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続き
今日一日は、始まりからコケた。
憂鬱のまま、部屋へ入ると久しぶりに白衣の父と目が合った。
「お帰りなさい、教授」
「ん…ただいま。ノートは15冊全て目を通したが
詰めが甘いな。指示を出したのはお前か?」
「…はい」
「いいか?動物ってのはな、お前の気分で振り回して良いものじゃない
言葉が通じない分お前が気を使って様子を見るくらい出来るだろうがっ!」
いつものクソオヤジはこの教授の席に座ると人が変わる。
と言うか本来の父に戻る。
母の前では見せないこの、怖い父。
二面性のある父ではあるが根本は何も変わらないのだが…
っていやいやそんな説明どうでも良い!
その言い分は、絶対にレンの事を言ってる。
だってノートに書かれている動物の生態は腸内に巣食う
病気とその病気に対する治療法。
その中でも有効そうな治療を書き溜めた物なのだから。
遠回しにもっとレンに気を使えといいたいのだろう。
だったら、こっちだって言いたい!
けど、ここで言い会いをすればこれから出てくる平賀や
研究生になんと申し開きしていいかも解らず、謝って済ませるしかなかった。
父は、皆に歓迎されて戻った。
けれど、早朝一番に怒鳴られた私の気持ちは相も変わらずで
イライラとドンヨリが同居してる。
レンに謝る気は無い。
彼も、あえて接触をして来ないし
家に戻っても、2階に引きこもる。
しいて言うなら、学校まで散歩がてら迎えに来る事があるくらいだろう。
「桑本!」
「っはい!」
「昼だ、キャンパス行くぞ!レンが弁当を持ってくる」
クソオヤジ様はこう言う突拍子も無い作戦で来たか…と
不安的中。
二人でキャンパスに昼を食べに行くのは結構やっている。
いつもは母が来るのだが今回はレン。
学生も興味深々で覗くだろうな…なんて思うと、今日の飲み会に参加したくなくなる。
「レン!」
「父!水希?」
「こんにちは…レン」
「こんにちは」
短い会話で空気が重くなる。
レンは見た目がいい、そのお陰で窓から覗くと、学生達が用も無いのに
レンの顔の見えるほうへと歩いていく。
おいおい、そっちは池しかないぞ?
「水希!何やってるんだよ…って、教授!?
お久しぶりです。」
と、通りがかり…じゃないな。
野次馬だコイツ絶対野次馬だ!
「んと、そっちの男性は?」
「私の旦那のレンだ」
「は?マジ?」
「そうらしい」
「へー…水希手なずけれるの?」
と、彼は細い目を更に細めた。
”手なずける!?はぁ!?”何で私が手なずけられなければならないのだ?
どっちかって言うと、狼少年レンの方がその言葉が相応しいだろうが!
なんて思っても所詮彼のことを知っているのは、自分と家族だけ。
はーと、溜息を付くが、その言い分には随分とイラッと来る。
コイツは 野村楓 男のクセに、可愛い名前しやがって!
カエデだよ?カエルかと思うわ!
え?オヤジギャグ?知るかそんなモン!
あ、いやいや…突っ込んでる場合じゃない。
さっきの仕返しにもならんが…
「楓クンは迷子かしら?」
フフンと挑発すると、真横に座り…何故私の肩を抱くんだ?
「いや、水希が良い男連れて歩いてるって言うから見学」
「そう言うのを野次馬と言うのを知らんのか?」
「んー知ってるけど…まぁ、それとは又違うかな?」
訳の解らん会話はこいつは良くする事。
そして良くからかわれるのも、こいつならでは。
身体は然程でかくは無いが、黒髪の黒ブチメガネに
目が釣りあがった、一見コワモテ
まぁ、でも良い所も十分あるし、優しいところもある。
女共には結構人気だが、平賀も人気がある。
そんな二人に囲まれて、私がどっちに揺れるかと言う
レートの高い賭けまで存在している。
レートは、バナナ…
そのバナナを手にすると、幸運とか
どんなバナナ伝説が出来上がってるんだ!とさえ思う。
「ねぇ、水希今日来るんだろう?」
「あ~…まぁ行くかな?」
「だったら、後で二人で抜けようぜ?」
「は?アホか?無理無理」
と言うと彼はさっさと消えて行った。
全く何のつもりで手を出してくるのか知らないが
アイツは人前でだけはベタベタとしてくる。
シッシと追い払うと弁当が残り少ない事に気が付き
慌てて口へと運ぶ。
「水希、お前の彼氏か?」
「は?あんなの男としてみてないし!」
と言うと、あからさまにレンがホッとした表情を見せた。
[[ Jealousy ]](嫉妬)
と言う言葉が一瞬目の前を掠めるが
んなワケナイ!
と言うか…そこまで思い込み激しいのは違う!
うんうん…と、自己完結した。
彼の事はまだ判らない。
知ろうとしていない訳ではないが話しずらいのは確か。
レンが、弁当を持ってきた形へと戻し、父に挨拶をすると。
「水希、帰る」
「ん?あ、気を付けてね?」
そう言うと、私は研究室へ戻ろうかと思ったのだが、肩に手を置かれて振り向いた
「Thank you Mizuki」
ちゅっと、耳の近くで話されて、目を見開いた。
頬に感じた暖かさと、柔らかさ。
そして、森の中に居るような、爽やかな香りと
……
優しい空間、癒しの空間…
そんな感触の後に、一気に何が起きたかを思い出し目を見開いた。
なななな、何したコイツ!?
彼はにこやかに手を振ると、帰っていく。
呆然と頬に手を当てている私など気にも留めていない様子だった。
「なんなのよっ!」
声に出すと、横から父の声がこっそりと呟いてきた
「アレが狼の挨拶だ」
確かに、狼の交流は口と口。
舐めあいながら、交流を深めたりするが
それを今何故?
家でやられるなら解る!いや、やって欲しい訳じゃないよ?
けど、彼はこの場所でそう言う行動に出たのはなぜか…
「狼の独占欲」
と、父は言った
自分のものだから手を出すな…と言う、警告の意味もある。
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