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朧月⑥

続き

いきなり本題を振ったのは、加奈だった。

「なんか、性格が合わないって…言われた」

ションボリと落ち込んだ優がポツポツと話し始める。

「無理して、本の主人公にならなければ良かったんだよ…」

加奈に言われ、グッと喉を鳴らした。

加奈と、閏葉が買い物に出た時に丁度二人に出会った。
無論加奈とヒロは付き合っているから
自然に優と閏葉が話す形になっていくのだが、そこで
閏葉に一目惚れをしたのが、優と言う事になる。

付き合おうかと言った時
彼女は頭を縦に振ることはしなかった。

お互い解らないままだしと
だから日数をかけて、彼女の好みの男と言うのを加奈に聞いて小説を読み、
服装から髪型から…彼に連想できるものを自分に嵌めて行って
やっと、付き合う事を承諾された。

けれど、努力したのはそこまでで
彼女との付き合いが出来る事になってからは、
素の自分で彼女に会うようになっていた。

作る自分は…やはり疲れるのだ。

「だから、作ってまで落とすなって言ったんだよ」

ヒロに言われシュンと項垂れるが、ここからが本題だった

「なぁ、俺さ…閏葉に男が出来たと思うんだ」

二人が一斉に、は!?と声を上げた。

「いい?閏葉は、二人の男と付き合えるほど起用じゃないの!」

「だからだよ…それで俺が切られた」

そこまで言われて、加奈はフーッと溜息を吐く
確かに今は小説作家と一緒に行動している。

そしてその作家が、閏葉の好きな小説作家だってのも知っている。

だけど、その男と付き合ったとは聞いていないし
その人を好きだとも聞いてはいない。

けれど、憧れと恋心を混同させる事はありえるなぁと
加奈は思った。

「仮に、その男と付き合ってるとしても、閏葉はそんな時間あった?」

自宅旅館でひたすら時間と追いかけっこをしているような生活をして
友達と遊びに行くのだって、3日前には予定を入れなければダメ、挙句ドタキャン…。
集団のお客優先の閏葉が他に男を作るとしたら、
あの旅館の従業員位だろうと加奈は言う。

「まぁ、私らが出来るのはここまでだし…諦めなよ」

「無理だよ、だってまだ…キスも、抱いてもないんだ」
「ちょ!ヤルだけの為に付き合ったの!?」

「違うけど。」

その会話に、好きだから抱きたいと思うのは解ると、ヒロが付け足した。

「はっきり言っちゃうと、閏葉の好みとは違ったって事でしょう?」

その言葉に、はぁと深い溜息を落とす。

「俺、閏葉の担当に作家に手を出すなって言ってくる!」

「ちょ!優さん…それヤバイよ…閏葉の立場が悪くなるだけじゃん」

その言葉に優は何も言えず黙りこくった。


優の思いと

閏葉の思い

そして葵の思い

交差する気持ちと、葵の秘密
そう、彼はやっぱり…。

初めての、彼氏との時間。
偽ではあるが、優とは過ごす事が無かった二人だけの空間

「もしかして緊張してる?」

葵に言われてドキッと胸を鳴らす

「やっぱり、こう言うのは苦手で…」

「甘えても良いのに」

「え、あ、イヤ…甘えるって言っても、どうしていいか」

顔を紅くした閏葉がモジモジとその場に立っていると
スッと横に葵が立ち、肩をそっと抱いた。

「へぁ!」

ピキーンと硬直した閏葉に笑いを堪える葵が、そっと唇を重ねた。

ドン!

「っ!なななに、なにすんですかああぁ!」

唇が、彼の薄い唇が自分の唇の上に乗っただけのキス

なのに…腰の辺りがムズ痒くて、体が痺れる。

「なにって…恋人らしくキスでもしようと思ったんだけど」

「ぎぎ…擬似恋愛に接触は必要ないですからっ!」

真っ赤になっている閏葉の顎を引き上げ、
自分の方に顔を向けると閏葉の視線だけが宙を浮く。

「もう元の恋人に気を使う必要は無いだろう?」

「擬似恋愛なんですから!私にももう少し気を使ってください!」

「…うん、解った」

そのままギュッと抱き締められて、閏葉はドキドキと胸を高鳴らせる。

この男は本気で心臓に悪い。
まるで小説の狼男そのもの。人には懐かず、
回りを拒んで生きてきた彼はやっと信じることの出来た一人の男と出会う。

そして、彼が年老いていくのを見守って生きて来たのだ。

彼は死ねない。

今の葵が人と接触したがらないのは、容姿。
女達が群がる、男達は金目当てに近寄ってくる…
そんな世界閏葉にはわからないが
きっと小説作家も売れれば、同じ様に大変な思いをしているだろう

だからこその、鶴の間なのだろうなと漠然と考えた。

心は彼に囚われ始めている。
それが手に取るように解る
閏葉は、ギュッと唇を噛み締めた。
プルルル…

  プルルル…

「もしもし?」

非通知の電話に、閏葉が出る。

仕事での連絡だと、困るから前までは出なかったが、
仕事を始めてからはでるように心がけている。

けれど、相手は…

「あのぉ?もしもし?」

何度か電話を見直す…
表示されているのは通話中。

「ん?どうした」

「電話なんですけど、声が聞こえなくて…」

閏葉から電話を受け取り耳に宛がうと、雑踏の音だけは拾っているのに気が付いた。

「もしもし?聞いてるんだろ?あんた誰」
「花川です。やっぱり閏葉と一緒に居たね…話があるんだ」

「俺には無いけど…」

「今夜10時に川かみの裏にある林で待ってますんで来て下さい。」

ッツーツーツー

用件だけ言うと切れてしまい
むぅ…と、葵が考え込む。

「誰だったんですか?」

「え、あぁ…わかんなかった」

首を傾げながら閏葉は切れた電話を受け取った。



優と別れてから、既に数日過ぎている。

葵との、疑似恋愛は順調に進んでいた。

「葵…どう!?」

手作りの、お弁当を黙々と食べている葵に問いかける。

「んまいよ…また、時間ある時作って来いよ?」

「うん。」

たったそれだけの会話が嬉しくて明日も早起きしちゃおう!

なんて考えたりしている。

何だかんだと言っても、結局は彼女らしい事をしたいと思う心があることに
閏葉は自分自身驚いている。

そして、いつもスキンシップを計ってくるものの無理強いをしようとしない葵にも
この人に嫌われたくないと言う想いが生まれていた。

お互いがお互いを思いやってこその恋愛でもあるのだ。

その一歩をやっと踏み出したのは、優と閏葉の別れから
三日しか過ぎていなかった。

閏葉は、3日と言う期間に心が育つのを痛いほど感じている。
寝る時に、体に残る彼の香り
抱かれた訳でもないのに、時折触れ合う場所が熱くなる。

彼は、本気なのだろうか?
私は本気になって良いのだろうか?

そんな葛藤が生まれる。
閏葉が、ベットで葵を思い起こしながらゴロゴロとしていた。
時間を持て余す事は滅多の無かったが、この仕事を始めてからは定時に上がれるし
それから家の手伝いをするにも、挨拶回りをするだけになり
それ以上の事はお客様の内容を把握していない今は役にはたたないのだ。

「ん~パックでもしてみようかな?」

夜9時半を、回った頃洗面所へと向かい、顔を洗っていると人の姿が目に入った。

「葵…?」
旅館の裏を、歩く姿で彼だとわかった。

きっと小説を書くのに、風景の題材などを探しているんだろうなと…閏葉は漠然と思った。



ざわぁ…

木々が風に揺らされ、どこと無く不気味にも感じる。
そんな中、葵は一人裏の林へと向かった。

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