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続き
水希の額に青筋が浮かぶ。
そして、害のないような瞳で自分を見てるのも気に入らない。
イライラとフラストレーションが貯まるのも判るほど、
彼に対し憎しみが込み上げてきて机を叩いた。
「アナタ…話せるの?」
「少し…話せますね」
ギリッと奥歯を噛み締める音が
自分の頭蓋骨に響いてくる。
「バカにしないでっ!」
もう一度強く机を叩くと、ビクッと緑の瞳の奥が震えた。
「こらこら、水希…そうカッカするな」
「元はお父さんが悪いんじゃない!私の戸籍勝手に弄るからっ!
それに私結婚は恋愛でしたいのよ!?それを何よっ!
勝手に入籍してました!勝手に旦那連れてきました!
勝手勝手勝手!!!!!!いい加減にしてよっ!」
居た堪れなくて、自分の家へ戻った。
けれど…
「はぁ…あいつのせいで、お父さんに八つ当たりしちゃった」
確かに勝手にされたのは腹が立つ。
けれど、父親を嫌いとかではないのだ。
「あっ、もしかしたら私反抗期かも?…無理すぎる…」
再び息を吐くと、父が彼とこの部屋へやって来た。
イライラ…イライラ…
「悪いな、水希…レンを2階で住まわせてやってくれ」
「…どうぞ」
「じゃーレン、荷物な?」
「ハイ、ありがとうごじゃいます」
ぷっ…ごじゃいますって!!!!!
「おかしい?」
と、不意に顔を寄せてくるレンに驚いて、ソファーの背もたれに張り付いた。
「う…ご、ざいます…だよ」
「ごじゃいます?」
「ご ざ い ま す !」
「アリガトウござます」
「………。」
うん、言えてない。
こうして、夫?桑本レンは無事婿養子に入りましたとさ…
と、お仕舞いにならないかしら?
なんて考えても、何も無い空間
誇り塗れの床。
既に日は落ちて掃除は出来無そうだし、電気も無い。
トイレか?
トイレの電気を付けっ放しにすれば、多少は光るぞ?
「ほこり…スゴイね」
「Yha.」
「このままでいい?」
「…Yha」
「え?いいの?」
「寝る十分。ok」
日本語とごっちゃ混ぜの英語に溜息を付きながら、今日はソファーを
解禁してやるしかないなと思った。
「ok ren come」(レン、来て)
荷物を一つ持とうとすると、フルフルと首を振り
「ダイジョウブデス」
と、答えてくる。
持たなくて良いなら、まぁ、彼に任せましょう。
スタスタと来た道を戻りニッコリと微笑んだ。
「ソファーok?」
「Thank you!」(ありがとう)
ギシッと彼が座ると軋むソファーは、母が嫁入り道具で持ってきた品。
片側だけ背もたれが大きく付いた、カウチ
良く、TVなどの高級家具の一種として時折見かける物
それに背中を預けるとレンがそのままの姿勢で
「sleeps.」(寝る)
と、言いながら身体を横たえた。
水希が、ポソポソ呟いて、寝室へと行くとムクリとレンが起きた。
頭に手を当ててフーッと息を吐くとギシッと
カウチを軋ませて目を天井に向けた。
「水希…か、楽しい女だ」
その日、寝不足は続く事となった。
水希は眠そうに大学へと向かうと、彼はにこやかに手を振り
水希を見送ったが、昨日のアレは、何なのだ!?
甘える男など、必要ないと思っていたのに
まさか、ここに来て甘える男なのか?
ありえない事が多すぎて水希は頭を抱えた。
パラリと捲ると書かれている狼。
ボスは攻撃性は低い…まぁ、確かに低くそうだ。
でも、彼がボスとは限らない…
うーん…
どれどれ?
狼との触れあい…
「触れあい!!!!!ないないない!」
一人ページを開き、じっくりと読み耽ると
叫んではページを捲るを繰り返す水希に平賀が寄って来ると
横目で何を見ているかを確認する。
「狼の生態なんて珍しいですね?」
「っ…何見てんのよ!」
「へぇ、慌ただしく閉じたって事は…父上戻られましたか?」
「なっ、何で解るのよ!」
「狼の生態は、お父さんが一番知りたがっていた事ですからね」
なんて言う平賀に、イラー…
その狼の子供を釣れて来たんだよ!私の旦那に!
なんて言える訳も無いけど…本気で殺意が湧いてくる。
「うへ…怖いっすよ?」
「フン!」
はぁ、と息を吐き平賀を追い出すと再びページを開く。
相手に触れて感じる心地良さは人も狼も同じ。
(へぇ…じゃー昨日のアレは…人肌を求めたってことか?)
黙々とページに目を通す水希。
求愛行動は数週間以上にも及ぶ。
(うえええええ!?あり、あり……ありえないっ!)
ガタンと立ち上がると、肩に触れた手に驚いて後ろを振り向いた。
「 a human being who is not wolf.」(オオカミでない人間だ)
「へ?な、何?」
「 not wolf !」
「オオカミじゃないって事?」
「Yes」
「ってかなんで居るのよ!」
「来た、むかえ」
「迎えに来てくれたって事?」
「Yes!」
「ねぇ、レンは日本語話せるでしょう?何でわざわざ英語使うのよ」
「少ししか…話せない」
「だからって英語は私が解らないのっ!」
「sorry…ごめんなすい」
水希が頭をガシッと掻いて、仕方ないわねと、席に座らせる
「いい?」
キョトンと水希を見るレンにノートを一冊渡した。
「50音…覚えるのよ?」
「Yes 覚えてる」
「そう、だったら言葉を交わして深めて行くしかない訳か…」
何故この状況から先生チックな事しなければ成らないんだと
思いながらも、息を吐いた。
「ゴメンナサイ」
目を伏せると、昔の大草原が目の前に蘇る。
狼達に食べられると恐怖したあの時、
何故彼らは自分を仲間にしようと考えたのか。
捨てられた…あの時、母が言い残した言葉は
「happiness to you」 (あなたは幸せに)
幸せってなんだろう?
友を守り、肉を喰らって生きたあの時間
自分は何も考えないで生きて行けた。
日本に来るという事は、その守るべき物は無くなる
だから、源蔵に守るべきものを貰った。
「Mother Me got married」(お母さん、私は結婚しました)
母は今どこに居るのだろう?
父の酒乱の為に逃げ出したそこは…森の中。
母はカナリ深い場所に来て、俺を置いていった。
涙が一筋流れて行くのをそのままに
「Are you alive? Mother…」(生きていますか? お母さん…)
キィ…と、扉の開く音に目を伏せると、ふわりと温かい何かに包まれて目を開いた。
「起しちゃった?ごめんね」
と、水希が苦笑いしながら毛布を掛けると
先程までの恋しさが込み上げてきて、腰の辺りに抱き付いた。
「うわぁっ!ななな、なにっ!」
「ゴメンささい…お願い すこし」
ギュッと力を込めると、水希の動きが止まるのを感じたが
それよりも温もりが欲しかった。
、覚える」
なんだか憎めないなと思いながら、水希は帰る支度を終わらせ
レンと帰路に着いた。
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