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なつめっぐ 保管場所

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想4

最終話です

【 想 】=八=












棚引く雲が、穏やかに流れる
人の群れは何も無かったように穏やかに笑顔を浮かべ
その中を必死に駆けている少年…

はぁはぁ…
      どうかご無事で……

はぁはぁ…
      
必死に走るセイ
屯所に辿り着くまでには必死に走っても半刻は掛かる
もどかしさがセイの心音を高め
走る続けているせいで、汗がどっと湧き出る


その頃、無事に脱出できたセイとは反対に、捕まっていた総司が
拷問部屋へと押し込まれていた

無論

新選組に関することは一切話す事はしない
竹刀が総司の左肩へと打ち込まれると、グッと喉の奥がなった
けれども、表情を変えずに、何も知りませんよ…と続ける

剣豪で一番隊と言う近藤側近のような隊の隊長が何も知らない訳が無い

男が総司の頬へ竹刀の先を宛がうと、グッと押し込んだ

「さぁ、今の新撰組の内情と、巡察順路、そして何処まで情報を仕入れてるか教えろ」
ニヤリと薄気味の悪い笑いを向けると、総司が最高の笑顔で微笑んだ
「ひりまへんよぉ…」(知りませんよぉ…)

その飄々とした返答に、竹刀を持った男が大きく振りかぶった
「知りませんと、何時まで言い続けられるかな?」
その言葉が切れたと共に、風が切れた

ヒュッ…

重みのある竹刀が総司の左肩へと沈んだ
眉間に皺を寄せるが、総司は声をも押し殺し、額からツーッと汗が光る
「もう少しお手柔らかにお願いしますよぅ…全く痛いんですよ~?」
何故こんな軽口を叩くのか
男がカッと成り、竹刀をもう一度振り上げると今度は背中にバシッと
焼けるような痛みが総司を襲う

けれど、声を上げるでもなく、ただ息を飲み込む

「沖田ぁ…そろそろ吐けやぁ」
垂れ下がった頭を、上げるべく竹刀を顎下へと滑り込ませ
総司の顎を竹刀で押し上げた

だが、その表情は苦痛ではなく笑顔

「……大したヤツだよっ!」
パンと男が総司の頬を平手で殴りつけると、頭がグラリと揺れる
何度も竹刀を受けた
けれど、セイの無事が気になって
気を失せる事は出来なかった
肉体的痛みよりも、心の中の痛みが強く総司を支えていた

(かみ…や…さん…どうか、無事で…)

何度もぶつぶつと小声で呟く総司に、男は苛立ちを募らせる
「今日は仕舞いだ!」奥から声が響いた
「おいおい、まだこれからだって言うのに何故やめるんだ!!」
総司の態度に既に苛立ちを強くしていた男が刃向かうと
男を側に呼び寄せ一言呟いている

それを横目に見る事は叶ったが、何を伝えたかまでは解らなかった
けれど、総司への拷問はそこで終わり、再び牢へと押し込まれた

食べ物さえ与えられず、水さえ与えられず
夜の帳が落ちた


シン…静まり返る牢のなか
総司がセイの消えて行った格子を見た
隙間から月が総司を照らすと、ニッコリと微笑み
痛みに耐えながら、月に手を伸ばした

「神谷さん…どうか…無事で帰っていますように…」

そう言葉を告げると、総司の手がパタリと、地面へ落とされる
微笑んではいたが、かなりの苦痛だった
打たれる事に慣れているとは、剣豪の総司に至っては当て嵌まる言葉ではない
相当の痛みを、気力だけで繋いでいるのだ


「沖田はん?起きとりますか?」
不意に牢の裏から聞こえた声に、小さくハイ…と返した

山崎が、現状を調べに来たのだと直ぐに理解できた
だが、セイの事を聴く訳にも行かない
なにせ、何処で聞き耳が立っているかすら解らないのだから

「沖田はん、子犬は元気ですよ。元気で、虎のように走り回っとります」
「あぁ、元気で良かった。ありがとう…」

その言葉が終わると人の気配がスッと消える
(神谷さん、無事だったんですね…)

そう、子犬とはセイの事を指しているのだ

それだけで安堵したのだろうか?総司はそのまま瞳を伏せた



時は遡り、一刻前
セイが無事屯所へと戻った
土方へと早速報告をした折に、山崎も居たので
ある程度の事情は伝わっていた

「副長!直ぐ沖田先生をっ!」
「いや、まだだ!」
「そんなっ!先生は私を逃がしたんですよ!?
その罪をかぶって、どんな事をされているか解らないのにっ!」

土方に掴みかかる勢いでセイが、飛び出したのを
山崎が後ろから拘束した
離せと、何度も強く訴え掛けるが、それも叶わず
セイが暴言を吐く中
バチン!

と、強く右頬を打たれた

「良いか?総司は自分に構うなと言ったんだぞ?武士の心をなんだと思ってるっ!」
土方のドスの聞いた声が響き渡った

その声に一瞬セイも怯んだが、再び言葉を重ねた

「沖田先生は副長を連れて戻ってくれと言ったんです!だからっ、だからっ!」
「お前を逃がす方便だろうがっ!」
冷たく言い放たれて、セイが眩暈に襲われた
何故此処まで…鬼になれるのだろう…

「仲間を!沖田先生を見捨てると仰るなら一人でも行きますっ!」
セイが振り返り、襖を強く開けると、斉藤が腕を組んで柱に身を預けていた
「…兄…うえ…」

斉藤は視線を土方へと送ると、神谷すまん…とだけ言い残し
腹に鈍痛を覚え、意識が途切れて行った

「沖…田…せん…」

斉藤の腕の中で、セイの涙が床へと落とされたときには
既に意識は失せていた


「斉藤も神谷には甘いのか…」
「……副長も同類かと」
その言葉のやり取りに、山崎が笑いを堪える

「さて、隊長を集めろ」

その言葉に、颯爽と隊長達が集まり作戦会議が始まった

表向きは。敵を知る為の戦い
だが、総司を最優先で助けると言葉の端々に出す土方に
近藤が何度も頷いた

セイには知らせてはならないほど、今回の敵は厄介だったのだ

長州と、薩摩が絡んだ事件…
数名の捕縛者から聞きだした少しだけの情報と、家紋の調べ上げ
そして、関係者の調べ上げに時間が掛かってはいた
けれども、長州と薩摩の関連が、此処に来て明るみになりそうだった

こんな国の一大事に、更に維新派が増えたかもしれない恐怖と
薩摩と長州の国掛の作戦があるのかもしれない恐怖に
直ぐに決断を下す事が出来ずに居た

けれど、ここでそれを叩けば

徳川にとって有利だと読んだ
無論総司もそれは知っていた事
捕まれば何をされるかも、承知の上で自ら偵察に出たのだ

その総司の思いをセイの感情だけで、壊させる訳にも行かなかった
それは土方も然り、斉藤も然り…である。

「斉藤、神谷は蔵に突っ込んどけ」
ようは、邪魔者である…

今回は総司の命が掛かっている
総司の首を落とせば、名が挙がる事も考慮した上で
きっと男達は直ぐには殺さず、見せしめとして
仲間が集まった時に制裁を加えるであろう
だったらその前に、総司が何らかの情報を引き抜ければ
それはそれで願っても無い事だ
そんな中、感情で動くセイは正直厄介だったのだ



「斉藤先生…沖田先生は大丈夫でしょうか?」
蔵の奥からの問い掛けに、あぁと返す
「副長は、動いてくれるんでしょうか?」
「あぁ、動く…だが、今ではない。神谷辛いだろうが解ってやれ」
その言葉にセイは黙り込んだ・・・


====================================
2010.7.27



【 想 】=九=











蔵の中で、ただ月に祈る
沖田が無事に帰るように……

「そろそろ床に入れ風邪を引いては沖田さんの救出に同行できんぞ」
髪を下ろし、襟足で一結びにしたセイが、蔵の出口に向かい頭を下げた
言葉は何も発しなかったが、斉藤には何が言いたかったのか
安易に理解できた

「案ずるな、そう簡単に殺れるタマでもなかろう」

その一言がセイの涙を誘った
斉藤が遠くへと足音を連れて行く

ただ…
祈るしか出来ないのだろうか?

ただ…
待つしか出来ないのだろうか?

(私は…私は…  沖田先生、あなたを守りたい…)
見上げる月がセイの涙を輝かせる

けれども、高ぶった感情は寝る事を許さなかった
深夜、少しの物音が響き、セイが慌てて身体を起すと
蔵の柵の間からジッと屯所を見つめる

微かに人が、移動している
それも、一人二人ではない

「まさか沖田先生に何か!!!!」
小さい身体を起用に跳ね上げて手だけで身体を支えていたが
長い間ぶら下がれるほど、セイの筋力は発達していない
無論、鍛えている人間でもある一定の時間が来たら痺れが来るものだ

ドスンと、尻から床へと落ち、なみだ目になりながら尻を摩った
けれど、それ所ではない
総司に何かあったのではないだろうか?

夜襲をかけるのかも知れない

慌てて蔵の出口を何度も叩くが
誰も来ぬまま………
人の気配が消えて行った

「沖田せんせぇ~~~~っ!!!!!」
力一杯声を張り上げた



所変わり、此処は総司が監禁されている牢
「うう・・・うぅ・・・」
小さな呻き声が、蔵の中で反響していた

「なんだ、どうした?」
見張りをしていた男が、不意に座っていた藁の束から身を起し、総司の牢の前に立った

「ううっ、す…すいませ…お腹がかなり痛くて…」
「なんだ、厠か?」
「い…え…ぐっ!…」
その後、総司の体がバタリと倒れこんだ
男が呼んでも、棒で突付いても、総司の身体はグタリと倒れたまま

意識を失って居るのだろうか?
牢の外から、強めに総司の身体に棒を突き上げてみるが
反応が無い

今、死なれたら…
男の脳裏が、名誉と言う言葉によって曇った
富も、名声も…
全ては、自分の藩の者の目の前で殺害して成り立つ
首を切り落とした瞬間
とめどなく、その切り落とした者には名誉が与えられ
士気が上がるのだ
だからこそ、この場で死なれるのは、男にとっては不覚以外の何でもない

慌てて牢の扉の鍵を開き
総司の身体を押さえつけると、首の頚動脈を確認する
トクントクンと脈を打っているのを確認すると、ホッと気が緩んだ

その瞬間だった

男の視界が急に反転をし、気が付くと自分の上にニッコリと微笑んだ男
髪は解け、長い髪を鬱とおしそうに、左右に振り分け
男の首に、総司の膝が在った
「おまっ! 仮病か!」
「おやおや…仮病ではなく、策と言って頂きたいですねぇ~」
ニィ…と笑う総司の瞳は修羅の光

「ぐっ…やめ…ろ…逃げられる…わけ ガッ!!!!!」
最後まで言葉は続けられず、総司の膝により男は事切れていた
「腕が使えないと…不便ですねぇ…」
縛られて腕を開放すべく、牢から出た先にあった蝋燭で縄を焼く
だが、手の直ぐ側にある縄を焼き切るためには、多少の火傷は覚悟しなくてはならなかった

「あぁ…帰ったらどやされますねぇ…」
その言葉を残し、ジジジっと焼ける音と、くっ…と言葉を飲み込む音が牢に響いた
それと、同時だっただろうか?

高く強く空を割るような声が響いた

『新選組、討ち入りなりっ!土方歳三参るっ!』

その声に総司が焼けた手首を握りながら、苦笑いを零す
「んもぉ、土方さんったら美味しい所で~」

制圧があっと言う間に終わる。
なにせ、深夜で寝ていた者も多かった
新選組が討ち入ってくるなどとは、想定外だった
否、一度は想定したが、まさかこんな大人数で討ち入ってくるとは思えなかったのだ

たった一人、沖田総司ただ一人の為にここまでやる、それが新選組なのだと
今回思い知ったのは、相手側だっただろう
殺さずに、吐かせる…と言う策通り、幹部らしい男を三人捕縛
他は全て、総司の入っていた牢獄に押し込める

「ちっ、汚ねぇ成りしやがって」
それが土方の第一声だった
「虎の刻は過ぎてますよ~?遅いから先に出ちゃってましたよぅ~」
そして総司の第一声はこれである……

互いにプッと噴出すが直ぐに緩んだ口角を戻し
指示を出す中、総司の視線が隊士の間を縫うように彷徨っている
「おや?神谷はんをお探しですか?」
ニヤニヤと側に寄って来た山崎に、いえ…と答えたがまさに的中である
「神谷さんは無事なんですよね?」
小さめの声で山崎に問うと、ニヤリと微笑み屯所に置き去りにしてきた旨を伝えられ
ホッとした瞬間、カクンと膝が笑い、地面に座り込む形となった

「おやおや、鬼神の沖田はんでも、流石に拷問は堪えましたか…」
山崎が総司の腕を自分の首に回して立たせると、すいません…と、小さく謝った

「なんだったら、戸板で運びまひょか?」
「いっ、いえいえ、そんな…戸板なんかで運び込まれたら…」
「あぁ、良い事思い付きましたよ!ほな、沖田はん悪う思わんといて」

柔らかな表情とは打って変わり、総司の鳩尾に激痛が走った
「っ…」
山崎の身体にぐったりと寄りかかる総司

その後、総司の身体は、戸板に乗せられて運ばれて屯所へと戻った


一方、セイの蔵は近藤によって開かれていた
無論助けに行くと言い張るセイを静止していた近藤だったが
セイの勢いに引き摺られ屯所の門前まで来ていた

「沖田先生!?」
戸板でぐったりとしている人間が眼に入り、セイは慌てて駆け寄った

===========================================
2010.8.24


【 想 】=十=




夜が明け掛かる白んだ空に照らされて
擦り傷と拷問を受けた総司がセイの目の前へと浮かび上がる
「沖田っ…せんせぇ…」

大きな黒い瞳からポロポロと流れ落ちる雫が総司の頬へと落とされる
雨のように降り出した涙が止まる前に、山崎によってセイは引き離された

「山崎さんっ、離してっ、沖田先生っ!沖田せんせえぇ!」
羽交い絞めにされたセイが、戸板で運ばれていく総司を涙ながらに呼び起こそうとしている
けれど、山崎の力に敵うわけも無く
その場で、膝を地へと落としたセイが丸くなって涙を溜め込んだ

と、総司の後から三人の捕縛者が連なって中へと連れて来られた


(許さない…沖田先生を傷付けるなんて…許さない…)
うわぁ!と、叫びながら男達に殴りかかった所を、今度は土方が止めに入った

力一杯…セイは男を殴ろうとしたのに

たった一本の、土方の右腕に止められてしまったのだ
「総司は無事だ!童が、己を失って早まるんじゃねぇ!」
その言葉に今度は黒い瞳一杯に涙を溜め込み、土方を凝視した

「やせ我慢するヤツだから、寝かせただけだ」
その言葉に、セイは慌てて総司の居る部屋へと向かった

(無事だった…無事だった…)
その想いが膨らみ、総司の前に立つと既に涙で視界が歪みきっていた

「…まったく、泣き虫さんですねぇ」
優しく聞こえる声に、セイの涙が溢れかえり、総司の寝ている布団の裾で正座をすると
唇を噛み締めながら、お帰りなさいと告げる

そんな二人のやり取りに苦笑いを向けた一番隊隊士達が、気を利かせて一人
また一人と席を離れる

「ちょっと…頑張りすぎちゃいました」
「……」
セイが総司へと掛ける言葉に迷う…
自分の為に、自分を逃がす為に使われた方便

「せん・・せっ、後生ですから、どうか方便など言って私を遠ざけないで下さい」
「あーでもしなければ、貴女は残ると言い出したでしょう?」
セイの手を大きな優しい手が包み込んだ
「でもっ!」
「貴女を…あんな場所に置いておける訳無いじゃないですか」
「せん…せ?」

いてて…と、口に出しながらのそっと起き上がった総司を
セイが慌てて寝かせようと、総司の胸板を押した…が
その手が総司の手によって引かれ、セイが総司の胸板へと身体を沈める形となった

「すっ!スイマセン!」
真っ赤になったセイが、総司の体から離れようとすると
今度は強く身体を抱き締められて、思考回路が停止する

「神谷さん、貴女は無理をしすぎなんですよ」
「え?」
「危なっかしくて、見ていられないんです」
「それって…」
総司の胸の位置から顔をあげ、総司の顔を見つめると、紅葉のような赤が目に入った
「それって、私を…?」
「ええ」
「私を、先生が…?」
「ええ、そうですよ」
総司の眼が薄く微笑むと、セイの目から涙が噴出し、総司の身体にしがみついた

「かっ! 神谷さんっ?」

「うえぇ・・・先生、神谷清三郎一生懸命付いて行きますから!
どうか、どうか…お邪魔だと仰らないで下さいっ…うっぐ…ひっく…」

驚いたようにセイを見やって、深く溜息を落とす
「邪魔だといつ言いました?」溜息の合間に言葉にすると
セイが、え?と疑問符を投げた
その見上げてきたセイをもう一度包み込み、総司は呟くように伝えた
「邪魔ではなく、貴女が心配なんですよ…」

総司の声が耳に直に響いてくる
早鐘のような心音と、心地良い重低音の篭った声
(ダメだ、自惚れてはいけない…)
セイが、ぎゅっと唇を噛み締めると、ハイ!と強く答えた

「沖田先生に気苦労を掛けない様精進しますっ!」
鼻息荒く伝えるセイに、総司が頭を抱える

伝わらない想いがもどかしい

伝えてはいけないと自制心が言う

けれども、膨らみすぎた心がそれをいとも簡単に壊していく

(あぁ、ほんと、この子ってば野暮天ですねぇ…)

総司の手がセイの身体を離すと、そっと耳元で囁いた
「夜も寝られないほど念友が心配なんですけどね」

総司の熱い吐息がセイの耳を擽り
慌てて耳を押さえると、言葉の意味を理解しようと思考を必死に動かせる

「あ…え…う…」
次の言葉が浮かばないで、しどろもどろになっていると
スパンと、襖が開け放たれた
ギロリと総司に向けられた眼光が、殺気までも含んでいるようで
斉藤に苦笑いを向けた
「あんた、怪我しているんだ大人しく治療させろ」
そう言うと、セイへ治療箱を手渡した

そのまま斉藤がドカリと座り込み腕を組んだ

「やだなぁ、斉藤さん…大げさですよぅ」
ヘラリ…と笑う総司の腕をぐっと掴み上げると火傷の跡が見えて
セイが今度は慌てて総司の手を取る

「沖田先生、痛いなら痛いと言ってください!」
傷口を拭き、薬を塗りこむと、油紙を付け、てきぱきと布を巻く
先程までの甘い空間が嘘のように、セイは総司の治療を終わらせると
寝ていて下さいと、強く念を押し、水桶を替えに出る

そんな息巻いたセイを見て二人で噴出したが
桶を持ったセイはそれどころではなかった

(あぁ、もぉ、沖田先生はやっぱり、天然タラシだっ!
ほんっと、勘違いしそうですよ…もぉ!)

じゃばじゃばと、手拭を洗いながら火照りが冷めるのを待っていると
不意に思い起した

「ああっ!」

今までの総司は、きっとあんな事をセイには言わない
だって…昔の総司は、そんな人だったから

慌てて、総司の元へ戻ると、セイが息を荒くしたまま総司へと詰め寄った

「先生っ!記憶がっ!」

念友と彼は使った
それだけで十分だった
そして、記憶を失くす前の総司の言葉にしか思えなかった

セイがジッと総司を見つめる


「ええ、戻りました…神谷さん、ただいま」
笑顔を向けられてセイは嬉しさのあまり総司へと抱き付くと、良かったですと
何度も繰り返した

何度も、何度も

「沖田先生…お帰りなさいませ」

その言葉だけで十分だった

二人の帰る場所はこの、新選組の屯所なのだから


その後、記憶が戻った時期を聞き
セイが総司を抜き身で追いかけたのは言うまでも無い

FIN
====================================2010.09.01

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