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≪ 優9 完結 | | HOME | | 陽だまり/抱擁 ≫ |
短編です
『成就』
ぱん・・・・
カラカラと、降る小屋の中に響き渡る音
中の人達は息を呑んでその、光景を見守るしかなかった
何が起きたのだと言うのだろうか?
ぱらぱらと零れ落ちる雫のような玉達が・・・・ただ、行き場を失って
傾いた隅に集まっていく様を、只見つめていると・・・
「はっ!す、すっきりしたぜ」と、少しおどけて見せた男が首の辺りを気に掛けていた
「不思議な事も在る物だな・・・・」齢の高い老婆がその一粒を摘み上げると、
いきなり小屋から飛び出した・・・・
さわさわと、凪いでいた風も、今は雨足を早める為にせわしなく吹き荒ぶ
「かごめ!!!」
玉の持ち主の少年が後を追った・・・・
「どうして・・・・」珊瑚が小さくつぶやいた
今まで犬夜叉が、引き千切ろうとしても無理だった言霊の念珠が
何の予兆も無く、カラカラと崩れ落ちたのだ
丁度夕餉を取っていた一行が、和気藹々と話をしている中におきた事件
弥勒は丁重にその念珠の玉を拾い集め、又、彼もポツリとつぶやいた
「かごめ様は・・・この念珠が犬夜叉との接点だったのかもな?」と・・・・
さぁぁぁ・・・と、先程運ばれて来た湿気を持った雲から、しとしとと降り出した雨が
かごめの肩を塗らした。
「待てって言ってんだろうが!」グイッと引かれた手は、他愛もなく犬夜叉に引き込まれていった
「何よ」「何怒ってんだよ!」「怒ってないわよ」「嘘こけ!」
他愛もないことだと分かっている
でも・・・「念珠・・・取れちゃったね?」「え?」「・・・・。」
心が不安になってしまう
寂しさに押し潰されそうになる
「念珠なんて・・・無くっても良いじゃねぇか」
「前から・・・」「え?」
「前から、もう犬夜叉には必要ないものだって・・・わかってて・・・それを・・・」
何だかそれ以上は言葉に出来なかった
「其れを・・・何だよ?」
「私が外したかった・・・。でも、何だか犬夜叉との繋がりが・・・これで無くなりそうで・・・」
もし、この念珠が、桔梗の手で作られていたなら・・・・桔梗は犬夜叉を解放してあげたという事なのだろうか?
でも、其れすら口にできない自分がいて、犬夜叉の視線を受け止めれなかった
「私・・・少し実家に帰る」
「だめだ」
「・・・どうしてよ!」「駄目だったら駄目だ!!」
はずれた理由など分かるわけも無い。
古くなったら取れるとか、そういう理由ではないのだ
「帰る!」「だめだ」何度その問答を繰り返したのであろうか。
少々呆れ気味に犬夜叉は、かごめへと言葉を投げかけた
「お前さ・・・おれ達を繋いでるのはこの念珠だけじゃねぇだろうが・・・・」
どかっと犬夜叉は井戸に腰を下ろし、塗れたかごめの体に衣を被せると、座れと指示してきた
かごめは其れに答えるように、素直に腰を下ろしてその井戸の淵で二人並んだ形となった
何個か、拾い集めた念珠をかごめの手へと渡し、犬夜叉は、遠い空を見上げた
「この念珠・・・どうして切れたんだろうね?」
「必要ねぇからじゃねぇか?」
「そっか・・・」
「なぁ?」「ん?」「おすわりって・・・言ってみろ」
「・・・・おすわり」
シーンと音もなく、パタタっと、木から落ちる雫の音だけが、かごめと犬夜叉の周りを支配した
「本当に・・・・なんもおこらねぇんだな?」「うん・・・・」
しとしとと
流れる雨はかごめの涙
「帰りてぇのか?」「なんだか、動揺しちゃってるみたいで・・・」
「わかった・・・明日には帰って来いよ?奈落との戦いだって残ってんだから」
犬夜叉はかごめが現代へと帰えるのを認めざるえなかった
何故なら、あまりに悲しそうで、あまりに辛そうで・・・・
己だけで、かごめの心を癒す事が出来ないと・・・そう悟ったからなのだろうか?
かごめの手から、念珠の玉を貰いうけ、衣は明日反せばいいからと言い残し
かごめが井戸に消える前に、姿を消した本当なら・・・引き止めて欲しかったと言う
女心の願いも・・・「犬夜叉の・・・ばか・・・」
そう言う呟き出しか表現できなかった、そしてかごめも、井戸へと身を投じたのだ
東京の空も、雲って、今のかごめの心を映す鏡のように
しとしとと・・・しとしとと
降り注ぐ雨は、ただ、行く宛をなくして、川を作る
激流に飲まれたように、葉が何枚か流されていく様に、かごめはジッと眼を凝らした
「念珠・・・か・・・」はぁ。と溜息を付き、家の扉をカラカラと開き家へと帰っていった
「のぉー犬夜叉・・・なーにやっておるんだ?」「るせぇー」
楓の小屋では、先程まで居た犬夜叉の場所辺りを、真剣に探し回ってる当人が居た。
七宝が声を掛けても、少し赤くなってうるさいと言いながら何かを探している風でもある
そこへやってきたのは、弥勒と珊瑚。先程の光景は見ていたものの
犬夜叉の首から下がってあるう物がないと、少し寂しくもなった
「お前が探してるのはこれか?」じゃらりと、念珠の玉が弥勒の手から渡されると、その玉を集め、犬夜叉は
楓に紐を貰うとその場を離れた
「なんじゃ?折角開放されたのに、又念珠作るのか?」七宝の突っ込みに、弥勒が苦笑いをして七宝の頭を
ぽんぽんと叩いた「七宝にも解るんですね?犬夜叉は至極解りやすいなぁ・・・・」と
弥勒が照れ笑いを浮かべた。恐らくは自分で治してかごめに渡すのだろう
そんな犬夜叉が、可愛いと思えてくるのは自分が大人だからか、もしくは・・・・
自分には出来ないであろう事だから・・・だろうと、弥勒は腰を下ろして茶をすすった
(かごめ様に・・・束縛され続けたいと言う願いか・・・ほんと、あいつは・・・)
木立が揺れる中、必死に穴に紐を通す犬夜叉
先を舐めてはその穴の中へと紐を押し込み、一ついれるたびにはぁ・・・と、溜息を落とし
やっとその作業を追えたのは既に夜中だった
辺りは暗くなって、弥勒たちは既に眠りの世界に身をとおじているのだろうか?
そんな中犬夜叉は、井戸へと向かった
手には出来上がった念珠、犬夜叉にとってはもっとも嫌なものであろう
なにせ、かごめの意思でしか、発動しないものなのだ・・・
「何でおれがこんな事しなきゃならねぇんだよ」と、文句だけを戦国に残し
彼もまた、井戸の中へと消えていった
さわさわと揺れる木立は何を思う。
白々と、開けてきた空を犬夜叉は目を細めてみると、一気にかごめの部屋の窓に飛び移った
カラカラと、開かれた窓の中にそっと足を踏み入れて、かごめの枕元に静かに念珠を置くと
照れたように頭を掻き毟り、不意にかごめの体に掛けられた衣を見つけた
(おれの・・・)
そっと手を差し出し、その衣をキュッと胸に掻き抱いた
かごめの香り。かごめの体温が残った、衣を・・・・
(おめーになら・・・縛られてても嫌じゃねぇから・・・)
心でそう告げて犬夜叉はその場所を後にした
ちゅんちゅんと鳴く鳥は、これから餌を求めて飛び立つのであろうか?
静かな夜は終わりを告げ、昨日までの雨も、綺麗に上がっていた
朝露が葉を伝う様は、本当に戦国時代にしか見れないほど美しかった
がさ・・・
井戸を抜けたかごめが、急いで上がってくると、その場で名前を呼んだ
強く・・・強く
朝目が覚めると衣はなくなっていて、その代わりに、枕元に念珠・・・そして、枕もとの床には
土の付いた足跡が残っていた
犬夜叉は、恐らくこの念珠を治して持って来たのであろう。
声も掛けずに、きっと、治したなんて言ったら恥ずかしいのであろう
そんな犬夜叉に、今すぐにでも会いたかった
立った一言・・・・言いたい言葉があった
「朝っぱらからうるせぇよ」腕を組んで、木に、凭れ掛かったままの犬夜叉が、背後から声を掛けると
かごめは慌てて犬夜叉の体に抱きついた
「な!!!」
はぁはぁ吐息を切らしたかごめが、優しい香りと共に犬夜叉のうでの中へと舞い降りたのだ
「犬夜叉っ」「な、なんかあったのかよ・・・・」恥ずかしい・・・恥ずかしいと
胸の高鳴りが言ってるのに、犬夜叉はそう問う
「念珠!」「・・・。」「ほら!」「・・・。おう。」
治してくれたのだと、かごめは心底喜び、犬夜叉にそっと、その念珠を向けた
「また・・・掛けていい?」「これが無きゃ、胸元が寂しい・・・しな・・・・」
犬夜叉は、かごめの差し出した念珠に、そっと頭を向けると、かごめはその念珠をゆっくりと犬夜叉の首に
掛けた
「元の・・・犬夜叉だ・・・」「お、おう・・・・」
くすくす・・・と、笑いながらかごめは再び犬夜叉の胸へと頭を埋め込んだ
「ありがとう・・・・」
たった一言が
胸に熱く響いて来る
何気ない事も、
些細な喧嘩も
全ては、あなたを受け入れる為に・・・・・
そんな想いがドンドンと溢れかえる中、かごめはキュッと犬夜叉の体を抱き寄せた
「かご・・・め・・・」
その雰囲気に、飲まれるように唇を寄せる犬夜叉にかごめは一瞬ドキッと胸を鳴らすと、
大きく息を吸い込み
たった一言を・・・・
「おすわり」
ぎゃんと犬夜叉は地に沈み、満足げに微笑むかごめに、犬夜叉が文句を言う
「たく・・・この効力まで治るのかよ!」
嫌そうに言うわけではなく、何処となしに嬉しそうな顔をしながら・・・
「うら!帰るぞ!」「うん♪」
小さな出来事
些細なお話
こう言う事が在るからこそ、互いに思いを深めていくのだろうと
かごめは思いながら犬夜叉の手を取った
血に塗れても
拭い去ってくれる互いがあればこそ
戦えるのだから
FIN
===================
白梅
緩やかに揺れる坂道を、とぼとぼと歩く少女
其の背後から声を荒げて呼び掛ける声の主は、
「かごめー」「あ、あゆみ?」くるくるとした髪をふんわりと風に乗せ
手を振りながら追いかけて来た
「どうしたの?」「テスト・・・悪かったでしょ?だからさ・・・これ」
暖かい友の手から渡された・・・
「これって?いいの?」「私は明日補習無いから」と、にっこり笑うあゆみ
かごめは有難うと残しその場を走り去った
桜の花と、梅の花が、そんな二人を見続ける
「おせぇー」第一声・・・既に我慢は限界に達してはいたが、
帰ってくると言う時刻までは大人しくなしくては・・・と、
そう思っていた犬夜叉が第一声を放ったのは既に夕暮れだった
此方も無論、桜や梅の花がちらちらと、蕾を膨らませていた
そんな中、犬夜叉はざぁ・・・と地を蹴り上げ
かごめの戻るであろう骨喰いの井戸へと佇んだ
「かごめのやつ」
昨日の約束では3日
そして夕刻までには戻れと言った約束は意図も簡単に裏切られた
「くそ、帰ったらみっちり仕置きだ!」両の手を袖元へ入れて腕を組んだ姿勢で”ふん”と
鼻を鳴らしながらソッポを向く
だが、向いた先から井戸が気になり、ちらりちらりと盗み見るが、待つ人は現れない
恐らく、日暮神社でおみくじを引いたら、間違いなく”待ち人来たらず”で、大凶辺りを引きそうだった
しばし何かを考え込むが、スクッと立ち上がると、ボソリ・・・と、何かを呟き井戸へ身を向けた
「ん~xがぁ・・・yでぇ・・・はぁ・・・」数学を勉強しているであろうかごめは
不意にシャープの流れを止めて口元へと運んでいった
そして、後ろの部分を軽くカリ・・・と噛んで窓の外を見る
(やっぱり一度・・・犬夜叉に伝えに行った方が良いかな・・・)細くなる月を見ると
黒髪の犬夜叉を思い出してしまう
「でも、明日追試だもん仕方ない・・・ノート貸してくれたんだし・・・やっちゃおうっと」
何かを吹っ切るように頭を2,3度降り、再び机へと視線を向ける
かち・・・かち・・・時計が時を刻む
かちこち・・・かちこち 命を刻むように
「!!妖気?でもこの感じって・・・」気配を感じたかごめが、不意に窓を思いっきり開き、身を乗り出す勢いで
妖気の元を辿る(この感じは・・・犬夜叉だよね?)井戸の有る祠や、ご神木へと視線を移すと、
「犬夜叉?何やってんの??」精一杯小さな声で問いかけた
見つかってしまった犬夜叉はご神木の上から、ゆるりと身を動かし、かごめの部屋の窓までひとっ飛びで
辿り着くと、申し訳なさそうな顔を向ける
「こんな時間にどうしたの?」「おめーが帰ってくるってーのは・・・今日だっただろうが!」
少し低めの怒気を含んだ声に、かごめは申し訳なさそうに犬夜叉を見上げる「ごめん・・・行こうと思ったんだけど」
其の後は犬夜叉が答えた
「もしーーだのてすとーだのは終わったはずだから、今度はついしーって奴か?」「う・・・うん」
かごめは必ず約束を守る女、其れを守らないのはこの現代の行事に捕らわれているから
何度返したくないと思っただろう?
何度、あの井戸が通れなくなれば良いと思っただろう
でも、其れをしてしまえばかごめの居場所を奪う事になってしまうのだ
「あと、一刻(約二時間)待ってくれる?」「あ?待ったら帰るのか?」「うーん・・・違うけど」
其の答に答えれないかごめが、しゅんと沈んだのを見てやると犬夜叉は不意にかごめの部屋の戸をガチャリと
押し開き、「じゃー一刻たったら声掛けろ」とだけ言い残し、家族が居るであろう居間へ降りていった
無論、犬夜叉のいきなりの出現に驚く家族でもない
いつもの事のように、母は「あら、お腹減ってない?」と聞き、じーちゃんはまた何か分からない事を犬夜叉につげ
草太は、犬のにーちゃん・・・と懐く始末
そんな家族に自然と入り込める犬夜叉に、かごめは薄く微笑み、ペン先を白地のノートへ向ける
時はどれほど流れただろう
ペンを机に置いたのは、既に一刻半を過ぎた頃だった
「いやぁーん・・・犬夜叉怒ってるかな?もぉー声掛けてくれれば止めたのに」
時間を過ぎた言い訳を自分に言い聞かせながら階段を降りると
ぶよと遊ぶ犬夜叉が目に入った
「おせぇ」「ごめん・・・集中しちゃってて」「で?」「え?」「待ってろって言ったろう?」
そこで思い出した
この時代に居ても犬夜叉を引き連れて歩くことなどあまり出来ないのに、なぜ、引き止めたのだろう
こんな事なら一度帰ってもらったほうが良かったのに
でも・・・心の奥にある正直な思いが、犬夜叉を帰したくないと思ったのだ
「犬夜叉?散歩いこっか?」「はぁ?こんな時間にか?」「うん」
犬夜叉の手を取ると、かごめは玄関へ向かった
「お、おい。ぼーしーとか言うのはかぶらねぇでいいのか?」「え?そ、そっか・・・じゃーはい」
玄関に垂れ下がっていた母のスカーフを犬夜叉の頭にキュッと結び、再び手を引くと家を飛び出した
「何でこんな時間に・・・」「えへへ・・・実は・・・これ」かごめの手に握られた青いノート
「それがどうした?」「今夜中に返したいの」「はぁ?」「明日、あゆみ休むって言ってたから・・」
戦国へ向かったらこのノートは返せない、従って、かごめが夜中に返しに行く事となったのだ
「おれは一体何なんだよ?」「ボディーガード」「はぁ?ぼでーがーどぉー?」「いいからいいから」
ハラリハラリと散る桜
戦国時代では、いまだ蕾の桜も、此方の世界では既に散り始めていた
犬夜叉の素足に絡みつく桜
「だぁ、うっとおしい」「え?」「桜だ、ったく、何でこっちは散ってるんだよ」
かごめの心は時の差を感じるようで、チクリと胸を痛める
「戦国は・・・まだ蕾なのにね?」其の、悲しげな顔に犬夜叉は一瞬ドキリと胸を痛める
どうしたと言うのだろうか?
滅多に出さないかごめの悲しい笑顔がそこにあった
言い得がたい不安が犬夜叉の心を渦巻く
かつての巫女も、同じような表情を向けてきた事が有ったからだろうか?
(かごめが・・・消えちまったら・・・おれが・・・裏切られたら・・・嫌だ)
一瞬にして桜の花達は、風の中に舞った
ふわりふわりと地へ落ちた時にはかごめの頬は赤くなっていた
「いぬ・・・やしゃ?」「どこにも行くな」「な、何よいきなり」「・・・。」
急に抱き締められたかごめが頬を染めるのは当たり前だろう
だが、思いの他逞しい腕に引き寄せられて、抱き締められれば・・・何故か心地の良いのも確かだった
「あ・・・」不意に見上げた先に、散る事を忘れたように咲き誇る梅の花が二人を見下ろしていた
「梅の花・・・」「白梅・・・だろ?」抱き締めたまま犬夜叉は呟く「犬夜叉・・くる。。。しいよ?」
其の言葉に、寂しくなった心を生めるために抱き寄せた等と言える訳も無く、ばっと勢いを付けて
離れた
「あ、あのよぉ・・・・白梅は・・・綺麗だぞ、おめー見てーだ」
其の言葉にかごめもかぁっと紅くなる
お前みたい・・・と言われ、抱き締められ・・・今日は何て良い日なのだろうか?
と、心の中で思いながら、かごめは再び目的地へ向かった
白梅と桜の、白と桃のコラボレーション
地は桃で、天は白
そんな夜を・・・もっと一緒に過ごしたい
もっと、もっと・・・・
だから・・・
「いこっか?」「お、おう」
今は進むしかないのかもしれない
【完】
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