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短編
【水流】
さらら
さららと流れる水面
ひとひら、
ふたひらと、舞い落ちる
咲き誇る花達は、花弁を落とす
春うららかな午後、ひっそりと佇んだ建物の中にぼそぼそと会話が囁かれる
飛び渡る鳥の群れも、風に棚引く草木さえも聞こえないように
「なぁ、」「なに?犬夜叉」「何でおれがここに居なくちゃならねぇんだよ」
「鼻が弱いから!!」「ちっ」
春真っ盛り、花達が咲き誇り、異常に咲き乱れた花
普段であれば全く気にもならないのだろうが
異様なのだ
花は四季を分けるはずなのに、見境も忘れて咲き乱れていた
お陰で色々な香りを一気に感じる犬夜叉にとっては、ただの苦痛と化していた
散っては咲く
咲いては散る
そんなことの繰り返しが、有っていい筈もなく、一行は、原因究明に出かけたのだ
一部の地区以外ではそういう現象が起きていない為に、
原因の場所は特定できるものの
やはり、根源が分からないままだった
水干の袖を引き寄せ鼻に宛がう物の、流れ来る暖かな空気と湿気があざ笑うように其の香りを強めることと成った
犬夜叉は幾度となく、空気を吸い込んでは咳き込んでみたり、頭を振って見たりと繰り返す
そんな姿を見たかごめは。不意に視線を走らせる。そんな犬夜叉をほっては置けないという理由もあるが
実際この香りにはかごめも少々辛かったのだ
(川さえあれば・・・)脳内で思うことは同じなのだろうか?不意に犬夜叉はある方向を指出した
「え?」「あっちに・・・川が・・・」苦しいのだろう、途切れがちに出される声に、かごめは犬夜叉の腕を引き上げる
「な!」「いいから・・・あんた歩けないんでしょう?」
そう、犬夜叉は座り込んだまでは良かったが、姿勢を下げた為、花の香りのきつさを思い切り吸い込んでしまう形となった
其のお陰もあってか、かなりの速さで体の力は抜け落ち、
会話さえも侭ならない状況となっていたのだ
だが、それでも歩く気力だけはしっかりと残っていると、担がれた手を払い除ける
「犬夜叉・・・ね?大丈夫だから・・・」払い除けた先にふら付く自分に舌打ちを鳴らし、
再びかごめの華奢な体に支えられてしまう始末。男としてどうよ?などときっと回りには思われるであろう
だからこそ、支えられるのは恥ずかしい・・・と言う想いが優先していたのだ
「・・・・。」無言の犬夜叉をちらりとのぞき見るかごめ
無論見られたくない犬夜叉は薄く頬を赤らめたままソッポを向いた・・・そんな時
「ん?そろそろ見えるぞ?」犬夜叉が掠れるような声でかごめへと告げ
其の声に反応するかのようにかごめは犬夜叉を担ぎ視線を前へと向けた
額に滲む汗
キュッと紡がれた桜色の唇
真っ直ぐ前を見据え、進む姿は、戦いで感じる時よりも些か燐とした感覚があった
「もぉ・・・歩けねぇだろ・・・」手を放そうとした犬夜叉の腕を力一杯引き止める
「っはぁ・・も、もう少しだったら・・・大丈夫」
流れ出る汗がちにペタリと落ちる
ソコを知ってか、知らずか、かごめの足が踏みつけてゆく
じりりと焼け付いてくるように石達が熱を放つ中、やっと辿り着いた清流にホッと息を整えた
「はっ・・・すまねぇ・・・」「何言ってるのよ・・・こんなの何でもないわよ」
(ったく・・・何てこった・・・情けねぇ・・・)
額の汗は、熱さとかでなく、鼻へ襲う香りの強さに胸がむかむかとするのを感じそう呟いた
いつもかごめを守りたいと思っているはずの自分が、結局助けられているのだ
多少のプライドが、犬夜叉の中で崩れて行った
「大丈夫?」清流でごろりと体を横たえ、片手でまるで日を避けるように目を隠し
はぁ。と、深呼吸をする犬夜叉に、タオルを乗せてあげようとかごめは川へと手を滑り込ませながら呟いていた
さらさらと・・・流れ出でるように風がかごめの漆黒を吹き上げる
濡れた指先が髪を押さえ込む仕草が
犬夜叉の琥珀の瞳の中へと滑り込んでゆく
些か気分は良くなった・・・だが、この湧き上がる気持は何なのだろう?
視線を逸らせたいのに
見入ってしまっている
「かご・・・・め・・・」「あ、苦しい?」
顔を見たくて呼んだ名に彼女は素直に従い犬夜叉を見つめる
「後半時・・・そうしたら収まる・・・其れまで側に・・・」「うん、寝ていいよ」
横まで辿り着いたかごめが犬夜叉の額に手を伸ばし、タオルを置くと、ふわりと髪を撫で上げる。其の仕草が
其の暖かさが・・・嫌に心地良くなり、目を伏せた
ただ、まどろんでゆく意識の中は
かごめの香りと暖かさだけが・・・・占領するかのように渦巻くばかりだった
ずず・・・・ずずずず・・・・・ごぉぉ・・・
人一倍耳の良い少年へと届いた音
かすかな轟音
其の音が犬夜叉の瞳を覚醒させた
「!!」かごめがいねぇ!
目を覚まし、がばっと大慌てで体を起こすと、かごめの気配を探った
以外に簡単な場所に居たのだが、そうは言ってられなかった
「か、かごめ!!早くこっちへ来い!!!急げ!!!」犬夜叉の慌てぶりに、さすがのかもめも驚いた様子で
急いで川岸へと向かった
川で魚を捕獲しようと、かごめは数分前に足を踏み入れた川。
感覚を鈍らせるようだが、急に水嵩が増したのを彼女は気付く事無く、静かに魚を探していたのだ
「はやくっつ!!!」犬夜叉が大慌ての様子で、かごめはその声に反応するように
とびだした、目指す先は犬夜叉の胸の中
息苦しさを覚えながらかごめは犬夜叉の開かれた両の手へ向かう
ごぉぉ・・・・
次第にかごめの耳へと届く轟音増えた水嵩が、かごめの逃れようとする抵抗を強め
足を取られる
「犬夜叉っつ・・・・」「かごめっつ!!!!」
犬夜叉はふら付きながらもかごめを助けようと向かう
轟音だけが大きく大きくあたりを飲み込み
静かだった川が、穏やかだった水流が
かごめの動きを拘束する
「犬夜叉あぁ!!!」「かごめっつ!!」
指先が触れるときつく抱き締めあい
犬夜叉はその場所を、大きく蹴り上げた
「あんた、体・・・」「ばぁか・・・これくれぇー動くよ」
大木の上で、かごめを抱き締めたまま轟音の響きを耳にする
「ダムの放水みたい」「だむ?」「うん。水嵩が増していくの」「見てろって・・・そんなやわなもんじゃねぇ」
犬夜叉の鋭い指先が指し示す先
其の先へ視線を移した瞬間
白い水泡と、其の後から轟く水の姿が目に入った
飛び乗った木の上はかなりの高さを誇っていたのに
その木の半分は飲み込んでしまった
「うわぁ・・・」怖くて、水の襲い掛かる勢いは収まら無そうで
かごめは抱き締められたままの水干の胸元をキュッと握り締めた
「鉄砲水だよ」「鉄砲水?」「おう・・・・今に収まる」
短く告げられた犬夜叉の言葉に軽くふるっと身を震わせる
自然の驚異は何度か経験している、無論聞いたりして知っているだけで経験はしてはいなかったが
水が綺麗に辺りを飲み込む
生えたての草木が飲まれ、先ほどまで川原で咲いていた小さな花さえも飲み込まれる
「あ・・・」かごめの口から出た声に反応するように顔を向けると、一点に視線が向かっていた
其の視線を追い、犬夜叉ははぁ・・・と溜息を落とした
木の上にあった鳥の巣。
何かの影がおどおどと動きを示していた
「一人で待ってられっか?」「へ?」「ったく、おめーは本当におせっかいだ」
そういい残しそっとかごめを木の上へ残し、振動が酷くならないように軽く次の木へと飛び移ると
その木を大きく蹴り上げた
下は轟音轟く水の槍
其の蒼の中に飛び出した緋色と銀色の流れるような髪を
かごめは視線で捕らえて離すことが出来なかった
「犬夜叉気をつけて!!!」「おう!」
遠くで返事が来たのを胸にい仕込めながら、かごめは犬夜叉を視線で追った
無事辿り着いた木から、巣を持ちあげて再び此方へと戻ってくる
全てが綺麗で美しかった
ほぉ・・・と溜息を落としたところで、其の思いは消えないであろう
(こういう時の犬夜叉って・・・凄くかっこいいな)
言葉には出せない想いが湧き出てくる
タン・・・・
と、振動もあまり起きない着地は、さすが本能?とも思うが実際は
振動でかごめが落ちないかと心配しているようにも見える
そんな犬夜叉がかごめへと寄り添い、その手に持つ巣をかごめへと渡した
「あ、ありがと」
其の巣を抱き締めてかごめが呟いた
何匹かの鳥が、中で母の帰りを待っていた
口を大きく開ける姿が愛おしく、指をそっと中へと向ける・・・・パシッ
「へ?」「触るな」「え?」「触っちまえば人間の匂いが付いて、親が餌を運ばなくなる」「あ・・そか・・・」
止められた手が行く宛をなくし
彷徨った時だった
グイッと引き寄せられ
塞がれた唇は
暖かかった
「い、行くぞ」「い、今・・・・」「其の巣を違う場所に移す」「え、あ・・・う・うん」
どうしてしたの?とは聞けなかった
でも、赤くなって優しく抱き止めてくれる犬夜叉が全てだって
そう信じることが出来るから
そう思うことができるから
私はあんたに付いて行くよ
鉄砲水のお陰で花達は跡形も残さず消え去った
匂いさえも薄くなり、生きた証は残った残骸
ちくちくと痛む胸・・・でも、
弱肉強食の世界。其れを教えてくれたのは・・・今、背中を貸してくれてる犬夜叉だから
と
かごめはその思いを受け止める
背中で呟いた言葉は犬夜叉へ伝わるだろうか?
すき・・・だよ
背中に感じる暖かさに
犬夜叉はそっと呟く
好きだ
互いの思いは伝わったのだろうか?
伝わっても・・・伝わらなくても良い
ただ、思いは一つだと
分かったから
FIN
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