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≪ 狼と私2章③ | | HOME | | 狼と私2章⑤ ≫ |
苦しくて、つらくて…
でも、生きている。
ザン…と、一際荒い波が押し寄せると
ビュオォと強い風がまだ流れる涙を引き千切ってくれるのに
レンとの思い出は引き千切ってはくれなかった。
初めて……私は仕事をサボった。
電話には、父、レン、平賀の3人から着信があったが
掛け直すこともしなかった。
ただメールだけは確認しようと携帯を開くと
父から
”レンが、午後に発つから会っておけ
それと、大学へは今週休むと連絡を入れてある。”
とメールが書かれていて、レンからのメールは、見る勇気がなかった。
私は一体何をしたいんだろう?
父の決めた相手と勝手に結婚させられ、反発しながらも受け入れた。
そして本気で、愛を囁ける相手になって私の元を去って行った。
失うものが大きくて。
呆れるほど泣いたのに、まだ涙は枯れなくて…
海沿いを何度も歩いては戻り、戻っては歩きを繰り返す。
朝のジョギングの人がこっちを見ているのは、長い時間
私がこの場所を離れようとしないからだろうか?
大丈夫、自殺はしないから
私がここで命を絶つ事は、絶対に出来ない事。
父も母も、レンも責任を感じるのが目に見えている。
私は、そんな事をする為に来たわけじゃない。
夜までかけてやっと帰宅した。
家に居たのは、クロとノア。
ドアを開けると、いつもの家の中。
「水希!」
帰った私を抱きしめた温もりが、レンではない。
ノアの優しさだと判るのに、嫌悪感がこみ上げた。
「レン、行った。」
「判ってる」
「預かった。」
茶色い封筒を受け取ったが、開けるのが怖かった。
だから、私は風呂へと足を進めシャワーから上がると
身体を写す鏡を見て涙が止まらなかった。
キスマークが紅く彩る身体
レンに刻まれた愛。
1つ1つ指で追いかけて、レンを探すのに、やはり彼には辿り着けなくて
私は、なぜこんなに弱くなったのだろう?
「これじゃー、レン無しでは生きて行けないじゃないか…つっ…ふうっ…」
止まらない涙は、まだ、枯れてはくれなかった。
泣きたくないのに。
見送る勇気すら、私には無かった。
こんな私に呆れているかも知れない…。
レン…もう、貴方に逢いたい
やっと…レンがいない生活にリズムが合ってきたのは
レンが旅立ってから一ヶ月を有した。
仕事と、和香、ノアもアメリカに帰るまで必死に支えてくれた。
あの自分勝手な母親でさえ気を使ってくれているのが解ると
自然と外の世界が見えて来る。
今まで、レンなど要らないと思っていたあの時まで、
時間が遡ってくれたなら…なんて考える時点で何か間違えてるのかもしれない。
『水希、好きだよ』
あの言葉に、嘘はなかったのだから。
私は、その言葉を支えに進まなければならなかった。
今まで読めなかった、レンの手紙。
私はそれを開く勇気を、やっと持てるようになった。
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水希
水希は俺を待っててくれる?
俺は、落ち着いたら必ず水希としたい事がある。
だから、待っててくれる?俺を。
だから、離婚届は書かないで行きます。
水希は俺の愛する妻なんだから。
遅くなっても、浮気しないで良い子にしていてね?
レン.カイル.カーレリンス
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待っていた言葉を、彼の口から聞けない後悔が、このとき初めて
私を襲っていた。
何をしても、手に付かなかった日々
どうしてこれをもう少し早く見れなかったのだろう?
なんて…意気地の無い私。
おもむろに携帯を開き
そのメールの本文に、涙がこぼれた。
やっと開けた未読のメールの本文は
”水希しか愛せない”
たったそれだけ
でも、それ以上の言葉はもう無いって程に
私の心に余裕を与えてくれた。
一方レンは、イギリスの国に降り立ち
アルと握手を交わしていた。
「初めまして…」
そこから、父の話母の話を聞き、レンの家族がこの地に生きていた事を
確認できた。
幼い頃の自分の写真は、レンにとって未開拓のものであり
それを見ると涙が落ちそうになった。
家はイギリスの高級住宅街に建てられていて
室内はリビングに白い布が掛けられただけの生活の痕が
そこには確りと残っていた。
幼かった自分の部屋には、2歳までしか居なかったにもかかわらず
学校のバッグや、教科書などが並んでいて
いつ帰って来ても良い様にとしてくれていた親心に
胸が熱くなる。
「カイル様」
「…はい」
「王族関係者が貴方様にお会いしたいと申し出が来ております」
アルが、手帳を開きながら言うと
レンが困った表情を向けた。
「王族関係者は、俺とは関係ないから…出来れば避けて通りたい」
結局は血を引いてしまっている彼が避けてとおれる事は無いのだと
確認せざる終えないのだが。
それでも、レンは日本へ帰る為と、必死に日々を過ごす事となった。
あのまどろんだ生活が恋しいと何度か水希に電話をしたいと申し出るも
今はまだと、その事に付いて許可は貰えないで居た。
でも、父に渡された離婚届に書かれた彼女の文字に失意の念も持っていた。
簡単に自分と別れられる程の愛情だっただろうか?
そんな事を考えずには居られなかった。
早く日本へ帰りたい。
帰って抱きしめたい…その思いだけでレンは必死に
今を過ごす事となった。
離れ離れになって、一ヶ月の月日を過ごし
水希は、レンを思っていた。
怪我はしていないだろうか?
ちゃんと寝れているだろうか?
綺麗な女の人は…居るのだろうか?
邪念を抱いては、頭を振る。
首から下がったネックレスを握り締めて溜息を落とす日々だった。
レンが買ってくれた、最初で最後のプレゼント。
イギリスは遠いのか、時差はどれくらいあるのか
そんな事を考えると苦笑いがこみ上げて
それでも仕事に没頭する事となる。
「水希先生…今日ウチに遊びに来ません?」
いきなりの平賀の誘いに、何だかありがたく思えた。
「ん、じゃーお邪魔しようか」
「うん。陽子が逢いたいって言ってたんで、良ければ来て下さい」
平賀陽子、一度しか会った事は無いが
彼女は平賀の妻であり、レンを知る人間の一人。
レンの事を聞かれるとまだ辛いが、平賀がきっと言って置いてくれているだろう
ただ、まだレンは私の夫に変わりない。
それだけが心の支えだった。
私は家へと電話をし、平賀の家へと行くことを決めた。
クロが待っているので母に頼み帰るまで預かってもらう事にした。
クロはレンが育てた大事な犬だから
私は、クロに依存しているのかもしれない。
レンの代わりにしてしまっているのかもしれない…。
恋愛脳が、既に枯れ果てた気がする。
あんなにも嬉しくて楽しい日々に感じた思いや気持ちが
既に感じられなくなっている。
「水希先生いらっしゃい」
ニッコリと笑う陽子さんが、私に茶を出し
夕飯に湯豆腐を作ってくれた。
3人でその湯豆腐を囲むと、平賀が珍しく言葉を濁しながら
私に何かを伝えようとしていた。
「なんだ、平賀…バナナでも欲しいのか?」
「ち、違う何でバナナなんだよ!」
「何となく?」
「俺さ、ガキ出来たんだよ」
「は?」
「いや、は?じゃなく…陽子が3ヶ月だって…」
新しい命の誕生…。
「めでたいな…陽子さんをしっかりと守ってやらないと」
「おう、そのつもり」
「私は、祝う事しか出来ないが、生まれるまで大事にするんだぞ?」
「祝って貰えるだけで十分です…」
幸せがここにも一つあった。
どこにでも落ちている人の幸せを拾い集める事が
今の私の活力でもある。
「平賀、とうとう親父か」
「だな…俺も正直どうなるか解らないけど…
出来るだけ父親らしくやって行きたい」
幸せそうにはにかむ平賀に、頑張れと言葉を掛けると
私は自宅へと戻った。
今日もカウチでクロと眠ろう。
レンの部屋にはまだ上がってないが
自分のベットはレンの思い出が染み込み過ぎて
思うように眠れなくなっていた。
レンは戻ると言っているのに…一生の別れとまで思うのは
私の悪い癖なのだろう。
前の男達は、そうやって私と別れを済ませて行ったのだ。
今回がそれに当てはまらないとは限らず
恐らくそれが自分の防衛なのだろう
【 England 】
一ヶ月の月日が流れ、ある程度の社交界での交流も
どうにかこなし俺が、アルに日本へ帰る算段を付けてくれと頼んだ。
だが、アルは良い顔をしない。
その女性とは別れろ…とまで言うのは、水希が一般女性だったから
きっと、水希はそれが解っていて、離婚届を書いたのだろう。
それを思うと、どんな思いで書いたのか…と
俺は胸を痛めていた。
イギリスへと到着した当初は、水希がそんなに簡単に
離婚届を書けるのかと
そんな事を、思っていた自分がバカだったと今更ながらに反省する事となる。
「アル、俺日本に帰りたい」
「今は我慢下さい、それは出来ません…。」
同じ言葉を既に10日は続けている気がする。
何故自分が王族関係者なのか。
何故身分が違うと、好きになってはいけないのか…
最近この家に出入りする、メリッサと言う王族の女性が居る。
毎日一緒に飯を食い、彼女は俺に何かを求める。
そんな目をする…。
俺が何かを与えれる訳じゃない、名前だけが一人歩きしているのだ。
ある日、俺が仕事で二階の書斎に詰めていた時
メリッサとアルの話が聞こえた。
恐らくそうではないかと予想はしていたが…
カーレリンスの名を閉ざさない為に、俺との結婚をする
候補としてメリッサはやってきていた。
子供でも作ってしまえば…なんて聞こえて寒気が走る。
俺は、水希以外を妻とは考えないし、考える事がもう出来ないほど
彼女に惚れ込んでいるのだから。
何年彼女の香りに自分は支配されていたかなど
恐らく誰も知らない…否、源蔵だけは解っているだろう。
水希への思いはドンドン募るばかりで
俺は募る思いの数だけ笑顔を忘れてしまっていった。
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