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【2010.9.1 4話完結】
総ちゃん、馬に蹴られて記憶喪失です!どうやって戻すんだろう?可愛そうなセイちゃん!ガンバレー
【 想 】=一=
悪戯に、摘み取られた想いは
幾度と無く苦しめ、幾度と無く求める
茜色の空が、漆黒の闇に飲み込まれそうになっている
そんな、夜に近い夕暮れだった
祭り囃子が気持ちを高潮させる中、新選組一番隊長の沖田が
隊士の神谷を連れ立って、甘味巡りをしていた
それは良くある風景で、何も変わらない
ただ、二人に必ず付き纏うモノがある・・・・それが、死と言う言葉
刀を握る以上、彼らは武士であり、誠を貫く事が使命である
が・・・・
互いに想いは伝わっては居ないものの
神谷、沖田共に互いを想い、恋心を抱く相手である
悟られてはいけない恋心。
悟ってはいけない恋心。
周りから見れば一目瞭然と言う説もあるが、それも然り
【想】=sou=
「あぁ、神谷さん今日はちょっとお祭りにでも足を伸ばしてみましょうか?」
既にあんみつを八杯は平らげ、大福を散々食べた腹がまだ喰いたいと言うのか?
ゲンナリとしたセイが、えーっと声を上げると
ニッコリとした総司が机に銀を置き、セイの手を握り神社へと向かった
「私は!行くとは言ってませんよ?」
「べっこうあめ!買って上げますからっ、行きましょう?ね!?」
子供のように、はしゃぐ彼の表情と、べっ甲飴に釣られ、セイも渋々ではあるが
仕方ありませんね・・・・と呟く
一緒に居たいという気持ちは、伝えてはならない
けれども、この男を守って死ぬならば本望とまで思える相手と、一緒に居れる事が
神谷清三郎にとっても一番の悦びである
「では、べっ甲飴三つは買ってもらわないとですね~」
ニコニコと微笑みながら言うと、総司が良いですよとすんなり返してくる
え?と言う驚いた顔を向けると、クスっと笑い
「神谷さんに一つ、私に二つで三個ですね!」
と、嬉しそうに伝えてくる総司に、開いた口が塞がらない
けれども、それもまた・・・・総司らしいのだ
ひと時、その時間だけは、二人が素で居れた時間
「ほら、神谷さんあーんして下さいよ~」
「ちょ!沖田先生やめて下さい恥ずかしいっ!童ではないんですからっ!」
「ほら、口を開けないと、あげませんよー?」
じゃれ合う二人に冷たい視線が刺さる
仕方が無い、それは、二人とも痛いほど経験してきている
京の人間が新選組を嫌っている事も、良くは想ってくれていない事も
だから、そんな視線など構わずに居た
神社の境内の露天が切れ掛かり、一気に賑わいが薄れた場所で
小さな男の子が土に絵を書いて遊んでいる
総司は根っからの子供好き、気になり側に寄ると
「上手ですね~」と、子供の頭をポンポンと撫でる
その景色が、微笑ましく、セイも腰を落とした瞬間だった
ヒヒーン!
大きな鳴き声と共に聞える男達の声
「暴れ馬だっ!逃げろっ!」
そしてしゃがみ込んだ三人の前に鼻息を荒くした馬が、ギロリと眼光を走らせ
ガバッと身体を持ち上げる
「坊や!」セイが、子供の身体を自分の身体で包み、身を小さくすると
総司がその前に走り出て、馬を睨みつける
けれども、馬の興奮度は最高潮に達していたのだろう
怯む様子さえ見せない馬が、総司目掛けて身体を振り下ろしてくる
避ければ・・・・・
セイが傷付く・・・・・
子供を置き去りに逃げるような子ではないから
(すいません、近藤さん、土方さん・・・)
一瞬にして、武士としての志より、セイを守ろうと決意が固まった
(神谷さん・・・・もしもの事が在っても・・・泣かないでくれますか?)
そう・・・・心で想った時
総司の左肩に蹄が振り落ちた
「ぐっ・・・・」
鈍い音と、ドサリ・・・と人の倒れる音に、セイが慌てて見下ろすと
頭から出血した総司がそこには倒れていた
「っ・・・・沖田先生っ!!!!!!!!」
総司の頭にぐるりと手拭を巻くと、セイが大声で男達を呼び寄せる
「戸板をっ!」
腰に刺さった二本を抜きセイがそれを抱えると
男達の手で松本法眼の診療所へと運んでもらった
「おい、セイどう言うこった」
「馬にっ、先生が馬にっ!」
法眼の襟首を捕まえ、助けてくれと懇願するセイ
状況が飲み込めないが、馬に蹴られたのは事実だろう
左肩が、嫌に腫れているのが目に入った
「診察をする、セイ屯所に戻ってこの事を伝えるんだ!わかったか?」
「先生っ、先生!」
「セイっ!」一際大きな声で名を呼ぶと、取り乱したセイがハッと我に返り
スイマセンと一言告げて、部屋を後にした
総司の頭部より出血していたのを考えれば
頭と肩に馬の蹄が当たったのだろうとセイは思い、両の手を合わせて無事を祈っていた
半々時も過ぎていない頃、法眼が出てくると、セイが両の手を白くするほど握り締め
震えて小さくなっているのを見つけた
「セイ、沖田は無事だ」
「え?本当ですか!?」
「頭は倒れた時に付いた傷だった、肩も骨折まではしてねぇだろうさ」
その言葉に安堵の溜息と共に大量の涙を落とした
「良かった・・・・では、私は屯所に戻って伝えます・・・ありがとう・・・・ありがとう御座いました!」
セイが法眼の両手を握り悦びを伝える
その姿に、苦笑いを向けると、とっとと行けと言葉を告げ
又沖田の眠る部屋へと戻って行った
屯所に戻ってその旨を伝えると、土方が、バカ総司が・・・と
ポツリと漏らした。
総司の事に付いて、心配しているのが、手に取るように解ったのは
これが初めてだろう
(やっぱり、副長も沖田先生が心配なんだよね・・・・)
セイは、土方に言いつけられ、総司を連れ帰る為に
再び法眼の診療所へと戻った
「沖田先生いらっしゃいますか?」
襖を開けると、ニッコリと微笑んで来る総司に、心底良かったと思えた
だから・・・普通に離し掛けただけだったのに・・・・
「先生ったら本当に心配しましたよ?大丈夫ですか?」
その言葉に、眉間に皺を寄せたのは総司だった
その違和感に、セイの笑顔が一気に引き攣った
「どうしました?頭打って、おかしくなったとか??」
「いや、神谷さん・・・でしたよね?あなた」
「え?・・・・・・」
「あなた、何故此処に?」
「な・・なんの冗談ですか?からかうの止めて下さいよ~」
と、伝えてみたが、違和感だけは拭えなかった
「からかうって・・・何故あなたをからかわなくてはならないんですか?」
「沖田先生・・・・?」
「あぁ、私の下に配属されたんですよね・・・確か」
言葉が食い違う
今まで居た年月が、嘘のように・・・・
「セ・・・あ、いや、神谷・・・」
背後から咳払いと共に聞える声に、涙目で振り返ったセイに
今の総司の状態を伝えた
「えええ!?記憶喪し!!!!んぐっ」
法眼に全て言い終わる前に口を押さえ込まれた
一時的に記憶が無くなっているとの事
セイの事も、新入隊士として参加していると思っている
だったら、あの当時の15才の頃
まだ・・・壬生浪と呼ばれた、あの当時の・・・・
驚きで、自分の口が渇くのが解った
手で、口を覆っても、嫌な汗が身体に纏わり付いてくる
「な・・・治るんですか?」
その言葉に、頭を横に捻り、何時になるとは保障できないと伝えられた
カランコロンと下駄が鳴る
一緒に歩いているのに、総司の歩幅と自分の歩幅はこうも違うのかと
思い知った・・・・。
「先程はスイマセン、南部さんからある程度聞きました・・・・」
総司の声も、言葉も一緒だというのに
「いえ」
よそよそしさだけは、人一倍感じた
「それにしても、暫く休養するだなんて、私には出来そうもありませんよ~」
「え?あ・・・肩を怪我してますので、暫くは休んでくださいね?」
「え~・・・まぁ、そうでしょうけど・・・・あっ!新選組って言いましたっけ?新しい名前」
総司の好奇心が今までの自分を聞きだそうと質問攻めにあい
今も昔も、総司は変る事は無いのだと・・・そう思えた
屯所に着くと、土方の部屋に入り、なんだか話をしているが
セイは斉藤に捕まっていた
無論、総司の記憶喪失
「やっぱり、兄上は情報早いですね~・・・・」
「神谷・・・なんか在ったら、俺に言うんだぞ?」
「え?あっ!ハイ!いつもありがとうございます!」
斉藤は、溜息を吐いた
総司が斉藤に正体を知れたと伝えていないお陰で
セイのお馬の時などの配慮をどうするか・・・・と言う点で
話し合う事が出来なかった
だが、今の総司にそれを解れと言うのも、愚問である
何かあれば頼れ・・・・それだけしか、伝えれなかった
翌朝から、稽古が始まり、総司は腕を吊った状態ではあるが
稽古に参加している
勿論、剣に関して妥協の言葉を知らない総司はきつかった
隊士も増えてある程度の臨機応変ぶりを見せてはいるものの
セイとの関わりが極端に減っているのも事実だった
(これが・・・普通なんだよね・・・・)
女と知れていなかった時の、総司
知られずに此処まで居たら、きっとこの状態が普通だっただろう
ぼんやりと考えた時だった、エーーーー!
声に、驚いて慌てて竹刀を握り直した時には、既に打ち込まれた後・・・・
周りからは、珍しいという声が上がったが、総司は上の空のセイを見逃さなかった
片手で竹刀を持つと、セイの手にビシッと竹刀を当て
セイの手に在った竹刀が床へと落とされた
痛みで、顔を歪めていたセイに、総司が冷たく言葉を突きつけた
「こんな腕で良く一番隊が勤まっていましたね」
悔しかった
スイマセンと言葉を告げたが、隊の皆が慰めてくれたが
悔しかった。
「さぁ、今日は上がりましょう!」
「 あ・・・神谷さんは床掃除と素振り三百してから上がって下さいね」
「ハイッ!」
まだ、言葉を掛けて貰えただけ、良かったと思えた
ダダダッと、床を拭きながら、泣いた
久しぶりの総司の言葉は胸が締め付けられるような痛みとなってセイに降り注いだ
神谷流は、総司との修練の時しか見せられない
力の無いセイが、男に混じって戦うと言うだけで賞賛ものなのだが
なにせ、女だとは思っても居ないだろう
何時も、百は素振りをするのだが、三百となると腕も上がらなくなってくる
けれど、一瞬でも油断してしまった自分への戒めでもあるのだと
唇を噛み締めて素振りを続けた
「あれ?まだ終わってなかったんですか?」
湯上りの総司が道場の明かりを見つけて歩み寄ってきたのだ
その中でセイが必死に素振りを繰り返してるのを見つけて声を掛けてきた
「っは・・・・・すいま・・・・せんっ・・・・」
「はぁ、三百程度で腕が下がりすぎですよ?」
「ハイッ!」
呆れたように声を掛けて来る
解ってはいた・・・・
けれど・・・・・
悲鳴を上げ出した腕は、三百を終える頃には全く上がらない状態だった
だが、その姿をただ黙って、見ている総司に格好の悪い姿だけは見せたくないと
失念されたくない思いから必死に振り上げていたのだ
先日斬られた肩の傷が、ついに耐え切れないと裂けた
だが、その一瞬の痛みさえ解らずに、セイは振り続けたのだ
ポタリと・・・血液が床に滲む
「そろそろ、上がって良いですよ」
「いえ、後十回ですので・・・・」
「解りました、では、終わったら夕餉を食べて下さいね、膳は取っておくよう伝えてありますから」
「ハイ、ありがとうございます」
下駄の音が遠ざかる中、セイは涙ぐみながら竹刀を振り上げた
最後の十回、たったそれだけが辛いと心底思いながら、三百を振りぬき、膳の前に座ったが
腕が上がらない
カタカタと震えながらご飯を口へと運ぶが、思うように箸が進まない
深い溜息を吐きながら、味噌汁を啜り、隊士部屋へと戻った
「神谷」戻る最中に手を引かれ、斉藤がセイの肩から血が出ていると伝えた
疲れ果てたセイが薄く微笑み、ありがとう御座いますと告げたが
総司が居ない今、屯所での手当ては無理であろう
塗り薬すら塗れない状況で斉藤に頼める訳も無い
深い溜息を吐き落とすと、斉藤にちょっと、用を足しに出かけると伝え
そのまま。法眼の元へと向かった
無論、斉藤一、大事な裕馬の妹を見ぬ振りなどできず、愛しの女子を
法眼の診療所まで後を着けて見送った
一方、総司はセイがナカナカ戻らないので、気を病んでいた
きつく言い過ぎただろうか?と言う問題と向き合っていたのだが
一隊士に、そこまで焦心する必要も無いだろうと何度か迎えに行くのを断念していた
だが、他の隊士の話しに寄る自分と神谷の位置関係が
どうも不安を呼ぶのだ
衆道の気など、全く無い自分がセイと念友だと告げた事実や
何時も一緒に行動していた事
そして何より、自分が、セイに対してだけは、甘かったのではないだろうかと
思い至るような言葉を沢山聞かされていた
「では、私が神谷さんを?」
「ええ、そうですよ?月見の決闘の時だって、混ぜてくれと乱入した挙句神谷は
先生を選んだんですからねぇ~斉藤先生と涙を呑みましたよ!」
尾ひれが着いているようには聞えない
だが、衆道など興味の欠片すらないと言うのに
自分は何故あの子にそこまで拘っていたのだろうか?
総司は気を病んだ
セイの一途さは、他の隊士達が言ってた通りであれば
自分は弟のように可愛がっていたのだろうと思う
うーんと、深く思考している時に、奥で話している言葉が耳に入ってきた
「神谷があの怪我さえ治っていれば、今日の練習だって、俺勝ててなかっただろうな」
その言葉に総司が反応をし、その隊士に詰め寄って話を聞くこととなる
自分を庇って怪我をした事、そしてその怪我で、暫くの間土方と近藤の小姓をしていた事
やっと戻ったが、傷がまだ完治してなくて、総司が薬を塗ってやっていた事
その、傷を負ったまま・・・・・
「あぁ、何でもっと早く教えてくれないんですか~!神谷さんに三百も素振りさせたんですよ?」
ドタバタと、隊士部屋を出て総司はセイを探した
けれども、屯所に居ないセイと出会うことは無く
門番に聞いて、出かけたと言う言葉に慌てて提灯を持ち探しに出て行った
何故、こんなに必死に探しているのか?
そんな事は、どう考えても判らない
だったら本能のまま探せば良い・・・・
と、少し走った所で、提灯が二つ揺れ動いていた
足元を照らしてあげている男と・・・・嬉しそうに会話して戻ってくる・・・神谷
「神谷さんっ!」
「あ・・・沖田先生!?」
「何やってたんですか!?私に黙って出るのはダメですよ?」
「あ・・・申し訳ありません・・・肩の傷が開いてしまったので松本法眼の所へ行っていました」
「まぁ、今日は許してやれ、沖田さん」
その声に、男の正体が斉藤だと知った
月見の決闘の時に、セイを欲した男
「斉藤さんは、三番隊の隊長をされているんですよね?なのに何故?」
二人の間にセイを挟み、会話が続く
「清三郎が夜道を一人で歩いているのと出くわしただけだが」
相も変わらず、無表情ではあるがほんのり・・・・頬を染めたような
そんな斉藤を信じられない気がするが、だがこの男は間違いなく
嘘など吐ける男ではないと信じていた
「そうですか・・・・ありがとうございます。神谷さんも今度から出かける時は私に言ってくださいね?」
不安からか、仕事だから・・・・既に理解の域を超えていた
けれど、斉藤に頼れて何故自分ではダメなのだろうとふと考えてみる
けれども、解るはずも無く眉間が段々と疲れてくる結果となった
何故、こんなに心が乱れるのか
何故、こんなにも気に留めてしまうのか
解らない・・・・
なぜ、記憶を手放してしまったのか・・・・・
胸苦しさだけが、どんどんと心を侵食する
==========================================2010.5.9
【 想 】=ニ=
セイの肩の事を知り、練習は控えめに切り上げるようにしてはいる
けれども、素早さを持った動きが気になり、総司が首を捻る
(ん~あの動きがあるなら他にもっと神谷さんに合った型が作れるような・・・・)
ちょこまかと、可愛らしく動くセイに
もっと、セイの動きを使えないかと考えていく
(それにしても、あの子…体に合った良い刀を使っているなぁ・・・・)
総司自身が誂えたなど、覚えてはいない
ただ純粋に、セイの刀が美しかった
稽古が終わり、総司が井戸で顔を洗っていると、不意に声が掛かった
「あ!土方さん♪」
「土方さん♪じゃねぇ~よ!てめぇ、まだ思いださねぇのか?」
心配そうな顔を総司に向けると、顔についた水滴を拭いながら、ははっと笑った
「やだなぁ~もぉ、私は記憶を無くしたって今までと変わりないでしょう?」
「ああ、そりゃーそうだがよ・・・・」
「何か不都合でもありますか?」
「あ、いや、ねぇよ」
「もぉ、土方さんったら、可愛いんだからっ」
その言葉に真っ赤になった土方が総司の側に寄って首を絞める
じゃれあい…なのだが
そんなじゃれあいも、最近は切羽詰った状態が続いていて
出来るものでもなかった
「総司、神谷はなんか言ってるのか?」
「え?」
なぜ、此処でセイの名前が出るのか
不可思議でならないが、隊士達から聞いた話では土方の小姓もやった事がある子だ
気に留めるのは当たり前だろうと解釈し、何も言ってませんよと返す
それに、溜息を落としながらそうか…とだけ告げると、ドタドタと廊下を走る音が響いた
無論、武士たるもの落ち着きが無くてはならない
キッと睨みを利かし、睨んだ先に話題の子
「かーみーやー・・・・」
「あっ!副長!」
「てめぇ、廊下走ってんじゃねぇ!」
「すいません、どうやら巡察中の3番隊で怪我人が出たらしくって」
「解った、行け」
セイが、小包を胸に抱えペコリと頭を下げて走っていく
総司はニコニコしながら土方を見つめていた
「あ? なんだよ」
「いえ、神谷さんには甘いなと思って」
「はぁ?てめぇほどじゃねぇよ」
「え?私がですか…?」
そう、記憶を失うと言うのは、こう言う事だ
土方は徐に総司の肩にトンと両の手を乗せた
「お前なぁ・・・・」
語られたのは、セイを追って伏見へ出向いた話
色を付け、ニヤニヤとしながら語る土方はとても満足が行った様だった
最後まで話すと、総司はありえないと呟き、頭を抱えて何処かへと逃げていった
その姿が又、総司らしいと大笑いをし、思惑通りの反応を楽しんだ
総司が頭を冷やそうと飛び出したまでは良いが、
逃げて辿り着いた
丁度その場所で、怪我人を手当てしている部屋が見えた
唸り声や、慌ただしい人の声に、どれどれと窓格子から覗き見た
てきぱきと傷を処理しながら、他の人に指示を出している姿は堂々として
美しくも思えた
「神谷さんって……やり手婆みたいですねぇ」
ポツリと呟いた声が聞こえたかのように、自分と視線が合った
「っつ!」
「沖田先生暇でしたらお手伝いして下さい!」
「え?あ…ハイ…」
どうやら今回の巡察では長州が絡んだ戦いだったらしく
怪我人が5名ほど居た
セイがどれだけ上手にやりくりしても、手伝う者が居なければ
時間が掛かってしまうのだ
そんな時に総司を見つけてしまえば、使うのも、理に叶っているだろう
指示をされて動く
解る所は自分で…
そうやって、どうにか落ち着きを見せた医室
後は、南部か法眼が来るのを待てば良いとの事で
総司もその場から開放される事となった
「あ、沖田先生スイマセンでした、使ってしまって…」
「いえいえ、良いんですよ。怪我人は早く処置した方が良いですしね」
「ちょっと待ってて下さいね」
総司の言葉を最後まで聞ききらない内に、セイが手を振りながらそこで待てと
総司に伝えて来た。
無論、待つ義理も無いのだろうが、大人しく待っていると
セイの両手に、抱え込まれた饅頭
「あっ!♪」
「どうぞ、お食べ下さい。お手伝いのご褒美です」
セイに言われるがままに、口一杯に饅頭を頬張りニコニコとする
「ひゃーわはひもかみひゃはんひほほうひあへなひと!」
「…先生、飲み込んでから話して下さい!」
「はひ…ひゅいまへん…」
二人で、久しぶりにゆっくりと一緒に居る気がした
セイの胸がキュッと締め付けられる
「美味しいですか?」
「ええ!」
五つ在った饅頭が三個既に胃袋へと押し込められ
両の手で一つずつを持つと、セイの顔を見やる
その行動にニッコリと微笑みセイが、どうぞ。と告げると
又嬉しそうな顔で、饅頭を頬張った
そんな子供っぽい所も好きだったなと、不意に想うと
この前まで一緒に居た総司に逢いたいと思えた
今の総司も、昔の総司も変る事は無いのに
自分が入隊した時の記憶しか持って居ない
だからこそ、積み重ねてきた信頼関係や恋心など
今の総司には全く不要なもの
ただの、隊士と隊長と言う以外、何も無い…
「神谷さんに私もご褒美上げないとですね~」
「え?私は良いですよ~」
「何言ってるんですか!怪我人の介抱して、しかも大事な饅頭をくれたんですから
明日甘味屋さんへ連れて行ってあげますよ~」
その言葉が凄く嬉しかった
記憶をなくしても、又一緒に…
「ハイ!ありがとうございます!」
たった数日記憶をなくしていると言うだけなのに
寂しさで胸が押し潰れそうだった
やはり、それだけ総司に頼っていた自分とも出会えた
けれど、寂しさだけが胸をドンドン侵食していったのが
手に取るように解っていた
だから…嬉しいと素直に思えたのだろう
だが、明日、明後日辺りに来るであろうお馬
セイに不安が過ぎった。
今回はばれてはいけない…絶対に
今の総司があの時と同じ様に押し切られてしまうかもしれないが
あの時は理由があった…
父と兄の敵を取ると言う立派な理由
「はぁ、私はどうしたら良いのでしょうか?」
空を見上げ呟くと、雀が数匹飛び去った
深い溜息が吐かれるのを木陰に隠れていた斉藤の耳へと渡った
(神谷…そろそろなのか?俺に頼って来い…)
熱視線を送ってみた所で、セイに気付かれては不味い
斉藤はセイの溜息ごと自分の肺を膨らませ、吐き出すと
思考の世界へと身を投じた
翌朝、非番の総司とセイが出かけると耳にし、落ち着き無く
斉藤がセイを呼び止めた
けれど……
「あ、神谷気をつけるんだぞ?」
「ハイ!兄上♪」嬉しそうなセイに困った事があればとか
言葉に出来るはずも無く斉藤は苦虫を噛む
のんきな、否何も知らない総司は甘味を食べれるとウキウキである
セイが苦笑いしながらも、今日の対策として
早くも詰め物をして万全にはした
けれども、この策も結局の所変えなければならない
今日お馬になれば、休みを貰うのが2日に減るので
それはそれでありがたいのだが
今は総司に疑われないよう必死に甘味巡りをしていた
時折締め付けられる腹に、下唇を噛み締め
下腹部の違和感が段々と強くなってくる頃
セイは真っ青な顔で総司に告げた
「すいません、先生明日と明後日の二日間勝手とは解っていますが
休暇をいただきたいのですが…」
勢い良く食べていた甘味を置いて、ジッとセイを見つめた
「どこか体が悪いのでしょうか?」
「え、あ…いえ、先生が何時も許可を下さっていたので、妾の家へ…」
「妾…ですか、あなたも可愛い顔して、隊より妾なんですか?」
「え?そんな事はありません!」
総司の言葉に驚き、セイは訂正をしようとしてみても
無駄なあがき
今の新選組の立場は、公が亡くなり危機が切迫している状態
そんな状態で妾の家に居続けをしたいと申し出ているセイに
総司は眉間に皺を寄せる
「いえ、申し訳ありません本日はこのまま妾宅へ行き
明日の午後の巡察までに戻ります」
総司は残ったあんみつを一気に胃袋へ流し込むと
ニッコリと微笑んだ
「良かった、危うく、士道不覚悟で斬り捨てる所でした」
微笑みの奥に見える鬼に、背筋がゾゾッと冷たくなる
そうだ、総司は全て知っていたのだから
居続けも許されていたのだ。。。。
自分の考えの甘さが情けなかった
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2010.5.17
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