕末の時代も・・・惚れていると伝えれば解ってもらえますか?」

互いに・・・ゆっくりと唇が重なり
セイがハイと答えたかどうかも解らない
けれど、互いに深く深く口内を弄りあい愛を見つけた喜びを感じるのは
きっと一緒

長い間唇は離れる事をしなかった

失った時間を取り戻すかのように
唇を離しては角度を変え
舌先を絡めては、揺れ動いていた・・・・・。



2009.10.24


============================

★=契り=★




ゆるりと、時が二人を包んだ
セイを、総司を互いが愛していると認め、それを互いに伝えた
抱き締めた先から恋情が流れ出ると、身体がジン・・と熱くなっていく

「っは・・・・」
時折漏れ出る互いの吐息

ちゅ・・
響く触れ合っている証のような口付けの音
「ん・・・」
口角から流れ出る白滝のような唾液が二人の思いを
やっと吐き出せると貪りあう


「んっ・・・せ・・ん・・・せい」
セイがやっと搾り出した声に、我を忘れていた総司が現実にひき戻り
己の手が何をしているかを知り、自分でも驚き手を引いた


「うわぁあ・・・ごご・・・ごめんなさいっ」

真っ赤になって謝罪をする総司
セイから慌てて身を離し膝を抱えて座り前髪をクシャリと握り締める
「すいません・・・・」

「先生?」

きょとんとするセイに真っ赤な顔で苦笑いをしながら
ぎゅっと膝を掻き抱いた

「な、何してるんでしょうね・・・まったく・・・私もどうかしていますよね
あなたを大事にしたいと思っているのに、無意識に求めてしまうなんて・・・」

セイの上着が肩から落とされ、露になった首筋、セイを再び見てしまえば理性が利かない
「怖く・・・なかったですか?」
視線を合わせないように総司が呟く

「吃驚しました・・・」
「そ、そうですよね・・・・あぁ本当にどうかしている、本当にすいません」
「で、でも、その・・・嬉しかったです」
「え・・・? 嬉しい?ですか?」
総司が戸惑いながらセイを見やると
真っ赤になったセイが、俯いて声を上げた
「えぇ、嬉しかったです・・・でも、それでも私は恋をしてはいけないんです」
「いいえ、違いますよ」
総司が悲しそうに笑いながらセイの身体を引き寄せ抱き締める


「あの時代の咎は今も私の中にある、そして神谷さん・・・あなたにも
記憶が戻るとは、そう言う事なんではないかと思います
沢山の人を私は信念の元に斬り捨てました。
それこそ、あなたに何度も嫌な思いをさせたのも重々承知しています
あなたが泣く度、その涙を私が拭う事で心が安らいだのも事実です
だって、あなたは非情な私の代わりだったんですから・・・・・

心なんて、鈍感くらいが丁度良かった
それなのにあなたの一挙一動に心揺らされ、正直辛かった時もありました
だって・・・あなた無鉄砲過ぎるんですもん・・・・
そして、私の心を一番に理解してくれた人であり、一番解ってくれない人でもありました」

「なっ、理解してて理解してないってどう言う事ですかっ」
反論を投げかけるセイの額に唇を落とすと話を続けた

「あなたを見ていると胸が苦しくなったり、変に力が沸いたり、どす黒い何かに包まれたと思ったら
笑顔を見てしまえばそんな感情は消え去る・・・・それが、あの時の私です」

その言葉は、セイの嬉しさを増徴させていったそして、不意に思い当たる節を見つけた
総司があの時急に接触を避けたり、急にどこかへ連れ出したり
セイにも解らない事が多かった
野暮天と罵りあったあの頃、お互いに野暮だったのかとセイも溜息を落とした
「ねぇ、神谷さん・・・」

セイの唇を親指の腹で撫で上げると、目を細め薄く微笑む
「あなたは、私がこの世界で背負った咎を引き受けに来てくれたんですよ、きっと昔のように」

「あの人の事でしょうか?」
今にも泣き出しそうな目を向けてくる総司を見上げる事でセイの心はドキドキと心音と一緒に蠢いた
「そうですね、結果的にあの子が犠牲に成ってしまったんだと思います
あなたに囚われ続けた私は、あの子を愛してあげる事が出来なかったんです。
そして、それは今も一緒です・・・あなたが私の側を離れる事をしないように
私もあなたの側を離れられないって事になりますね・・・・」
「それは、どういう・・・」
セイの不安そうな顔が総司に向けられ、苦笑いと共に口に出された言葉で
セイは真っ赤に染まって行った


「あなたと私は今も昔も一つなんですよ」

「せん・・・っ」
トサリとソファーに押し倒され、セイが慌てて抵抗する
「すいません、勝手な解釈ですよね でも・・・・」
首筋にちゅっと軽く吸い付くとセイの身体がビクッと跳ねた

「でもね?この求める心も、思う気持ちも、あなたにしか向かないんです
何度も抑えました、何度も欲しいと思いました・・・でも、手折ってしまえる勇気が無かった
剣術しかとりえの無い男でしたからね・・・・まぁ、今も大した変わりは無いんですけど・・・・」


でも、あなたを思う気持ちが今の私のとりえかもしれないと呟き、セイの耳たぶを軽く齧る
「んっ・・・・」甘い声
(ほら、この声だけでこんなに囚われる・・・・・)

「神谷・・・いえ、セイの操を私に捧げてくれませんか?」
「なっ! だ・・・ダメですよっ!先生ずるいっ」
「昔の私の方が、ずるかったんですけどねぇ・・・・なにせあなたの思いに気が付いても
それでも・・・簡単に答えてあげれなかったんですから・・・・」
「その・・・言い方もずるいです・・・・」
指先がセイのブラウスのボタンを一つ一つ外した
「イヤですか?」
真剣に向けられる視線から離せない
離れられない

「セイ、イヤだったら今止めて下さい、私も男ですこれ以上進んでしまえば
あなたを傷つけてでも、手に入れようとすると思います。
今しか止めれる機会は無いと思って下さい。」

再び重なる唇、今度は熱く情熱的な口付け
総司の身体が熱に帯びていく
「んっ・・・せん・・・せ・・・が・・熱い・・・・」
「っは・・・・セイ、あなたを欲しくて熱くなるんです。」

惚れた男に此処まで言われて、拒めるはずが無い
肌蹴られた素肌に軽く身震いをすると、総司はセイを抱きかかえた
「うわぁっ」驚きのあまり声を上げるセイをそのままに総司は余裕の笑顔だった
「寝室へ行きます」

問い掛けるでもなく、まるで巡察の時のような総司
少し緊張をしているのだろう。心臓は高鳴っているのが抱きかかえられているので
セイには嫌と言うほど伝わってくる
この男も覚悟を決めたのだと、セイは腹を括った

どんな棘の道でも、この男と共に進むと当に決意して新選組に残ったのだ
今更、現代に流れたからと言って気持ちが変えられるほど器用でもない

ベットにトサリとセイの身体を横たえ、その上から圧し掛かる
「本当に、最後通告ですよ・・・・いいんですか?」

「我慢出来無そうなお顔ですよ?」
その言葉に苦笑いを向け、セイに跨ったまま上着を脱ぎ去った
逞しい身体にセイの方が赤くなってしまう

何時も見慣れた浅黒い彼の肉体は
美しいほどの筋肉と、痩せ細った最後の姿に成る前の元気だった総司そのものだった

髪の一本まで美しいとはこの事なのだろうとセイは息を呑んだ


熱を持った総司の体が、セイの肌に直接にあたると
ビクンと身体を強張らせる

流れる前に受けた痛みが又蘇り、カタカタと震えを抑えられずに怯えてしまう
「怖いですかね?」
その震えに気が付いた総司が覗き込むようにセイに問い掛けた
「その・・・すいません、思い出してしまったんです」


「では、忘れさせてあげます」


忘れる事など叶わないだろうと、総司は思いながらもその言葉を掛けた
自分が忘れさせれるなら、どんな事でもしたいと思った
自分がセイを癒せるのであれば、癒してあげたいと

(昔より甘くなってしまいましたかねぇ・・・・)
良く、神谷には甘いと言われ続けた己だからこそ解る事だろう
冷たく突き放したのも、セイの事を思えば
優しく接したのは嫌われたくない一心で
戦いに出したのは・・・・・ただの・・・・私情

「神谷清三郎こと富永セイ、あなたに私の全てを捧げる。だから・・・あなたも恐れないで下さい」

「っ・・・っは、はい・・・・」

怖くないなんて言えないだろう
でも、総司は間違いなく自分を求めてくれ
自分の心も、包んでくれると思った

そして、総司に全てを委ねた

迎えた朝は、今までに無いほどの満ち足りた朝だった
今までにないほどの気だるさと、未だ残る焼けたような恋情の痕
痛む心は互いを癒し、全てを無に返すような感覚・・・

そんな中、総司は目を覚まし鬱陶しそうに前髪を掻き揚げると
不意に横に居るセイが動く

抱き締めた感覚も、押し入ったあの時の刹那も
今もまだ総司の中で蠢いていた
女に溺れた事は無かった
今までに無いほど手に負えない恋情が付きまとって
辛い思いを押し込んで来たのは何だったのだろうと、今だったら思える

互いに傷など忘れるほど狂い踊い
夜の陰の気に囚われ、互いに求め合った。
その恋情は今も心に焼き付き、不意に麻耶を思った

(ごめんなさい・・・・本当に・・・・)

抱こうと思った事は何度もあった
けれど、いざとなるとどうしても彼女の中に己を納める気にはなれず
いつも寸前で止まってしまっていた

セイとの契りはいとも簡単に出来たのに・・・だ。


「はぁ・・・ほんと、神谷さんには頭があがら無そうです」
眉を顰めて、総司は呟いた
最後まで出来ないと言う思いは何故か無かった
けれど、吸い付いてくる肌に溺れ
吐息に心乱され
何度も何度も囁かれる言葉に、酔った

「こんな事・・・一回もなかったんですけどねぇ・・・・」
セイの胸の周りに付けられた刻印が桜の花弁のように咲き誇り
それだけ自分のものにしたいと言う思いがあったかが計り知れると
急に顔を赤らめ、セイの身体にそっと布団を引き掛ける

乱雑に脱ぎ捨てられた服を着込み、総司は台所へと向かった

(あぁ、だめですねぇ・・・私が照れていたら神谷さんが困るのに・・・・)
何度も溜息を落としては、きりっと目を吊り上げようとするが
すぐに、ふにゃ~と、口角が下がってしまう
両の手でパンパンと頬を叩き気合を入れると、水をコップに入れ
セイの元へと戻った


「んっ・・・・・」
まだ、酔っているのか・・・セイのとろんとした視線に総司の心臓がいとも簡単に跳ね上がる
「神谷さん?・・・そろそろ、起きて下さいよ?」
「あっ!はい!申し訳ありませんっ!!!」
セイは、総司に起こされ、慌ててその場で正座をし、今の状況を把握するときゃーと叫び、
今まで身を包んでいた布団を手繰り寄せると胸を隠す
「みみみ・・・み! 見ましたか!?」
真っ赤になって、慌てるセイに、ぷーっと噴出した
「昨夜、確り見せて頂きましたよ?」
面白げに伝えると、更に首まで真っ赤に染まるセイ
一人セイはどたばたと着る服を手繰り寄せながら、しどろもどろと着替え出した
「身体・・・大丈夫ですか?」
「はいっ!すこぶる元気です!っつ・・・・」
「ほらほら、無理しないで下さいよ、お水どうぞ?」
とりあえずの服を着て、セイは総司から貰った水をコクリと飲み込んだ

(あ・・そうだ、昨日・・・・・)
両手に持ったグラスの中を見ながらカーッと血が登っていく
「大丈夫ですか?」そんな思いに耽っている時に、総司がひょっこりと横から覗き込む
その総司の首に付けられた小さな紅

「あっ、ハイ、はいはい!だいじょじょーぶ・・・です・・・・」
もう、何がなんだか・・・・(笑

総司のあの瞳に射抜かれ、セイは獣に食われたんだと素直に思った
押し倒され、総司の中の鬼が顔を出した
別に人を斬る時だったらセイもなんの感情も無く思えたのに
自分がその視線の矛先になって初めて恐怖を知った
甘く、とろけそうな恐怖に飲み込まれ
総司に狂わされた

「なんですか?じっと見て?」
「あ、い、いえ・・その・・・なんでもないですっ」
総司は戸惑うセイが可愛くて面白くてたまらない
先程までの総司を見れば、誰だって弄ってやりたく思うだろうが
あまりのセイの挙動不審な態度が総司に余裕を持たせてしまった

「さて、では、おはようのキスをしてくれますか?」
「え?」
セイの唇に指を乗せ、つーっと指先で紅を引くように滑らすとニッコリと笑いかけてくる

(この男・・・・絶対、策士だっ!)
セイは、しぶしぶ口付けを総司に送った
まぁ、元々されるとは思っていなかった総司が、この先真っ赤になり
セイに苛められたのは、言うまでも無い・・・・。




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2009.10.25

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