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≪ 成就/白梅 | | HOME | | 絆/声を聞かせて ≫ |
短編
【陽だまり】
川の流れと共に吹く淡く消えそうな微風が黒曜石のような髪をゆっくりとなぞる。
水面に反射した光が、その黒曜石に輝きを齎(もたら)せると、髪の持ち主が水音と共に薄く微笑んだ
『なーに笑ってるんだよ?』銀髪の髪の持ち主に声を掛けられ、ふと振り向いた
『魚・・・跳ねたの。』薄い微笑だけを残し、消え入るような声で其の声に答えた
『お?魚!捕るぞ!!』ジャバジャバと、水に入り先ほど跳ねた魚であろうか?
少年は無邪気に笑いながら其の魚を手に取った
『夕飯確保!!』などと、先ほどの穏やかな雰囲気を消し去るような声に、再び少女は微笑む
『明日・・・帰るんだろ?忍者食・・・頼む!』『解ってるわよ!カップラーメンでしょ?味噌だっけ?』
少女が答えると、少年は笑いながら答える
『食えりゃーなんでもいい!!かごめ、早く帰ってこいよ?』と。
『犬夜叉も、皆の言う事聞くのよ?』と、まるで飼い主のように言うかごめに、けっつ・・・とだけ返し
今見てる魚を口へと運んだ
『行って来まーす』微笑む少女の手を振る姿に、犬夜叉は反応を示さない変わりに
弥勒と珊瑚が、手を振った。『いってらっしゃーーーい』
これから帰る実家(国と呼ばれている)場所は今から500年も先の現代。
かごめは其の世界から運命と呼ばれるものに引き寄せられてこの時代に身を置いていた。
現代では受験が待ち構えている。其の為、テストの為に何度か現代で勉強をしなくてはならないのだが、
犬夜叉は其の時代を知らないが為に、其のテストを受け入れようとはしないのだ
『なーにが、てすとーーーだよ・・・ったく、奈落探してるってのに・・・はぁ・・・』
何時もそうだ、かごめがこの世界から姿を消してしまうと、火の消えた蝋燭(ろうそく)のように
静かに一人佇む・・・そんな犬夜叉に、無論七宝、弥勒、珊瑚が声を掛けるのだ
いつも一人が当たり前だった己。
だが、今は・・・心を寄せ合える仲間が居た。心を許せる、かごめが・・・居る・・・
『なぁ?かごめはきっと、あっちの世界でも、もてるんだろうなぁ?』『どうしたのさ?』
七宝の問い掛けに珊瑚が包丁片手に答える。
既に夕日が楓の小屋に色を付ける位落ちていて、犬夜叉の緋が更に染まっていた
『さっきな、村の男にかごめと、犬夜叉の関係を聞かれたんじゃ・・・』『な、なんて答えたのさ?』
ワクワクと珊瑚の心に好奇心が生まれる
『おらは。素直に答えたぞ?』『だから、なんて?』『犬と、其の飼い主じゃ!と・・・答えたぞ。』
ガタタ・・・・話を聞いていたらしく、犬夜叉が屋根の上でドタバタとしてるのを耳にした七宝が
慌てて其の場を離れた。
ザッ・・・急いで入って来た犬夜叉が七宝を探す
『珊瑚!七宝は?』『さ・・・さぁ?』焦りながらも、七宝の行方を教えない珊瑚に、犬夜叉は軽く
一睨みをしてから、再び小屋を飛び出した。
(あのガキンチョ・・・・今度会ったらゆるさねぇぞ・・・・)等と考えながらも、其の場に居ずらくなり
犬夜叉は、井戸へと向かった
『何度この場所でかごめを・・・待ってるんだっけなぁ?結構長げーよな・・・はぁ。』
井戸の底を見つめながら犬夜叉がポツリポツリと呟く
『早く帰って来い』『こら、かごめ!』『おめー何やってんだ?』『・・・。あい・・・てぇ・・・』
思いが優先する犬夜叉、何の躊躇(ためら)いも無く、井戸へ身を投げた
既に、現代の灯火が燦燦(さんさん)と光を放ち、其の光が届く場所だけがぼやけたように浮かび上がる
光で照らされていたかごめの部屋を見つけると、其の場所に行きたいと願う心を少しだけ落ち着けた
表情だけは、申し訳なさそうに それでも、会いたい思いは・・・・引き裂く事は出来なかった
からからから・・・・
窓に手を掛け、自然に、深く深呼吸する。
(かごめの匂い・・・)深く吸い込むと、そ知らぬ顔を装って、階段下へと降り立った。
ドン! 『い・・・犬夜叉!』『お、おう!』『どうしたのよ?』『あーいや、別に・・・』
用は無い・・・等と言ったらきっと、かごめに怒られるだろう。
勉強の邪魔をするなといつも怒る、其の姿も今考えればおかしい話だ
半妖が、人・・・に逆らえないのだから。
カリカリと勉強を進めるかごめの邪魔だけはしないようにと、犬夜叉は其の場に鉄砕牙を置き、
静かにベットの上に座り、かごめの後姿を見つめた
(こんな小せぇ背中が・・・でかく見える。お前、毎日頑張ってるんだな・・・・
死を恐れず、俺に全てを預けるお前は・・・俺に勇気をくれる・・・自由を・・・温かい心を・・・。)
憂いに染まる瞳、己では到底気が付けないだろうが、其の思いの滲み出るような視線をかごめへと投げかける
其の視線に気が付く事無く、かごめは指先に備えられた筆を走らせる、時折見せる表情は、困ってたり、考えていたり
そんな一つ一つが犬夜叉を癒していた
ちゅん・・・ちゅん
かごめが目を覚ます。『ん・・・。』がば!大急ぎで上体を起こし上げると、今の自分の居場所に驚く。
何時運ばれたのだろうか?机で勉強したまま眠ったはずなのに、ベットの上、しっかりと布団まで掛けられていた
キョロキョロと辺りを見回すと、犬夜叉の姿が見当たらなくて、階段を急いで下りた
トントン・・・カタカタ・・・・キッチンから聞こえる音と、母の笑い声、
其の声に反応したようにかごめが足を進める。
カタ・・・『あ!』『お!起きたか?』クルリと、身を翻(ひるがえ)した犬夜叉を、寝起きのかごめの瞳が捉(とら)えた
『あ、あはっははははははは・・・犬夜叉・・・っはっはは似合い過ぎだって!』
かごめの瞳に飛び込んだ姿は、頭にほっかむり。身体は緋色の衣を汚さないようにと、かごめの母の割烹着(かっぽうぎ)
を着込んで、片手に箸(はし)片手には、ほんのりと溶け切れなかっただろう味噌が残っているオタマ・・・。
『けっ、てめー起きるのおせぇよ!ほら!』ドン・・・小さな器の中から、熱い味噌汁がピチャピチャと音を立てながら揺れる
『もう少し静かに置けないの?』『年末だって言うから・・・手伝ってるんだ、忙しいんだからさっさと学校とやらに行け!草太もだっ!』
犬夜叉の台詞に、かごめはクックと、笑いを堪え、草太は、ポツリと言う
『犬のにーちゃん・・・・ねぇちゃんと結婚してるみたい。』『ん?結婚?』『フフフ・・・犬夜叉君?結婚は、夫婦。に成るってこと』
其の言葉に急に真赤になり、ガタガタと慌しい音を立てながら、其の場を去った。一言だけ残し・・・
『じじい・・・手伝って来る!』
こんなに穏やかな日常がある事など忘れるほどの激しい戦いの中、お互いを思い、思われ、信じ信じられながら進んで来た。
犬夜叉は不意に空を仰ぐ。
(この時代は・・・本当に・・・穏やかなんだな。)
いつも、ピリピリと、神経を尖らせながら、眠る時でさえ、何かの物音でも反応してしまう。
深く眠りに付く事なんて忘れてしまったような遠い昔。
だが、この時代には確かに有る。安息の地が。
『疲れた?』『ん?お、学校とかに行くのか?』『うん。』『おい・・・気ィ・・・付けろよ。』
犬夜叉が薄く微笑みながらも、少し照れたような表情でかごめを送り出し、再びかごめの家へと帰った。
『あ、かごめ行っちゃった?』『ん?おう、さっき行っちまったぞ?』其の言葉に母が溜息を落とす
桁箱(げたばこ)に紺色の包み、中からは、先ほど己が、母に聞きながら作ったかごめの弁当・・・。
『お・・・俺が作ったって言ったのか?』残されてポツリと佇む哀しげな弁当は、数刻前、
早起きをした犬夜叉と、母が、考えた悪戯。
どうして俺が、などと言ってはいた物の、ウインナーを蛸(たこ)に作る仕組み等を知ると、面白い!と、自ら進んで手を進めた
かごめには内緒・・・などと母が言っていた為、そんな不安感は無かったが、実際この桁箱(げたばこ)の上に取り残された
寂しそうな弁当を見ると、急に寂しくなった
『あのこ、結構そそっかしいから・・・忘れたのよ。犬夜叉君が作ったってのは、秘密にしてあるわよ?』
クスリ・・・母が笑うと、犬夜叉は其の紺色の弁当を手に、タッタと、飛び出した
『俺が届けりゃーいんだろ?』母の答えを待たずに犬夜叉は学校への道程を進んだ。
緋色の衣に割烹着・・・怪しい以外の何者でもないが、其れすら気にしないで進む
いや、気には成らないのだろう。恥ずかしいと言う感覚が、この世界とでは異なるのだから。
キーンコーン
始業の鐘と共に、一斉に裏返った問題用紙をひらりと開く。
カリカリカリ・・・・其の音だけが嫌に耳に付く中、かごめも、自問自答しながら筆を進める
犬夜叉が屋上に辿り付くと、不意に空を見上げる。『かごめの・・・世界。か・・・・』少し寂しげに微笑むと、
何かを思い付いたのだろうか?弁当を其の場に残し、木の枝に飛び移る。
視界にかごめの姿が入り、見付からないようにと姿を隠した
(あいつ、他の人間に見付かるなってうるせぇーからな・・・)
流石に現代に来てまで喧嘩はしたくないと考える犬夜叉は、木の枝を隠れ場所にして、かごめの表情を見つめる
『・・・。』
(かごめ・・・お前は何時も・・・真っ直ぐ前を見つめ進んでる・・・俺なんぞが、お前にこんな感情を抱いて良いのか?)
ゆっくりと暖かくなる胸の内。側に居る時には熱く激しく、離れている時には優しく、犬夜叉を癒している。
(桔梗が、かごめと離れて・・・身体を得た。だが、其の前から・・・かごめに捕われてしまった・・・
忘れるなんて出来ねぇ・・・桔梗も・・・かごめも・・・だからって、このままで良い訳もねぇ・・・・)
一人になると色々と考えてしまう。この先の事、かごめの事・・・そして、桔梗に共に行くと・・・言った事
生きてと言われた事、そして、いまだ答えを出せずに居る己に、イライラとする
キーンコーン
考えてる内に、一時間が過ぎ、終わりを告げるチャイムに犬夜叉がビクッ・・・と、身体を振るわせる。
がささ・・・と、犬夜叉に合わせたように舞い散る草が、かごめの視線に入った。
(な!犬夜叉!)
ガタガタと、慌てて屋上へと向かうかごめ、下では、休み時間を過ごす人で溢れ返っているだろうから、
屋上に辿り付くと、小さな声で犬夜叉を呼ぶ
其の声に反応したように犬夜叉がかごめの目の前に現れる
グイ!
かごめが犬夜叉の襟首を握り締め、小さな声で言う『あんた何考えてんの!人に見られたら・・・って・・・まだ割烹着なの?』
耳はしっかり隠され、緋衣隠れてはいるが・・・白銀の髪。腰には鉄砕牙・・・そして割烹着に、ほっかむり・・・。
まぁ、この時代に、この年齢の男の子がする格好とは、大幅にずれているのだ
かごめは、はぁ・・・と、息を深く吐き出すと、ズイ・・・・と、目の前に出された弁当。
『あ・・・』『忘れただろ?これ渡したら帰る・・・ほら!』
ちょっと不貞腐れたような犬夜叉にニッコリと笑い掛けると、其の手に弁当は受け取らないで
昼に、もう一度ここへ来て。と伝えた。
『お、おい・・・かごめ!』『あんたの弁当も持って来なさいよ~』と、声と同時にチャイムが鳴り響いた
犬夜叉は、何が起きたのだ?などと、しばし考え込んだが、かごめとの時間を楽しむ事が出来るのだと、再び家へ向かった
キンコーンカンコーン♪
お昼の合図。犬夜叉は静かにかごめが屋上へ現れるのを待った。
無論かごめはテストを終え、一歩一歩屋上へ進んでいた
(なんか、待ち合わせしてるみたい♪)と、ささやかな喜びがかごめを包む。
戦国では四六時中一緒に行動をし、顔を付き合わせている。
こんな、待ち合わせだの、デートだの・・・そんな感情は沸く訳も無く、(たまには沸くだろうが)
かごめ自身、うきうきと心が弾んだ
かちゃり・・・・屋上の扉を開くと、犬夜叉が薄く微笑みながらかごめを見据える。
トクン・・・・
心臓が嫌に早くなるのを気にしないようにしながら、かごめが犬夜叉の横へ辿り付く
『ね?この先に丘が有るから・・・そこでお弁当食べよう?』『ン?丘?あ、あれか?』長く鋭い指先が示す方向に
かごめの言う丘が見える『うん。』『ほら。』犬夜叉が腰を落し、両の手を背中に向ける。
何時もされている、おんぶ。だけど、現代で感じる物と、戦国で感じる物では大違いだった
『・・・。』『ん?』(い、今更恥ずかしいなんて・・・言ったら笑っちゃうかな?)
ナカナカ背中に寄り添ってこないかごめを半ば強引に背中に引き寄せ、目的の地へ向かった
『犬夜叉?』『あ?』『さっき、ごめんね・・・怒っちゃって』『けっ、てめぇが、そそっかしいからだろ!』『うん』
『それとね・・・朝、ベットに運んでくれたのあんたでしょ?』『え?あ・・・お、おぅ!』『ありがと』『・・・。』
短い会話はそこで途切れ、辿り付いた場所を見回す
『高い建てもんばっかりで、おめーの好きな景色・・・見えねぇじゃねぇか・・・。』気を使ったのだろうが、其の言葉に
かごめの胸がチクリと痛みを覚えた
(違う世界・・・・って事だから・・・・)
そんな想い等とは知らずに、犬夜叉は弁当を楽しげに開いた
『お!漬物!!お?卵!!』『ママに作ってもらったの?』『お?お、おう!』
かごめの倍の大きさのある弁当箱、かごめもゆっくりと自分の弁当の紐を解いた
(あれ?)何時もの弁当より形が崩れて、彩りもあまり良いとは言えない弁当。犬夜叉の弁当の中身と見比べる
(?何か・・・変・・・)
一方、かごめの疑問符の答えの主が、ドキドキとしながら横目でかごめの箸の行方を見守る
初めて焼いた、蛸(たこ)のウインナーが、薄紅色の唇に飲み込まれると、ゴクリ・・・と、生唾を飲み込む。
そんな犬夜叉を見逃すはずも無く、先ほど着ていた割烹着に薄く付いた、ケッチャップの跡を思い出し声を出す『あ・・・美味しい。』
不安げな犬夜叉の顔にぱああ・・・と、日が射したかのような微笑が戻ると、やっぱり・・・などと思いながら
見えないように笑った(犬夜叉が作ってくれたんだ。味・・・薄いし・・・)
『う、美味いのか?』『え?うん。美味しいよ』『そ・・・そうか・・・。』
自分が作ったと言い出さない犬夜叉、でも、其れは其れで可愛いなどと思ってしまうかごめ。
弁当を平らげると、ごろりと横たわる。
休み時間はそんなに長くは無いのだが、それでも、今の一時を犬夜叉と過ごせる事に嬉しいと言う感情が止め処なく流れ出ていた
『今日、帰ろうね?』『おう!』『犬夜叉?』『あ?』『眠い・・・。』『はぁ?てすとーはどうするんでぃ!』
『10分・・・だけ・・・肩貸して』
コトリ・・・かごめの重みを肩で受け止めると、心がザワリ・・・と、嬉しいのか、緊張してるのか・・・そんな事すら理解できない
でも、10分・・・其の言葉の意味を理解する為に、かごめの重みを他所に考える
(どれ位が10分?)『あ、あのな?』『ん~?』『どれ位が10分なんだ?遅れたらヤベーんだろ?』『60を10回数えた・・ら』
かごめの頭がズルリ・・・と、胸元へ落ちそうになるのを、眠気と戦いながら必死に我慢するかごめの頭を、胡座(あぐら)をかいた
犬夜叉の足へと引き落とした『え?』『これだったら寝れるだろ?』『あ・・・うん。』
(ね・・・寝れない・・・・いきなりなんだから・・・もぉ・・・)ほんのりと頬を染めながら心で思う。
だが、こんな状態に成る事などない、だったら、寝たふりだけでもして、今の心地良さを感じていようと、目を閉じた
『・・・・・・2・・・・・・12・・・・・・・30・・・・・』小さくブツブツと、呟く犬夜叉。
初めは何を言っているのだろうかと、耳を済ましたが・・・
1,2,3,4,5,6、・・・。
ぷっ・・・・
『な、何がおかしい!』赤くなった犬夜叉が、かごめの噴出した笑いに反論する
『だ、だって・・・あんた、数かぞえてるから・・・』『いいから寝てろ!あと、60を7回だからな!』
かごめは、薄く笑いながら、犬夜叉の膝へと頭を預けた。
さわぁぁ・・・と、風がかごめの髪を掻き揚げる。
かごめの唇や、瞳の上を揺ら揺らと揺れ動きながら黒髪は靡く。
其の姿に、犬夜叉が、爪でかごめの皮膚を傷付けないようにしながら、髪を押える
長い髪が、顔やら睫毛(まつげ)を擽る。眠い時はこれがうざったく成ったりするのだ。其れを心得ている犬夜叉は
其の髪を指先に絡め取りながら数を数える
『60.1,2,3、』指折り数え、もう少しで言い終わると、そう思うと、かごめの頭から伝わる体温を離すのが
辛く感じ、数を止めた。
指先は今も尚かごめの髪を弄び、眠っていると思い、唇を頬に寄せた
(え?・・・犬夜叉?)頬に当たる髪が自分の物ではない・・・そう感じた途端、頬にゆっくりと落された
唇が、かごめの頬と重なり、ドキリ・・・と、胸の早さを大きくさせる
赤くなった犬夜叉が、そっぽを向いたのだろうか?軽く身体を起こす振動を感じると、今起きたかのように
かごめも振舞うしかなかった。
『あ・・・もう、時間経った?』『あ、忘れちまった・・・・』赤くなったままの犬夜叉に突っ込む事は出来ず
再び学校へと戻った。『じゃ、後でね。』『お、おう』
ぎこちない会話が終わり、かごめは再び机へと向かう。
ゆっくりと頬を撫でながら。
夕暮れが井戸を照らす。
草木が茂る戦国時代・・・大きな荷物を持った犬夜叉の横に、かごめが、二人はゆっくりと、前へすすむ
FIN
====================================
『抱擁』
暖かさは・・・・いつも側にある
失くして気が付く事が・・・・こんなにも辛いとは・・・思っても見なかった
白々と開ける空、髪が綺麗に光を吸収し乱反射を起し、其の光に眩しそうに視線を投げかける
『犬夜叉?何やってるんだよ?』見下ろす先には・・・・
『珊瑚か』『かごめちゃんを?・・・待ってるの?』『けっ、んな訳ねぇだろう勝手に帰っちまったんだから』
何も告げず帰ったかごめ
其れを耳にした時耳を疑った・・・(おれに黙って・・・帰るのかよ・・・)
少しの寂しさだと思う・・・こんな感情に揺れ動く己を舌打ちだけで誤魔化す
夜中に不意に目が覚めた・・・寝ると言っても目を覚ますなど、いつもの事なのだ・・・
きょろきょろと・・・探すのは優しく微笑む少女の寝顔
(い、いる訳ねぇのに・・・くそっつ)
どんどん求めてしまう
逢いたくて、苦しくて・・・見えないとどこかへ行ってしまいそうな錯覚に苛(さいな)まれる
再び混沌の中へ身を沈めれば・・・きっとかごめを思い出さずに明日を迎えれる
そう心で呟き、犬夜叉は瞳を閉じる
================犬夜叉?==============
不意に呼ばれた。
『かご・・・め?』
微笑を送られ自然と己の口角も上がって行くのがわかる
『早くおいで?』『え?』『ボールで遊ぼう?』『ぼーる?』『蹴鞠しようよ?』
『おいっ・・・・って、これは・・・』
体が嫌に・・・・『ちいせぇ・・・のか?おれ』
夢に見た昔の光景にかごめが和服で現れて己を・・・誘っている
『かごめ様・・・・。やめましょう?あやつは』『犬夜叉?おいで?ほら・・・』
目の前に転がってくる蹴鞠の玉
『おれ・・・』『怖いの?』『怖い?』『そこで待っててね?』
かごめは・・・タタタッと・・・犬夜叉へ寄り添うように近寄ると玉を手渡し手を引いた
『かご・・・め?』『ほら、皆なんて顔してるの?犬夜叉も入れてやったら面白いじゃない』
呑気に、己を半妖とも罵らないで・・・・ただ、
『おれ・・・』『早く蹴って?ね?』
かごめが言われるがまま・・・犬夜叉は鞠を蹴り上げ
楽しそうに・・・遊んでる
『ほら・・・行こう?・・・・一緒に居て・・・いいの?』言葉が重なると同時に風景が変わる
辺りを見回し骨喰いの井戸の側だと気が付き、犬夜叉は冷や汗を流す
(あの・・・時かよ・・・・)
苦虫を噛むように、其の風景を見回した
『一緒に、おめーが一緒に居ねぇと・・・おれは・・・弱いからな』苦笑いを向けると
あの時とは違う優しさが・・・
ふわりと・・・鼻に届いた香りよりも
柔らかい体に包まれた
『かご・・・め?』
『犬夜叉・・・あんたは・・・大丈夫だよ?』『なにが?』『弱くなんか・・・ないよ』
『弱ぇーよ・・・・心が、弱えー』『大丈夫・・・ほら、こんなに強くあんたの心は脈を打ってる』
抱き付かれた時にかごめの右手は、犬夜叉の心臓へと添えられ、にっこりと笑いながらそう告げる
『心が?脈を?』『うん。生きてるだけで・・・強くなるんだよ?』『そう・・なのか?』
ギュッと抱き締められて思う気持ち
柔らかさと、暖かさと・・・数刻しか離れていないはずなのに・・込み上げてくる懐かしさ
抱き返しても良いのだろうか?
微笑んでも良いのだろうか?
だけど・・・今は
優しさに包まれたくて
『苦しいよ?犬夜叉・・・・』『夢だって分かってる・・・だから・・・・』
『だから?』
『一つだけ・・・・』
『うん。』
『側に居てくれ』
『うん。分かってる』
『それと・・・』『それと?』
愛してる
『よいしょっと。。。』『コラ』『あ、犬夜叉・・・』『おれに黙って帰りやがって』『あ、ごめんね』
『なんだよっ、其の悪かったって顔しねぇ謝り方は!!』『だってぇー時間なかったし・・・・』
夢を見た。
とっても暖かくて
とっても幸せな
こうやっていつも・・・側で笑って己を包んでくれる
『行くぞぉー』『荷物持ってよぉー重い~~~』『ったく毎度毎度・・・ほら・・・』
=============FIN======================
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