倉庫です。
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 贖罪9 | | HOME | | 恋蝶2 ≫ |
戦闘シーンの多い作品です。
カカナル初ですw
蛹になって、手を焼いた。
意外性だけを備えたお前は、すんなりと俺を受け入れ
その蛹が、淡い想いを抱かせた。
羽化し、蝶になったお前は…
俺の手からするりと抜けていってしまうのか?
お前を手放しはしない。
愛している等という言葉を告げるつもりは全くない。
だが、お前をそれ以上の思いで守り、慈しみたいんだ…
だから…還ってこい!
俺の…元へ
【恋蝶】=こちょう=
日が沈む少し前、カラスが帰路に付く。
そんな風景を、本日の任務を終えたナルトが
川原の土手の草に体を預けて見上げていた。
任務を終えたのは、今から一刻ほど前。
家に帰った所で、誰も待つ事のないそこへと足を向ける気にはならず
ボーッと川の流れを見ていた。
サラサラと流れる、川の水は暖かく包む空気を更に心地いいものに変えてくれるから不思議だ。
ゆったりとした夕暮れどきのこの時間は何時も何故か一人になるのが嫌だった。
迎えに来る母親…一緒に歩く父親…そんな姿を、羨ましく思った
そんな幼少時代に生まれたこの気持ちは未だナルトの心を引きずっている。
父も、母も自分を愛し、思いを託してくれた
その思いを知って尚…寂しいと言う気持ちはハッキリとは言えないが
それでも、当時何も知らなかった時に抱いた気持ちが
すぐに消える事をしてはくれなかったのだ。
”どうした?”
腹の奥から聞こえる声に、そっと手を腹へと置き
”なんでもないってばよ”
なんて答える。
最近、九尾が自分に話しかける事が多くなった。
と言っても、今まで話すらまともに出来ないほど憎しみに捉えられた
そんな感情をやっと…柔らかく包む事が出来た。
初めての…尾獣化で、クラマと言う名を知り
自分の中のもう一人の”守るべきもの”と和解した。
やっとひと時の平和を…過ごせているのだからと、唇の端を右側に釣り上げ
ありがとな…と腹に一声かけて瞳を伏せた。
寝ようと思った訳じゃなかった…ただ、幾重にも重なる戦いと、亡くなった人達への
思いと…そして、今自分があるべき姿を不意に想い
ギュッと目を閉じたまま眉間にしわを寄せた。
「俺ってば…まだ下忍なんだ…」
サクラも、シカマルも…みんな中忍に上がった。
自分だけが里を離れて修行をこなし、帰ってきては戦いに時間を割いた
その御蔭で、どうやら自分だけが取り残された位置にいると
ハタと気がついた。
別に、上に上がったからといって里を警護する事もやる事も変わる事はないが
カカシ班の、ドべは今もまだ…ドベって事だよな?
なんて思うとなんだか先生が可哀想に思えた。
実地は間違いなくクリアできる自信はある。
が…
「中忍試験か…」
ポロリと呟いてフッと目を開くと小さな子供がそこに立っていて
慌てて目を見開いた。
「なっ!なんだってばよ!」
目を開くまで、人の気配など感じなかった…
その子供はどこから湧いてきたのだろう?
感知はあまり得意な方ではないが、今まで培った経験上感じない事がおかしい…
と言うか…実際問題、これはまずいでしょ…と、カカシに絶対怒られるような失態。
人の気配に気が付かないほど、思いに耽っていた訳でもなかったはずなのに
と、眉間にしわを寄せると急に相手がニッコリと微笑んだ。
「ナルトさんですよね?」
「え?…あぁ、そうだってば」
「クス…僕貴方に憧れてるんです」
「はえっ?」
「俺もアカデミーでドべなんで…」
なんて、いきなり話しかけられて、その少年を見やった。
年は8歳ほどか?
物腰の柔らかさと、言葉の使い方が昔の自分とは正反対で
苦笑いして彼に言った
「ドべでも強くなれるってばよ!って、俺は自分をドべだとは思ってねェけどなっ!」
と、二パッと笑うと”そうですよね!”なんて頬を紅潮させるもんだから
ナルトも悪い気がしない。
「握手!してくれませんか?ナルトさん…それを支えに頑張りますから!」
と、意気揚々と目を輝かせる彼になんの疑いもなく手を差し出すと
チクリ…と、手に平に痛みを感じた。
「え?」
掌をバッと少年から引き抜くと、その手を開く…そしてそこからジワジワと呪印が広がった
丸く字の羅列が走り、指先まで巻き付くとビリビリと痺れが生まれ
うまく動かす事が出来ない。
「っ…熱っ…お前っ!」
相手を見やると既にその場より少し離れた位置まで身を翻していた少年が
ニッと笑って、溜息を落とした
「あーあ、案外あっさりだったね?無駄だからね?その呪印は一日で体を埋め尽くす
一刻(2時間)は意識を保てると思うけど…その後は心臓が止まるまで君の意識は、
体のどこかに封印されてしまう。」
ニッと笑う少年が、そっと側に近寄るとニッコリと微笑んだ
「うずまき…ナルト、君は邪魔な存在でしかない、木の葉には不要な人間って事さ
だって…俺に直接命を出したのは…火影のじじい達だからね?
僕としては…君の活躍をもっと見てたかったんだけど…まぁ、仕方ないよね?」
と、言葉にしてボンと姿を消していった。
取り残され、蠢く呪印に冷や汗を流しながら
ナルトは綱手の元へと向かおうとして、足を止めた。
(…綱手のバーちゃんは…ダメだ)
大御所たちが…切り捨てると言うものを
もし守ったら…綱手の好意は…木の葉にとっての悪意でしかない
ゆるりと、体を揺らしながら、ナルトはカカシを探した。
彼にしかこんな事言えない…動けるうちに、どうか…
チャクラを練り、分身を作ろうとして失敗した。
「クソッ!チャクラにも影響すんのかよっ」
段々と重く無る体。
けれど、やっと辿りついたカカシの家には、誰もいずナルトはその場で崩れるように倒れ込んだ。
ここでカカシを待とうか…でも一刻(2時間)で帰ってくる保証はない
もし任務に出ていたら…誰も自分の事を知る事なく…死んでいくのだろうか?
そんな事を考えたら急に恐怖という物が襲いかかりフルリと体を震わせた。
だが、カカシに伝えてどれをどうすれば良いのか…?
いや…助けて欲しいと願う為じゃない、最後に先生の顔が見たかった…
だから……
「どうした?お前冷や汗がすごいぞ」
ビクッとその声に体を硬直させ、すぐに声の主を探した。
スッとどこから現れたのか、カカシの忍犬がそこにはいた。
「…パックン」
「うむ、一応警護を頼まれててな…お前何かおかしいし
カカシもお前だったら話しても文句は言うまい」
「…そっか、でも会えて良かったってば…っ…う」
ズキンと腕が痛みを訴える。
黒くなった部分は感覚は殆どないが、未だ呪印が広がる所は
痛みが強く出るのだ。
パックンが話しかけてくれた御蔭で、自分の状況だけは
誰かに知って貰えると、安堵の溜息を吐き出して先程の事を伝えた
「カカシに伝えよう」
「あぁ…頼むってば」
「しては、お前は何処へ行くのだ?」
「俺は…家に」
「…解った!」
ポンと軽快な音を立てて消えたパックンを見送りつま先を返すと
来た道を戻る。
呪印が蠢き既に腕はすっぽりと黒く染められて
肩に掛かる違和感
ナルトは部屋に倒れ込むともう、動く事も億劫で
意識をそのまま手放してしまった。
”アホかお前は…もっとやり用があっただろう”
「うるせーってばよ!」
と…会話をするのは、クラマ
閉じ込められたそこは…クラマを封印した場所で
五月蝿いからさっさと出て行けと言われるも、出方が分からずに
結局その場所に留まっているしか出来なかった。
☆
任務を終えたカカシが、鬱蒼と繁る林を抜けたのは既に深夜を回っていた。
任務が早めに終わったからとのんびりガイと歩いて帰路に付いていたのだが
その道すがら、パックンが慌ててカカシの前に現れた。
「…どうしたのよ?家の警護頼んでたはずだけど?」
「カカシ!ナルトが危ないんだ!今日中に戻れるか?」
「は?…なに?どう言う事よ?」
「呪印を掛けられたらしい!」
「呪印…?一体誰が?」
「それは分からん、ただ…木の葉のジジイたちとナルトは言ってた
だから火影には言えないと…ナルトは家にいると言っておった急げカカシ!」
チッと大きく舌打ちをすると、カカシは急いで木の葉へと向かった
瞬身を会得しておいて良かったと、この時ほど思った事はないだろう。
(木の葉のじじい…って事は、大幹部か…綱手様に言えないって事は恐らく
そこが絡んでるだろう、急がなくちゃならないな…)
「ガイ!先に行くぞ」
返事を待たずカカシは速度を早めた。
里の為にあんなに頑張ってる子を殺めようとしているのは…
流石に頂けないでショ?…全く何考えてるんだ…
九尾…だろうな、きっと九尾を操れると知って
焦ったんだろう…今までのナルトへ対する仕打ちを思い起こして
九尾を操れると知り、きっと恐れたんだろう…
あぁ、なんて自分勝手なんだ…
どれほど、ナルトを傷つければ気が済むんだ…
あんなに幼かった子が成長した事を喜びもしないで何故
刺客を向けてしまったのだろう…
綱手にそれを告げようか…ぎりっと握り締めた手が痛いほど握りこまれて
そこから血が滴るほど、爪が食い込んでいる事に気付かずに木の葉の里に降り立った。
「カカシさん?お早いですね」
阿吽の門で、お帰りなさいと告げる見張りに、ご苦労さんと声だけ掛けて
急いでナルトの部屋へと向かった。
胸がギュッと鷲掴みされた気分で、ナルトの部屋をノックするも
部屋からの反応はない…ただ、不規則に流れ出るチャクラは感じる。
いつものように窓からではなく今回はドアから入ろうと回ったのだが
部屋は開かず、カカシは慌てて何時も顔を出す窓へと身を翻し
ガラス越しに見える倒れたナルトの姿に目を見開いた。
時折ふわりふわりと…赤いチャクラが漏れ出てて…
「クソッ、ナルト!」
ギッと窓を開こうとするが、鍵が締められていて矢も負えなくガラスを割って
中へと入り込むと、ナルトの体に体を滑り込ませ、抱き上げた。
ひと目で呪印は左手から刻まれてると言う所までは理解できるが
それ以上は自分では手に負えない…
だが、先ほど漏れ出ていたチャクラは感じず、赤いモヤはなんだったのかと
ちょっと首をかしげるが今はそれより優先しなければならない事があった。
呪印がどこまで進んでいるか、ナルトの上着のチャックを引き下げると
露に成った体から、蠢く呪印が半身を包んでいる事に眉間にしわを寄せた。
ギュッと抱きしめて、そっと髪を撫でると
カカシはそのままナルトを抱き上げた
「不本意だろうな?でもね、悪いけどナルトを死なせるわけには行かないんだよ
綱手様の所に運ぶからね?」
カカシは、ナルトを抱えて木の葉の病院へと向かった…が
不意に感じた違和感…その正体は一瞬で掴めた
恐らくは、これはカカシだったから…解った。
それ程巧妙な幻術結界。
(ちょっと…相手も本気ってこと?)
実際、結界だけだったら、他の者でも気が付けたかもしれないが
その上に結界まで丁寧に張り巡らせてくれている御蔭で
このまま病院へ駆け込んでいれば、ナルトの時間は殆ど無くなっていただろう。
「解!」
指を二本立て、幻術を解く言葉を口にすると、スッと道が開けて
今まで向かってた場所は…第三演習場だと気が付いた。
走っている最中に、違和感はあった…だからこそ、病院へ入る手前で幻術だと解ったが…
「このままじゃまずい」
演習場手前で木陰にナルトをそっと寄りかからせ
一歩前に出るとシュル…と巻物が宙を舞い、ギリっと指先を噛み締めると
印を素早く組んでいく。
「口寄せっ!」
ボンと現れたパックンに、事情を話し、カカシの家へ五代目を呼んでくれと
頼み込み、カカシはナルトを抱き上げると再び走り出した…
今度は自宅へと向かって。
幻術を掛けて、ナルトと綱手を故意的に巡り合わせないようにしている
手の込んだ仕掛けが、本気だと言っているようで口布の下でギリっと奥歯を噛み締めた。
カカシは深く息を吐きだし、やっとの思いで家へと滑り込んだ。
上半身の服を脱がし、ナルトの額の汗を拭うと、カカシはベットにナルトを運び
パンツ一枚の姿にすると呪印の蠢きを指先で追ってみる。
ソレで解ることもあるから…と、瞳を閉じその蠢きを感じると
チッと舌打ちを鳴らす。
一日か…既に今は深夜…時間は殆ど残されてはいない。
明日の昼過ぎから夕方頃には、ナルトは死んでしまう…そこまでは読み取れた。
既に左半身は黒い呪印に埋められ、カカシは居間のテーブルと椅子を移動した。
額あてを取り、手にあった巻物を開き写輪眼がそれを記憶していく。
「まさかここでやるとはな…でも、失敗はできない」
チラリと、ナルトの眠る場所に目を走らせて、直ぐに墨を用意しその器に
ブツブツと呪文を唱えながら印を結び終えると筆を走らせ
文字を部屋の中に書き込んでいく。
時折痛むのが、ナルトの方からウッと声が上がるたびに、グッと眉間にしわを寄せる
死ぬな…ナルト
頑張ってくれ
必死な思いが、走り抜ける。
ナルトの心に何度も触れ、何度も彼の言葉に、行動に
感銘を受けて、成長を見てきた
そして今になって…何度救ったか解らない木の葉に、裏切られた。
あってはならない事だと…悔しさがこみ上げる。
そんな思いを抑えながらも、書き上げた文字の中心部にナルトの体を横たえた
左手に呪印を施されているならそこに重ねるように封印を施せば
多少なりと時間が稼げると、カカシはナルトの手に手をかざし
逆の手の指を立てると、口元へと指先を持っていき
息が指先にかかる距離で言葉を綴った。
封印の術式が、ウヨウヨと生き物のようにナルトの体に入り込み
掌に書かれた文字が浮かび上がってくる。
その浮かび上がった呪術の文字の上にカカシの書いた文字がゆっくりと染み込んでいく
全てを終わらせると、ハァハァと額に汗を滲ませながらカカシはナルトの体をもう一度
指先を這わせて確認する。
止まった訳ではないが、残り二刻半(5時間)ほどは稼げたはず。
なかなか来ない綱手に苛立ちを感じながらベットへとナルトを戻し
カカシは、ベットの横で膝を付いてナルトを見やった。
「お前…ホントついてないね…ごめんね?
お前を苦しめる奴が居るこの里を嫌わないで?
ねぇ、ナルト聞こえる?…お前は強いんだよ…強くなりすぎて
…影が恐れたんだ、光のお前は眩しすぎるって…
ねぇ、ナルト…お前は火影になるんでショ?
お願いだから…こんな大人に絶望しないで」
ギュッと、右手を握り締めカカシが願う。
と、バン!!!と一際大きな音でカカシの家が開かれた。
今までに一度もこんな激しい音を立てた事のない家が、今日ばかりは
それではなかった。
「カカシ!」
「綱手様!」
肩で息をしながら、走り込んできた綱手に息つく間も与えず
カカシはナルトの説明をする。
自分が施した封印も含め話し終えると、綱手はカカシの寝室へと足を向けた。
「あのタヌキオヤジどもめ…」
手先がポゥと光ると、ナルトの体を隅々まで調べ
何かの手がかりを探している最中も、カカシはナルトの手をしっかりと
握りしめていた。
「ナルトの意識が見つからない…」
悔しそうに言う綱手に、カカシが目を見開いた
「意識を抜かれたって事ですか?」
「…いや、感じるんだ…居るのは解るが…ここか?」
腹の術式の上に手を充てがうと、綱手の手が弾かれた
「っ…拒絶か?」
「きょ…ぜつ?」
カカシが綱手を見上げると、フーと息を深く吐き出した。
「詳しく…ナルトに聞かねばならない…意識下で話す事が普通なら
叶うんだが、これは九尾がナルトを守っているのかもしれない」
もう一度、同じようにやってみるも、結果は同じでパチリと弾かれてしまうのだ。
思い出せカカシ…何かを忘れてはいないか?
引っかかってる正体が掴めず、眉間にシワを寄せる。
(何を忘れている?…重要なことを見落としている…それがなんなのか)
火影は必死にナルトの全てにチャクラを通しながら、意識を探している
九尾の…潜在意識の中…
それに、今まで何度か聞いた…中に居たのは封印を施したミナト
いや、それじゃぁない…
だったら何だ?
『サスケが来たってば…』
あぁ、そうだナルトの中に居た九尾とサスケが会話をしていた
それだけか?いや…トビだ!
共通するのは…写輪眼!!!!!
「綱手様!これは憶測でしかないのですが…」
写輪眼が、九尾と繋がるかもしれない。
そうだ、それが一番引っ掛かっていた事
「カカシ、それはサスケにしかできない…お前は写輪眼を所持しているが
正当な所持ではないだろう?チャクラが足りなくて死ぬのがオチだ」
「ナルトをこのまま死なせる事はしませんよ?
俺は無理でも行きます…きっちり半刻、ナルトが昼過ぎまでに
この状態を脱せれなければ、俺は行きます。」
「カカシ!火影命令だ」
「従えません」
「っ…お前っ!」
「ナルトを一人になんてさせませんよ?生まれて今までずっと孤独と戦って
死ぬまで孤独なんてやり切れないでしょ…俺が側に行ってやります。
例え…自分が死んでも、大事な子を守る事はさせて下さい」
強い目で発せられた言葉に綱手は深く息を吐いた。
恋情にも狂気にも似た想いが、しっかりと綱手にも伝わったから。
「解った…」
としか、言えなかった。
けれどその思いの強さは師弟関係だけなのか?
不意に浮かんだ疑問を口に載せた。
「カカシ、お前ナルトの事…」
切なそうな瞳が揺らりと揺らいでニッコリと笑った。
「伝えはしないですけど、本気ですよ…」
グッとナルトの手を握りしめて視線をナルトの顔に向ける。
苦しさが表情に出ているのだろう、眉間に寄ったシワ
時折ピクピクと動く指先は、ナルトが助けを求めているみたいで
直ぐにだって、写輪眼で側に行きたいと言うのに…
「いつから…?」
その問に、クスッと笑い声が一度響いた。
「もう、ずっと…コイツに片恋をしてます」
光なんてもんじゃない…
自分のやって来たこと、培ったこと、全てを真っさらにする
そんな感覚に最初は慣れなかった…
でも、彼を知り、暖かさに触れ思いに突き動かされ
淡く灯った心の正体を知ったのは、ナルトが自来也と里を出た時。
素直に寂しいと思った。
自分よりも強い、あの人に預ければ彼は成長すると解ってて
引き止めたい衝動が生まれた。
そこで、自分がどれだけ彼をかけがいのない存在に感じていたか思い知った。
成長して、再び会った時にはもう…心は自分を開放などしてくれず
会うたび、言葉を重ねる度に思いが自分を苦しめていた。
言うつもりはない…ナルトの邪魔をするわけには行かない
けれど、彼も同じ思いを抱いてくれていたら…
そんな淡い期待もどこかにあって…それに縋っている自分も
かなり滑稽だろう。
今まで培った女性経験というものを思い起こしても
こんなに苦しく切ない思いを抱いた事はなかった。
相手の事をここまで大事に思えるなら
きっと、思いを抱きながら彼を見続けることが出来るだろうと思える。
「そうか…」
「はい」
瞳を伏せ切なそうに笑ったカカシに、綱手は言葉を続けられなかった。
☆
現状は切迫しているというのに…体は痛みを訴えているだろうに…
真っ赤になったナルトが、水たまりの門の前でドタドタと頭を抱えてゴロゴロと体を捩った。
「っ…カカシ先生ってば、なっ、何言ってんだ!」
真っ赤な顔で、パタパタと顔を仰ぐあたり、可愛いもんだとクラマは思う。
そしてニヤリと、獣は口角を釣り上げた。
『あーっはっは!お前サスケにキスしたり、カカシに好かれたり
男にしか縁がねぇんじゃねぇのか?』
「っ!うっせー!このアホ狐め!」
『折角居座らせてやってるのに、その言い方かよ』
「う…、わ、悪かったってば」
素直に謝るナルトに苦笑いしながら、九尾の体がグッと起こされた。
「クラマ?」
フォン…と、辺り一面が妖気のようなものを纏いだした。
『彼奴を…カカシを迎え入れる』
「は?」
『このままワシもチンチクリンの腹の中で死ぬのは御免被りたいからな』
「あ”~チンチクリンってなんだってばよ~!」
なんて喚いているが、カカシ先生がここに来てくれれば…
打開策が生まれるかもしれない…けど、さっき綱手の言葉が
頭から離れない…
「く…クラマ?カカシ先生は…」
『不安そうだな?』
ニヤリと笑って言うクラマに真鍮の目を向けた。
不安で堪らない…自分の中に呼び込み、そして
この場所まで連れてきて、自分のように戻れなくなってしまえば
カカシを、死なせてしまう事になりかねない
『安心せい、彼奴の帰る道はワシがチャクラで作る。
そしてナルト…お前もだ』
「ほ、本当か?」
『あぁ…だが、他人を受け入れると言う事が、
苦痛である事に変わりはないからな?覚悟だけはしておけ』
ハーッと息を吐き、カカシの無事を伝えてくれたクラマに
ニッコリと微笑んだ。
「苦痛ってったって、前のサスケの時は全然苦痛なんてなかったぞ?
だーいじょうぶだって!俺は苦しくても耐えてみせるってばよ!」
『サスケは、同じような”モノ”を飼っているからな…
ワシとお前が居た時に深層心理の奥深くへ入れたように
サスケもこの場所には来やすかった…だが、
カカシはそう言う類のものを飼っている訳ではない
それだけ抵抗はあるだろう…恐らくは想いが流れ出ると思う…だが、命を繋ぐためにも、
カカシの想いに応えるためにもお前は死んではならん!』
こうして、会話をされてる最中も、ナルトの体は徐々に蝕まれている。
黒い呪印がゆっくりと、侵食していくのだ。
「暗部を呼べ!ナルトとカカシを保護施設へ!」
カカシの家では大移動が始まった。
たとえ大幹部がなんと言おうとも、ナルトを守ろうと言う
綱手の命により、暗部数人がナルトの体を運ぼうと腕を差し出した時
そっと、抱き上げたのはカカシだった。
「俺が…」
「解った、では行くぞ!」
あれだけ結界を張り巡らせた程の力を持つのは
暗部か、根か…だからこそ、カカシは自分でナルトを運ぼうと抱きかかえた。
下手に渡す事は出来ない。
ましてや里を収める火影よりも権力が上の人間を敵に回そうとするのだ。
今のナルトとカカシ、綱手にとっては…実際どこまで信用できるのか
それが疑わしい事でもある。
「綱手様…巻き込んですいません」
「…バカか!私を誰だと思ってる!
巻き込まれない方が苦しいわ!」
走りながらその言葉を交わし、カカシはホッと胸を撫で下ろした。
「ナルトを見つけた時、赤いチャクラのようなものが体を覆っていました
私が駆け付けた時は、既に消えていましたが…」
「チャクラのようなもの?随分曖昧だな」
「ハッキリとは分からなかったんです」
「それも調べておこう…」
二つの幻術を抜け、やっと火影の保護施設に入る事ができた。
中にはサクラとシズネが待っていて、現状は既に報告済みだったらしい。
ベットに寝かされたナルトの側に、サクラが慌てて寄り添って
手を翳すもチャクラに弾かれて、ナルトの意識を捕まえる事ができなかった。
「バカナルト!しっかりしなさいよね!なんであんたが命を狙われなくちゃならないのよ
今や木の葉の英雄とまで言われてるあんたが、こんな呪印に負けんじゃないわよ!」
と、頭をゴツリ…と叩く。
「おいおい、サクラその辺にしといてやって」
カカシが止めに入ると、苦しそうに下を向き唇を噛み締めた。
解っている…こんな理不尽な事。
里の人間達を理解させて、やっとの思いでここまで羽ばたいて来たと言うのに
羽根をちぎられた蝶のように羽ばたく事を拒まれたのだ。
「ナルト…ナルトぉ…ぐすっ…」
震えるサクラをそっと、カカシが胸に引き寄せた。
「大丈夫だ…俺が命に変えても、ナルトを連れ戻す術を探すだからサクラ
お前は、自分の出来ることをしてちょーだい?」
「はい…お願いします…カカシ先生」
「ん」
サクラはそっとカカシの胸から抜け出て、パタパタと何処かへと走り去った。
恐らくはその手の術の書かれた呪印の巻物でも探しに行ったのだろう。
他の人間も、
二人きりでその場所に居たカカシがポリッと銀髪を掻くと
そっと、ナルトの頬に指を這わせた
「ナルト…ナールト?聞こえる?…」
返事など帰って来ないのは解っている。
けれど…
「お前を失う訳には行かないんだ…だから…迎えに行くよ?」
優しい声が、腹の奥へと伝わり、ナルトが頬を染めながら
その言葉を胸に握り締めた。
『ありがとうだってばよ…カカシ先生』
なんて、聞こえて来たようで、目を見開くと
また…赤いモヤがふわりふわりと浮かんだ。
「これは!?」
”カカシか…?”
「…っ!?」
脳に直接語られる言葉のようで、カカシは慌ててナルトの腹の封印を見た。
ゆっくりだが、術式を書いたそれが蠢いている…。
「九尾…か?」
”主に時間を与えよう…来るが良い、写輪眼を開き
その封印へ手を”
「っ…」
グッとカカシが額あてを取り、ゆっくりと左目を開くと
意識がフラリと持っていかれる感覚にカカシが一度目を閉じた
「椅子に…座りながらじゃないと体が倒れる…少し待ってくれ」
ギッと丸い椅子を引き、ナルトの眠るベットのすぐ横に置き
カカシは写輪眼を開いた。
「よし、これで良い…手を当てればいいんだな?」
”はたけカカシ…来い”
ゆっくりとナルトの腹に手を宛てがったカカシがぐにゃりと視界を歪ませる
違和感に包まれて、体が自由を失っていく。
本体の体が、グラリと揺れ右手を腹に、頭をベットに預け
カカシの意識が九尾に誘われ、引かれる。
「うわぁああああっ!」
カカシの侵入に、違和感を感じて叫んだのはナルトだった。
カカシの思考がナルトの思考と重なる。
「なんだってばよおぉ!」
ハァハァと息を荒げ、止めどなく流れてくるカカシの感情や
想い…果ては、カカシの父や暗部時代…そんな古い思考まで
ナルトの中を駆け巡ってくるからたまったもんではない。
暗部で人を殺した感覚や、情報収集で理不尽な事をされた事
それを全て飲み込んで、任務を遂行したことや反感を持ったのに
それを飲み込んだこと…戦いの経験値…そんな物全てが流れ込んでくる。
サスケが来た時とは全然違うそれは
どれだけ自分に想いを寄せているかまで手に取るように解ってしまって
グッと胸を詰まらせた。
(こんな…こんな苦しい感情を…カカシ先生は持ってるのか?こんなに…っ…)
『ナルト、その思いをお前は受け止めなければならん、彼奴の思いを
知った上であいつをこの場所まで導くのはお前だ』
「ど…うした…ら、良いんだってばよ?」
「呼べ…彼奴の名を、願え…この場所へ来いと」
封印の間に座り込んだナルトも体力は削がれて
だらりと肢体を投げ出している状態なのだ
そう簡単に、呼べる訳もない。
カカシの年の分だけ蓄積された感情は、容赦なくナルトに染み込んでいくのだ。
父の姿が…不意にナルトの中に現れた。
波風ミナト…四代目火影にして自分の父は
カカシの先生をしていた時代があった。
流れ込んでくる記憶は、カカシに対してしていた言動や行動だが
それでも、優しく包み込まれるような感覚に苦しかった思考がふわりと優しく包まれた
(あぁ…父ちゃん…)
ハッハッハッハと息が小刻みになる中
ぐっと腹に力を入れて息を吸い込んだ。
「カカシせんせぇええええ!!」
ふわり…ふわり…と、赤いチャクラのようなものに包まれたカカシが
もやの中から姿を現すと、ペタリとそこに腰を落とし、クタリと体を横たえる。
「カ…カシ…先生?」
目は閉ざされ、息をしているのかさえ解らず
動かない体を必死に引きずりながら、カカシの側にナルトが近づく
「うっ…」
と、低い声と共に開かれた両目。
そのオッドアイと視線を絡ませてやっとホッと息を付いた。
「ナル…ト?」
「せんせー…大丈夫かぁ~?」
苦しそうに肩で息をしているが、掛ける言葉は優しさに溢れるものだった
「あ?あぁ…ここは?あ!そうだ、九尾!」
慌てて体を起こすとキョロキョロと辺りを見回したカカシに
ここに居るぞと、クラマが声を上げた。
≪ 贖罪9 | | HOME | | 恋蝶2 ≫ |