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続き
大学へと足を運び、最近は帰りにレンが迎えに来る事がある。
今は彼と言う思いより肉親に近いのかもしれないという
変な感覚はある。
父の付属品。
今はそれが水希の中の彼の位置。
「おはよー」
「遅かったっすね」
「平賀、お前昨日バナナ喰っただろう?」
「は?」
「ロッカーにストックしてたのが無くなってた」
「勝手に人のせいにしないで下さい、昨日は俺図書室でしたから!」
そう、最近バナナのストックが無くなるのだ。
今日はその犯人を捜そうか?
仕事でまだこっちには一度も顔を出さない父親に
そろそろヤキを入れないといけないだろうなとも思っているが
それより先に自分のゴタゴタを解決しようと、握り拳に力を入れた。
「絶対捕まえる!」
「本当に大丈夫ですか?」
「サルなんてこの学校に居ないんだから
絶対犯人は人間だ!だったら捕まえれるさ」
水希がロッカーの前で張り込んでいると、カタリ…と、音が聞え
角のロッカーの空きスペースからチラリと覗いた
足が見えてニヤリと笑った水希が、フンと鼻息を吐き出し
ジッと自分のロッカーを見やる。
冗談じゃない!バナナが無料奉仕だともで思ってんのか!
私がわざわざ買い込んで、大学の冷蔵庫に仕舞いつつ
毎日出しては、ロッカーに置くと言うのに。
ふざけるな!と、握り拳を強く握った。
カチャリ…と、自分のロッカーが開かれ
ゴソッと動く人影に、水希は冗談じゃないこれ以上食べられて溜まるか!
と、背後に立った。
カツンと言う音と共に背後に感じる冷気に
男が振り向くと
「ひっ…」
「おーまーえーはー学年と、名前を教えろ!」
聞き込みに寄るとどうやら、1年で生活するのが苦しく
水希のバナナで夕飯を済まそうとしていたらしい。
それは学校内で結構話題になっていて
このバナナを貰うと、勉強ができるようになると言う
変な伝説まで出来ていたらしい。
「ありえん…」
溜息を付きながら水希がグーで、学生の頭に一度
ゴンと拳骨を落として、帰した。
「ぶははは…最高だ!バナナ喰ったら学力上がるとかありえねぇ!
ウッハッハッハッハ…腹いてぇ…」
「死ぬまで笑ってろ」
大笑いの平賀に言い残し、水希はプリプリとしながら研究室へと戻る。
「バカが…」
と、手元にあった学習用に用意してあったノート10冊ほどをトントンと
角をそろえて、明日父に読ませようと鞄に入れる。
後5冊、研究成果を記録したノートがあったはずなのだがそれは平賀でなければ
解らないらしく、ギシッと椅子に腰を掛け
PCの電源を入れた。
『狼に育てられた子供』
検索を掛けると、数件HIT所ではなかった。
そう言うネタの小説や、そう言う事があった昔の記録などを
見ながら、今の彼を当てはめるも
そこまでの酷さは無い。
5歳で捨てられた時、彼は何を思ったのだろう?
そんな事が湧き出ると、もっと彼を身近に感じれるかも知れないと思った。
カチャリと、笑い死にしそこなった平賀が、部屋へと戻ってくる。
「あー水希さん、明日合コンだからよろしく」
「はぁ~ん?何がヨロシクだ、ナ・ニ・ガ!!!」
米神に青筋を立てて
言う水希に、ニッコリ笑って、貴女が居ると女性の出席率がいい
と言う理由らしい。
「人をダシにしやがって…誰が行くかっ」
「プチメロン、行ってくれたら5個付けますよ?」
「うぐっ…」
プチメロンとは、バナナの次辺りに大好きな食べ物。
メロンパンみたいなのだが、実は中のパンがふっくらモチモチ。
初めて食べた時は、衝撃過ぎて顎が外れたほどだ。
人をダシにするのもいい加減にしろ!と怒りたい…けれど
「プチメロン…」
このプチメロン、誰もが食べれるものではなく
作成元は 平賀の家(母作品)なのだ。
「わかった。けど、10個ね!」
「えー?」
「転んだらたたでは起きないっ!」
力一杯言う水希に、交渉成立と呟いた平賀にノートを頼んだ。
先に頼み事を言い出したのが平賀でよかったと心底思った瞬間だった。
なにせ、ノートがプチメロンになったのだから。
「なんだったら、バナナやるぞ?」
「い・り・ま・せ・ん!」
すっきりきっぱり断る男に、フンと鼻で息を吐きかけ
ノートを受け取ると、帰る支度を始める。
予定の時間より2時間遅い時間になってしまったが
まぁ、いつもならば…電話をしないのだが
どうも気になって携帯を取り出しにらめっこ
くそっ、何で私が気にしなきゃならないんだ!
と、ポケットへと戻して帰路に付いた。
ただいま…と、帰ると家に夕飯が運ばれていた。
親にさえ電話するのを忘れていた…。
あーもう、なんだかグダグダになってるなぁ…
なんて思うが、父には一度話さないといけなかった。
チャイムを鳴らすとレンが出てきた。
「水希おかえりさい」
「お?普通に話せてる」
「いえ、チチにおしえてもらた」
チチ?乳!?父…
「あークソオヤジ?」
「そう!クソオヤジ!」
「へぇ…父って呼べって言われたの?」
「Yes ! 父呼ばれる嬉しい」
「そっかー…あ、夕飯運んでくれた?」
「うん、運んだ」
ありがとうと感謝の言葉は必ず相手に伝えるのは昔からの
家の作法。
怒られた時も…だ。
だから、父は今
ふふふ…私の前で、正座をしながらションボリして
アリガトウを口にした。
学校に明日顔を出すと約束し、教えてくれて
怒ってくれてありがとう。
その言葉は、子供の頃は然程だったが
今更ながらに気分がいい。
「明日、夕飯を食べに出よう」
と、父の提案に皆が賛成しているのを横目に
プチメロンの誘惑に負けた私は断るしか出来なかった。
「なんだって!家族の夕食を…お前は断るのかッ!」
なんて、随分オペラチックになっている父を放置し
ともあれ、用事が入っているから無理と答えると
父がどんな用事か…必要以上に聞いてくる。
「んもぉ、うっさいなぁ…男とデートよ、デート!」
その言葉に一斉にレンを見る家族に
溜息が出るわ!レンが何か思うわけ無いじゃない!
と…そう考えてた私の頭は一気に違う方向へと向けられる。
だって…
なんて悲しそうな…顔
な、なんなのよ。
この空気!重いっ!
どんよりと言う言葉が似合いすぎて、漫画だったら
米神辺りに線を引き、ドーン とか ズーン と言う効果音を書けば
出来上がるようなこの…雰囲気!
言ってしまったものは仕方ないし…
傷付いてそうなレンにも謝る気はない!
だって!すきとか嫌いなんて感情は…まだ、芽すら出してないんだよ!
ハーッと溜息を付き、家へと戻った
くそっ、イライラする。
あの目…緑の目の中にあった光が一瞬で消えたような。
そんな絶望感を見せ付けられて
それが私の口から出た事で…
「もぉっ!」ヒステリックに叫んで布団に潜り込んだ。
結局思いついた事も話す事無く、今日は幕を下ろした
明日行きづらいな…なんて今更だろうけど
「レン…」
なぜか名前を呟いてみる。
この私が呼んだんだから…返事くらいしやがれってンだ!
朝?
目を擦りながら、時計を見ると6時。
学校までは20分、バスで10分も掛からない。
「よし!気を取り直そう」
早速キッチンに立ち、本日の昼飯。
まずはタマゴ…。
冷蔵庫を開けて、固まった。
買い物してないしっ!
米もないし!
それで作る気だった私ってどうよ?
完熟バナナ一房。
バター、マーガリン、イチゴジャム、烏龍茶、水。
さて、ナニが作れる?
しいて作れるのは…バナナサンドか?
ありえないーーーーーー!!!!!!!!!!
パタンと、冷蔵庫を閉じて、もう一度覗いたら…?
カチャリ…パタン!
増えている訳は無かった。
なんなんだ?今日は厄日?そうなのか?
ハーッと息を吐くと、背後に居た人に驚いて視線を向ける
「おはよう。水希」
と、彼は目を赤くしたままで言う。
「あ…おは…よ」
すごーーーーーく!居ずらいんですけど!
「今日デート?」
うへーなんだこいつ、いきなり必殺技出しやがった!
悲しげな目で言うのは卑怯だ!
しかも、デートだって知ってて言ってやがる…コイツは案外策士か?
「ええ、でも私はただの飾りだから、すぐ戻る」
何で言い訳してるのよ!!!!
でも、これ以上悲しげな目はみたくないのー!!!!
あぁぁぁあああ…本気で逃げ出したい。
「そう…」
と、答えた彼の顔は晴れては居なかった。
折角言い訳までしたのに!と言うか…本当に飾りなんだけど…
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