倉庫です。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 魂2 | | HOME | | 風 ≫ |
魂最終話
【魂】
りんりん・・・・
りりん・・・・
桜咲く・・・・桜散る・・・・
花命は短し、美しさを誇示するように咲き誇る
夢はいつかの幻に攫われてしまえば思い出す
手に在る内は知らずとも、手放して追う心は熱を冷ます事なかりけり
「お酒・・・持ってきますか?」既に底を付いた徳利をぶんぶんと振り、注ぎ口が下を向いている
その状態で更に振ると、セイが溜まらず声を掛けたのだが、慶喜は左右に頭を振り
指をぱちんと鳴らすと黒い影がセイの後ろへ現れ、気配の無さに再び背中が粟立った
(この人は本当に、殺気も気配も感じない・・・・)
セイは、警戒心がドンドン強くなり、そのくせ恐怖まで込み上げて来ると、それを断ち切るかのように
ふぅ・・・と深く息を吐いた
「こいつは俺の付き人だ。影で働いてもらってるが、数日貸す。
お前が攫われても、こいつが居る限りは大丈夫だろう」
「なっ!そう簡単に攫われたりなんかしませんよ・・・・女ではないんですから・・・・」
後半口ごもってしまう・・・。だが間違いなく狙われているのは・・・セイ
「まぁいいけど・・・とりあえずはこいつが何時も側に居るという事を忘れるな?」
「承知。」
にっこり笑ったセイは、その黒装束の男にペコリと頭を下げながら、よろしくお願いしますと
一言言い残し、酒を取りに降りて行った
「おい、影・・・あいつを見殺しにしたら新選組が黙っちゃ居ねぇからな?
心して守れよ?」苦笑いしながら伝えると、彼は御意とだけ言い残し再び闇へと吸い込まれていった
「ふぅ・・・最近疲れが抜けないなぁ・・・」お湯の中に徳利を入れ、くつくつと煮込んで熱燗を造る
そんなセイが漏らした言葉に、後ろから不意に笑われた
「おセイちゃんったら、疲れはるなんて、床も取ってないのに不思議やね」
「あ・・・秋ちゃん・・・」
ドクンと心が泣いた、きっと、このこの眼にはもう
【生贄】としか写っていないだろうと・・・・
「あっそうそう、明日でも一緒に月見いかへん?桜がぎょうさん咲いてて綺麗やから」
沖田や慶喜とまだ打ち合わせをしていないのに・・・・
チョット困った顔をして、セイは早い方が良いとも考え、明日の朝回答すると秋に伝えその場を離れた
(相談するしかないよね・・・・断ってないし、平気だよね・・・・・)
悶々としている時に、総司が再び戻った
「先生・・・相変わらず・・・全力疾走ですか・・・」
苦笑いしながら再び総司の額の汗を拭うと、玄関先だと言うのにセイをいきなり引き寄せ
胸の中にすっぽりと入れ込むと、優しく抱きこんだ
「え・・・」
「早く・・・帰ってこないとって・・・必死・・・だったんです・・・よ・・・」
こんなに息を乱す総司をはじめて見ただろう
セイはにっこりと笑い再び総司の頬から流れる汗を拭い、部屋へと案内した
「浮さんが影さんを付けてくれましたよ?」
「カゲサン?」
「あ、影さんね。竊盗(しのび)の方でしょう?」
「え?竊盗だったんですか!?どおりで・・・」
通りで、解らないはずだ・・・しかも相当な力の持ち主だろう
無論、殿を守るのだ、そんなに簡単にやられる訳は無いが・・・
そんな会話を小さな声でお互いに話しながら階段を登り部屋の前へ着いた
中へと足を進めると、話の続きを始めようと、奥の床の間に3人で向かい合わせに座った
隣の様子を伺いながらではあるが、これからどう動くか・・・今決めなければ成らないのは
セイをどう守るか・・・。
悠長に構えている時間など無かった
「私は、片時も離れず見ているのが一番だと思いますけどね・・・」
総司の案に、ぽっと頬が染まる。
愛しい男が、片時も離れずに側に居てくれる・・・
それがどれだけ嬉しい事か。
だが、この感情は知られてはならないのだ・・・・
男として隊に留まっている以上は
「いやぁ、でもお前は剣豪だからなぁ。新選組の組長が気に入って通ってると成れば
あっちも雇う人数を増やしたり何か手立てを変えてくるだろうな・・・」
「えぇ、出来ればそれは避けたいですね。目に見えぬ呪いの類が相手で挙句
剣を振るう人間が増えると、この子を守るにしても・・・・人が多すぎますよね」
「ちょっと待ってください!私は守られているばかりでは在りませんよ?
舞妓の衣装は普通の女子の装束よりは動けますし、足を捲くればどうにか・・・ほら!」
惜しげもなくばっと開かれた足。
総司も、慶喜もそれには予想外で、顔を真っ赤にして総司がその持ち上げた手を
下げろと文句を言う
「まぁ、女みたいな綺麗な足してるが・・・良いじゃねぇか
男だったら少し位足を出したって、仕方ないさ」
「ちょっと待ってくださいよ、男だったら問題はないでしょうけど
この子は男の中でも肌が女子のようなんですよ?」
「仕方ないじゃないですかっ!・・・こんな形になってしまったんだし・・・・」
セイはしょぼんと下を向く
「では、こちらの竊盗で数人配置し、こいつが捕まったら
一人残し、他の奴がお前に知らせに行くってのはどうだろうか?」
それしかないだろう、この慶喜はそう言う機転が良く効く
どんな場面でも臆する事無く、彼は仕事をこなす男なのだ
総司は、それでいいと納得し、セイもその総司の言葉に従うしか出来なかった
「じゃー俺は帰る。竊盗の奴らの招集をかけんとな・・・」
二人は深々と頭を下げると、慶喜はその場を離れた
「あ・・・」
いきなり声を上げたセイに、総司がどうしましたと尋ねると
「いえ、花代を頂いてはいるのですが・・・一日買われましたので・・・・
明朝まで私は慶喜さんに買われているんですよ・・・・・」
「えぇ?帰っちゃいましたよね・・・」
「そうですよね・・・うーん・・・」
二人はしばし沈黙を持ったが、総司が床の上でごろんと身体を横たえた
「今日は私が守りますよ、朝一番で帰りますから、起こして貰って良いですか?」
きょとんとしたセイが少し頬を赤く染めてハイと返すと、総司の頭の枕をくっと引き
自分の膝を差し入れた
「えっ、あ・・・かみ・・セイさん?」
「呼びずらそうですね」くすくすと笑うと、横にあった綿入りの着物を引っぱり出して総司の体に
そっと掛けると、横を向いている総司の肩辺りをポンポンと規則正しく叩いていく
「うわぁ・・・・何か凄いんですね・・・・」
「なにがですか?」
「い、いえ・・・なんか、小花さんにもしてもらった事無いですから。膝枕とか
こうやって寝かし付けられるのとか・・・姉が、やってくれた以来ですかねぇ・・・・」
ちょっと赤くなった総司がそう話していると、セイの答えを待たぬまま深い眠りに付いてしまった
「ぷっ・・・先生早すぎですよ・・・・」
すぅすぅと息を規則的に繰り返し、体が温かみを増すと、心底眠っているのだと
セイは感じた。今日は色々な事があり、全力疾走2回も屯所とこの場所を行き来した
それに隊務も在っただろうから、疲れているのだろうなとセイは思い
この幸せな時間に心を緩めていた
「ん・・・」一刻は過ぎただろうか?
総司が眠りの中で、セイの膝から寝返りを打ち、
腰に手を回してうつ伏せに近い状態で再び深く眠る
セイは両手をどうして良いか判らずに、自分の目の高さまで上げると、
総司の行動を受け入れるしかなかった
腰に縋り付き、彼は言葉を放った・・・
セイにはとても嬉しくて幸せな・・・・たった一言
「だい・・・すきですよ・・・・」
ぎゅっと抱き締めて来る腕は、起きている時のそれとは違い
一瞬だけ力を入れてはすぐに抜けると言う抱擁
そして誰を思っているのか解らないが、総司の頭を預かるセイにしてみれば
自分が言われた錯覚に囚われる
「沖田・・・せんせ?」
軽く、声を掛けてみて寝ているかを確認しようとした時だった
「かみ・・やさん・・・」
ビクッと体が跳ねる
欲しかった言葉・・・・でも、この男がそう簡単な人間でもない
(先生の言葉は何時も・・・裏があるんだ・・・ダメだセイ、きっと
夢の中で好きな近藤局長と、私が側に居るだけなんだ・・・・)
勝手に解釈をしてこの状況にちょっと涙が出そうだった
「・・・せ・・・先生・・・沖田先生!」
聞こえる声に意識を向ける
「なん・・・です・・か・?」
夢見心地の総司の髪をサラリとセイが掻き揚げると、その感触に
ガバッと起き上がった。
「あ・・私眠ってしまった・・・?」
「えぇ、朝になったのでそろそろ屯所へお戻りに成らなくてはと
思い、起こさせて頂きました。」
にっこり笑うセイ、なんと心地良い、なんと安らぐ布団だったのだろう
今まで寝てきた中で一番の心地よい朝
「神谷さ・・・セイさんの枕は気持ち良くって寝た事も気が付かなかった」
「それは良かったです・・・」ほんのり赤らんだセイがそう告げると
横に置いてあった刀を両の手で拾い上げ、自分の目より上に差し出した
「え・・・?」
「いってらっしゃいませ・・・どうかお気を付けて」
その言葉がやけにむず痒くて、はにかんだ総司がそれを受け取ると
腰に差し込んだ
「妻のようですね」と、思った事をサラリと言った
「え・・あ・・・」
戸惑うセイを見て、こんどは総司が真っ赤になった
「えっと、あの・・ほら、良くそう言う場面あるでしょ?だから、その・・・」
しどろもどろに先程言った言葉をどうにかしようと思うのだが
繕う術が見つからずに、真っ赤に染まり、まだ言葉を捜していると
セイがにっこりと微笑み、「セイはお待ちしておりますので、行ってらっしゃいませ旦那様」
と、おどけてみせる
「・・・っつ」更に真っ赤になる総司
今度はセイが、おどけたのが失敗だったかと真っ赤になる
「熟れたいちごみたいですね・・・・」
溜まり兼ねて総司が笑いながら呟き、踵を返して、戸を引いた
「留守は確り守ってくださいね、セイ」舌をちらつかせ、
悪戯小僧のような顔で、まだ続きをやるのかと、セイは火照りながらも
「行ってらっしゃいませ」と繋げる
新婚の夫婦はこんな感じなのだろうか?
愛する夫が仕事に向かい、自分は家を守る・・・・
総司も同じように、そんな事を考えながら、花屋敷を後にした
昨夜の沖田との一夜、甘く優しく流れる空気
嬉しくて嬉しくて、どんなに望んでも叶う訳が無いと言うセイの中に眠る
女の部分が凄く喜んだ
愛する人と、同じ夜を何度も何度も越えて来たが
それは、同じ隊士として
それを望んだのは自分だから、今夜の一夜は夢でも良かった
膝に眠る総司の髪を何度もくるくると巻きつけて離す
大好きで、言葉が漏れそうに何度もなった
その時にセイに届いた言葉にもう、眩暈がしそうだった
「はぁ・・・」
窓の外を眺め、セイが溜息を落とすと、人の気配がする
セイはふっと振り返った
「セイちゃん、感いいね。。。」
秋が、背後から現れ、苦笑いを向けた
「どうしたの?」
秋が泣きそうに成りながら、セイの胸に飛び込んできた
「秋ちゃん?」
「その帯止め、返して・・・・そのせいで、貴女が・・・・」
「何のこと?」ちゃら・・と外した帯止めを秋に渡しながらセイは問い質した
「セイちゃん、私を恨まないでね?」「恨むって、何もされていないよ?」
その時、セイに抱きついていた腕が、強くセイを捕まえ、男が後ろから
部屋に入ってくると、瞬時に何が起きるか悟った
ドンと秋を突き放し、胸元に忍ばせた小柄を握り締める
『舞妓が小柄か・・・・』
ふわりと香る血の匂い、きっと先程までの数時間彼は部屋を出て
人の命を貪っていたのだろう
多種な血の混ざる匂いに吐き気さえ覚える
『ほぅ、お前は俺に染み付いた香りが解るのか・・・』
武家の出でなければ、この独特の香りは解らないだろう
人が流す血液の香り
浴びる返り血は、甘く、そして、苦く・・・
「私をどうするおつもりですか?」
冷静に返すセイを見て、今まで陥れた女達と違うと秋も感じた
「セイなんで・・・なんでそんなん冷静に出来はるの?」
「冷静じゃないよ・・・怖いし。でも、怖いと思ったらそこで負けだから」
もう、懐の小柄はばれているだったら少しでも圧迫して時間を稼ごうと
胸元から抜き身を晒し、視線上に横にして小柄を構える
『随分使い慣れてるな・・・お前は何者だ』
「お前に言う必要は無いでしょう?」
セイが、正体を晒せば、恐らくは・・・この男も早急に殿を狙うであろうから
やぁ、と飛び掛ったセイの身体を、刀を抜きもせず、手を掴み背負ってから床に叩き付けた
「うっ・・・・ぐ・・・・」
しこたま打ち付けた背中が呼吸の方法を忘れたかのように息をする事を拒み
セイは、慌てて息を戻そうともがく。その間に手を後ろで縛られ、裏口に呼ばれた籠に載せられた
(沖田・・先生・・・・)
籠で運ばれた先は、山のふもと、そこから徒歩で1刻は歩いたのではないだろうか?
咎人のように後ろ手で縛り上げられ、身体も自由が利かない
刀は、無論女姿には必要ないと屯所に置いて沖田に管理を任せて来ている
このままでは、非常に不味い。影が報告をしていてくれたら良いのだが・・・・
セイは視線だけで木々の間を縫いながら男を捜すが、どうにも見つけられない
竊盗だったら、見つからなくて当たり前かな?と
想いながらもその場所に到着した
「滝・・・・?」
『秋、禊を』
セイの着ていた着物を全て脱がし、白装束に包む
『ほぅ、良い体だな』
男が嘗め回すようにセイの生まれたままの姿を見ると
ニヤリと笑った。
「セイちゃんこっちえ」ぐいっと紐を引かれ、滝の音が強くなり寒さがセイの身体を襲う滝の出す
身を清めるような清清しさと、体の穢れを祓う様な、強さにセイの体がぐら付いた
滝の押し出す力が強くて、首から後ろが酷く違うもののような感覚になった
寒さと、滝の容赦なく叩き付けてくる勢いに吸い込まれるようにセイは意識を失った
ぴちゃん・・・・
ぽたたっ・・・・・
ぴちゃん・・・・
冷たい水の中に居る自分の意識を取り戻すと、その水が凄く滑る事に驚き、
その水を取って良く見ると、赤い・・・・
血の海に、セイは漬けられていた
「いやぁああああああああああ」
悲痛な叫び、反響する壁に慌てて縋り付き、上へ逃れようとするが
その壁に付いている無数の爪あと・・・・
無数の・・・血痕
あぁ・・・ここは・・・・蠱毒の棲み家
井戸か何かなのだろう、上には空が広がっていた・・・。
もぞりと動く場所に目が行く
そんなに広くはない、ざっと見計らった所でも、畳6枚分ほど
その中の踝までに血が敷かれ、どれだけの血を集めたのかとセイの背中が粟立った
ドサリ・・・
上から落とされたモノに視線が集中する
「うっ・・・うわぁあああ!!!!!!!!!!」
その塊に身体を近づけ、その小さな塊を抱き上げる
「しっかり!しっかりしてっ!」
「しに・・・たく・・・ない・・・よ・・・お母様・・・・」
首から流れ出た血液、セイが首筋を押さえた所で、何も意味を持たない
太い血管を故意的に切り裂き、この穴へと落としているのは目に見えている
コトリ・・・とその男の子はセイに抱えられながら体から魂を抜いた
「やめろ!こんな幼い子供にまでする事ではないだろう!」
『ほぅ、随分と死に鈍感な女だな、普通なら泣き叫んで我を保てないと言うのに』
「煩いっ、もう、こんな事止めろ!蠱毒は一人で良いのだろう?」
『そこまで知っているか・・・だがな、コレは一人では気が済まぬのだよ
ほら、横に立っているではないか、お前を喰いたいと・・・・』
上から投げかけられる言葉に、慌てて横を振り向いた
「えっ、あなた・・・・」
セイの体が強張った
そこに居たのは鬼・・・・
体の大きい、意識があるのかないのか、獣のような瞳をセイの手の中へ向けると
その小さな身体を取り上げ、頭と身体を持つと、引き裂いていく
「うわぁあああああ!やめろぉおおおおおおお」
気が狂いそうで、何も考えたくなくなる
引き千切られた頭をその鬼はセイの顔に寄せる
「ひっ・・・」
生暖かい・・・・死を持って尚、身体は温かみを保つ事など出来るはずがない
子供の身体に貪りつき、骨までもバリバリと喰らう鬼が
一口毎に身体を変えていく
「なん・・・なの・・・・?」
後ずさりして、壁に体がぶつかり逃げ場を無くすと
鬼の体が、勢いをつけて小さくなり、セイの見慣れた姿に変貌する
「あ・・・き・・・さん」
悲しげにセイを見つめる目は、秋・・・・
どうしてと、聞いた所で彼女は答えられる訳が無いと思った
だが・・・
「セイちゃん、私な?人を殺した事があるんよ・・・・」
不意に語り出した、秋の過去
彼女は口減らしの為に幼女に出された
子の居ない夫婦にはとても嬉しい事でそれは、大事に大事に育ててた
だが、旦那の浮気が、発覚しその時の子供と言う者が現れ
立場が逆転したのだ。
旦那は自分の子供、自分の血の通った唯一の子供
だからこそ、我侭を許し逆に秋には冷たく仕打ちをした
逆に妻はその娘が気に入らない
自分の身体では子供が出来ないのだとその時知ったが
だからと言って、他に愛し産ませた子をはいそうですかと迎え入れる事は出来ず
秋に八つ当たりをしながら、その子供が来たことで秋を苛めると言う刷り込みをされてしまった
だから
「あれは、私が16の春やった・・・・沼にあの子を落としたんよ」
浮かんでくると信じてた
だが、その子は姿さえも見えず・・・・浮いてくる事も無かった
その時に、夫婦喧嘩をして罪を擦り合っている二人の言葉に
秋の心は切り裂かれたのだ
「あの子な・・・旦那はんに手篭めにされていたんよ・・・・・・・」
苦しくない訳がないと、秋は泣き崩れ何度も死のうと考えた
羨む気持ちから生まれた嫉妬は深く深く秋を傷つけ、相手に殺意を抱かせたのだ
「人を殺めて、貴女は死ぬほど苦しいんですよね?」
涙は流さないが、コクリと頷く秋にセイは続けた
「人の命ってそんなに軽いものではないし自分の人生だけで低一杯なのに
それ以上に死んだ人の人生まで背負うのはそんなに簡単なものではないです
でも、その人の命を刈り取ってしまったら、その人の分まで確りと生きなくては
その死んだ人が浮かばれませんよ・・・・」
「せやかて、私はもう蠱、蠱主のあの人には逆らえまへん」
「私を食べますか?」
セイの問い掛けに秋が身体を強張らせる。
セイの事はただ単純に可愛いお友達としか考えていなかった
蠱主に言われるがまま、人を喰らい妖力を強めて秋に変身するのだが、セイを食べるのを戸惑う
「多分、私は・・・貴女が食べれるほど純粋な人間ではないのです」
「え?それはどう言う・・・?」
「貴女は子供、女を主に食べている。貴女に劇薬となる人間が居るのではないですか?」
「え・・・何故それを?」
「あなたの心が教えてくれました・・・人を殺した人間は食べれないのでしょう?」
秋が、脅えた瞳をセイに向ける
その時だった・・・・
『何してる!早くその女を喰え!時間が無いっ、そろそろ追っ手が来てもおかしく無いんだ!』
蠱主が叫ぶ。きっと、セイが最後の力の源、コレを食べなければ秋は滅びる・・・・・
『秋っ早く!』
「無理ですよ、私人を殺した事在りますから。しかも、一人二人ではない・・・・」
自慢できるものではない、でも、彼女は新選組の隊士。
嫌でも、その場に身を捧げている以上は謀反者を殺害する事も、敵対している者を殺すことも当たり前
「咎人は食べれない・・それが貴女の全てではないのですか?」
「私っ、どうしまひょ・・・?」
「自分を許してあげてください・・・鬼に心を持っていかれないように」
ぎゅっと、セイは秋を抱き締めて呟いた
その回り込んだ手をぎゅっと抱き締めて秋が囁く
「ありがとう・・・・」
その瞬間、はらはらと・・・・桜が舞い落ちてきた
人が数人足音をなして、ドタドタと戦いを繰り広げている
「ごめんな・・・私、あの人をほっとけないんよ・・・・・」
シュンと一瞬にして秋の体が消えた
慌てて辺りを見回しても、姿は見えず、秋の名前を呼んだ時だった
穴の上からひょっこりと頭を出す愛しい人
「神谷さんっ!大丈夫ですかっ?」
「おぎだ・・・ぜんぜぇええ・・・・・」
涙なのか鼻水なのか、もう良く解らないほどの感情が溢れ出て
沖田の顔を遠巻きながらも見れた安堵感からドンドン涙が溢れ出る
「もう少し待ってて下さいね」
そう言いながら、総司が消え、セイは横にあった子供の骸を抱き締め、奥にそっと寝かせた
「ぐすっ・・・痛かったね・・・っ・・・」肩から腕に掛けて喰われた跡
その無くなった部分を埋める事は出来ない
子供の痛々しい姿に涙を流し、セイは空を見上げた
(先生は戦っているんだ・・・・)
どこかに出口はないかとうろうろとしているセイに
固まりかけている大量の血がセイを飲み込もうとしているようで
気持ち悪くなり、吐き気が込み上げて来る
(早く出ないと・・・狂ってしまいそう)
急に静まり返った地上に、何があったのかと不安を抱いた時だった
中に、ほおり込まれていた死体の視線がセイに向かう
「え・・・なに?」
じっと見つめられて、セイは恐怖を知る
歯根が噛みあわず、ガタガタと音を成し、その怨念に飲み込まれそうになる
心拍数が上がり、自分の弱い部分が曝け出される
だが、沖田が自分を迎えに来ている
確りとしなくては・・・と言い聞かせ、セイは目を閉じた
(見るのが怖いなら・・・見なければ良い・・・此処は私しか居ないのだから)
青ざめたセイを温かい何かが包んだ
(なに・・・?)
「酷い目に逢いましたね・・・・」その優しい声にセイは目を押し開いた
「あ・・・沖田先生・・・・」
中に飛び込んでくれたのだろう、セイの不安を消そうと必死に成ったのだろう、そんな総司に
ぎゅっとセイから抱き付き、恐怖でおかしくなりそうな自分を人間に縫い留めて置きたくて
セイは必死に総司にしがみ付いた
「これは・・・流石に酷いですね・・・・」
辺りを始めて見回した総司
死体が全て己を見ている錯覚・・・「あれ・・・おかしいですね・・・・」
ふらりと体が揺れる
「先生!」
セイが崩れそうな沖田を抱き止めると、青ざめてふらふらとする総司を
先程の自分と重ねた
「目を!閉じて下さいっ。絶対に開けないで」
だが、セイの言葉は届かなかった
既に飲み込まれた・・・・・
漆黒の闇に一人。
(あれ・・・?)
刀さえ持たない自分が、ふよふよと浮かんでいる
だが、何処を見やっても誰も居ない
「神谷さん?」
返事が無い・・・・
カサカサと足元をざわつかせるモノに目を見開いた
「虫・・・ですかね・・・大量過ぎて、いささか、不気味ですねぇ・・・」
基本素直な総司、蠱がどんどんと総司の心を食い千切る
綺麗に仮面を被せた部分を瘡蓋を剥がすように食い千切る
「神谷さんを己のものとしたい、狂おしいほど抱きたい」
(えぇ、そうですね・・・・)
「人を殺すのが隊務だけど、本当はそんな殺戮をしたい訳ではない」
(殺戮ではありませんよ・・近藤先生に従うまでです。でも・・・殺生は好みませんね・・・)
「女が欲しくて、いや、セイが欲しくて堪らないのに何故我慢をする?」
(あの子が・・・傷付きますから・・・・)
「だったら食ってしまえば良い」
(あぁ、そうか・・・傷さえも付かないままに・・・食ってしまえば良いんですね?)
「団子よりも、甘味よりも、満たされる」
(・・・)
侵食される心
総司の自制心は脆くは無い。だが
この術に掛かってしまえば、人は誰でも弱さを知る
「先生っ!」
パーンと頬を殴られ、総司の意識が戻った
「あ・・神谷・・・さん・・?」
「す、すいません、手を上げてしまって・・・ここで意識を攫われると大変なんです」
そう、今心を蝕まれて居たのは自分・・・そしてその弱さに引き込まれそうになっていた
「すいません!神谷さんっ」いきなりセイの身体を抱き寄せ、総司がセイの唇へ自分の唇と重ねた
「ん~!!むぐぐっ!!!」
抵抗するセイの唇から流れ込む陽の気
総司の感情が又組み立てられて、ふっと微笑んだ
「ごめんなさい・・・こうでもしておかないと狂ってしまいそうで・・・・」
真っ赤になったセイが、きょとんと総司を見やている
「私と、口付けする事で、狂わなくなると?」
「えぇ、神谷さんの陽の気が貰えるんですよ・・・本当にすいません・・・」
まだ、足元をふらつかせる総司に、セイは自ら唇を重ねた
「!!!」
首を横にかしげ飛び込んできた陽が、あまりに温かく心を凪ぐ
総司も自然に首を軽く横にすると、セイの腰をぎゅっと自分の身体に引き寄せ
深く唇を重ねた
「おい、こら・・・幾ら念者だからって、必死で戦ってる俺らを差し置いて
何気持ち良い事してんだよ!まったく・・・・」
その声に二人は身を慌てて離すと、お互いにすいませんと吐いた
結局消えてしまったらしいあの二人を追う事は出来なかった
だが、セイも総司も見ていなかったが、秋があの男を守りながら
必死に戦っていたと聞かされ、何処と無くセイは恋情を思った
(秋ちゃんはきっと、好きだったんだ・・・)
紐が下ろされ、セイと総司は無事この穴から抜け出たが
体中が血で染まり、悪臭を放っている
近くに禊をした滝があるという事もあり、セイと総司は慶喜に言われそこへと向かう
着替えとして用意されたのは、神谷清三郎の装束
髪紐を解き、流れるように髪が舞うと、総司も褌一枚になりそこへと向かう
白装束は脱げはしないが、セイも血を洗い流す為に滝の下へと向かった
「さっきはすいません・・・」滝の音に消されながらセイに届けた言葉に
返答は無かった、だが、流されないようにと総司がセイの手を握ると
確りと握り返してきたのが返答と取れた
ありがとう・・・・
人へと呼び戻してくれて
ありがとう・・・・・
生きていてくれて
失う事が怖いと何度も何度も、思った・・・
だが、総司の中で何かが生まれる
失わないように大事にするだけが愛の形ではない。
大好きだと、思える事が今一番お互いに大事な事なんだろう
大事だったら、箱にしまえば良い
だが、それは彼女を閉じ篭めるただの箱
だったら
共に時間を費やし、共に心の行くままで
愛を確かめ合えば良い・・・・・・・
=============================================================
2009.10.10
≪ 魂2 | | HOME | | 風 ≫ |