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狼と私22

続き

一瞬怯んだ梅木を見逃さなかった。
そろそろ本気で決着を付けなければ、どこもかしこも面倒になっていく
だから、私は離婚を望む梅木にそれを、しても良いと告げた。

「良かったね、香織!」
「わぁ、そしたらレンさん毎日迎に来てくれるんじゃない?」

次々と出てくる言葉に溜息が出る。
だって、レンは間違えなく、今の梅木には揺るがないと思えるから。
強くなんて無い…レンがいつ私を見限るか、それが怖い
そんなの誰でも持つ感情だろう?

さぁ、梅木…レンを呼ぶ同意を出来るならしてみろ…

「レンは…呼ばない」

ざわっと、回りの声が奇声を上げる。
当たり前だろう、私が離婚するなどと言い出すなんて
思っても居なかっただろうから。
それで、梅木自身がレンに振られでもしたら嘘がばれてしまうのだ
そんなリスクを犯すほどの相手なら私も恐らくは
もっと苦しんだと思う。

「場所を変えないか?」
「は?」
「このままでは、お前が追い込まれるぞ?」
「…っ…」
「私は研究室へ戻る、それ以上話しがあるならそこへ
一人で来い。」

私は踵を返し、研究室へと戻った。

夕暮れに包まれた校舎は赤く染まり
外のサークル活動をしている、運動部の人達をただ眺めた。
その後から平賀が部屋に戻り、私の側に駆け寄ってくるのを見て
私は自分の携帯を平賀に渡した。

「撮れました?」
「うん、多分」

イヤホンを差込み、その声を確認する平賀に
よくやったと言われたが、嬉しくもなんとも無い。
証拠になるものを全て録音する事で、梅木と野村を追い込む
そう昨日話していた
私は実はこの方法はあまり乗り気ではなかった。
嘘を暴かれ苦しむのが目に見えているから。

と、平賀がマイクロチップに音声を落とし私に携帯を返して来た
それと同時に、レンが部屋へと入ってきた。

「水希、帰ろう?」
「ごめん、レンもしかしたら梅木が来るかもしれないから
ここでもう少し待つよ」
「……うん」
「確認していいか?昨日…」

と、続けた私の肩を引いたのは平賀だった。

「ちょ、待ってよレンを疑ってるのか?」
「疑ってない。だから聞けるんだ」

ハーと深い息を吐いた平賀が、昨日はレンと朝まで一緒に居た
そして、枕が替わり寝られないからと何度か目覚めていた自分が
証言すると言い出した。

「俺夜は家に居た。」

話の流れで何となく解ったのだろう。
そう言うと、レンはニッコリと笑う。

「水希裏切る事ない」
「うん、ありがとう…レン」

コンコンとノック音が響き、平賀がレンの手を引き
奥へと身を隠した。
「はい」

”梅木です”

「入っていいぞ」

キィとドアが開き、罰の悪そうな表情で梅木が足を進めてくる。
平賀の椅子を差し出し、私の横に座らせると、幾分おとなしく見えた。

「で、レンに聞くか?」
「解ってるんでしょう?私の嘘」
「解っている」
「別れる気も無いくせにあんな事言うなんて
どうかしてる」
「そうかもな、でも…梅木の願いだったんだろう?」
「何でアンタなのよ!」

ガタンと、椅子が立ち上がった拍子に倒れ
私は梅木を見上げる形となった。

「父に…既に入籍されてたからな…私とレンは」
「え?」
「結婚した経緯」
「は?なんで?教授が何で出てくるのよ!」
「最後まで話してやるから、レンに謝れ」
「は?なんでよ!レンには何もしていないじゃない!」
「嘘は、何もしていない事になるのか?」

「……。今更よ、そんな話聞かなくて良い!
っレンと繋がっていたい!好きなの!」

「だったら何故貶める方法しか考えなかった?
もっと違う方法があったんじゃないのか?」

そっと、影からレンと平賀が出てきて、梅木は目を見開いた。

「嵌めたのかよ、最低!」
「今までの事を考えたらテメェの方が最低だろうが!」
と、平賀が声を大きくした。

「カオリ…」

レンの声にビクッと背中が揺れる。
解ってる、好きな人にこんな醜い自分を見られるのが嫌な事くらい。
今目の前でポロポロと涙をこぼす梅木に心底申し訳ないと思う。
けれど、こちらも限界だった。

「レン、嘘で良い…好きって言って?」

涙ながらに、レンに擦り寄る梅木に、心が痛む。

「嘘は付けない」
「一度だけで良い…ね?お願…い」

ギュッとレンに抱きつき、梅木がお願いだからと続けた。

「それは…出来ない」

その言葉に、涙を流し、諦めたのだろうか?
梅木は、レンの身体を開放し私と向き合った。

「私、あんたが嫌い」
「………。」
「野村も、レンも、アンタを選んだ…化粧っ毛一つ無い
ボサボサのバナナ猿の癖に」

いや、バナナ猿は酷くないか?…でも、そうだな確かに私が凶元か

「そうか、野村もか…」

「は?訳わかんないし、野村はアンタと付き合ってるでしょう?
だからレンを貰うのに躊躇しなかったのに!昨日だってここでキスしてたじゃない!」

「……いや、付き合っては居ないし、レンもそれは知ってる。」

「だって…野村が」

「野村が言ったのか?」

「……。」

首を縦に振る梅木。
結局は野村に動かされていたのだろう。
気持ちを弄ばれ…レンへの思いをこう言う形に歪めてしまったのは

野村か…。

「ごめんね、水希先生、やっぱりアナタ邪魔」
「は?」
「野村先生まで被害が及ぶ事は許されないの」
「何を…」

急に瞳に宿った鈍い光に、私は腰が引ける。
何か、わからない不安と恐怖…
心が警告音を強く打ち付けてくるのが解った。

「レンはもう、私を見てくれない…野村先生しか
私を愛してくれないんだ!水希!アンタの名前を呼びながら
私の上で、快楽に溺れる野村しか…私は…愛されない」

ダッっと足を踏ん張ると一歩で私の所へたどり着き
レンと平賀の叫び声が聞こえたと思ったら
左肩に鈍い痛みが走り、視線を向けると尖った何かが腕に
突き立てられていた。

「っく…お前は、歪んでる」
私は何故か、痛い肩を忘れ、梅木を抱きしめた。
近くまで寄ってきたレンと平賀に静止を掛け、私は梅木をきつく抱きしめた。

「レンはあげられない…でも、お前を愛するのが野村だけではない事を
もう知っているだろう?野村を本気で好きか?…同じ道に戻るな
野村は、私の名を使い梅木を追い詰めただけの最低なヤツだ
だから、梅木はレンに思いを寄せたんだろう?
お前は、悪くないよ…梅木」

「偽善だ」

「そうだな…だが、次は容赦なく追い詰めるからな…」

「帰る…」

平賀が梅木の帰るのを止めようとしたが、私がそれを制した。
梅木は野村に使われただけ。
だから、もう開放してあげても良いんじゃないかと思えた。
もしまた取り込まれることがあれば、今度は容赦しないと
彼女にも伝えた。
後は、彼女次第だ。

パタンと閉じられた扉を見送って
私はそのまま椅子に倒れるように座った。

腕に刺さった、千枚通しの先がカナリ食い込んでいる。

「救急車!」
「呼ぶな!このまま行く 大丈夫だから…レン病院へ行こう」
「うん…」

こんな歩ける状態で救急車を使うものではない。
平賀は今日の出来事を父に伝えてくれると言って
頼むと、レンとタクシーに乗り込んだ。
「抜かない大丈夫?」
「病院までこのままで良い…血管が損傷してたら血が出るから」
「うん」
タクシーの運転手が青ざめながら何かを言っていたが
私の頭には、梅木のあの叫び声が何度も何度も
私の心をえぐって行った。

私の名を呼びながら梅木を抱く…そんな最悪な事を
あの男は平気で出来るのか?

女にこまらなそうな男だと思っていた。
軽い男で、いつも本気で相手などしていなかった…

だから、梅木が…辛い思いをしたのだろうか?
解らない…

傷を、見てもらい、凶器を抜いてもらうと
血管も傷が無くすぐに治療は終わった。

感染予防に抗生剤を点滴され、飲み薬を出された私は
レンと自宅へと戻っていた。

レンが私の側に居て…離れようとしない。
いつもなら、ウザイ時もあるが今はありがたかった。

「水希…大事」
「レン?」
「大事だから、一人苦しまないで?」
「ありがとう…」

ベットの脇にレンが座り、私はそのまま眠りに付いた。

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