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短編

【華】


夏の暖かな風が頬を擽り、吹き上げる風が、道行く一行の髪を揺らした。
犬夜叉。かごめ。弥勒。珊瑚。七宝。雲母何(いず)れも皆、共に戦い、仲間となった
集まった仲間は、再び旅を続ける。荒れ果てた戦国の世を
村は焼かれ、人の世は乱世と歌われるが、妖怪の道も乱世。人と妖怪が手を結ぶ事は、余り無いように思える
が、しかし、手を結んでしまえば絶大な力を蓄える事さえ可能になるのだ

小さな村の片隅に辿り着いたかごめが男の子に出会った。
走って来た男の子が、かごめに体当たりをかましたのだ。
かごめが男の子の下敷きとなり、イタタ・・・と、声を上げる
そんな姿に犬夜叉がニヤリと笑い どんくせぇなぁ と、声を上げると、
何時もの如く”おすわり”が響く。『何しやがんでい!』と、怒った所で、かごめに叶う訳も無く
『ドン臭くって悪かったわね!』と、犬夜叉に背を向けた
男の子がそんな少女を見て、かごめの手を引いた『え?なに?』『ごめん・・痛かったろう?』
そう言いながら手を摩る男の子に、同じ目線まで腰を屈め、『大丈夫よ。ありがとう』と、微笑んだ
そのかごめに、真剣な眼差しで男の子が言う。頼みが有ると

かごめに頼み事を伝えると、一行が大きく慄(おのの)き、犬夜叉に到っては口がパッカリ開いたまま
閉める事が出来なかった。
話の内容はこうだった。

男の子の兄、健太郎が、近々村で行われる結婚式に出なくてはならなく、相手の花嫁が決まっていないとの事
そして、当日までに花嫁がみつからない時は、竜神様に身を捧げ、自決(切腹)しなくてはならない
否が応でも花嫁を見付けなくては、と、四方駆け回ったが、兄が恋愛に疎いお陰でこの今に成って
未だ花嫁は決まっては居なかった。だから、かごめに花嫁になって、振りだけでも良いので3,4日
夫婦をしてくれと頼まれたのだ

無論犬夜叉が”応”と、答える訳も無く、だからと言って、小さな子供の真剣な眼差しに嫉妬する事も出来ず
口をぱっくりと開け放ったのだった
『おい、ガキンチョ!かごめは良い女なんかじゃねぇぞ?怒ったら怖ぇーし、我侭だし、もっと良い女が、ゴロゴロしてるって』
其の言葉にかごめがイライラと心に火を付けた。
『へぇ・・・そう』犬夜叉はドキッと胸が泣くのと冷や汗が出るのとで、一瞬たじろいだ。
かごめの怒りが目に見えるようでドキドキと心臓が泣く。やはり・・・犬夜叉はおすわりにより、潰れ果てた
珊瑚がぼそりと何かをかごめに伝えると、コクリと、頷き『いいわよ。だけど、4日だけよ?』と
声を返した。『てめぇ~勝手に決めるな!』『何よ!』『奈落はどうするんだよ!俺は知らねぇぞ!』
犬夜叉が声を終える前に、珊瑚が小さく声を発する
『犬夜叉が、妬いてる・・・』と、まぁ、犬夜叉はそう言う事は素直に認めようとしない傾向があり
それは、珊瑚の策略でもあった
『けっ・・・誰が妬いてるって?良いじゃねぇか・・・行って来いよかごめ!』
と、流されて言ってしまった。言った後は、もう止める事さえ出来ず。
花婿の待つ小屋へ向かった
其の間も、男数人が珊瑚とかごめに結婚してくれと言い寄って来るが、
男の子が其れを許さなかった。
そうこうしている内に、小屋へと付いたかごめが、静かに簾(すだれ)をくぐると、白の花嫁衣裳を前に
静かに座っている男が振り返った。『お前様は?』『兄ちゃん。嫁を連れて来たぞ!』『健次郎』
流石兄弟、名前は太郎、次郎なのね・・・と、軽く笑うかごめに、健太郎が頭を下げた
『申し訳ないです。弟がこんな厚手がましい願いをしてしまい、私事に巻き込んでしまい、申し訳ないです』
その後の話によると、母も父も妖怪に殺され、健太郎が健次郎を育てて居ると聞かされた。
こんな乱世、その様な事は当たり前に起こりうる事なのだ。
かごめは4日間よろしくと告げ、小屋を出た。
犬夜叉にやきもちを焼かせてやりなと言う珊瑚に乗ったのは良いが、やはり気になって犬夜叉を探した
案の定剥(むく)れた顔で、かごめの声も無視している犬夜叉。木の上に座っているので
おすわりで落とす訳にも行かないと、木に登った。そんなかごめを見て、犬夜叉が手を差し伸べると
『落ちて怪我しちゃーかなわねぇ』とだけ照れてるのを隠すように呟いた
『犬夜叉?ごめんね・・・。』『何でお前が謝るんだよ?』『だって・・・怒ってる』
其の言葉に、己が妬いてると、かごめに悟られたと解り、慌てて否定する『な、っち・・・違う』
こう言う時のかごめは結構胸にドキリと来る顔をする。其れさえ恥ずかしく、犬夜叉は怒ってない
と、告げた。そうでもしなくては、今の己の心臓はかごめによって壊されてしまいそうだったから

翌朝。犬夜叉達はかごめを残し、違う小屋へ移された。
まさか、そんな事になろうとは思っても居なかった珊瑚が、犬夜叉をちらりと見る
足を引っ切り無しに揺すり、手は小刻みに床を叩き、苛付いてるのが良く解る男だとも思うが、
まさか、かごめと健太郎が二人きりで3日を過ごすのかと思うと、其れはそれで提案した手前
かごめに申し訳なくも思った
花嫁改め。そう呼ばれる儀式が今日行われる。それで花嫁の居ない男は、村の外れにある洞窟へ行き
自決しなくてはならない。そう言うしきたりだった。だが、例外はあり、村の村長の持つ鉱山で働くなら
命は残される・・・と言う仕組み。どう考えても、村の村長が何かの鍵を握ってる事は、村の人々も
解ってはいたが、追求すると必ず殺されてしまう。妖怪に襲われたり、変な病気に掛かったり
だから、村人は其れを恐れた。式に女を集め、花嫁改めで、村長が決めた女の婿を
村長の屋敷で働かせる。そう言う無茶なしきたりまで有った。
だが。
村長の屋敷で男が消えるのだ。花嫁は残され、村長の妾(めかけ)や、身の回りの世話として女中(じょちゅう)
になると言う、まぁ、出来た話だった。
弥勒も流石にこの村は、ある意味羨ましいと言うが、直感的に裏で何かが動いてると感じ、
その旨を犬夜叉と珊瑚に告げ、調査を始めたのだ。
花嫁改めで、花嫁衣裳を着たかごめ。其の姿を珊瑚が息を飲みながら見る
『やだ、珊瑚ちゃん・・・そんなに見ないで・・・。恥ずかしいよぉ』
ほんのり頬を赤く染めるかごめに、珊瑚が綺麗だね。と伝えると、にっこり笑って有難うと告げた
(こりゃ~犬夜叉・・・びっくりするだろうなぁ・・・だって、かごめちゃん・・・綺麗だもん)
口紅を薄く差すと、健太郎が驚いたようにかごめを見て、綺麗だと伝える。
本心から出た言葉なのは珊瑚にも充分わかるほどで、本気になってる?などと考え始めた
健太郎は、18一端の男と認めるくらいの器量は持っている。
だからこそ、子供の犬夜叉が、どう反応するかが、気にもなった
が、かごめの一言で、其れも、大丈夫と確信する。犬夜叉・・・大丈夫?と、気を使うかごめ。
無論珊瑚はありのまま伝えるが、裾持ちを犬夜叉にさせると言い出す始末。
『駄目だよ珊瑚ちゃん。犬夜叉、きっと怒っちゃうよ?』『あいつは解らせないと、自分じゃわかんないんだよ』
などと、又策略を巡らせる。
結局犬夜叉が承諾をしたらしく、裾持ちを犬夜叉がする事となった
『良く、うんって言ったね?』『だって、村長を調べてるから。その為だって言ったら渋々だけどね?』
と、くすりと笑った。そんな珊瑚が、面白くってかごめも笑う。

花嫁改めであるぞ!
村に響く声に、花嫁が裾持ちと初めて会い、宜しくと頼む。そう言うしきたりは、未だに残る物だが
まさか、こんな時勢にもあるとは・・・と、かごめが息を吐く
緋色の衣が太陽に照らされて入って来た。眩しさで目を細めるが、犬夜叉とて息を飲み込めないで居た
余りの美しさに、目が離せなく、白い肌が、白い着物に包まれ、上げられた髪が、
何本かの遅れ髪によって、艶やかに見える。ほんのり差した口紅は、かごめの繊細な顔を引き立たせ、
大きな瞳が己を捕らえると痺れるような感覚に襲われていた
『?犬夜叉・・・?』(怒ってるのかなぁ?)『ねぇ?犬夜叉っ!』『あ・・・お、おぅ』
やっと、かごめに魅入られていた自分を取り戻し、かごめの側に立った
『犬夜叉?大丈夫?』『あ、お、応。』『なに?もしかして見とれてた?』『っば・・馬鹿、そんなんじゃねぇ』
赤くなってぷいっと横を向く犬夜叉にクスリと微笑み手を差し出した
『宜しくお願い致します。』其の行動が犬夜叉の胸を早めてるなどとはかごめには、解らぬ事だろうが
ジワリと、流れる汗が厭に纏わり付く感触に、少しの嫌悪感を感じる
己の長い爪に乗せられた白い柔肌を確認すると、厭でも、胸が騒ぐ。他の男の物になるかごめ。
其れを見るのが、許せなく思えてしまい、乗せられた手を引き胸に引き込んだ
『ちょ・・・犬夜叉?』『どこにも・・・行くな』『・・・うん。ちゃんと、戻って来るから』
其の言葉に、ホッと胸を撫で下ろした時に、珊瑚の臭いが近付いて来てるのに気付き、かごめを手放した
『俺が・・・守るからな?』『うん。』それだけ言うと、簾を引き上げ、犬夜叉に導かれたまま
かごめが外の空気に晒された。
花嫁は計4名。かごめが一番輝いてるように見えるのは、多分犬夜叉の恋心がそうさせてるのだろう。
花嫁と言うのは、誰であっても美しい者なのだから。
否・・・それでも、かごめは引き立って美しい・・・・のだろう。

『名を』【健太郎様が妻。かごめ】そう告げるかごめを横目にズキリ・・・胸が軋(きし)む
己がかごめを誘導して良いのだろうか?とさえ頭を過ぎるがそんな想いとは裏腹に、花嫁改めは進む
犬夜叉は半妖。白銀の髪に連れられる花嫁は、周りから見ても妖艶に見える物だ。
皆が犬夜叉に引かれるかごめを見て、はぁぁぁと、溜息を落とすと、犬夜叉も心なしかまんざらでも
無いように進む。
村長の屋敷には、妖怪が居る。昨日弥勒が告げていた。確かに薄い妖気は感じてはいた。
だからこそ、かごめの裾持ちを承諾したのだと、己に言い訳をしながら歩く。かごめの手が、犬夜叉の手の上で
歩く度に振動を起し、時折きゅっと握り締められると、ドキリとする
もう少しで辿り着いたら、この、かごめは家主の家へ入って行くのだ。その時に、
かごめと離されるので、独自に家を探れと弥勒に言われていた。『犬夜叉?振り返らないで聞いて。』
其の言葉に、ピクリと耳が動いた。
『村長の持ってる、鉱山って所が怪しいみたい。さっき花嫁の一人に聞いたの。』
声の代わりに手をきゅっと握る犬夜叉に、かごめが微笑みながら頑張ってと伝えた。
握り返した犬夜叉は、頑張るぞ!と思ったのか?お前も頑張れ!と思ったのかは定かではないが
村長の家が近付くに連れ、離れなくては成らないと繋がれた手を離さなければ成らないと
少し寂しさに負けそうに成る、
だが、そんな事は言う訳もなく、言われるがままかごめは村長の花嫁改めを受けに、部屋へと消えて行った
犬夜叉は名残惜しい気はしたが、帰りも己が誘導して帰るのだからと己に言い聞かせ、屋敷を探った

『あいつ・・・半妖?』こっそりと覗くと、人の姿に長い舌が出て、まぁ、端から見ればあまり気持ちの
良い者でもないと犬夜叉が溜息を落とす。が、その半妖は、何の害も無く、人に扱き使われてるだけで
それ以外は、悪さをする様にも思えず、他を当たった。
一通り探りを入れ終わると、『犬夜叉ぁ?』と、呼ぶ声に、急いで戻り、再びかごめに手を差し伸べた
その時に、手の上に小さな黄色い花が乗せられていて、かごめがクスっと笑った
『有難う。犬夜叉』『お、落ちてたんだからな!俺が積んだ訳じゃねぇぞ!』などと、またもや言う始末
(たまには素直になってよね!さっきみたいに・・・。)と思うかごめを他所に、犬夜叉が進み始めた
花嫁衣裳が重い為、ゆっくり歩く事を決められている。其の空間が、犬夜叉には心地良かった
『鉱山・・・この先の洞窟を抜けると有るみたい。』再びかごめの声が犬夜叉に届く。
大勢の人が、花嫁を見る為に集まり、止まる事も話す事も許されないが、先程同様・小声でかごめが続ける
『明日、婚礼の儀で、其の洞窟へ行かなくちゃ成らないの・・・。』
犬夜叉に届く声が不安げに聞こえて来る。其の声に大丈夫だ、俺が居る・・・などと言える訳も無く
手をぎゅっと握り締めた

かごめは、健太郎と同じ小屋へ戻され、犬夜叉は其の場からすぐに出される。
触れ合う時間が短いのは仕方ないが、健太郎と一緒って所が気に入らないらしく、己の小屋へ戻ると
再びイライラ雰囲気をぶちまける
『かごめ・・・綺麗だったのぉ~』と、七宝が告げると、ちょっと見てくると、消えて行った
かごめの小屋に入れるのは珊瑚と、七宝だけなのだ。見張りが居て、、窓越しに話は出来れど、
中に正面から入り込む事が出来ないのだ。
逢いたい時に逢えない。側に居るのに、臭いさえ感じるのに自分の横に居ない事がこんなに己を追い詰めるとは
そんな事を考えながら、犬夜叉は木の上に身体を預けた
『ったく・・・かごめの奴・・・』文句はいくらでも出る。だが、いつも肝心な事が言えない。
健太郎がかごめに本気になってるのを気付かない訳も無く、すぐにかごめの小屋へ行けるように木の上に身を預けたのだ
実力行使されてしまえば、かごめだって敵う訳が無い。ましてや相手は男、かごめの非力な力では勝てる訳もない
それに、言霊は、己だけなのだから・・・
静かに念珠を手に取った
(かごめに・・・何度おすわり食らったっけ・・・なんか、随分長い事あいつと居る気がする)
金色の瞳を細め物思いに耽ると、かごめの笑い声が聞こえて来る
(俺は・・・蚊帳の外・・・か)楽しそうな雰囲気に何時もは其の場に己も居るのに・・・とさえ思う
恐らくは七宝が、かごめと、戯れているのだろう・・・そんな事を考えながら頭に腕を乗せ、枕にして
瞳を閉じる。眠るのではなく、先程のかごめを思い出すために
(綺麗だったな。あいつがあんなに綺麗になっちまうなんて・・・。)
否、いつも綺麗だと思っても反発心が、其れを認めないのだ。
だが、認めざる終えない状況に立たされてやっと気が付いた、そんな己さえ情けなく思う

静かに夜の帳が落ちた。村の嫁を取れなかった男達が、静かに村長の屋敷へ向かった。
弥勒は、こっそりと其の輪に入り込み、犬夜叉に目だけで合図を送った。
其の後を珊瑚も追いかけ、己はかごめを守るのだと、心を硬くした。


男達はすぐに鉱山へと向かわされた。こんな場所で命を落としたくは無いそう考える男達は、
其の鉱山へ向かう。何年も続いたはずなのに、鉱山には人の気配はしなかった。
それ所が妖気が充満していた『珊瑚・・・これは?』『うん。妖気だしかも大物だね?』『あぁ・・』
人が喰われるかも知れないと弥勒が男達の列に戻ったが、鉱山の説明を軽くされると、
男達は其の鉱山の反対側の大きな建物で、眠るように言われた、働くのは明後日からだと言う。
明後日、婚礼の儀が行われる日に、喰われるのだろうか?などと考えながら一度引いて犬夜叉と
再び来る方が確実だと弥勒が決め、村へ戻った。

一方犬夜叉は、未だ木の上でぼけーと明るくなる空を眺めていた。
明日が来れば、かごめはあの健太郎のモノとなる・・・其れを思うと苛立ってくる心。
ぶつぶつと小言を呟いては居るが、小屋の中がどうしても気になった。
かごめと、恋心を寄せた男・・・
二人きりになってしまえば、恋心は大きく強大な欲望に支配される事は、己にも解っていた
かごめを前に、どれだけ己が我慢を重ねているかなんて、考えただけでも可笑しかった。
ハッ・・・と、軽く笑いながら小屋の明かりが消えるのを確認した。
(お前・・・無防備過ぎる・・・・だから不安なんだよ!)と、己が側に居ない不安に理由を付けた

何事も無く、弥勒と珊瑚が帰って来た。犬夜叉は一度皆と話をし、その後、再び木の上に身を委ねた
結局、何事も無く翌朝を迎えた。が、
珊瑚が、かごめの様子を見に行った時に、何か変な様子だったと伝えられ、犬夜叉は待っては居れず、小屋へ向かった
小さな小屋。犬夜叉が見張りを見つけると、窓越しにかごめを探した
正面に立つ見張りに逆らってしまえば今まで我慢していた物まで、壊してしまう。今は我慢するしかない
弥勒にも痛いほど言われていた為か、思うよりも簡単に我慢は出来た
『あ・・・犬夜叉?』窓の、外側に見えた緋色の背中に、白い髪。犬夜叉以外の誰でもなかった
『大丈夫か?珊瑚がお前の様子変だって・・・言ってたぞ?』『うん。何か、疲れただけだと思うけど・・・体がだるいの』
『だるい?』『すぐ直ると思う。ありがとう・・・』『し・・・心配できた訳じゃねぇからな!』『はいはい。』
『誰と話してる?』いきなりの健太郎の声にドキリと、かごめが慌て、窓を閉めた
『なっ!』無論締め出された犬夜叉には面白くないが、声は聞こえて来た
(聞いてるのかな?)ちらりと窓を見たが、すぐさま健太郎に向かい話を始めた

『健太郎さん?私、貴方のお嫁さんには嘘でしかなれません。好きな人が居るし、私はまだ先やる事が有ります』
昨夜、健太郎がかごめに告白をしたのだ。
明日になれば厭でも別れは来る。だからこそ、告白をしたのだが。。。
『あの・・・犬夜叉とか言う半妖ですか?あいつもかごめに惚れてるような感じがありましたから・・・』
窓の下で座っていた犬夜叉が赤くなり、何で解るんだと繰り返し思った所で己と同じく、直感で感じたなどと理解は出来なかった
かごめの答えは そうです・・・だった。
其の答えすら、犬夜叉の心を和ますには充分の要素を携えていて、犬夜叉本人は大満足に小屋を後にした。
婚礼の儀が、後半刻で始まろうとしていた。
村は大いに騒がしくなってきて、犬夜叉達も行動を起すのには十分な位の騒がしさを保っていた。

『では、行きますよ?犬夜叉』弥勒が札を携え、錫杖を手に犬夜叉へ声を掛けた。
きっと、珊瑚と弥勒が行くよりは早く事が終わると思っての人選だろうが、犬夜叉にしてみれば
この場にかごめを残したままと言うのが気に入らなかった
だが、弥勒には逆らえる訳も無く、もっともと言う位の、立派な理由までつけられてしまった
”お前が行けばすぐに倒して、この場に戻る事が可能だからお前を連れて行くのだ!”と・・・。
結局、言われるがまま、犬夜叉は渋々村人救出に乗り出した


婚礼の儀・・・始まりは静かに、そしてしっとりと始まった。
勿論村長は、人を見下したような顔をしながら其の場で誰よりも位の高い位置へ腰を据え、かごめや他の花嫁を人選するかのように
見つめていた
(あの村長・・・目がやらしいのよね!)と、視線が合うとかごめはキッと睨み返した
其の行動がいけなかったのだろうか?しきりにかごめを指差し村人に質問を投げ掛けて来るのだ
村人は解らないと、かごめに質問をしに来る。
生まれは何処だ?年は幾つだ?どうやって知り合った?と、まぁ、かごめが呆れる位の質問の多さに、
『自分で聞きに来なさいよ!って言ってやって!村長でしょ?私の事聞いてるの?』それだけ伝え、そっぽを向いた
健太郎が横でドキドキと心臓を高めるのはかごめが綺麗だから・・・と言うより
其の発言だった。無論其の発言は村長に届けられ、かごめを見てニヤリと笑う。
(うわぁ~蝦蟇蛙”がまがえる”見たい・・・。)冷や汗を掻きながら一応作り笑いだけはしておいた

一方犬夜叉達は、何かと梃子摺っていた。
犬夜叉が臭いを嗅ぎ付けてはいたが、中々敵が見付からなかった。
湿気を帯びた洞窟の中に鉱山が有るらしく、奥まで開かれた道は数多く開かれ、其の全てから妖気が均等に流れ出ていた
『犬夜叉、これは厄介ですなぁ?』『俺はこっちに行く・・・お前はどうする?』『別れて行くのが得策ですかなぁ?』
其の言葉に、知るか!と言い残し犬夜叉は進んでいった
『行っちまいやがった・・・ったく、あいつはかごめ様が絡むと見境が無い・・・はぁぁ』
溜息を落としながら犬夜叉の進む方へ弥勒も足を進めた

婚礼の儀は終わりを告げ、かごめと健太郎が村長に選ばれた。
今夜から村長の家へ住まわなくては成らない。流石のかごめも、それには焦りを感じ、犬夜叉が帰ってないかと
きょろきょろと辺りを見回したが、珊瑚が不安げにかごめを見る以外は、かごめの目には止まらなかった。
一度は小屋に戻り、用意をして、夕刻に村長の家へと出向く事になり、かごめは一息付いた
が、見張りは数を増やし、絶対に逃げれないと言う状況は変わらなかった
結局夕刻が来てしまい、犬夜叉の帰りが遅いのを気にしながらも、かごめは村長の家へ入って行った。
何故か、中では、かごめと健太郎が離れ離れにさせられて
食事までの間、会う事は禁じられた


『弥勒!こいつだぞ!』目の前で壷に入り込んで行った妖怪。
犬夜叉が壷に向かい鉄砕牙を振って見るが、壷が頑丈でなかなか出て来ない敵に煮えを切らしていた
弥勒が少し考えた後に札で、妖怪封じを掛け、出れないようにしてから、壷を持ち、村長の家を目指した。
そこに全てが繋がるだろうと、弥勒が考えたのだ。
だが、この場で何故戦わない!と、犬夜叉は苛立つばかりだった


食事会が、開かれ、かごめが再び健太郎の目の前に出た時は、かごめの雰囲気が何かしら違った
それに気が付き、かごめに大丈夫かと手を伸ばしたが、パチン・・・・と、かごめによって弾かれてしまった
『かご・・・め?』『触らないで下さい。私は村長様に身を捧げます。貴方とは結婚できません。』
只の棒読みのように言葉を掛けるかごめに、健太郎が何かがおかしいと感じ取るが、かごめの目は曇ったままで
村長の横へ腰を下ろした。
『健太郎。お前の嫁は私が良いと言う。婚礼はしたばかりだと言うのに・・・のぉ?健太郎?ぬしは、この場で働かせてやる
弟の面倒も見よう。だから、お前は・・・もう用無しだ・・・・この場から去れ!私が今宵かごめを・・・フフフ』
健太郎が大人しく其の言葉に従った・・・従いたくは無いだろうが、弟が村長の家来に連れられて
姿を表したのだ。其の姿を見てしまえば、渋々でも、従うしかないとしか思えなかったのだ

そう、村長は花嫁の中から気に入った女を己の屋敷に連れ込み、男は家来、女は己の者とした。
だが、かごめの様子に変化があったのは確かで、珊瑚にだけは伝えなくてはと、健太郎が
中に居た見張りの男に事ずてを頼んだ。
誰にも知られないように。頼んだ男は、
犬夜叉が前に一度見た半妖。舌がでろん・・・とだらしなく出され、少しの腐敗臭が取り巻く男。
『半妖の・・・おれを信じるのか?』『半妖だからこそ・・・信じれるんだ!』そう、犬夜叉も・・・半妖。
だからこそ、解るであろう。心・・・健太郎は其の方法しか思いつかなかったのだ。
牢に縛られ、健太郎と健次郎は出る事を許されない。それなら・・・・この方法しかなかった
昔この男の父は村長だった。母は妖怪で生まれた時には、やはり半妖。姿を変える事は出来ず、息子としては
村長が許さなかった。だが、母は村長に富をもたらせるからと、この子供を置き去りにしたのだ。
村長も、富が欲しくて息子を、家来として育てたのだ


『急げって!』『では、私をおぶって下さいよ~~』
行きを急ぐ為に重い壷を持った犬夜叉・・・それでも、速さは弥勒には付いて行くにはまだまだ早く
犬夜叉に文句を付けながら走っていた。
『早くしねぇと、何だか悪い予感がすんだ!急げ!』『だからぁぁぁ~~~おぶってくれ~~~~』『甘えるな!』
何とも、緊迫感の無い弥勒に、犬夜叉が苛立つ。
とは言っても、弥勒の足もそこそこの速さを持っているのだ。どうにか村が目に止まるほどには近付いてはいたのだ


コンコン・・・
珊瑚がイライラと飛来骨を手に、小屋の中をうろついていた。
その時に聞こえた音『誰だい?』『どうか・・・姿を見ないで下さい。私は健太郎さんの使い。』
『なら、入りな。』『私は半妖。人に見せれる姿では有りません。』珊瑚がきゅっと唇を噛み、戸口の裾をグット引き入れた
男はうわぁ・・・と、中に滑り込んだが珊瑚は顔色一つ変えないで話を続けた
『で?外に居たら見付かるとか思わないのかい?』『あ・・・そうでした!』男の間抜けさに、流石の珊瑚も軽く微笑んだ
『私を・・・見て怖いと思わないのですか?』其の言葉に、答える時間は無かった
『で?健太郎の伝言を!』
そして、かごめがおかしくなった事、村長と、かごめが一緒になる事、其の全てを伝えた
珊瑚はふぅ。と溜息を落としながら、こんなこったろうと思った・・・と、呟き、犬夜叉達が来たら先に行ったと伝える為に
この場に残れと言い、珊瑚が先にかごめを救出しようと、足を踏み出した

どん

緋色の何かとぶつかり、珊瑚が顔を上げると犬夜叉が睨み付けて来た
『遅いって!皆行くよ。かごめちゃん助けに行かなきゃ!』
走りながら理由を話した。半妖の男が、かごめがおかしくなった訳を知ってると話し、一行は耳を走りながらだが傾けた

自分の作った薬だろうと告げると犬夜叉が食って掛かったが、珊瑚と弥勒が犬夜叉の後頭部と、前頭部を同時に攻撃して収まった
『てめぇら・・・何しやがる!』と怒った所で、二人は半妖の話を聞いていて、話もしてくれない。
ちっ・・・と、舌打ちだけを残し黙りこくった犬夜叉を横目に話が進む

一種の惚れ薬らしいが、まだ、解毒剤を開発していないと言う男、
そして、効果は七日。其の間に村長に身も心もボロボロにされてしまうケースが多いと聞かされ犬夜叉も焦りを隠し切れなかった
無論、弥勒も珊瑚も同じ思いだった。
急ぐぞ、そういい残し犬夜叉は一人先へと進んだ・・・
『こんな時だからこそかも知れないけど・・・犬夜叉余裕無いねぇ?』『そうですね・・・何も無ければ良いのですが・・・』
犬夜叉が消え去った後を必死に追う二人と、半妖。
(何故この人はおれを怖がらないのだろう?)そんな疑問だけは残ってはいたが、答えは貰えなかった・・・・

ドォォン
村長の家が何かに破壊されたのを確認すると、弥勒と珊瑚が溜息を落とした(犬夜叉・・・・。)
『ったく、あいつはいつもあーだ!』『全く。』弥勒と珊瑚が言葉を交わしてる間に犬夜叉はかごめを探していた
薬草が沢山有るおかげと、妖気が残る家を散策すると、慌てて飛び出して来た村長と目が合った。
其の村長の姿を見て愕然としてしまう。
帯を直しながら、着物がかなり着崩れていたのだ。そして、ほのかに香るかごめの香り・・・
慌てて村長を押しのけ、かごめを確認して更に驚愕した
襟元を繕いながら、こっちをボーっと見るだけのかごめ・・・声を掛けれなくって、目を背けたくって・・・
心が痛むと、嫉妬の炎が、心を焼き始めた
『てめぇ・・・何しやがった!』『ま・・・まだ何もしてはおらん!する前に・・・お前が来たのだ!!』
犬夜叉はドスドスと村長に向かって歩き出すと、背中に温かい何かが当たった(え?)
『村長様・・・お逃げ下さい』かごめの抵抗に、犬夜叉がドキリとする

『かごめ!』『おやめ下さい、村長様は悪い方では有りません』其のかごめの口調に、ぎりっ・・・唇を噛み締めた
『かごめ、この男はお前の知り合いか?』村長の声にすぐにかごめが返した『いいえ・・・私には・・・解り兼ねます。』
全てが壊れそうで犬夜叉の心がズキズキと痛んだ

『かごめ様!』『かごめちゃん!?』
弥勒と珊瑚も、其の場に辿り着き、かごめへ声を掛けると、全く解らないと言い出した
『父様、貴方は・・・貴方はこの方にどれだけの量を飲ませたのですか!?』記憶を落すほどの量・・・致死量を超えるほどの量を
かごめは飲まされて居たのだ
『お前に父などと呼ばれたくは無い、それに、この女は私の物だ、渡さぬ!』其の言葉に犬夜叉が切れた
『ふざけるな、かごめはお前なんかに渡さねぇっ!!』
グイッと、かごめを引き寄せるが、逃げる一方で、犬夜叉もどう対処して良いのかわからなくなってしまった
『弥勒、どうにかしてくれ』痺れを切らした犬夜叉が弥勒に頼んだ。己の手でかごめの腹部を打ち付ける事が出来なかったのだ
『ったく・・・お前は損な役回りをすぐ私に押し付けるんですから・・・すみません!かごめ様』
ドスっと腹部が弥勒によって押し上げられ、意識を離さざる終えなかった


『ごめ・・・かごめ?』
犬夜叉の呼び掛けにかごめが声を上げる『貴方は誰?』
静まった空間で、村長を探すかごめを引き止める事さえ出来なかった
村長は半妖の、息子に絞め殺されてしまった。それは、かごめに盛った薬の量と、今まで言えなかった思いと、
この先もきっと、良いようにしか使われないと思ったから。
妖怪も、弥勒の手により封印を施され村は落ち着きを取り戻した。

『この薬を・・・』と、半妖が手渡した物は、小さな筒に入れられた薬、徐々に飲ませる事で記憶も取り戻すだろうと
そう告げられた。犬夜叉は、只黙ってかごめと共に歩いた。6時間置きに飲ませる薬を持ち、時間を空で感じながら飲ませる


『かごめ?』『はい。』『辛くねぇか?』『薬が・・・少し苦いですけど。大丈夫です。あなた方は私の仲間、思い出します』
瞳を哀しげに向けながら、かごめの姿を只大人しく見守った。

(思い出せ・・・いや、思い出さねぇ方が・・・・良いのだろうか?)
己と、己が昔信じてやれなかった女。そして、かごめ・・・この関係をきっと、今のかごめには解らないだろうから
其の辛さを感じなくて済むだろうから・・・。だが、犬夜叉は”誰?”と聞かれた事に強く胸を傷めていた
己さえ忘れるのかと、かごめを一瞬でも恨んでしまった
忘れられるのが一番辛かった、今までの何を差し置いても、かごめに己を忘れられてしまった痛みは、今も心を抜けない刺のように
痛め付けられている。
『犬夜叉さん?』『呼び捨てで良い・・・』『はい、すいません・・・』今、横に居る女は果たしてかごめなのだろうか?
そんな事さえ浮かんでしまうが、臭いはかごめ・・・そのものだった
『怖く・・・ねぇのか?』『何が?』『おれ・・・』『何故?』『妖怪・・・だぞ?』『・・・。』
其の言葉にかごめは答えなかった。怖くは無かったのだ。妖怪と言われても、ピンと来る物すらない
『前の私は・・・怖がっていた?』『いや・・・』『じゃー怖くないので、正解ですね?』と、微笑んで来た
『何処まで覚えてる?』『全く・・・すいません。』『思い出したくねぇ事もあるだろう?』
其の言葉にピクリと肩を震わせた後に、かごめが意外な言葉を放った

『私、思い出したくない事有ると思うけど。其れも、全て私だから・・・思い出さなくちゃいけない。貴方の事も』
『思い出して・・・欲しい』本音だった。確かに辛いかも知れない、それでも、全てを思い出して、全てを受け止めて欲しかった
『貴方と私は・・・付き合っていたのですか?』『俺はそう思ってた。』『それじゃ、私って・・・ごめんなさい』
かごめの謝る姿に、瞳が薄く膜を引く、『謝るな、おめぇがわりぃんじゃねぇ・・・』
ゆっくりかごめの肩を抱き寄せた『厭じゃ・・・ねぇか?』『え?あ・・・うん。』
漆黒の闇が訪れ、薬の時間を犬夜叉に告げる
薬を苦いと言いながら飲み込むかごめに言葉を掛けれず見守った
弥勒と珊瑚が食べ物を調達して帰って来ると、女同士の方が話し易いだろうと、
珊瑚にかごめを預け犬夜叉は弥勒と話し込んでいた

『あのぉ・・・犬夜叉って・・・』『かごめちゃんの恋人かな?』
それから色々聞いた、が、犬夜叉を思い出せない、其の思いがイライラとかごめを侵食し始めていた
(思い出したい・・・犬夜叉を・・・全てを・・・)


『で、かごめ様は?』其の言葉に瞳を火へ向けたまま首を振った
既に2日が過ぎ、未だ思い出されない己、苛立ちを鉄砕牙を振り切って追い払おうとしても
其れすら叶わなかった。辛いのは皆一緒だと、弥勒に言われ心なしか思いは軽くはなったが
それでも、思い出されたい己が居る事を否定は出来なかった

薬が、もうない・・・・

解毒作用の薬、これが無くなるまでには思い出すと言い放った半妖の男が作った薬
この薬を飲み終えて思い出せなければ・・・このまま戻らないと言われたのを思い出した
そんな思いが犬夜叉には辛く、水辺で川へと飛び込み、泣いてるのであろうか?其れすら解らない位
身体は水に浸かっていた

『犬夜叉・・・辛いんだろうな』『そうですね。かごめ様を失ったような物ですし』
かごめが七宝と川の魚を取ると言い出して来たこの場所で、犬夜叉は少し離れて水に入った。
決して遠くには行きはしなかったが、側に居るだけで良いと・・・其の思いが再び湧きあがってくる

『犬夜叉っ、上流で騒いだら魚逃げちゃうじゃない!』かごめの口調にいつものように返した『うるせぇ~』
言った自分に、あ・・・と思ったが、かごめの口から出された言葉は
『信じられない・・・もぉ!おすわりっ!!』
ドシャりと川の中に押し付けられたが、間違いなくかごめは言霊を使ったのだ。
犬夜叉は飛び起きてかごめに近寄る
『かごめ?』『え?』『思い・・・出した・・・の・・・か?』
其の言葉にクスリと笑い、『犬夜叉・・・ただいま』
と、告げた。絶望の淵から一気に引き上げられたようにかごめを抱き締めた
『かごめ・・・かごめ・・・』『な・・・なに?』『お前、おせぇよ』『ごめんね』
短い会話だっただろう。だが、かごめは記憶を取り戻したのだ。其れだけで犬夜叉の心が晴れて行った
無論珊瑚も弥勒も喜び、魚を捕った数だけ口へ運んだ
『犬夜叉と・・・話して来たら?』珊瑚に言われ、其のつもりだったと告げて犬夜叉の袖を引いた
『散歩・・・行く?』『へ?』其の答えに、弥勒が行って来なさいと後押しをし、珊瑚が犬夜叉の空いた手を
強引に引き、立たせると背中を押した『いってらっしゃ~い』
その手助けを今はありがたいと思いながら犬夜叉はかごめの横に並び進んだ。
川の上流に目掛けてゆっくりと足を進める

『ごめんね。忘れちゃって』『ったく。世話が焼けるぜ』何時ものように犬夜叉は呟く
『寂しかった?』『な・・・さ、寂しくなんかねぇ・・・』『そっか・・・・』
川の石を蹴り上げながらかごめが笑う・・・そんな姿さえ愛しかった
『このまま、戻らなかったら、大変だったね?』『許さねぇよ・・・俺を忘れたままだなんて』
恥ずかしそうに言う犬夜叉に再びごめんと答えた
『全て思い出したって事は、あの村長に何されたかも・・・・』『うん・・・えへ・・・思い出しちゃった』
哀しげに言うかごめに、犬夜叉の胸が傷む『私、あの時、抵抗したのが悪かったのかなぁ?無理に薬・・・』
そこまで言うと、かごめが唇を押えながら、下へしゃがみ込んだ
『かご・・・め?』『キス・・・されちゃったんだ・・・・私・・・』
ポロポロと、零れ落ちる涙に、犬夜叉が如何して良い物かとおろおろと声をかける
『お、おい・・・なんだ?きすって?って言うか・・・泣くな・・・おい』
ふわぁ・・・
(!!かごめ・・・・)
いきなり抱き付かれたのも束の間、唇に感じる温かく、柔らかい感触に犬夜叉が成す術を失った
長い口付け、離れようとしないかごめの唇に心地良さを感じ目を閉じた
ゆっくり離された唇は、其の場で言葉を紡いだ
『これが・・・キス。』犬夜叉の緋色の衣にかごめはそのまま顔を埋め、まだ止まる気配の無い
涙が犬夜叉の地肌まで浸透してくる
『な・・・口付けされたのか?』其の声に肩をビクリと震わせ、頭を縦に振る事で犬夜叉にそうだと伝えた
『・・・。俺が・・・遅かったばっかりに。ごめんな・・・』ぎゅっと抱き締め、かごめの辛さを
己も感じようと身体を寄せた。だが、所詮は男、女の辛さなど解る事は出来ない、そう思うだけで
犬夜叉の心が痛く締め付けられていた
『でも、いいの、もう・・・忘れた。犬夜叉に消毒してもらったし』かごめが細く笑う
『お、おい・・・』『大丈夫、私は強いの!』
其の言葉に犬夜叉が食って掛かってきた
『強いって言うのはそう言う事じゃねぇだろう!言い聞かせて自分を隠すな、辛いなら・・・
俺にどうして言わねぇ!どうして我慢する!おれは・・・俺はそんなに頼りねぇかよ?』
其の言葉にかごめが再び犬夜叉の腕にしがみついた
『本当は厭だった・・・っく・・・厭だったの。あぁぁっつ・・・・犬夜叉あぁぁ・・・っ』
号泣するかごめを只抱き締める、死んでしまった人に復讐さえ出来ないが、村長に対する怒りが
込み上げてくる。そんな犬夜叉に抱き付き、泣き縋るかごめ
落ち着くのを只、静かに待つ他無かった

『おれ、不器用で何言って遣れば良いとかわからねぇ・・・けどよぉ、お前に我慢させるだけの為に
側に居て貰ってるわけじゃねぇ・・・守ってる訳じゃねぇ・・・もっと、俺を頼たって良いじゃねぇか
確かに、頼りねぇかもしれねぇが・・・でも、お前の気持を閉じ込めさせる事はしたくねぇ・・・・
俺だって、・・・頼ってる事がある。正直お前に何度救われたかわからねぇ。
だから、俺だってお前を・・・・助けてやりてぇ。救ってやりてぇ・・・』

熱く染み渡るように言葉は紡がれた。かごめの心が温かくなり、ゆっくりと答えた。ありがとう・・・と
犬夜叉が其の言葉に薄く微笑むと、抱き締めた腕をゆっくりと解き放ち、かごめを解放した
『消毒・・・あんなんでいいのか?』『え?』『あ、いや・・・』『したいの?』『お・・・おう』
素直な犬夜叉も珍しい物だと、かごめが微笑んだ
『だめ、してあげない!』其の言葉に犬夜叉ががっくりと肩を落す
(捨犬みたい・・・。犬夜叉ったら。)かごめが振り向いて目を閉じた
トクン・・・・
『あ・・・』目をゆっくりと悟られないように開く、薄目で見た犬夜叉は少し照れたような、其れでいて
優しい表情でかごめの肩に手を置き、唇を寄せた
ゆっくりと重なる唇が互いの肌に触れると、一気に湧き出る感情に支配される
角度を変えられると、かごめの方がピクリと身体を反応させる。

そんなかごめを知りたいと、再び唇は繋がれる
『もう・・・誰にも渡さねぇ・・・お前のこの唇も。そして記憶も・・・・お前の全てを・・・・』

一輪の華のように綺麗に咲き誇る少女を、手放したくないと己が言う
朝露にさえ触れさせたくないと、手折る己が居る
側に置いて置きたいと願望が目覚めたのはいつの事だっただろう?
離れてても良いと思った事が嘘のように思える今は・・・もう、己の一部なのだろう
大切に、枯れないように
水を与え、育てて行くと決意をしたのは、今ではなかった・・・もう

随分前の事だったろう。

この命すら己が守り、己の為に鼓動を感じる

『離さねぇ・・・離したく・・・ない』
『犬夜叉・・・離さないでね・・・』
誰が離したりするものか。きっと、己は此(この)華に
魅了され、溺れているのだから

『もう、厭だって言っても。おせぇからな』『うん』

夜が白々と開けて行く。
それでも、繋がった唇は互いを確認するように、永く長く落され続けた

FIN


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
余談
『ありゃー唇腫れちまうぞ?』『うわぁ~かごめちゃん・・・苦しそう』
『では・・・珊瑚、私たちも・・・・ん~~~』『はいはい・・・』
ちゅ!
『へ?』『な、なによ・・・』『・・・。もう一度・・・どうです?』
ごーーーーーーーーーーん

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