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なつめっぐ 保管場所

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朧月⑦

続き

優に呼び出されて。

葵は帽子を目深に被り、腕を組んで一本の大木に身体を預け彼を待つ。

(満月かよ…)

ポツリとつぶやいた時に、男が現れ真っ直ぐに自分を見てくる。

別れ話をしていた時に、閏葉の手を握っていた男。

「用件は何だ…手短に頼む」

目も合わせずに言う葵に苛立ちを向ける

「閏葉を返せよ。別れたいなんてあいつが言うわけ無いんだ!
お前が、そそのかしたんだろう?」

葵は、その日に閏葉と彼を見ている…そしてその後も彼女と一緒に居て、
その言葉はおかしいと直感で感じた。

「俺が別れさせたって事か?」

「そうじゃなかったら、別れるなんて言わないだろう?」

「自分の努力が足りなかったとは思わないって所か」

「いちいち、癪に障る言い方をするな!」

「これが自分なんでね…」

寄りかかった大木から身体を離し、優の前にズイッと押し出すと
優は、じろりと睨みあげるが
身長の差がイヤに悔しかった。

「俺がそそのかしたとか、好きな人が出来たとか…
閏葉はそんな事を言って別れたのか?」

「……。」

あの時彼女は、自分の気持ちにけりを付けると言って彼と逢っている筈。
だったら、彼の条規を逸脱したようなやり方は腑には落ちない。

「で、俺にどうしろと言いたいんだ?」

「…閏葉を返せよ!」

「彼女を、俺の担当から外せば美味く事が運ぶのか?」

バキッ!!!

何も言い返せなくなった優は、葵の頬を殴りつけた。
よろめく葵の帽子が飛び、髪を覆っていた物が無くなり
美しいまでの銀髪がサラサラと音を立てるかのように流れた。

瞳は吸いこまれそうなほど真っ赤に染まっていて、
日本人ではないと直ぐに解る。

けれどこの容姿は…

葵は口から流れ落ちる血液を親指で拭うと、
その手を握り締め、優の直ぐ後ろの木を殴りつけた
木が揺れ、葉がハラハラと舞い散る。

優の視線は真横を通って行った腕に注がれた。

「いいか…閏葉は自分で選んだんだ!俺の言葉にそこまで影響力は無い。
勘違いで俺に当たるのは良いが、閏葉を巻き込むな」

「何だよ、格好付けやがって!それに、お前おかしいだろう…
なんだよ、その目の色!さしずめカラコンでも入れて女にもてようって
魂胆がみえみえで、キモイんだよっ!!!」

「へぇ、この眼の色が女にもてる色なのか?」
葵がニヤリと口角を上げた時だった。

「葵っ!優さん!?」

背後から聞こえる声に、葵はしまった!と冷や汗が流れる。

銀の髪…赤い瞳…
彼女はその自分を知らない。

けれど、彼女はその姿に一瞬眼を見開いたが、それだけで

「優さん!加奈から電話貰ってたけど…私、貴方とはやっていけないと思ったから
別れたのよ!担当作家が悪いとか言ってたみたいだけど、
ちょっとおかしくない?
悪いけど、私は貴方とは付き合っていく自信が無かったから別れたの
もう、来ないで!」

「閏葉…」

「名前も呼ばないで!」

「待てよ!話し合えば解ってくれるだろう?」
閏葉の腕を掴もうとした腕が葵の手によって止められた。

「閏葉に触るな」

「てめぇは、関係ないだろう!」

腕を振り解こうとするが、彼の力は一向に落ちず、どうあがいても逃げ出せないで居た。

「もうやめて!もう、優さん、貴方とはもう付き合う気は無いし関係も無いんだから、
嫌いになる前に帰って!」

その言葉に、優は肩を落とし、解ったと告げた。

もう、涙を流しながら言う閏葉の気持ちを自分の所に引き戻す事は不可能だと…

やっと思った。

「ごめんな…閏葉」

ふっと、腕の力が緩んだのが解り、その腕を強く降り落として葵の拘束を解くと、
優は踵を返して、その場から姿を消した。
二人きり。

林に佇んでいると、閏葉が帽子を拾い上げた。

「驚いた感じでもなさそうだな…」

目の前に閏葉が帽子を渡しに来た時に声を上げたのは葵だった。

「そう…ですね、まさかとは思ってたんだけど…」

「狼の血を引いてるんだよ」
「シルバーウルフ?」

「あぁ…そうだ」

「狼男に変身はしないの?」

「そこまで血は濃くは無いからな…」

近場にあった石の上に、葵が腰を落とすとその前に閏葉が立った。

「凄い、真っ白…」

「白髪みたいだろう?」
上目で見てくる葵の瞳は真っ赤に染まり、獲物を捕食する獣のようだった。

「触っても良い?」

「あぁ」

さらり…
  さらり…

梳けば、指の間から逃げるように柔らかく
水に手を入れているかのような冷たさ。
「満月にだけ…こうなるんだ」

「本では、最初からこの色だものね。」

「あぁ」

自書…だったのだ。
あの本は自分の事を書いた本。だったら…内容はそのまま彼の生き様。

「死ね…ない…の?」

「もう、200年流石に疲れたよ」
その言葉に閏葉が、ぎゅっと胸元に彼を抱き寄せた。

「怖くないのか?」

「うん、不思議と怖くないかな?葵を見た時に、本の彼と重なってしまっていたから。
違和感が無かったのかも」

「…変なヤツ」

「うん、変かも…」

すっと、手が閏葉の頬を撫でた。
両の手が閏葉の頬に触れ、指先に軽く力が篭められる。

あぁ…この綺麗な唇に触れたい…
純粋に閏葉は思った。

だが、それを先に切り出したのは真っ赤な瞳を惜しげもなく閏葉に注いでいた葵

「キ…ス…したい」

拒まれるだろうか?
この前のように…不安もあったが素直に思いを口にした。
「…うん」

その答えで不安が一気に喜びに変わる。
自分から”したい”など…言った事が無かったなと、葵は思った。

チュッと軽く啄ばむ口付けが一瞬交わされ
後に深く唇が重なった。

「閏葉…」

「ん…」
「口…あけて?」

「へ?」

「コレ、入れたい」

ベッと、赤い舌先を見せると閏葉の頬が赤く染まる

「ね?」

甘えられているように、ねだられ

おずおずと…彼に唇を明け渡した。

ざわりと、木々が会話を楽しんでいるように音を鳴らす中
大きな石の上で顔を上に向けた男が、前に立つ女の頭を押さえ
満月に見守られながら触れ合っている。

リップラインを何度も舌で舐め、軽く唇を吸い、
歯列をなぞりながら舌先が閏葉の舌と絡み合う。

押し上げられ、吸われ
立っている閏葉の膝がカクカクと笑い出した。

「んっ…っは…」

息が出来ず、逃げようとするが執拗に追いかけてくる。
まるで獲物を逃がさないようにしているよう…。

力尽きた閏葉がその場で膝の力を無くし、重力に引き寄せられるように崩れる。

それを葵が抱きとめ、今度は閏葉を石の上に座らせた。

「大丈夫か?」

「う…うん…」

キスの経験が無かったわけではない、けれど
今まで交わした唇とは全く異色のもので
正直ここまで自分の体が熱く燃え上がる事など無いだろうと思っていた。

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