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なつめっぐ 保管場所

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狼と私26

逃げたくもなる…
苦しくもなる…

人と接するのが、イヤにもなる

※少々シリアス気味です


……き

………きってば?

あーレンの声だ…
うん、そうか…あのまま寝ちゃったんだっけ?

「水希?」

優しい声…この声好き…

「おーい?水希さーん?バナナが逃げますよ?」
「む!バナナ!」

うとうととしていた世界からたたき起こされたのはバナナの一言。
ドンだけ猿なの…

「はい、朝ご飯、と電話」
「電話?」
「ちょっと前、平賀電話くれ!って電話来た」
「用件は?」
「急ぎって」

私はまだ覚醒していない脳みそで、電話を掛ける。
発信して気が付いたが、まだ外…暗くない?

「水希先生?」
「んあ~どうした?」
「動物園の狼が逃げました!応援要請来てるんです!」
「はっ?」
「いや、だから…現場に向かってますんで先生も早く!」
「オヤジには?」
「連絡しましたがでません!」
「解った連れてく!」
「レン!朝飯後だ…コレが実家の鍵!オヤジ起こして!」
「ん?何か有ったの?」
「…動物園にいた狼、逃げたらしい人に危害を加えたら射殺だ!
それはしたくないから、オヤジを早く!」

レンの目の奥が変わったのがわかった。
うん、きっとレンも助けたいと思うはず…

私は父親が起きるまでに、顔を洗い、動きやすい服装に着替えた。
床に落とされた2枚の毛布に苦笑いを向け
畳むとカウチへと置き、家を出た。

「水希!乗れ」
「レンは?」
「連れて行く!」

私は急いで鍵をかけ、父の車の後部座席へと座った。
レンは前に座っているので表情は見えないけど
緊張感だけが伝わってくる。

「何時に逃げたんだ?」
「…わかんない、今現地に平賀が向かってる」
「動物園に直接かけろ!警察が動いてるかも聞けよ?」
「はい!」

私はすぐに電話を掛けると、慌てた様子の従業員が出て
質問に答えてくれる。

「まだ動物園の中にいるんですね?
そうですか、じゃー警察まで連絡はしていないんですか…
今捕獲に向かうので、もう少し待っててもらえますか?
ええ…1時間ほどですね?解りました後30分ほどで到着しますので
はい…では」

「よし、飛ばすぞ!」

父の声に私はキュッと唇を噛み締めた。

到着すると、平賀が肉の塊を括り付け罠を仕掛け終わった所だった。
腹も減ればそれは有効だが、
今現在は夕食後5時間ほどしか経ってない

「レン!お前行け」
「はい…」
「ちょ、父さん!それはっ…」

レンの手が私の言葉を遮るように目の前に差し出された。

「俺が一番安全」

ニッコリと笑い私の頭の上に手を二度乗せると
頬にキスを落として、レンは闇へと消えて行った。

「ちょ…レン!」
「水希!」
「なによ!レンに危ない事させる為にここに連れてきたの!?」
「アホか…そうじゃないだろう?
レンの過去を知ってるお前が言う台詞ではないぞ?」

「過去?」
平賀が急に声を発した。

狼に育てられた過去…父はそれを言いたいのだろう。

野生と違って、確かにレンの言う事を聞くかもしれない
けれど…レンのあの傷を見たらそんな事…

「過去と今は違うじゃない!レンばかりに重荷を
背負わさないで!私も中に入るっ!」

「ちょ、水希先生!」

「離せ平賀!レンが一人で入ったけど、本来ならそれは私達の仕事だ
こうやって要請が来た以上!私達が出来るだけ狼を捕獲しなければ成らない!」

そう、罠を作るなり何でも手伝い、捕獲するのを第一に考えるのだ
なのに…

クゾオヤジ!!!!!

「待て、解っているさレンも…」

「何が!?」

「30分で戻らなければ追いかけて構わない
ただ、お前も知っているだろう?狼の習性を」

「ボス…の存在?」
「そうだ」
「レンがボス?」
「なりうるだろう?」

そう言えば前に一度ここへ来て他の狼達を呼んだ。
寝ていた者達が…レンの前に並んだのは記憶に新しい。

「30分ですからね!」

私は時計を見た。
秒針の針が凄く遅く感じる…
エリアに足を踏み入れれば、襲われるかもしれない
けれど…

そんな葛藤が生まれると時計ばかり気になりだしてしまう
一方、レンはエリア内のど真ん中辺りに腰を下ろして
喉の奥底から声を出していた。

唸るような、それでいて呼んでいるような…
そして、ガサリと揺れる木に振り向きもせず神経を尖らせた。
獣の気配はそこらじゅうから漂い、昔の懐かしい空気を
思い出さずには居られなかった。

「クォォ…」

どこからか聞こえる声にレンの目がにわかに揺れた。

「グオォ…」

「グルグルグル…」

自分に敵対の声を出している一匹を感じると
すぐさまその声の方を睨んだ。

「Come」 (来い)

「グルグルグル…」

「I am not fearful」(俺は怖くない)

「……Come」

「グル…」

「I would like to help」(助けたいんだ)

ガサリ…と動いた木の陰から出てきた一頭の狼が
自分の前に座るとジッと視線を合わせた。

口からふわりと白い息が吐き出され、獣達の目は
輝いていた。

檻から出れた喜びと、自由に動ける広さに。
それを阻止する者は敵だと目が訴えている。

「I am not an enemy…」(俺は敵ではない)

「クォォ…」

「Yes」

レンは狼の檻へと足を進め
付いて来たほかの狼に中へ行けと促す。

ごめんね、こんな狭い空間じゃお前達は苦しいかもしれない
大自然を走り抜ける喜びを奪われ死んだような目をしている
そんなお前達をここに戻すのは心苦しいけど…
でもね、君達はここに居れなければ死ぬんだ。
自由に野山を駆け回る事は出来ない
それを望み夢見るのは良い…でもそれは
反対に死を意味するんだ…解らなくていい
知らなくていい…人に殺されるなんて、そんな恐ろしい事を
君達は知る事無く、無事に命を全うしてくれ。

ごめんね、何も出来なくて

ごめんね、弱い俺で

でもね?家族を大事にしなくちゃいけない。

狼はそう言う種族だろう?

仲間の為にも…生き残るんだ。

「クォォォー」

狼は檻の中へ戻り、広い場所にさようならをするように声を上げた
そんな切なげな声が、水希達の待機している場所まで響くと
時計を見た水希が狼厩舎の鍵を持つと駆け出した。

「バカッ!水希戻れ!」

対策なんて必要ない、きっとレンは小屋にあの狼達を誘導している
解らないけど、そんな確信があった。
だから私は真っ直ぐにソコへ向かった。

「レン!」

ゆっくり振り向いたレンの頬に涙が伝っていて
私は動きを止めた。
でも、そのレンに見入ってる場合ではない
狼の厩舎を見ると、三匹とも前の私達を見送った
その位置に居て、私は慌てて鍵を閉めた。

カチャっと高くなった音に狼達が共鳴して
空高く声を出した。

クォォオオオオオ!……クォォォォオオオオ!

切なく胸が潰れそうなその声に、レンがまた涙を流す。
狼達の…切なる声はレンに届いている…
だから彼は涙をあなた達の代わりに流しているんだと思う

「レン…」

腕がだらりと下げられ、悲しげな目は私に向けられた。
苦しい苦しいとレンがもがいてる様に見えて、私はレンの前に立った。

「レン、ごめんね…」

何故謝ってるのか解らない。
ただ、束縛された狼達にもその言葉は伝えたかった

「狼達も、ごめんね?」

レンがそのまま私に抱きついて肩を震わせてるのが解る。
抱き締めてあげないと…はかなく消えてしまいそうで
レンの頬にキスを落とし、もう一度彼の頭を自分の肩に引き寄せた。

「水希からキスされるの初めて」
「ん…」

その一言だけで
その後は、声を殺して涙を流すレンを抱き締めるしか出来なかった。



「レン!水希!」
父が私達を見つけて声を掛けてくる。
レンの肩がまだ震えていると言うのに…
命令を下した父に一睨みし、鍵を父へと渡した。

平賀も、職員も居たがレンを離す気は無かった。

ただ、黙って水希に抱かれてるレンに
誰も声を掛けずに…この苦しみを共有した

「弱い俺でごめん」
そう口に出すと、レンが私の体から離れ、父の車に乗り込んだ。

悪くないよ…レンも狼も
悪くない

誰も悪い事したわけではない…

家に着くと、私はレンを寝室へと引き入れた

「水希?」
「ん、レン…抱っこしてあげる」
「……うん」
「ゆっくり寝よう?」
「……うん」

深夜の出来事で眠れる時間は後2時間もない
けれど、その間だけでも
レンを抱き締めて居たかった。

静かな部屋の中、キングサイズのベットが本来の役割を担った
二人分の重量を受け、静かに沈む。

私は、布団の中に身体を押し込むとレンが
横から身体を滑り込ませてきた。

静かな朝…

彼は、戸惑う事無く私の体の上に体重を預け
そっと唇を這わせる。

「水希」

一度名前を呼んで、キスを深く落としてきた
受け止めれるかな…?レンの苦しみ全てを
このまま、抱かれてしまうのかもしれない

深く落とされる唇に、高潮する頬
上がる息は荒くなる一方でとどまる事を知らないかのよう

激しくレンの唇が、私の首筋に落とされた時

覚悟を決めるしかないと思った。

舌先が首筋を何度も往復し、吸い上げて痛みを刻む。
心地良いと言う気持ちではない
ただただ…レンの心が軽くなればと

願わずには居られない

レンの指先が、恐る恐る胸に置かれた時
一際体が跳ねた。

私の意志ではない…体がもう
レンを求めて止まないのだ…。

そっと、持ち上げられ指先が彷徨う。
服を捲り上げて…レンの指が止まった。

「ごめ…水希ごめん!」
「うん…」

レンは、言葉をそこで止め、私を抱き締めて
また謝った。

「謝る事なんか無い…レン、大丈夫イヤなんかじゃなかった」
「………うん」

そのまま、レンの暴走は止まり私達は抱き合ったまま、朝を迎える。

レンが何故とどまったかは解らないけど、この事が切欠で
私はもう、レンを受け入れれる準備が出来てしまっているのを
改めて確認してしまった。

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