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優9 完結

うちのサイトで一番人気の高かった作品です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

★=失墜=★





迷った時は、迷えば良い
困った時は困れば良い
それが人間なのだから・・・・・

【失墜】

セイに溺れ、総司は心満たされた
思い続けた彼女が、自分の思いに答え、身を委ねてくる姿は
あの時代では決して見れなかった
否、見たのかもしれない
けれど

見る勇気が無かった

「今日は、ゆっくりしていきなさい」
直ぐにハイと帰ってくる答えのはずだった
だが、「すいませんが、今日はもう帰ります」と言う言葉で
心にあった喜びが一瞬にして消えた

総司に抱かれた時に、貫かれた瞬間
あの時に垣間見た過去の自分がやけに鮮明にセイの脳裏に焼きついていた
痛みで、歪む自分の中に現れたあの、血の涙を流した自分は、きっと
今の自分。まどろんだ中で思い浮かべれはしなかったが、意識がはっきりするほどに
思い起こしてしまった。

交わってはいけなかったんだと、セイは思った


その事を考えると、居ても立っても居られなくなり総司を思う気持ちを
優位に上回った。
「どうしたんですか!?」総司が帰り支度をするセイの腕を掴んだ
「私・・・私っ、すいませんっ」
総司の腕を振り解き、セイの足が玄関を出て行く
バタバタと出て行ったセイをただ呆然と見つめ、その後に我に帰ると総司はテーブルを殴りつけた
何故・・・彼女は出て行ったのだろう?
何故・・・・
自分から離れていくのか・・・・
苛立ちは募るばかりで、先程までの甘い空気は一瞬にして消え去った

無我夢中で彼女を抱いた
それは自分でも自覚していた
だが、あの後の彼女はこんな風ではなかった
お互いに思いが通じ合い幸せを絵に描いたような、そんな二人だったはずなのに
何がこの関係を歪ませたのか

解る訳が無い

それはセイ自身の問題だった

「そんなっ!そんなぁ・・・・あああっ!」
川縁で涙を抑えようともしないで泣くセイ
今まで大事に持っていた、誠の文字の刺繍が入ったあの時代の肩章
それが、着替えている時にセイの手の中で消えて行ったのだ

それは何を意味する事なのか
血の涙を流す自分と、消えた誠
自分の存在価値が総司に抱かれる事によって消えたのだろうかと
セイは思った。

「沖田・・・先生・・・・っつ・・・うううう」
草木が揺れ動き、風がセイの髪をなびかせる
時代が変わっても、草も木も、同じ様に揺れるのだなと、ふっと思った
数時間その場で過ごした後、泣き腫らした目で道場へと戻ると沖田が不機嫌そうな顔で
セイを待っていた
「先生・・・・・」
近藤も困ったような視線を向けてくる
「携帯もバックも忘れるほど嫌だったんですか?」

総司に突っ返された、携帯とバック
セイは、総司の勘違いを解かなければと、慌てて腕を掴み自分の部屋へと連れて行った

「嫌だったなら、あの時何故断らなかったんですか・・・・」
「嫌で逃げ出したのではありません・・・・見て下さい。」
総司をベットに座らせ、下に置かれているセイの着ていた隊服を総司に渡した
「これは・・・」
「副長と最後に戦った時のものです・・・・沖田先生の着物を直して私が着ていたんです」
「これが何だというんですか?」
渡されるだけでは解らない、無論セイもそれは知っている
「そして、これが・・・・」
総司の手に乗せられた髪の束
癖のある緩やかな曲線に見覚えが無い訳が無い
「遺髪・・・」
「そして、もう一品、最後の戦いで付けていた肩章が、先生の部屋で消えました・・・・」
「え?」
セイは総司の横に腰を下ろし、総司の肩に頭を乗せると、腕を絡めた
「私は、近いうちに・・・消えると思います」
ビクッと総司の身体が慄いた
セイはそれを見越して腕を絡めたのか?それとも離れたくない思いがそうさせたのか
総司がセイの身体を掻き抱き、嫌ですと声を荒げた

「歪みは、出来ていたんです・・・逆らえる訳ありません」
「ダメですよっ、何故消えると思うんですかっ」
必死に告げる総司に悲しい微笑を向けたセイが、逆に総司を抱き締めた


「やはり、私は大きな咎を背負ってきたんですよ
沖田総司を思い続ける余り、此処まで追って来たのは私の私情なのかもしれません
最後に、命消える時に逢いたいと願いましたそして、それが叶った・・・・・
思う以上に、先生の思いを受けて、私は満足したのかもしれないです・・・」

「やめて下さい!折角・・・折角この時代で共に歩めると思ったのに
居なくなるなんて・・・・」

「いつ、消えるのかは解りません、この地に降り立ってから既に半年は過ぎました
あの時代のものが消えると言うのは、なぜかは解りませんけど半年に一つとしたって
私は後、袴、隊服、遺髪、刀の4つ・・・・
そして私の身体・・・・」

二人を心配して廊下で待ってる近藤を引き入れ、総司と孝と近藤そしてセイが
経緯を話し、総司に抱かれた事も全てを暴露した上で、消える可能性がある事を告げた

二人の恋情を聞かされ近藤も孝も涙を流しながら思考を働かせた
だが、こんな実例は無いに等しい
恐らく誰かに語ったとしても、それは素敵なファンタジーと言われ流されるが落ちだ
大きな不安が二人を包んだ


ブブブ・・・・ブブブッ・・・
総司の携帯がバイブ機能にしていた為揺れて電話を知らせる
今はそれどころではなかったが、電話の主は土方
席を外し、総司は電話に出た


「はい・・・・」
「なんだ、随分しけた声してやがるな。神谷にフラレタか?」
心底心配して掛けて来てるのは総司も解っている
だが、元気に返せる訳が無い・・・・今は総司にとっても辛い時なのだから
「すいません、後で時間もらえませんか?」
土方に話そう、そう思った
セイの側を離れられない、それはもう自分の恋情がそうさせている
だったら、一緒に消えるまで彼女を愛せば良い
出来る限り、あの子の側であの子の為に、置いて行かれたら・・・・

後を追えば良い・・・・・・・

ぎぃ・・・と、セイの部屋のドアを開け、孝とセイがすがり付いて泣いていた
痛々しい姿を見ながら、総司は幾分落ち着きを取り戻し近藤の横に座った

正座をし、両の手を膝の上で握り締めた手は血流を悪くしているのだろう
皺の出来た場所から白く変色している
その姿を見た近藤が、総司の肩を抱いた

「神谷さん・・・私ね、決めましたよ」
泣いていたセイがはっと顔を上げると、ぽってりと膨らんだ瞼の奥から視線を向けた

「貴女が消えると言うのは、想定でしかない、今悲観した所でどうにも成りませんからね
だから、私は貴女が消えるまで共に生きたいと思います。
それが例え、明日でも明後日でも構わない・・・・一度は貴女を置いて消えた私ですから
この苦しみは貴女の受けた苦しみと大差はないでしょ?
だから・・・」
セイの瞳が段々大きく見開かれていく中で深呼吸をして最後の言葉を振り絞った

「一緒に住みましょう。」


総司の決意は、どう、セイに伝わるかは解らなかった
けれど、自分は思ったことしか口に出せない
それはセイも一緒に生きた数年で解っていると思う
だったら、嘘偽りなくセイを思い続けてあげるのが良いと
総司は素直に思ったのだ

「そ、そんな!ダメです・・・だって先生には」
「あの子には、私から伝えてきます。もう2年も逢ってないし・・・」
視線を伏せるのは、後ろめたいからなのかそれとも・・・・ただのずるい男だからなのか

「神谷君、総司の元へ行ってくれるかい?」
今まで押し黙っていた近藤がセイに告げた
無論一斉に近藤に視線を向けると、照れ笑いしたように、ははっと、はにかみ
腕を組むと話を始めた

「彼女の事は知っているけど、あの子は一度別れている
そして、付き合うと返事をする前にあの子は答えを聞けない状況になってしまった

恐らく、総司が付き合うと決めてあの子の思いに答えると伝えた後だったら
こんな事は言わなかっただろう。
でもね?君達は私の知っている限りで、どんな夫婦よりも近い場所で互いを見てきた
無論、あの時代での儚い思いも今は堂々と伝え合える。そんな中
昔から、いや・・試衛館の頃から見てきた総司が、幸せを手放すなんて見ていられないんだよ
だったら、神谷君が側に居て、総司が地に足を着け確りと前を見て歩く姿が見たい。
ほんのひと時でも、そう在れた事に総司も成長するだろうし、神谷君だって何か解るかもしれない
消えるのだったら、思いを封じ合わないで今のこの時間を大事にして欲しい」

近藤の思いがこみ上げてくる
自分達がどんなに温かい物に包まれて生きてきたかをふっと思うと
温かい感情が流れ込んでくる

「私の思いなんて叶わなくってもいい、ただ、神谷さんと共に居れるならば」
総司がセイの側まで足を進め身体を掻き抱くと痛い位に締め付けてくる
震えながら抱き締めてくる総司の思いにセイも答えようと手を沿え
総司を抱き返した

「私は、沖田先生の元に行きます・・・・」
セイが搾り出した答えに、総司の抱擁が更に強くなった
ありがとうと・・・彼は言った




数時間土方と会ってくると席を外した折にセイは近藤と孝に感謝を告げた
そして、総司に置いて行かれたあの時代の慟哭を伝える事によって
自分が消えた時に後を追わないようにと伝言を残し最後の挨拶をする
道場には、今までどおり通うし、直ぐに別れる事は無いにしても
セイに残された時間が一体どれだけあるのか
それすら解らないのだから、伝えるしかないのだ

「セイちゃんお嫁さんに行くみたいね」涙を溜めて孝が言うと
真っ赤になってセイが
「そんなこと!」と、言って見る物の、これから総司と一緒に生きると決めた自分が
ここには居るのだから、間違った例えではないだろうなと思う

2時間ほどだっただろうか、総司は晴れやかな表情を携え戻ってきた
セイの荷物が小さなダンボールに一つと、刀を片手に持ったセイが
よろしくお願いしますと、総司に頭を下げる姿が

行李を持って隊内を移動していた頃と重なって、苦笑いを向けた
「やっぱり、神谷さんは何時も身軽ですよね」
総司はセイのダンボールを持ち、近藤に頭を下げるとセイと共に近藤道場の門をくぐった

「なぁ、幸せなのだろうか?あの二人は・・・・」
悲しげな視線が二人の背中を見つめた
「幸せですよ。だって沖田さんが凄くセイちゃんを愛してるもの」

孝の肩を抱き、近藤も部屋へと戻った



「あっ、お部屋どうします?」
家に入ると、電気を煌々と照らし、部屋の全貌が見渡せた
リビングにダイニング、そして、部屋の扉が3つ
一つは総司の寝室だが其処に一緒に住むか部屋を別に設けるかで総司が迷った

「先生・・・私は先生と一緒が良いです」
どうせ離れるならば、それまででも、沢山愛し愛されたい
荷物をそのままに二人は総司の寝室に流れ込み、今朝の恐怖など忘れたように互いを求めた


まだ、慣れない体
散々思いの丈を押し上げられ、セイの身体が倦怠感に包まれていた
今日は、総司の仕事の日
するりとベットを抜け出し、キッチンで調理をする為に部屋を出た

かちゃ・・と開かれた冷蔵庫の中を見てうわぁと声を漏らすのも無理はない
一人暮らしの総司の冷蔵庫なのだから
元来不精な総司が、食料の買いだめなどする訳がない・・・が

「甘味の買い溜めはするんですね・・・ふふっ」
しゅーくりーむと書かれた袋入りの食べ物が5個無造作に置かれ
生卵と、羊羹が一本。
この中身で何を作れと言うのか・・・・それを考えるとふーっと
溜息を落とすしかなかった

お茶と、水はペットボトルに入って置いてある物の
卵以外の食べ物は、唯一ソーセージがあるだけだった
しかも、そのソーセージもセイは知っている

「近藤先生の家にあった奴だよなぁ・・・・・」
一週間前に来た折に、貰って帰ったものだった
セイはそのソーセージと卵でご飯を作るか・・・と腕組をして米を研いだ

コーヒーと言うものは、近藤も飲んでいたので作り方もわかる
6時半にコップにコーヒーの粉を入れると総司を起こしに行った


かちゃっと開け放つと、先程まで甘い甘いまどろみで抱き合ってた事を思い出し
セイの頬が赤く染まった。だが、仕事がある以上起こさなくてはならないと
邪念を頬を叩く事で払い除け、セイは総司を揺り起こした

「ん・・・・あ、セイ・・・」
二人の時はなぜかそう呼んで来る
「おはようございます。朝ですよ?」
揺り動かす手をぐっと引き寄せて総司の布団に引き込まれる
「後30分・・・・」
セイの胸へ顔を埋め、抱き締めて来る手が嬉しくて
セイも頬を緩ませるが、仕事は必ず行かなくてはならない
「ダメですよ、早く起きてください」
「いぢわるですねぇ・・・・もう少しだけ・・・ね?」
「意地悪で結構ですから起きて下さい!」
布団をばっとはがしたセイがうわぁと声を上げ後ろを向いた

「あ~もぉ・・・何も着てないんだから寒いですよ~」

白いベットに、総司の身体が美しく浮き上がる
その姿を見て、慌てて脱ぎ捨てた服を拾い上げ、総司に渡す
「はいはい、起きますよ・・・・」
寝ぼけた総司がぽりぽりと頭を掻きながらベットから抜け出した
セイから受け取った服は着込まないで、目の前にあるクローゼットから
バスローブを取り出すとそのままシャワーへと向かった

温かいお湯が総司の意識を覚醒させる
バスローブに身を包んで15分ほどで出てきた総司を、セイが微笑みながらキッチンで迎えた
「なんか・・・新婚さんですね」
「しんこん?」
「えぇ、新妻さんは可愛いし、満足ですよ」
茶化すように、そう告げると何時も無機質な総司の自宅のテーブルに
朝ごはんとコーヒーが並べてあった
「朝食・・・用意してくれてたんですね?」
ニッコリと笑ってハイと、元気良く答えるセイにありがとうと告げ
玉子焼きと、ソーセージの炒め物でご飯をかっ込み
スーツに身を包んで戻るとコーヒーに手を掛けた

「あっ、ごめんなさい・・・コーヒーは後でしたか・・・・」
チョット、失敗と言う顔にニッコリと笑いかけ総司が大丈夫ですよと
温くなったコーヒーを口内に押し込んだ

「消えないで居てくださいね?」

約束は出来ない、けれど、消えて欲しくない思いを伝えるように
セイの頬と額、そして最後に口に唇を重ね、総司は部屋を出た


=================================================================


★=不安=★






どうしたら良いのだろうか・・・・
眠る彼女を想うと、心が切なくなる

セイを抱き、セイを想っている自分が
あの子を愛する資格があるのだろうか?

あれだけ、傷付けた彼女を自分は再び幸せにする事が出来るのだろうか?
苦しい思いが総司を腐食していく


「総司!おい!」
職場で思いに耽る等してはいけないのに
総司は、思いの深さに気が付き苦笑いを向けた

「今度は何だよ」

呆れるように伝えてくるが本当は心底心配しているのだ
自分の思いを、土方に告げるとはぁと深く溜息を付かれた

「んっとに、不器用すぎるぜ?総司」
「解ってますよ・・・でも、はいそうですかと
セイから麻耶になんて感情移行できませんよ・・・・」

「まぁな・・・けどよ?アレは間違いなく神谷なんだろ?」
「山南さんもそう言ってましたし、確実かと思います」
土方はコーヒーを不味そうに一気に飲み干すと
総司の肩を抱き、フェンスの外を見やった
「お前はお前、神谷は神谷だ何かを間違えて、時間を遡った
あいつを愛してやったんだから、もう自分を許してやれよ」

その言葉に苦笑いしか向けないのが総司の答えだろう

許せる訳が無い

セイと麻耶では、性格が完全に違った
偽りでも良いから付き合ってなど言う訳も無いセイ
けれども、麻耶は恋情ゆえ、その言葉を発した
思い起こせば、自分で愛せるのはセイだけしか居ないと
そう思い込んでいた

「今は側に居るんです・・・だから、大事に彼女を愛しますよ」
「あぁ、そうだな」
土方の目が切なげに揺れた

きっと、セイを失ったら総司は正気を失うのではないか?
それほどまでに惚れ込んでいるのは、昔の総司と
見合わせれば、良く解る

あの時代の、総司の守る対象が近藤だけの時の
あの危うさがあったのだ

(神谷・・・消えてくれるなよ・・・・)
切に願った

「うっし、仕事行くぞ」
土方が、屋上から降りると告げ、その場を後にする
総司が大人しくそれについており、街中を見て歩く
補導される子供を扱う仕事ではあるが
時には危険もつき物だ
けれども、総司も土方もめっぽう剣道が強い
そんな事を起こす前に仕切るのが上手いのも土方の生活科へ
任命される謂れであろう

時間を過ごし、署に戻ると報告書を書き上げ
総司はさっさと自宅へと帰る
数人の女が強い総司に恋心を抱いているのを
土方も知って知らぬ振りをしていたが

「あ~ん、沖田君帰っちゃった。今日こそご飯誘おうと思ったのに」
甘ったるく言う言葉に土方がニヤリと笑い
女の側に行くとそっと口を開いた
「あいつは、奥さんが居るから無理だぜ」
えーっと返してくる女に、俺では役不足か?
と、聞かれればイケメンな土方を蔑ろにするわけが無い


「せーいー?団子を買ってきましたよー?」
ドアを開くと、セイは台所で野菜炒めと魚を焼いていた

「あ・おかえりなさい」
セイがくるっと振り向くと正面を抱き締める
「あ、総司さん焦げる~はーなーしーてー」
「仕方ないですねぇ・・・・」
総司が手を洗うとご飯をつぎ、味噌汁とお茶を用意して
箸を丁寧の並べた
「あ、ありがとうございます。ゆっくりしてて下さっていいのに」
セイがクスクスと笑いながら作業を進め
直ぐに席に付くと二人で頂きますと合唱してご飯を食べる

「ねぇ?明日休み貰えたんですよ、どこか行きますか?」
「え~?明日は私が・・・・道場です」
「あらら、そうですか。だったら私も道場に久しぶりに行きます」
ニコニコと総司がつげるとセイが頬をぽっと染めてハイと
答える。

そんなセイを見て素直に愛しいと思える自分に
心から感謝した
この時代を生きていなければ

この子の幸せを願って手放しただろうから

「ねぇ、セイ?」
「ん・・・どうしたんですか?」
眠そうにするセイをグッと抱き寄せて自分の肩にセイの
頭を引き込んだ。
「寝て良いですよ」
「ふふ、お布団行かなくて良いんですか?」
「そうですね、側に居て下さい。もう少し起きて居たいので」「でも、寝てしまったら・・・・」
「私が運びますよ」
「優しいですね・・・・」

甘い言葉、甘い誘い、甘い優しさ
幸せすぎて怖いと正直に思った

当時の総司だったら絶対にありえない
互いに危険を背中合わせに持っていた命の緊迫が
互いを精進させ、互いに思いを秘めてそれを力へと変えていた
総司に追いつくために必死になったセイ

総司の背中を見て此処まで成長したのに
何処と無く、幸せが寂しく感じた

あの当時は、心を通わせていた
互いに何を思い何をしようとしていたか
察しの付くような世界だった
けれども今は
セイにはわからない事だらけの世界
不安が過ぎらない訳が無い

そして、自分はこんなに幸せにして貰っておきながら
麻耶を思うと胸が痛んだ

けれど、言葉に出せない自分が、苦しいとも思った
血の涙を流した自分に出会ったあの時
その涙は麻耶のものだったのかもしれないと
深く考え込んでいた


互いが互いの存在を否定する事で
一つになろうと、連動するのかもしれない

「セイ?」
返事の無い変わりに、すやすやと眠る寝息が総司の耳を擽った
「クス・・相当眠かったんですね」
サラリと前髪を撫でると、セイの頭を肩から膝へゆっくりと落とし
頭を撫でながら、総司はニュース番組を見ていた


「ん・・・ま・・・やさん・・・」
ドキンと総司の胸が鳴った

セイの口から寝言とは言え、その名前が出るとは
掻き乱される心
ニュースをかけていたがそれすら耳に入ってこない

何故この子はその名を呼んだのか
同じ魂の器だから?
否、セイはそれを知らない、言うつもりは無い

「セイ・・・貴女も苦しいんですか?」
前髪をサラリと持ち上げては辛そうな表情を向ける

どうして良いか判らないのは、お互いともだった
思いに縛られ、罪に縛られ
総司はぎゅっと手を握り締めた

それでも、セイを失いたくない思いから
口を閉じたまま、セイとの生活を過ごして行った


休みの日、総司と道場で手合わせをする二人を、外で見ていた
セイを見るのも久しぶりではないだろうか?
裕が、ジーッと見守る中、セイと総司の剣が交わる

「はえぇ・・・・」
繰り返し叩き合う二人の早さに、裕が息を呑み
食い入るように見つめる

「あの昼行灯め・・・やたらつえぇ。」
ごくりと唾を飲み込むと、セイがその場でスパーンと叩かれて
一本が終了した

「凄い!沖田先生ってば、前より早くなってますよ!」
「あなたに負ける訳には行かないと言ったでしょう?」
不敵な笑みを向ける総司に、セイがぷぅと頬を膨らませた

「さて、二本目も譲りませんからね」
「悔しいっ!絶対取ってやる!」
エーと、気合の乗った声を掛けるとセイは今までよりも素早く
総司の懐へと飛び込むと、一瞬にして身体を沈め、再び浮き上がると
首筋に腕を絡め、ニッコリと微笑んだ
「っつ・・・・した・・・」
「聞こえません」
「参りましたぁ!」

セイがクスクスと笑い、総司に絡みついた腕を解こうとした時だった
ぎゅっと抱き締められ、慌てて総司から逃れようとする
「負ける積もりは無かったのに・・・・・」
悔しいという思いより、今まで一度もセイに負けた事は無い
だからこそ、負けれなかったのだ

「師匠を越えますか・・・・」
「えっへっへ」

得意げなセイが急に消えてしまいそうな不安を
総司は抱いた
セイに負けた
その思いが産んだ、悔しさがそうさせていると
総司は自分に言い聞かせた

だが、時は刻まれる



ひたすらに

そしてもう一人心の中で諦めを描いた裕
セイへの恋情を断ち切ろうと、二人を見て思った。


2009.11.4


============================

★=優=★






夜の帳が下がり、セイは総司の部屋へと入ると、空っぽのベットに横たわった
総司は今夜は夜勤なのだ
不安が胸を過ぎると一人丸くなって膝を抱え込んだ

「幸せすぎて、きっと罰が当たるだろうなぁ・・・・」
ごそっと布団に入ると、中に沈みこみ頭だけをだして天井を見上げた
朝には総司が戻ると伝えて出て行った
だったら、自分は待つしか出来ない

「あ、あれ?・・・・・」
置いたはずの、着物が消えているのに気が付き
セイの心が一気に影を作った
慌てて、仕舞ったのかも知れないと探したが見つけられずに
セイの肩ががくりと落ちた

「もう・・・刀だけ・・・・」
残った刀をぎゅっと抱き締めると
セイはベットの上に刀を抱え込んだまま布団をかぶり
泣きたい心を必死に堪えた

ふっと、ベットの横にある机にノートとペン立て
セイは迷わずペンを持った。

今の思いを総司に残そうと
いつ消えても良いように・・・・・


沖田総司様
こうやって文を書く事をあなたは知りません
今日は夜勤だそうで、私がお留守を預かり、先生はお仕事へと行きました
先日先生に伝えた、肩章の次に、着物が全て消えました
一月も過ぎていない早さに、私もどうして良いか判らず筆を取りました

先生に貰った幸せを、抱いて逝けるなら私は幸せなんです。
もし、この場所に私の姿がなくなったからと言って嘆かないで下さい
セイは本当に幸せを先生から頂きました
先生・・・
今までの沢山の思い出をありがとうございます。

きっと、私は五稜郭で命を落としていたんだろうと思います
だから、戻ってしまったとしても、私の夢は叶いました
先生をお守りできなかった無念も今は綺麗に消え去り
先生を慕う思いを、伝える事も出来ました
だから、嘆かないで下さい

きっと、きっと、私は先生をずっと見守ります
セイは、沖田総司を大好きでした。


認めた手紙を、ノートから引き離すのにそっと破り、
その手紙を自分の鞄へと押し込んだ

消えた時に見てもらえる事を祈りながらセイは再び刀を抱き締め
目を硬く瞑った

翌朝、総司は早朝に戻った。
ベットルームへと向かうとセイの姿を確認しないと落ち着かない自分に
苦笑いをしながら部屋へのドアを開けると
不意に、黒い塊が此方を見ている
「え・・・神谷さん?」
刀を抱え、ベットの下でじっと、総司を見つめていたセイが
ニッコリと微笑みお帰りなさいと告げるが
顔色が悪い上に、こんな姿で出くわすなどありえない事
起きていたならそれも解るが、そうではなさそうな雰囲気に
総司が慌ててセイの側へと寄った

「せんせ・・・い・・・」
「どうしたんですか?」
「セイはもう、消え・・・る・・・と思います・・・・」
掠れる声で紡がれ、総司が慌ててセイの温もりを求めて抱き締めた
「ダメですよ、神谷さんっ!消えないで・・・お願いしますっ」
震えている総司の腕の中で、刀がなくなっている事に気が付き
慌てて総司が辺りを見回した
「そんな・・・・嘘だ・・・・・セイ!」
抱き締めている腕がカタカタと震え、総司の瞳がセイをじっと見つめた
「せんせ・・・い・・・・だいす・・き・・・」
そっと、総司の頬に手を添えセイが再びニッコリと笑うと
桜が散っていく。
狛犬の前で見つけた可愛い花の精
その花が、総司の部屋を埋め尽くしていく

「っ、待って!待って下さい!これからなのに・・・神谷さんっ!!!!」
セイの身体が薄く光ると、身体が桜の花弁で埋め尽くされる
「嫌ですよっ、セイっ!セイ・・・・・」
ふわり
ふわりと

総司の身体を包むように桜の花弁が総司を抱き締める

「最後・・・・あえ・・・て・・・よか・・・った」
最上の微笑を総司に向け、花弁が一気に総司を包むと
腕に掛かったセイの重みが一瞬にして消えた

ぬくもりも・・・・・

香りも・・・・・・

総司の腕の中で消えて逝った

「私はっ!まだ、貴女を幸せにしては居ないのにっ!」

自分の身体を抱き締め、総司が声を荒げる
セイに狂った自分、セイの存在を愛した自分
そんな沢山の自分はきっと、幕末には感じられなかった思い

けれど、失ってしまった虚無感に、総司は暫くぼーっと時を過ごした
何もする気が起きず、総司はただ、セイを最後に抱き締めたベットにもたれ掛り
宙を見つめたままだった


ぴろろ・・・ぴろろ・・・・・
携帯が鳴っても、身動き一つしない

(あぁ、神谷さんが私の逝った後・・・・こんな思いだったんでしょうかね?
苦しいのか、悲しいのか、寂しいのか・・・・本当に解らない。
どうしたら良いんだ?私は、これから貴女を失ってどうしたらいい・・・んですか・・・
ねぇ、神谷さん・・・・・)


「先生、確りしてくださいね」
セイの声が何処からか響き、総司が慌てて周りを見渡すと
桜の花弁も、セイの姿も、何も残されていない中
ふっと、ちかちか光る携帯を目にした

着信:3件
メール:2件

一通目のメールを開き、総司は初めて涙を流した
神谷さんと書かれた名前
メールを開いた途端に一言
幸せでしたと、書かれていた

「セイ・・・セイ・・・・セイッ!」
携帯を抱き締め、再び苦しさを噛み締めると
再び携帯が鳴り響き、セイからかもしれない、どこかに瞬間的に移動して
又掛けて来たのかもしれない
都合の良い思いから、総司はその電話に出る

「沖田さん?麻耶の母です・・・・・」

やはり、セイの魂が還ったのだ
あの母親が自分に掛けて来ることなどよっぽどの事が無い限り在る訳が無い
「解りました、良かったですね・・・・」
無気力で答えた総司は、再び空を見やった
電話がいつの間にか切れていたらしく、遠くでツーツーツーと聞こえるが
携帯をそのままに、セイを想う

ピンポーン
家の呼び鈴が鳴るのは解るが、動けない
ピンポンピンポン連打をしている音は耳に入る
けれど、動けない・・・

全ての機能が停止したかのように、動く事を戸惑われる

何度か鳴らしていた呼び鈴が止まると、ガチャガチャと音が聞こえ
鍵をかってなかったとふっと想った

「総司っ!」
慌てて入ってきた男は、自分をこの上なく心配していてくれた土方だった
声を出すのも億劫で、総司は視線を向けると薄く微笑みまた
空を見た

「神谷が逝ったんだってな?」

「えぇ・・・・」

「神谷が麻耶に降りたぞ?行かなくて良いのか?」
「今は、逢えませんよ・・・神谷さんがまだ私の腕の中に残っているんです・・・・」
「その神谷が、総司に逢いたいと言ってるんだぞ?」
「そうですか・・・でも、神谷さんを忘れる事は出来ない
あの子は神谷さんであって、神谷さんではない・・・・私が愛した神谷さんは
消えてしまったんです。」

バキッ
土方の拳が総司の頬を赤く染めた
「何寝ぼけてやがる、神谷の記憶は、総司、てめぇと居た今さっきまでのものまで残ってる
それの何処が、今の神谷は違うと言うんだ?何回も電話したのにでねぇし、挙句話中だし
何やってやがるっ!神谷が会いたがってるんだよ!早く行くぞ!」

強引に連れられて総司は土方の車に乗り込んだ

「本当に、神谷さんはさっきまでの記憶を・・・」
「あぁ、だから行くんじゃねぇか」
総司が、ふっと目をやると、部屋にあったセイのバックがあった
「これって・・・・」
「中身を見ろ」
「え?」
「神谷がそう言えば解ると電話で言ってたんだよ」

慌てて鞄の中を見ると携帯とハンカチと、一通の手紙
かさりと、開くと其処には先ほど書かれたのだろう
手紙を読みその紙を握り締めた

「あの子の幸せって・・・こんな、こんな些細なものでよかったんですね」
「あぁ、だがな?まだ足りない分をこれからの麻耶との生活で補えば良い
神谷の記憶が強く残っている麻耶は、きっと、セイと呼ぼうと麻耶と呼ぼうと
お前を見続けてくれるさ、そして総司、てめぇもだよっ!」
パンと背中を叩かれ苦笑いを向ける

硬直していた頬が、やっと筋肉を動かす事を許可したのだ

早く逢いたい・・・・その思いが強くなる
失った虚無感は、計り知れないほどの苦痛で
総司の心が軋んだ

「土方さん」
「ん?」
タバコを吹かしながら、運転をしていた為、視線だけを総司に一瞬向ける
「幕末の時・・・置いて行って本当にすいませんでした」
「はぁ?」
「置いていかれるって・・・・こんなに苦しいんですね」
「ばーか」
ニヤリと笑いながら、車をひたすら走らせる

京都に到着した時は既に真っ暗になっていたが
部屋へと土方に連れられ入った

「あぁ・・・神谷さん?」
母と話していたセイが、ふっと総司を見やるとニッコリと微笑み
「沖田先生遅かったですね」と、告げた
失えば又戻り
又戻っては失って

今度こそは失うものかと、誓った

「お母さん、私の名前をセイに戻してくださいね?」
総司に抱き締められたまま、セイは母を見ると、涙を流しながら頭を上下に振った

大好きですよ・・・・

互いに声を掛け、これからの人生を共に歩むと心に誓った



半年後、二人は白い着物に包まれて、その場に立っていた

大きな角隠しは、セイにはとてもお似合いだった。無論総司の白袴もきりっと引き締まる
和と洋を合わせた式が行われ、新選組と言う昔の名前の隊士達が参列し、裕も無論その場にはいた

「愛しています。」
いつまでも・・・・

「私も愛しています。」
互いの死が分かつ時まで

互いに助け合い生きます。

そうして、二人は幸せになったとさ。おしまい(ぁ










============================【完】
2009.11.4

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