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続き
言葉を、最近は物凄い勢いで習得して行く。
IQが高いというのも、頷けるほど。
時折失敗はするけど…それでも
会話はカナリ成り立つようになってきた。
結局、大学の帰り道皆でワイワイと歩いている。
プチメロンに買収されて、一緒に付いては行くが、途中で抜け出そうと考えている。
「ねぇ、桑本さん昼間の…」
もっぱらの話題はこれ。
昼のレンの行動を見ていたり噂で聞いた連中の興味はそこにある。
「旦那だ」
と言うと、皆が声を上げてキャーキャーと騒ぎ立てるが
恋愛とか、愛情とか、そんなものの粋には達していない
と言うか、友達の粋にさえ行けていない。
恐らくお互いに。
「へぇ、お前結婚してたのかよ」
と、野村が言う。
「あ~そうらしいな」
と、ぶっきらぼうに返して、水希は違う事を考える。
先程のキスの意味。
独占欲…
父に言われた言葉がグルグルと頭をまわったが
それを隅にわざと押しやり、あの香りとあの癒しの空間に思考が向かう。
野村は、28歳で現在の地位は、教授の助手。
水希と同じ職業である。
自分で手に入れた地位は、揺るがない。
独学で勉強しこの学校に入学そして、今を過ごすまでには壮絶な
思いもしてきたと聞いている。
「あ~ねぇねぇ…野村先生は?」
と、言い出したのは学生の梅木香織。
20歳、可愛い顔して言う事が怖い。
しかも女限定
なので、水希はあまり好きではない部類に入れている。
その他にも数人居るが名前も知らない学生が興味を持つのは恋愛話。
後は生物学の話という所か。
このまま、聞かれ続けるのも面倒と
こっそり裏から外へ出ると
満月がすごく綺麗に輝いていた。
「めんどくさい…帰ろうかな…」
「それがいい」
いきなり聞こえる声に、ビクッと身体を震わせ
辺りを見回すが人の気配がない。
「だ、誰よ!?」
その言葉に返事がなく、この声は本当に人が発したものなのかと
思うと、幽霊など信じないがそれが、その声だったなら…
なんて不安が押し寄せてきて、辺りをもう一度見回す。
なによなによなによ!
どこなの!?
ギュッと胸元で手を抱え込み、やっと抜け出した場所に戻るしかない
と、踵を返し今来た道へと戻ろうとした時だった。
「戻るの?」
「ん?聞き覚えが…有るような声?」
もう一度見回すと、クスクスと笑う声が聞こえ
恐怖と苛立ちにより声を張り上げた。
「なんなのよっ!姿みせなさいよっ!」
「ここだよ?」
「どこよっ!」
「Above」 (上に)
「レン!!」
見上げて心底驚いた。
屋根の上にある人影、月を背負い、しゃがみ込んでいる姿。
「迎え、来たよ」
「お、降りなさいよっ!」
「Yha」
屋根の上から身軽に身体を動かし、飛び降りると
こっちの心臓が持たない。
「ちょっ…きゃっ!」
飛び降りる彼に驚き、声を上げたのだが平然と目の前に立っている。
「怪我…してない?」
「うん」
「帰る、言って?」
「え?」
「Say that she goes home」 (家へ帰ると言っておいで)
「ん?」
「俺、一緒帰る、言う」
単語が並べられコイツと話すと本当にパズルだなと苦笑いする。
「言ってくるよ」
「Yha」
水希は、先ほど居た店に戻り、旦那が迎に来てくれたのだと言うと
見送ると好奇心丸出しで、見送ってくれた。
二人で歩きはじめて、この場所に居る事をこの男に言ったか?
と言うか…
父にも言ってないのに、どこで嗅ぎ付けたんだ!?
と言う思いがあったので、素直に聞いてみた。
「水希の臭い探した」
「え?私臭いの?」
「いや、ん…お守り、同じこと」
先日父に話された、お守りを届けに来てくれた事を思い出す。
ってか、何で臭い?臭いで追ってきたって事よね?えー!?
ってか、野生過ぎるでしょう!
あーもーなんなのよ!!!
無言で歩く二人の足音が、耳に届いて目を見張ったのは水希だった。
一人分の足音しか聞こえない…。
バッと振り返ると、彼はニッコリと笑い側に居るのに。
まるで一人で歩いているような…
ゾクッと背筋が寒気を促してくると、一気に腕に降りてきて、鳥肌が立つ。
満月の夜、彼の生態が浮き彫りにされた気がする。
興味もあるが彼が本当に狼として育ったならこんな道ばかりを歩くのは
彼には苦痛ではないのだろうか?
「Ren goes to a park」(レン公園へ行こう)
たどたどしい英語で、彼を公園へ誘った。
あの身体能力が気になったのもあるが、彼は元々大自然の中の住人
もしかしたら…
いや、ただの好奇心かもしれない
嬉しそうに駆け回るなぁ…なんて思う。
だって、本気で楽しそうに走ってるんだもの!
「あーやっぱり」
ずっと家に閉じこもって、二階で何かをしているのは解る。
けれど、野生で育った子はこんな狭い世界じゃなく
こういう緑一杯の自然で本性が見えると言うもんだ。
木の上に上ったレンが私を呼ぶが
「上がれるわけねぇし…」
「えー」
なんて返されても、無理無理!
なんて言ってると、隣の木に飛び移ってしまう彼を見て
こっちは冷や冷やしてるんですけど~!?
狼ってより、背の高いサルだなあれは…
「水希~」
呼ばれて手を振る…子供を公園で遊ばせてる母親か?
母親…レンを捨てた母親…なんて思い出して考えてしまう
何故可愛い子を手放せるのか。
そんな事を考えていると、急に目の前にレンの背中が見えた。
「ちょ、レン?」
横から覗くと目の前に2人の男性。
ガムを噛みながら、いかにも…って言う感じの服装と態度
あれ?私って考えてる間に絡まれてた?
「ナイト気取りかよ!」
「女を黙って渡せよ」
二人の男に凄まれて、レンの背中から叫んでやった!
「お前らとなんか遊ばないしどこにも行かない!さっさと帰れ!」
そしたら、二人とも形相変わっちゃって、うっは~まずい!!!
「逃げるよ!」
「え?あ、レン?」
手を繋いで、彼が私を引いていく。
木が生い茂った場所まで来ると、私の身体がふわりと…浮いた
え?浮いた!?
う、浮いたああああああ!!!!!!!
片手で私を持ち上げて、木の上に登るとか!!!!
オマエはキングサルかっ!!!!!
木の上に座ると、その足の上に私を座らせているが
それが高いのなんのって…
「ちょ、こわ…むぐっ」
口に手を当てられ、声が出せない
なんなのよこの状況!!!!
レンに抱っこされて、木の上に居るって・・・ありえない!
ってか、何で私を抱いて上に登れるわけ!?
こいつ、サルだ!絶対 狼 じゃなくサルだ!
私のバナナ上げないからねっ!じゃなかった…
木の上から下を見下ろすと、すぐソコに男二人
ちょっとでも動けば、木が音を立てそうで
必死にレンの首に手を回して黙った。
「水希…」
「行った?」
「苦しい」
「え?あっ…ごめっ」
手を離して、驚いた。
レンの身体が遠ざかって…
私の身体が宙を浮く。
落 ち る 。
その言葉が当てはまるように、スローモーションのように
身体が重力に従い地面へと向かう。
「水希!」
腰の辺りが何かに引かれ、その後すぐに身体が包まれる感覚に
何事かと目を開ければ目の前にレンの苦しそうな顔。
「レン!」
「水希、手伸ばす」
「手?」
「降りる」
下はさほど高さがなかった為、そのままでも離して貰えれば
降りられるなとは思ったが
レンが手を伸ばして地面に近い場所まで降ろしてくれると言うのだ。
片手を繋いだまま降ろされて無事怪我も無く降りれた。
けれど、一度体勢を崩したサルは違った。
降りてくると、手が木で擦れているし
しかも腕にも擦り傷
サルなのに…いや、助けてくれたんだから、サルは失礼か…
「ダイジョウブ?」
と、聞いてくるサル…いやいや、レンの手のひらを取ると
ハンカチを広げてレンの手に巻いた。
「汚れる」
「いいの、黙ってて」
「Yes…」
コイツは一体どんな身体能力をしてるんだ?
普通ならあそこで助けれる程の瞬発力なんて
持ち合わせてる筈が無いのに…と思ってフッと気が付いたのは
狼との生活。
帰り道…レンに何かを聞いてみようと思ったが
思い止まった。
「水希、公園また…来る」
「うん、また連れて来てあげる」
ニッコリと笑うと、飛び跳ねるように前に進むレンの後を
ゆっくりと付いていった。
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