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≪ 狼と私2章⑮ | | HOME | | 狼と私2章⑰ ≫ |
やっぱり、心構えをして置いてよかった。..
レンは一ヶ月を掛けてアルを説得し
今はイギリス国内であれば、監視は付くけれども自由に動けるようになった
それがアルの最大の譲歩なのだと、レンは手紙で言ってきた。
ただし条件に逃げたりしないと言う言葉を付け足したお陰で
まだ日本には帰って来れないらしい。
そう言う内容の手紙が届いたのは、イギリスから帰って来て3ヶ月過ぎた頃
もう少しでレンがあちらへ飛んでから9ヶ月と言う月日が流れるという事になるのか…
私はいつものように帰宅して…
部屋の前で首に冷たい凶器を当てられていた。
「付いて来てもらおうか…」
「大声出すよ?」
「声はすぐに出なくなるさ…これが喉を貫けばな」
と言うことで…付いていかざる終えないかと
私がわかったと言うと
プーッと、緊迫したシーンに似合わない笑い声が聞こえ
慌てて振り返ると…
「池上さんか、悪質だ…」
「いやー落ち着いてるね~?死ぬよ?」
「そう簡単に死んでたまるか」
「あはは…夕飯食うベ」
「解った」
時折、彼はやってきて、夕飯を誘ってくるのだ
私は一度部屋に戻り、着替えると部屋を出る。
そして、彼の車に乗り込むと、どこかの料亭へ連れて行かれた。
「…豪勢だな」
「仕事で儲けた!」
なんて嬉々として言う探偵に息を吐く。
大体は浮気調査が多いらしい彼の仕事は
時折ではあるが殺人事件も手がける事がある
そこで入手した情報を売るとかなり高く売れるらしい…が
所詮粗探しの仕事って所だろう。
どうやら、度胸が据わってるからと、勝手に助手にされる事があった。
浮気の現場に駆けつける役とか…
別れたい相手の、恋人役とか…
この人は何でも人に押し付けてくる。
探偵池上が言う話によると、それも私を守る一環と言うが
絶対自分の利益のためだと思う。
だから、夕食の代金はいつも、池上さんもちである。
「水希ちゃん、どうよ…旦那さんの様子は」
コイツは絶対にレンを名前で言わない。
調べているうちに多くの名前を持つレンを
名前で呼べなくなったのかもしれない。
「元気だって手紙が来たよ…イギリスの国内なら動けるって」
「お~だったら今度は会いにいけるんだ?」
「そう、簡単には行かないだろうと思うけど」
確かに前よりはグンと確率が上がっただろうなとは思う。
「動き出してる…」
と、笑いながら食べてる私に真剣な目を向けてきた池上に
目を真っ直ぐ向けると、ジッとこっちの様子を伺うような目を向けてくる
どうやら、遊んで言ってるわけじゃ…無さそうだ。
「メリッサか…」
「あぁ…」
そろそろ本格的にまずいのかもしれない。
今までは探偵の池上さんが上手く受け流してくれていたが
チマチマと攻撃はあった…
ソレは全て想像の域…だと探偵は言う
自宅へ送ってもらい、部屋へ入ると
明かりを点ける。
何も無い空間…
そっとレンの部屋を開くと、布団の乗っていないベット、その回りに配線の繋がらない
コンピューター、ダンボールの後ろに本棚。
いい加減埃を払わなければ…と、一歩足を踏み入れると
胸が締め付けられるようなレンの香り。
ここに住んでいた訳でもないのに…彼の荷物から漂う
それはまだ、無くなっては居なかった。
「レン…逢いたい…」
部屋にへたり込むと私はグッと、下に敷かれたラグの毛を握り締めた。
遠い人間…届かない恋心…抱きしめられない寂しさ
一気にすべてが私を飲み込む。
いつもそうだ…何てこと無い日常で
急にレンを思い出し胸が苦しくなる。
けれど今日は…この部屋に足を踏み入れて
自分の首を絞めてしまったことに後悔する。
後ろ手で扉を閉めると、胸元に手を当ててハァ…と息を吐き
深呼吸すると、コーヒーを入れるためにキッチンへと向かった。
コポコポ音を立てながら落ちていくこげ茶色の液体を
ただ黙って見ていた。
池上と逢って数日が過ぎた頃
それは突然起きた。
大学から実家へと向かう最中に、背後から来た車。
降りてきた黒服の男に何かの薬剤を染み込ませたものを
口に当てられて…意識が途絶えた。
来た…と思った時には、もう既に逃げる事が叶わなかった。
夢の中で、公園ではしゃいでたレンを見た。
私の名を呼び、嬉しそうに走っている姿に微笑んで
そのレンが歪むと、急に冷気に身体を包まれ
瞳を押し上げた。
ジャリ…と、覚醒しかけの体が動くと聞こえる音。
あぁ、そうだ…私は攫われたんだ…
ゆっくり辺りを見回すと、人は誰も居なく
服もそのまま…
回りに置かれている資材は鉄の素材で
恐らくはどこかの作業現場と言うところだろう。
携帯を取りたくて動いてみるも、
私の両手は上に高く吊るされ、地べたに付いた下半身が凄く冷たいコンクリートに
熱を奪われていく。
「……誰かいないのか」
声を上げると、カチャッと音を立てて男が奥から
歩いてくるのが見えた。
「起きたか」
どうやらその言葉で日本人だと理解できた。
「なぜ攫った?」
「なぜ?…話す必要は無いだろう?」
「そうか…」
レンの足枷になるのではないか?
と、不意に思った。
誘拐にしては私の年齢は高すぎる
そして、家の身代金を貰うためだとしたら…
もっと金目の物がある家を狙うだろう
だから…メリッサ関係しかないと私は思った。
もうすぐ28歳…そんな私がここで命を絶たれるのだろうか?
そしたら…レンはどうなるのだろうか?
逃げ出せないのは…解ってる。
だって、手には鎖…手首を引きちぎって逃げる勇気など無い
「気の強そうな女だ」
と、いきなり私の顎を引き寄せた男の手から
私は勢いよく首を横へと振って逃れた。
「ははっ」
年齢は解らないが、この男も30台位だろう。
サングラスで目は見えないが日本人
黒で統一されたスーツを着ていて、それ以外の情報はない。
【Ren】
もう、逢えないなんてイヤだ…
俺は俺であるために生きたいだけなのに…。
イギリスの国を自由に動けるようになったが
時間にはちゃんと戻ってる。
殆どがジョイの家に行ってるのだから
それはきっと、問題は無いだろう。
もう一段階…上げてみたい。
水希に、逢えないなんてもうイヤだ…。
水希と話をしてから手紙も来るようになったし、送る事も出来るようになった
まだジョイの家を介して…でも、連絡が取れるだけで
心が余裕を持てるようになった。
「アル」
「はい、カイル様」
「俺は日本へ…行く」
「……かしこまりました」
その答えに、驚いてアルを見やると
苦笑いを向けられた。
「水希様に会いに行かれるんですね?」
「…あぁ、そのつもりだ」
「宿泊予定はどうされます?」
何があったのだ…?
心臓がやけにうるさい。
「…ずっと」
「それは無理でございます」
「一週間…」
「かしこまりました」
「……。」
え?会いに行って良いの…か?
なぜ急にその許可を降ろしたのか…
「アル…?」
「不思議そうなお顔ですね?」
「あ、あぁ…」
クスッと笑って、アルが口を開いた。
「…最近カイル様は話を良くして下さる様になった…
変な女性を引き入れることもお止めになった。
そして、私はもう結構前に水希様とカイル様がお会いになった事を知ってたんです。」
「え?」
「メリッサ様が…言っておられましたから」
「っ!?なぜメリッサが?」
俺は慌ててアルへと詰め寄った。
なぜ彼女が水希を知っているか…それを考えれば
すぐに解る…水希に何かをしたのだと。
「カイル様が、水希様の身体に刻まれた…モノに対して
かなりご立腹だったらしく私に聞いて来られたんです。
今までの女達が帰る時、その女達がカイル様に求められていたのか
そして、首を絞められて訴えられる事は無かったのか…と」
そう言われて…俺はあの夜を思い返していた。
あの香りに、裏切ったあの香りに包まれて
自分が欲のままに彼女をいたぶった…。
噛み付き、手に掛けようとして…思い止まったのは
水希が逃げずに受け入れようとしてくれたから…。
震えて来ているのがわかって、自分の手でその震えを押さえ込んだ
「ですが…私は何も知りませんし見ていません。
ただ、そう言った事は一切無かったので
そう告げると更にお怒りになられた様子でした」
「それで…?」
「ですから…私と話をしてくれるようになったのも
時折表情が出るのも、そして…女性を引き入れなくなった事も
すべてが水希様のお陰だと思い知りました…。
その前から、日本へ帰りたいと言うカイル様の言葉に従い
算段は付けていたので…、今はすぐにでも日本へ飛べるようにはなっています
ですので、ずっとは無理ですが一週間位であればと答えただけです」
「チケットを」
「明日の便を予約しますので
カイル様はお荷物の整理を…」
俺は慌てて踵を返した。
本当はこのままジョイの家へ行こうと思っていたが
そんなもの全てすっ飛んで…
俺は荷造りをしてふと…メリッサの事が浮かんだ
この2日、彼女はこの家へ来ていない…
そう考えると、背筋が急に寒くなりジョイに電話を掛けた
ピチャリ…と、地面を濡らす雫は結露だろうか?
私の少し横をすり抜けて床へと落とされていくのを
ゆっくりと目で追った。
「カイルを恨む事だな」
と、男の口が開かれた。
その名前は、イギリスでしか使われていない名前…
しかも、仲の良いジョイは未だにレンと呼んでいる
だったら犯人は、あの女しかないだろう。
「…カイルがやれと?」
「そうだ、カイルが命令を下している」
「で、私に何をする気?」
「簡単な事だ、殺しはしない…」
男が、ナイフを私の前に出し、その先端が私の服の上に走らされると
ビッと、上着が切り裂かれ、下に見えたブラの谷間を切り裂くと
寒さが肌に襲い掛かる。
あぁ…やはりこれなのか…
男は無表情で私を抱いた。
金で雇われたのだろうか…?
それとも、弱みでも握られているのだろうか?
そこら辺のチンピラとかではなさそうだと
不思議と思った。
抵抗はしたさ。
泣き叫んだ…
レンになんて言おう…
レンの思いを、こんな形で壊されて
私はどうしたら良いのだろう?
男は荒々しく指を押し込んでくると
強烈な痛みに眉をしかめる。
受け入れるつもりが無いのだ、痛いに決まってる
それが、唯一相手に伝える事の出来るイヤの証明にでもならないだろうか?
レン…愛してる
レン…ごめん
男が何度か、潤わない私に舌打ちをした所でやっと…人の気配がする。
「水希ちゃん!」
あぁ…池上さんだ。
男の体が横にぶれると、入っていた指が抜き去られ
嫌悪感に胸が悪くなる。
「うえぇ…っ…ゲホゲホッ」
吊るされたまま吐き出した気持ち悪さは
何も出ずに、ただ2・3度吐き気に耐えられなくて繰り返した
私を見て、愕然とした池上さんが見えて
笑わなくちゃと思った。
けれど、今はレンの言葉と一緒で笑い方がわからない。
口角を必死に上げると、池上さんが上着を私に掛けごめんと何度も呟いていた。
私の携帯はGPSで居場所を特定できるようになっている。
だから、実家から池上さんに連絡が行ってるのは知っていた
実家の父と母はこの状況に陥ると言う説明は全くしていなかった
けれど、帰りが遅くなったら池上さんに連絡を入れてくれれば良いと
前もって言ってあったのだ。
怖くなって、逃げ出したくなる。
私が戻ったのは、自宅でも実家でもなく
池上さんの家だった。
男の一人暮らし…あまり綺麗と言えるものでもなかったが
ベットとソファー小さなテレビに奥に一つ部屋があるがそこまでは見えなかった
風呂を沸かしてくれて、今はそこでただボーっと入浴している。
さっきあったのが嘘のようで…
でも本当にあったことで…
どうしようかな?
なんて考える。
あの指の感覚を思い出して急に身体に力が入り
ヒクッと、喉が動くと、ヒュッと息が吐き出されて
呼吸が急に苦しくなった。
呼吸が上手く出来ないまま、私が倒れこむと
その音に驚いた池上さんが私に大丈夫かと声を掛ける。
ハッハッハと短く繰り返される呼吸に
急に紙袋を持って戻った池上さんがそれを口に当ててきて
しばらくすると、段々と呼吸が落ち着いてくる。
「大丈夫か?」
と、心配そうに覗き込む池上さんにコクンと首だけで答えると
急に目をそらし私の身体にバスタオルをかけた
あぁ…私裸だったんだ…なんて
他人事のように考えてしまった。
ひとまず落ち着いた私にコーヒーを出してくれて
私はその温もりを手で感じながら喉を通した。
温かいものが身体を中から温めてくれる。
「さっきは、何だったんだろう?死ぬかと思った…」
「過呼吸…だよ」
「は?過呼吸って…ストレスとかでなるアレ?」
「…うん」
「そう…」
ピンポンと、家のチャイムがなる。
こんな時間に誰?と私が思うけどここは私の家ではない
深夜を過ぎて訪問客がいるというのも…面倒な仕事だなと
溜息を吐き、カバンに入っていたジャージの上を着込んだ。
ちょっと汗臭いが…それでも、半そで一枚で居るよりは良い
と…入ってきた人間に目を大きく見開く事となった。
なぜ…ここは?どこだっけ…?
呆然と立っている私の身体を抱き寄せているのは…
誰?
涙が自然と落ちてきた。
と同時に力を失い私はその場に崩れ落ちた。
「水希!」
「ううっ…っふ…怖かったあぁ」
抱き付いて泣きじゃくる私を優しく抱きしめてくれて
髪をそっと撫でてくれた。
そして池上さんにドライヤーを借りると言い出し
キョトンとしていると、後ろを向かされて濡れた髪を
優しく乾かしてくれる。
「泣いて良いよ」
「うん…っ…うん!」
ドライヤーの音に消され私の嗚咽は何処にも漏れ出なかった。
いつの間に、池上さんは連絡をしたのだろう?
「水希…辛かったね?」
「ううっ…和香!」
大事な親友が…この場所まで時間も考えず来てくれた事に
心が緩んだ。
体育すわりで、私が座り、その後ろから抱きしめてくれる和香
本当に、こうやってくれる事が嬉しくて
涙がまた違う涙を誘い、理不尽に流れ続ける。
頭がキンキンと痛みを訴え始めても、鼻の頭がキーンと痛みを訴えても
とめどなく流れる涙が止められずそのまま和香の腕の中で眠ってしまった。
「すいませんでした…黒木さん」
「いいえ、知らせてくれて有難うございます…」
「守りきれなかった…」
「きっと大丈夫です、解らないけど…でも
水希なら大丈夫!凄く強いから」
「そう願いたいです…さっき過呼吸を起こしましたんで
かなりショックではあると思うんで」
和香が私の頭をそっと撫でながら、ポトトッと涙を落とした。
「何で水希ばかり、いつも辛いんだろう?」
池上はコーヒーを入れると和香の前にある机に置いて
水希の身体をソファーに寝かせて毛布をかけると
和香がそれに寄り添うように地べたに座り込んだ。
「黒木さんの事はかなり前に調べてて、一度連絡を取らなければと
思っていたんですよ…でも、水希さんは言わないで居て欲しいと言うもんで
ギリギリまで何も言えなかったんです…すいません」
「迷惑とでも考えてたんでしょうね…」
ズッとコーヒーを啜ると、池上は”恐らくはそうかと…”と言葉を吐く。
「でも実際相手はイギリスの王族ですからね…何をしでかすかは
解らないんですよ…」
「レンクン…止められなかったのかな?」
「いえ、彼は知らないでしょうね」
「え?」
「彼は…自分を取り戻すために今必死な…」
ピリリリリ…ピリリリリ
深夜に響く携帯の音に、慌てたのは和香だった。
「え?誰こんな時間に!?」
深夜3時を回ろうとしている時間に
慌てて携帯を見ると、そこに出た名前に目が見開かれた
「れ、レンクン!?」
池上もそれを聞いて驚いたように目を合わせる
「言っても…いい?」
「ダメです…水希さんの思いが無になる」
「解った」
と、確認して和香は携帯の着信を押した
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