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狼と私2章⑥

私は貴方に幸せになって欲しい。
だから追わない

そして、追う勇気も無い。

こんな私を愛してくれたレン

私も、心から貴方を愛していました。..

カラオケの機械から聞こえる音は不快ではなかった。
私は、黙って男性人の声を聞き、時折話しかけてくる男性に
返事をしては、見入るを繰り返したため、名前すら覚えていない。

和香とその人達と、表面的にでも笑える。
大丈夫…

私は大丈夫。

「そろそろ帰ろう」
と、言い出したのは和香だった。
このまま流されてしまっても良いのかも知れないと言う
自暴自棄な回答も頭をよぎるが
それだけはしない。

レンを悲しませる事だけはしないで生きて行こうと思った。


「じゃーここで…」
男性二人に携帯番号を渡されるが、それを使う気持ちにはならず
別れた後にゴミ箱へと押し込んだ。

「水希酷っ」
「え~?だって使わないでしょ」
「んまぁ、確かに使わないけどね」
「明日から、休みに入るから旅行行こうかな…」
「…イギリス?」
「ちょ!違う違う、国内旅行だよ…レンの後は追わないと決めてるから」
「…水希、好きなら追いかける勇気も必要じゃない?
レンクンだって水希をあんなに溺愛してたのに」

溺愛って!!!!
ないない、と言うか…あったとしても、
もうその思いを向けられても困るんだよ。
レンにはメリッサと言う婚約者も居て、向こうの生活にやっと馴染んで来ているんだから
私が邪魔をする訳にもいかないし
それをする立場でもない。

和香との遊び時間も終わり
私は、家に戻ると
クロが、大歓迎してくれた。

私はそのままレンの住んでいた二階へと足を進める。
静まり返った部屋に、今にも帰ってきそうに乱雑に置かれていた雑誌
布団も起きた時のまま、レンの抜け殻になっていた。

「王族に脱皮したか…」

ギシリと音を立てて、レンのベットが軋むと、そのシーツに手を這わせ
身体を横たえた。

「レンの臭い…」

温もりを無くしても、彼が確かにここで生きた証なのだから。

出来るだけ、形を変えないように私は自分の部屋へ戻った。
レンが居なかったいつもの風景を
私は受け入れる日がきっと来る。
だから、今日は自分の部屋で寝よう…

彼に愛されたこの場所で眠る事は恐怖に近かったが
それでも、これを乗り越えて行かなければと
布団へ身体を押し込んだ。

レン、幸せですか?
家族にはもう会えないけど、その家族の温もりは感じられるはず。
だって、新聞に載せてまで探していたんだもん

私も幸せになる。
レンを大事に思いながら…

だから、貴方は貴方のいるべき場所で…

目頭が熱くなってくるのが解った。
でももう、泣いてあげない

レンにはもう、レンを思って泣いてくれる人が居るはずだから。
私は、ただ、貴方を思うだけ。
幸せにと願うだけ…。

大学で、私の講義を受けている生徒から呼び出された。
場所は体育館。

今頃バレーやバスケットで、使われているコートに
足を向ける最中にテニスのサークルの人が打ち込みの練習をしていた。
それを横目に通過すると、体育館のドアがあり
横へと押し開くと熱気でむわんと熱い蒸気が上がるかのようだった。

「水希先生!」

彼女が私をここへと呼んだ本人。
バスケットのユニフォームに身を包み、私の元へと走ってくる。

「なんの用だ?」

腕を組み彼女に問うと、男子のバスケットサークルの子達も集まってきた。

「昔、水希先生バスケットやってましたよね?」
「ああ…やってはいたが、私は万年ベンチだったぞ?」
「ベンチでも良いです!先生サークルの顧問が辞めてしまって
今窮地に立たされているんです!放課後の2時間程度でいいんで
良ければ顧問をして頂けませんか?」

若い子は必死だな…こう言うのも悪くないかもしれない。
レンの居ない家に帰り、いつもの様に暮らすのではなく
新しい何かを始めればまた何かが生まれるかもしれない。

レンの父親もバスケット選手だと言っていた…
不純な動機かもしれないが、今は時間をもてあましたくは無かった

「解った、明日から出よう」

わっと、声が上がって男女共同顧問を任される事となる。
そう、これで良いんだ。

何かに打ち込んでる子達を見ながら
私も何かに打ち込んでいけるならそれもまた一つ。
私は一度体育館を出ようとしたが、不意に浮かんだ質問を投げかけた。

「バナナは持ってきても良いのか?」

どっと、笑いが出るこの場所に、私もかすかに笑えた気がした。
私は、まだまだ未熟だ。
だからこそ…

「なんだって!?」

父が、眉間に皺を寄せ、私の前に立ちはだかった。
もう、父や母の過保護は受けない。

「家はもう借りたし、後は荷物の搬入だけ。
かなりお金も溜まってるしクロも一緒に住めるようにした
一人で…やって行きたいんだ。
レンも向こうで頑張ってる…だから私も頑張りたいんだ
クソオヤジとか言って甘えてた自分も、ご飯を食べさせてもらう自分も
それも全て、親に甘えてるに過ぎない。
この家は、もしも誰かが住むなら貸してもいい…。
レンの荷物も私が整理しておく。」

「本気なのか?」

「本気」

「レンを待たないのか?」

「待つとか…解らない、レンの事に付いては、お父さんもお母さんも恨んだ
何も知らないで入籍をされ、知らないうちに旦那が出来ている…。
私の自由は無いのかと凄く恨んだけど、今はレンと逢わせてくれた事に感謝している
家に居ない父さん、箸より重いものを持たない母さん・・・
どれだけ私に甘えてるのかって…良く和香に相談してたけど
結局、私もそれに甘えていたって解ったから
家を出る」

父は大きな溜息を吐き出し、首を縦に振った。
よし!攻略不能のゲームを攻略したような爽快感だ!
母は、オヤジに任せればいい。

レンを期待して待つんじゃなく
私はレンの幸せになる道に落ちている石に過ぎない。
努力をしないでこのままここで腐るか
努力をして輝きをもち目に留めて貰えるかの違い。

そんな些細な事でいい。
王族の人間は、ダイヤモンドより輝かなければならないのだから。

私は借りた家の鍵を一つ、父に渡した。
いつでも入ってくれて構わない。
場所も然程遠くは無い

「じゃー荷物の片付けあるから」

私はキングサイズのベットを捨てた。

レンが何をしているのか…
そして何を思っているのか
私には解らない。

だから、幸せになれと願う。

それが私の思い

初めて、愛した貴方への思い。

きっと、忘れる事なんてできないと思うけど
未だに逢いたいと、抱きしめられたいと…そう思うけど
それでも、レン…絶対に幸せになれ
私を踏み台にしてもいい…愛していると、そう言ってくれたレンを
私は生涯忘れない。

私も前へ進む…変わる事の無い生活を少しずつでも
変えながら生きて行こうと思う。

レンと同じように。

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