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続きです
優しい風に吹かれたい
★風-四-★
布団に押し込まれ、セイは、ぼーっとこの場所を眺めていた
沖田とは、この部屋にはあまり入らないと言う誓いを立てさせて此処に残ると決めたのだ
ありがとう・・・・
ありがとうございます。
いくら言葉を紡いでも足りないだろう
(生きる場所が無くなったはずだったのにな・・・・・)
側に居てくれと頼む総司が愛しくて、愛情表現の下手さに
セイも苦笑いをする
自分は恐らく、総司にとって掛け替えの無い家族なのだろうと
野暮天のセイは思う。
ドタドタ!スパン!
総司が帰ってきたのはこの慌しい音ですぐ判った
セイは倦怠感を抱えたまま起き上がると、総司がセイを見つけ微笑んだ
居てくれたのですね?と額に汗を滲ませながら微笑む総司に笑顔で返し
先生には負けました・・・と紡ぐ
総司が部屋に入って来ると、セイの心使いなのだろうか?
部屋全ての戸を開き、風を通す
「神谷さん~熱が上がってしまいますよぅ~?」
「大丈夫です、これ位が心地良いんです・・・。」
髪を下で結い、遅れた毛がさらりと、セイの頬を擽った
邪魔だと耳に掛ける仕草に総司の心音が強くなる
「せんせ・・・? 沖田先生?」
心地良い声が総司を空想から呼び戻し、なんですか?と言う返事に言い難そうに
セイが声を掛ける
「そろそろ、お部屋へお戻り下さい・・・」
「あぁ、そうですね・・・お約束ですものね・・・」
もっと、もっと、この儚い少女を目に焼き付けたいと願う心と裏腹に
突き放される寂しさに、悲しみの目を向け総司が立ち上がった
「あっ!局長から、文ですよ」
総司が思い出したように懐から出し、セイに渡すと
横に座り込んで一緒に読もうとする
「ちょ!沖田先生は向こうに行ってて下さい!私への文なんですから・・・」
えーと、反抗しながらも、セイに押され、部屋を後にした
神谷君、体はどうだい?
総司が無理を言ってなければ良いけど・・・
神谷君はまだ、重度の疾患ではないと法眼から聞かされたよ
なので、隊の仕事を請け負ってはくれないだろうか?
今までと同じ給金とは言えぬにしても、多少の報酬は渡そうと思う
監察や私の代筆や、帳簿等の仕事であれば
総司の元に居ても多少は仕事ができるだろう?
良い返事を待ってるよ。
近藤勇
(あぁ・・・なんて・・・なんて心の広い・・・・)
セイが文を読み終わると流れる涙を拭う事さえしないで感謝の思いを
心の中で何度も呟き、筆を取った・・・・。
げほっ・・・・げほっげほっ・・・うぐっ・・・・
パタパタと、畳に染み込む赤
背中にゾッと寒気が襲い、喉がヒューと渇く
あぁ・・・もう・・・仕事を請け負えないほど進行しているのかもしれない
でも・・・・だけど・・・・
監察の仕事は、時間がかかると迷惑を掛けますゆえ
その他で、出来る限りの仕事はさせて頂きます。
局長の心使い嬉しく、生きる気力となりました。
神谷清三郎
明日、沖田に渡してもらおう。
必死に、書き上げた文を汚れないように机へ置くと、涙を流しながら
畳の染みを拭いた
ゴシゴシと必死に拭き自分の吐血を総司に知られる前にと
仕事はすぐに持ち込まれ、セイも必死にその作業を繰り返す
指が痛くなるほどの文字数を書いたり、総司の洗濯をしたりと
緩やかで、それでも急激に時間だけが過ぎて行った
総司を部屋に入れなくなったのは冬が到来したと同時だった
咳をごまかせなくなったのだ
血液が散り、畳に華を咲かせると、セイはそれをまた
綺麗に拭きあげた
「神谷さん?入れてくださいよぅ~」
「ダメです、先生は入れないのです。」
セイは涙を溜めながら答え布団にもぐりこんでは泣き続ける日々
いっそ。。。死んでしまいたい
でも、先生の声が聞こえる内は、自分がまだ、言葉を話せるまでは・・・
そう思い何度も出て行きたい衝動を抑えた
隊務に出て行く時間が多く、殆ど帰って来ない総司
それに安堵するセイ。
毎日毎日無事を祈り、ふっと思い出した
「こうやって待っているのが嫌で、思いを伝えなかったんだっけ・・・・」
いつも安全を確認できる位置にいる総司をずっとずっと見てきた
でも、局長の危機にはきっと、身を挺してでも守るであろう・・・。
「入って良いか?」図太い声に、ハイと返事をし
床から起きると襖を全て開ききった
寒気に包まれる体をぎゅっと自分で抱きしめ暖を取る
法眼が部屋に入り、襖を閉めるとセイを診察し深く溜息を落とした
「あと・・・どれくらいでしょうか?」咳も頻繁に起き、吐血も回数が増えていく
もう、治らないと言う見通しは立っていた
「セイ・・・いいか?落ち着けよ?」
法眼の声が強張り、自分はそう長く生きれないのだと思い当たった
だが・・・
「沖田も労咳を発症した」
その言葉に、セイの瞳が大きく見開かれた
解っていて・・・残ってしまった・・・・
あぁ、なぜこんなに不公平なんだろう・・・
沖田先生の夢も希望も・・・私が奪ってしまった・・・・
固まったままで、セイは涙を流し呆けている
怒り狂うか、暴れるか・・・そう言う行動を取ると思ってた法眼が予想外のセイに
体を揺らし、頬を軽く叩きながら声を荒げた
「おめぇのせいじゃないぞ?解ってるのか?セイ!」
あの口付け・・・一度だけされた、あの口付けが、きっと
沢山の思いが巡る中、セイは気を失いパタリと倒れた
「言ってしまったんですね?」襖に背を寄り掛けた総司が
腕を組みながら呟いた
「すまねぇ・・・セイも時間が無いんだよ・・・・・」
その言葉に、総司が噛み付いた
「どう言う事ですか?後1年は生きられると言ってたでは在りませんかっ!」
「沖田・・・お前と同時期なのかも知れねぇ・・・・」
総司は既に発症していたのだ。
同じように過ごしたセイが咳を頻繁にする頃
総司も同じように咳をしていた
隊の連中に神谷と一緒なのは良いけど風邪まで一緒とは・・と
冷かされ、総司は照れていた
だが、セイは労咳であり、もしかしたら自分もそうなのかも知れないと・・・
喉が血を吹き上げる違和感に堪え難くなり、
総司は知られたくない思いから屯所で生活をしていたのだ
「んっ・・・」
薄く開かれた視線の先には・・・・
「おき・・た・・・先生・・・・」顔を見るなり涙が溢れ
セイは手を差し伸べた
「申し訳ありません・・・私が甘えたばっかりに・・・」
総司が、セイの背中に手を押し込み抱き上げると、自分の足の間に抱きかかえた
「もう逃がしませんよ?」クスクスと笑っている総司にセイが涙を増やし
止める事すら出来ない
「神谷さんと・・・一緒だったみたいですよ?
私が病を発症したのは・・・。
だから、神谷さんから貰える筈はありませんから安心して下さい」
総司の言葉がまだ飲み込めなくて、セイが必死に頭を働かせた
総司には恐らくは同じ感染経路を辿っているのだと
法眼が言っていたのだ。
「これで、私は入室禁止を解かれましたね?
一緒に療養して、共に・・・・やっと・・・・」
総司がセイを抱きしめ震えていた
自分の労咳を知り、打ち拉がれては居られなかった
セイも同じ苦しみを背負ったのだから・・・・。
お互いに痩せ細った体
その温かさを求め、総司がセイを抱きしめた
「私が隊務をこなせなくなり・・・・もう
あそこにも居ずらくなっているんです。
刀は構える事が出来ても、握力も落ちてしまい・・・・」
総司が囁きながら呟いた時だった
けほっ・・・げほっ・・・・げほげほっ
セイの口からこみ上げる赤
総司は眉を顰めて、セイの背中を摩った
「神谷さん・・・貴女まで先に置いて行かないで下さいね?」
総司が寂しそうに呟き、セイの口へと唇を重ねた
「沖田・・せんせい・・・・」
ひゅーひゅーと器官が音を孕みセイの声が擦れ行く
「仲良しさん・・・です・・・ね?」青白い顔でニッコリと微笑むセイに
そうですね。と相槌を打ち、もう一度唇を重ねた
「こう言う事って、慣れてないから・・・変な気分です。」
真っ赤になりながら、総司がセイの髪を優しく梳く
「私も・・・です。」セイも青白い顔にほんのりと血とは違う赤を孕ませ
総司の体にしがみ付いた。
「残してくれて、ありがとうございます。」
セイは、力を振り絞り紡いだ。
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