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≪ 陽だまり/抱擁 | | HOME | | 苦渋/黒曜石 ≫ |
短編です
【絆】 作 吐夢
静まり返る夕日の中に聳(そび)えている大木は。今も尚この場に留まり、
500年を越えた時代にさえ・・・・まだ生き続ける・・・・
『ご神木』
サク・・・・
夕日の中一人佇む少女。髪を元で結び、白い衣に緋色の袴。
その少女の指先が静かに木をなぞり・・・小さく。小さく呟く・・・・『犬夜叉・・・』
『んもぉ~犬夜叉の奴・・・今日に限って来てないじゃない・・・。』
ドサリ・・・大きな荷物を力一杯持ち上げて、現代から過去へやって来たかごめ。
その少女が、500年を越えた地を何度踏んだのだろうか?
綺麗に焼け落ちる夕日が、見事に最後の灯火を掲げ、その夕日に染められる少女が、何かに気が付いた
『!!』(桔梗?)
漂う死魂虫。その根源へと歩み寄る。サク・・・サク・・・・
(あ・・・一人・・・)前に一度、何かに呼ばれるようにこの場所に導かれ、衝撃を受けた。
そんな思いは二度としたくないのに・・・足は進む。
(犬夜叉を・・・待ってるのかな・・・。)『お前・・・かごめか?』
背後から声を掛けられキャ・・・と小さく悲鳴を上げた。声の主はすぐに解った。だが、その声の主がまさか
己に声を掛けようとは、思っても居なかったのだ。
『あ、うん・・・。』何となく、犬夜叉が居ると思ってしまった自分に後ろめたくなるが、
今は其れよりも、桔梗が、話をしようと言い出した事だった
『お前は、お前らしく生きることが出来るのだな?』『え?』
寂しげな桔梗の横顔が嫌になるほど綺麗で、其れなのに息を飲んでしまう自分・・・。情けない
『桔梗だって・・・あんたらしく生きてるじゃない。』その言葉に哀しげに微笑んだ
(あ・・桔梗・・・笑った・・・。)『死んでから・・・初めて自由を手にした・・・』
その言葉が嫌に哀しくなってくるのをかごめはわざと感じないようにした。
『犬夜叉は・・・もう、お前を見てるのだな?』『え?』『この前お前達を見掛けた・・・』
(違う・・・犬夜叉は・・・私を見ては・・・・)
『あんなふうに笑う犬夜叉を・・・見た事は無い。』哀しい瞳に吸い込まれそうになって、
かごめは慌てて目を逸らした(桔梗は・・・解ってない・・・犬夜叉はあんたを・・・。)
ザザァァ
森が一斉にざわめき立ち、バキバキと、木が押し倒される音に桔梗が弓を構える。
かごめも慌てて弓を探すが、現代の帰り・・・あるはずも無かった。(ゆ・・・弓が!)
姿を現した妖怪は、鬼のような姿で、手も足もある。尻尾がトカゲのように付いているのを、木を倒された
拍子に目に焼き付けた。『桔梗!』『お前は逃げろ!』『ヤダ、あんたを・・・桔梗を置いては行けない』
かごめは桔梗の側で見守った。ただ、自分には其れしか出来ないと。
弓を放っては逃げる。何度繰り返しただろう?
目の前に迫る妖怪を桔梗は必死に弓で抑えるが、矢が、もう数を残さない事にかごめが気付く
『桔梗!もう残りが・・・』妖怪は桔梗の破魔の矢に何度となく突き刺され、理性を無くしていた
『!!』妖怪の爪が桔梗を狙うのをかごめが見逃さなかった。桔梗とて同じだったが弓を構える時間を与えてはくれなかったのだ
ザン・・・・『っく!!』『かごめぇ!』ぐらり・・・・
桔梗を庇ったかごめの肩が、傷を成し、その勢いに押し飛ばされて桔梗とかごめが宙を舞った
そのまま、地へと落下するはずだが、地が・・・・見えなかった
(え?崖!)かごめが飛ばされた桔梗に手を伸ばし、目の前に吊るされていた蔓(つる)に指先を伸ばす
『お願い!届いて!!』願いが叶い指先が蔓を捕まえると、今度は激烈な痛みに襲われる
『あぁぁああっつ!』悲鳴が響き渡り、弥勒の使いで隣町へ行っていた犬夜叉の耳にも声が届いて来た
『!!かごめ?』ザザァ・・・地を蹴り上げ、不安で五月蝿くなった心臓をそのままに、先へと急いだ
『っはっは・・・・た・・・助かった・・・。』手から流れ落ちる生暖かい雫がかごめの身体に滑り落ちてくる
『き・・・桔梗っ・・・・おき・・・て!』かごめの声に、意識を手放していた桔梗がふと目を覚ました
『な?』『ごめんね・・・こんな事になっちゃって・・・』かごめの額から流れる汗と、痛みを堪えるかごめの顔に
桔梗が目を手に遣る『おまえ!』『っは・・・二人は・・・流石に・・・辛いや・・・。』
その言葉と共に、かごめが最後の力を振り絞り、手を蔓へ導いた
『っつ・・・掴んで。』その言葉に桔梗は素直に従い、蔓を手にした
『お前・・・なぜ?』『あんたが・・・居なくなったら・・・犬夜叉が・・・かな・・・し・・む』
その言葉を言い終える前にかごめの手は蔓から離され、先の見えない渓谷へと吸い込まれるように消えて行った
『か、かごめぇぇぇぇ!!』死魂虫が、フヨフヨと、桔梗の身体を持ち上げる
掴んだ蔓を離せなくて、握り締めたまま、涙を流した『なぜだ?お前は・・・お前は生きているのに!』
その言葉を言い終えると、死魂虫が、桔梗の身体を持ち上げ崖下へ向かおうとした時、
ザザァア
『犬夜叉!?』『き・・・桔梗!』桔梗の香りはしてはいたが・・まさかかごめと共に居るとは思っても見なかった
キョロキョロと、かごめを探す犬夜叉に告げる言葉・・・辛い言葉・・・
『かごめは・・・崖の下だ・・・』『な!?お、お前が・・・かごめを?・・・』
疑われても不思議は無い。そう思った、前科もある己を信じる事などしないだろう。
『妖怪だな?』以外にも言う前に当ててしまった犬夜叉に目を見開く
『桔梗、俺が・・・俺がかごめを助ける!』シュ・・・崖の方へ飛び出す犬夜叉に声など掛ける事が出来なかった
『かごめぇー』(くそ・・・俺が・・・もっと早く来てれば・・・)
『かごめぇぇぇ』(どこかの木に引っ掛かっててくれ)
『かごめぇっ・・・・』(どこだ?)
見渡した先には荒れ狂う波。犬夜叉は一晩掛けて探した・・・。
『くそっつ!!!!』どんなに探しても、かごめの姿を捉えることは出来ず、一度桔梗の元へと戻った
『桔梗!』犬夜叉の声に、桔梗が目を開く・・・寝ていた訳ではない、かごめの気を辿ろうと
試みていたのだ。
『かごめは?』犬夜叉は悲しげに首を振るだけだった。
『かごめは、私を・・・私を助けた・・・何故だ?犬夜叉!何故だ!』
ドン・・・・犬夜叉の胸に桔梗が飛び込み、かごめは何故助けたと問い掛ける
抱き締める事もしない犬夜叉がポツリと呟いた『あいつは・・・そう言う奴なんだよ。』
ポタリ・・・桔梗の頬に雫が垂れて来た、其れを確認するように慌てて瞳を犬夜叉へ向けた
抱き付いた桔梗がザザッ・・・と後ずさりをし、『お前・・・泣いて・・・』その言葉に犬夜叉が慌てて
顔の雫を拭った『俺は・・・弥勒に、仲間にこの事を伝えて又探す・・・お前は帰ってろ、見つけたら』
その後の言葉をしきりに捜す・・・
(死んでたら・・・・もし・・・・命を・・・・否!)
『かごめを連れてお前に会いに行く!』その言葉に打ちひしがれたのは桔梗だった
『お前は・・・生きてると?』『あぁ、あいつはしぶといからな・・・死ぬ訳ねぇ!』
待ち切れないように犬夜叉は其の場を去った。
『犬夜叉に・・・犬夜叉の心に染み付いたかごめにまで・・・嫉妬するのか・・・私は・・・。』
その言葉を残し、桔梗は其の場を後にした。
ざぁぁぁ
流れる大木に寄り添うように流れるかごめを、川沿いの村に住む若い女が見つけ、看病をした
気が付いてはいた。だが、かごめには、この場所に残らなければならない事情があった。
『はい。これ飲んでね?』『うん。ありがとう・・・おねぇちゃん。。。』
おねぇちゃん。そう呼んだ少女こそかごめ。
川底で記憶を手放したのだ。
和服に身を包み七日が過ぎた。どうにか身体を動かせるようになったかごめは、其の場で洗濯を始めた
『やだ、月読(つくよみ)あんた動ける体じゃないんだから・・・ほら!』
姉と呼ばれる少女は20歳位の村でも多少騒がれる姉妹だった
妹が、妖怪に食われ、少女は唯一の肉親を失い、そしてかごめが現れたのだ
かごめの名前は前の妹と同じ月読と言う名を与え、己が月華(げっか)と名乗った
流れ付いて拾った話も既にかごめには伝えてあり、かごめも、其れは理解はした。
既に名前すら思い出せない自分の居場所はここしかないと思っていたのだ
だが・・・・
ザザァァ・・・漆黒の闇に必ず浮かんで来る金色の瞳と、白銀の髪、はっきりとは思い出せないが
その人を悲しませない為に自分は居ると心の中では認識が出来た
『かごめ様ぁぁぁ~~~』『かごめぇ~』『かごめちゃーーーーーん』
皆で捜索を始めて何日が過ぎただろう?見付からないかごめ・・・
月がドンドン欠けて行くのを感じながら犬夜叉は鼻の効く間だけでも・・・そう言いながら探す
『かなり歩いたね?』『もう、此方までは流れ着いてる方が不思議ですよ?』
暗く沈んだ太陽と共に、犬夜叉が人に成り代わる
『今日はここで休息だね?』珊瑚が焚き木を集めて来ると言い、近くの村へ足を運んだ
犬夜叉は朔。漆黒の髪、妖怪に襲われたり、朔の日がばれたら大変と人里があっても
その里で休む事は無かった既に・・・かごめの失踪から10日は過ぎ去っただろう・・・。
『散歩してくる。。。。』犬夜叉が渓流の流れに沿い歩き出した
『辛いんだね?犬夜叉・・・』『そうですね。ろくに飯さえ食ってない。』
弥勒と珊瑚がはぁ、と、溜息を落とす。
七宝は、かごめがもし、命を落としていたら・・・そう考えると連れてくる訳にも行かず
楓に嘘を付いて貰い、残して来た。
『珊瑚とて・・・辛いでしょう?』『うん。かごめちゃん・・・生きてるよね?』『そう願いたいです』
(どこだ?かごめ・・・・朔なんて・・・もう・・・どうでもいい・・・お前さえ・・・お前さえ生きててくれれば)
キョロキョロと、辺りを見回しながら犬夜叉が川沿いを簸(ひ)た歩く
ドン・・・『きゃ・・・』犬夜叉が、余所見(よそみ)をしていた為、人とぶつかり、少女を飛ばしてしまった
『あ、すまねぇ・・・』手を差し伸べて再び犬夜叉が進もうとした
『あのぉ・・・お待ちください!』『ん?』『何か・・・お探しですか?』『いや・・・え?』
『あ・・・お前・・・かご・・・め・・・か?』和服に身を包み、それでも、強い瞳はかごめ以外の何者でもなかった
『お前・・・生きて・・・』犬夜叉はかごめを確認するとギュッ・・・抱き締めた
(生きていた・・・お前は・・・生きてたんだな・・・かごめ!)『く・・・苦しいです。』
『へ?です?』『あ・・私・・・あのぉ・・・ごめんなさい、記憶が・・・無くて。その・・・』
しどろもどろと話すかごめにドクンと、心臓が脈を打ちつける
『忘れた?のか・・・』『はい。今は・・・月読と・・・呼ばれております。助けてくれた姉と、暮らして
おります。私は・・・本当にかごめ?と言う名なのでしょうか?』
犬夜叉がその言葉にズサァ・・・と後ずさりをした。『え?』『てめぇ!俺をわすれたってーのか?』
剥きになって喧嘩を仕掛ける犬夜叉にすみません・・・とだけ伝えると、犬夜叉はふぅ・・・と
溜息を落とし、川際に座った。『かごめ・・・月読も、来いよ・・・。』
言い馴れない名前に戸惑いながら犬夜叉はかごめを横へ導いた
『忘れちまったんだな?』『はい』『思い出してぇか?』『はい。』
哀しげに笑う犬夜叉にかごめの頭がズキンと痛みを覚える
『かごめ・・・お前の名。蛙と、ミミズが嫌いだった。食いもんは何でも食ったぞ?』
何でもって所で、うそ?などと声が掛かるが大人しく話は進んだ
『で、お前は気が強くって、無鉄砲で。すぐ人助けをしたがる』『其れって普通なんじゃ?』
『俺は、犬夜叉。お前の・・・。』『私の?』『・・・。あ、明日仲間と迎えに来る!お前はどうする?』
『行きます。』『じゃ、明日・・・』『はい、』
闇に消えるまで犬夜叉を見送ると、其の場から腰を上げ、月華の待つ小屋へ向かった
(記憶を・・・無くしちまった・・・命の代償として・・・記憶を落したのか?
今のお前に・・・何がしてやれる?俺は・・・お前の・・・何なんだ?
俺は、お前と・・・付き合ってるって。言っても良いのか?・・・・
かごめ、俺は、お前に・・・何を与える事が出来る?)
川の流れが嫌に五月蝿い。そんな事を考えながら弥勒達の待つ場所まで足を進めると
火の前にドカリと、腰を落し既に焦げていた魚を口へ運んだ
『にげぇ・・・っつ・・・』その姿に弥勒と珊瑚が口を挟む
『どうしたのさ?あ・・あんた泣いてる?』『な!泣いてなんかねぇ!そ、其れより・・・かごめが居た』
ドキン・・・・
一行の胸が同じ速さで脈を打つ
『ど、どう言う事だ!犬夜叉!!』弥勒が攻め寄る中、先程の話を全てした。
落した記憶の事、名が変わってる事、全てを
『そうですか。でも、いささか可愛そうですな・・・。連れ帰るのは・・・。』
弥勒は本人を第一に考えた。『なんでだよ!』犬夜叉が無論反論を仕掛ける
『桔梗様とお前・・・そして・・・奈落・・・そして、自分が狙われている事そんな事を思い出さなくちゃならないのです』
犬夜叉が言葉に詰まった。確かにかごめを苦しめる者は己だけではない
ましてや、奈落に狙われ、何度となく命を危険に晒している
犬夜叉が守っても、かごめが飛び出し何度か危ない目に逢った事もある
桔梗を死んだと思い探した時も、かごめは奈落に命を狙われた・・・否眼を狙われた
そんな状況より、今の穏やかな状況の方が良いに決まってる・・・そう言われてしまった
(弥勒。分かってるんだ・・・でも、離したくない。おれの我侭だってのも十分解ってる・・・だが
大切なんだ・・・離したくない。忘れられたく・・・ないんだ)
声に出して思いを伝える事が出来ない不器用さ・・・其れは己とて解ってはいる。
でも、それでも、伝わって欲しいと胸の中で呟いた
(はぁ、お前のその顔・・・かごめ様が見たら抱き締めてくれるんだろうな?)『解った解った!』
ポンポン・・・犬夜叉の肩を軽く叩いて弥勒が木の幹へ腰を掛ける
『明日、かごめ様と帰りますよ・・・ったく。犬夜叉も我侭を少し治せ!』
けっ・・・何時もの捨台詞に付いて来た顔は子供がおもちゃを与えられたような顔・・・。
流石の珊瑚も気が付いたらしく、クスリと笑う
『なんにせよ、かごめちゃんが生きてたんだ・・・明日会えるんだ!早く寝よう!』
弥勒が火の側に戻り、木をくべる
ばちちっつ・・・燃え尽きた炎が、違う炎に掻き消され、再び火は大きく成る
『かごめが・・・』横に居た犬夜叉が重い口を開いた。弥勒は其れに只黙って耳を傾けた
『かごめが生きていたんだ』『そうだな・・・。』『俺・・・』『どうしていいか今更になって考えてるのか?』
見透かすように言う弥勒に、只黙って首を縦に振った
『お前のしたいようにすれば良い。かごめ様は思い出したいと、そう告げたのだ、後はお前次第だ』
そう言うと弥勒が木を再び投げ入れる
『おれ、あいつの何なんだ?』『はぁ?いきなりですね?』『お前は何で珊瑚に夫婦の約束をした?』
弥勒がクスリと笑い、その旨を告げる
女と言う者は、不思議なもので、言葉で聞けないと、不安や悲しみが襲うのです。
どんなに好きだと態度で示し、守り、抱き締めても・・・それでも・・・
やはり、心は、どうなのだろう?本当に信じていいのだろうか?と、疑問符だらけなんですよ
だから。私はあの出来事を期に、珊瑚を大切にしたいと思う心を告げ、珊瑚の不安を取り除いたのです
これで私も気が晴れましたよ。こんな私でも・・・側に居てくれると、珊瑚はそう言ってくれるのだ
お前はどうです?甘えてばかり。桔梗の事も、かごめ様は許してくれてると思ってませんか?
その度に哀しい顔をするかごめ様を・・・お前は知らないだろう?
桔梗に逢いに行く度に、かごめ様の心は涙を流してる事を・・・少しでも解ってあげなさい
お前が、かごめ様の何か?其れは私が決める事でも、ましてやお前が決める事でもない。
かごめ様が、決める事だ・・・。
お前は?かごめ様は、お前のなんだ?ただ守るだけではなかろう?
犬夜叉はその言葉に答えを出せないで居た。
『仲間・・・』『それだけ?ですか?』『い・・・居場所・・・』『ほぉ?』(お?素直だ!)
『す・・・すき・・・だと・・・思ってる。』『では、答えは出てるではないか?』
『・・・。』両足を抱え込み、膝に顎を乗せて火を見つめる犬夜叉が嫌に小さく見えて弥勒が肩を抱いた
『?』『お前、素直になりなさい。どうしてかごめ様は桔梗様を助けた?お前の哀しい顔を見たくないからだ』
『おれの?』『あぁ、かごめ様だってお前を好いている、だから・・・素直に告げればいいだろう?』
ピクリと動く体に弥勒が細く微笑む
『あ・・・あんた達男同士で何やってるのさ!』その後、珊瑚に誤解をされた物の、
どうにか犬夜叉の心も晴れ、朝を迎えた
『さて・・・行きますか。かごめ様の元へ』犬夜叉もすっきりとした顔でかごめに向かう
もう・・・迷わないと決めたから・・・・
命の変わりに落した記憶を呼び覚ます為に、己は告げよう。
お前を好きだと。守りたいと・・・
そして又朝日が昇れば・・・・きっと、新たな記憶が生まれるのだから。
『犬夜叉?心の準備は?』『るせぇー出来てんよ!』
簾をくぐる一行。
珊瑚も、弥勒も、再び声を失った。朔の犬夜叉だった為か、全く解らないと言う顔を向け、『誰?』と、告げるかごめ
チクリ・・・胸が傷むが犬夜叉が声を掛ける『かごめ・・・おれだ』と、余りに哀しげで弥勒が口を開いた
『かごめ様が、昨夜逢った犬夜叉ですよ?』以外にもかごめは犬夜叉に飛び付き、耳をフニフニと触り出した
『耳?』『おれ、半妖なんだよ・・・。』『半妖?』『あぁ・・・』
再び半妖の意味を説明する犬夜叉に、珊瑚や弥勒が手助けを出し、かごめも理解をしたようだった
新たに加わった仲間・・・考える事は沢山有るし思い出さなくては成らない事も沢山有った
だが、犬夜叉は思い出さなくても、思い出しても・・・・共に歩む決意だけは消えなかった
『ねぇ?私犬夜叉の耳・・・前も引っ張ったでしょ?』意外な質問に犬夜叉も目を丸くする他無かった
『おめーはいっつもそうだ!ったく、俺の耳は玩具じゃねぇ!』ちょっと照れたような顔で答える犬夜叉に、
かごめ自身がホッと胸を撫で下ろした。
(やっぱり・・・いい人なんだ)
小屋の簾をくぐり、一行は歩き出した。
記憶と言う物を取り戻しに。かごめと言う少女を守る為、そして
其の果てを見据え、ひた進む、真っ直ぐに・・・
FIN
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【声を聞かせて】
軽快に鳴き騒ぐ鳥達が、風の流れに身を任せてユラユラと揺れ飛ぶ。
いつの日も、また、幾つ年を越えても・・・変わらないのは大きな木と、古びた井戸
鳥達は、木々のざわめきと共に揺れ動き、羽を広げては風を受けその流れを受け大きく羽ばたく
大自然の風は、程好く静かに時を過ごしていた
『おい・・・おいって!』『あ・・・なに?』夢現(ゆめうつつ)の世界から引き戻されたかごめが
声を掛けて来た人に向かってにっこりと微笑む
ドキリと、少年の心が脈を早めるが、そんな事にかごめが気付く訳もなかった
『なに?犬夜叉・・・』『あ・・・おれ、寝るから起こせよ!』
目が点になった。
(な、なによ・・・人がのんびりしてれば怒るくせに・・・どうして起こせなのよったく)
声に出したらまた喧嘩が始まると思い、かごめは胸中だけに収めた
さわ・・・そよ吹く風が温かな風と、少しだけ心地良い風を孕みかごめの髪を撫でる
一刻(2時間)が過ぎ日が傾きかけると、流石に風は冷たさと湿気を含んだ風となり、
かごめがすくり・・・と、立ち上がる
足に付いた草を綺麗に払いのけると、犬夜叉の寝顔を覗き込んだ
(やっぱり・・・起きてるのかなぁ?)寝ると言ったら当たり前に寝る現代・・・その時代とは大きく掛け離れた
500年前の今・・・寝ると言った所で、実際は目を伏せるだけ。
夢の世界に身を投じてしまえば、”何か”に襲われる危険を隣りあわせで持っているのだ
かごめは小さく囁いた・・・・犬夜叉・・・・と
無論耳は反応を示し、瞼も微かに動きを見せていた。
『もう・・・戻ろう?』『あぁ・・・』目も開けず、犬夜叉の返答は返された
『どうしたの?』『あ?なにが?』『あんた・・・顔赤い・・・』『けっ・・・知るかよ』
かごめに囁かれた己の名・・・嫌に心地が良く、愛おしく思ってしまった・・・なんて事を告げれる訳も無く
悪態を付いてごまかす他なかったのだ
『熱でも・・・あるんじゃない?』そっと伸ばされた手に犬夜叉は気が付き・・・・
パシッ・・・・
払い除けてしまった
『あ・・わ・・・わりぃ・・・・』恥ずかしくて・・・なんて事が言えるかよ!そう思いながらソッポを向くほか無かったのだ
だが、かごめにとっては、何よりも、払いのけられてしまった手が・・・なぜなのかと言う疑問にぶち当たっていた
(桔梗の・・・夢でも見てたのかな?・・・犬夜叉の・・・ばか)
切ないほどの運命を背負った巫女。そして・・・その運命を己の為に閉じたと知った犬夜叉・・・
その二人の間に割って入れる訳が無いと・・・そう言い聞かせていた。
毎日・・・毎日・・・・どんなに優しくされても・・・どんなに一緒に笑っても・・・帰り着く先は・・・・
『桔梗の・・・夢でも見たの?』『はぁ?なーに言ってるんだ?』『あ・・・ごめん・・・』
口に出したかった訳ではなかった。それなのに・・・出てしまった
もう・・・この辛さから逃げ出してしまおうか・・・・この思いから・・・逃げてしまおうか
桔梗なんて・・・居なくなればいい!
何度、この醜い自分と合間見えただろう・・・・
『私・・・もう行くよ』かごめが犬夜叉の傍から離れると、なぜか・・・寂しいと感じた
そんな事を、認める内に・・・どんどん犬夜叉に惹かれる自分が居る
間に割って入れないと・・・知りながら傍に居る自分は・・・ずるいのだろうか?
犬夜叉は先に帰るかごめを、追いかける事をしなかった・・・・
ドキドキと高鳴る胸の音だけが響く野原・・・抱き締めてしまいたいと・・・そう願ってしまったのだ
だから、傍に行けば必ず・・・その思いを遂げてしまう・・・だから・・・だからこそ・・・追わなかった
犬夜叉はその数分後、申し訳無さげに戻ったが、かごめの姿は見えなかった
『あ・・・かごめ・・・まだ帰ってねぇのか?』『かごめちゃん・・・上だよ・・・』『上?』
『楓様と桔梗様の墓参りですよ・・・・』弥勒がぼそりと呟く
先ほども聞いた名前・・・皆はこの名前をあまり出そうとはしない・・・
恐らくは己の為ではなく・・・かごめの為に。犬夜叉は、・・・そうか・・・・としか・・・言えなかった
『綺麗になったね?』『すまぬな・・・かごめ』『ううん・・・大丈夫だよ?』
『所で・・・お主は犬夜叉と付きおうておるのか?』『な”・・・急に・・・何を聞くのよ・・・もぉ、楓おばーちゃんったら』
赤くなりながら。かごめは肯定も否定もしなかった・・・否。出来なかった
『犬夜叉も・・・もう少し大人になってくれればのぉ・・・』
『あのままで良いんじゃないかな?私は・・・大丈夫だよ?』
『かごめ?大丈夫と言う言葉は・・・違うから使うんじゃ・・・・辛く無いはずが・・・なかろう』
その言葉に先程の犬夜叉に払い除けられた手を思い出すと、涙が自然に零れて来た
『っつ・・・あ、あれ?虫でも入ったかな・・・』『無理はしなくていい・・・お姉様の墓だとて、気に病むな』
『う・・・ん・・・ごめんね・・・楓ばーちゃん・・・少しだけだから・・・っ』
零れ落ちる涙は、桔梗の墓土に染み込み、全ての思いを流すように、泣いた
『桔梗・・・・桔梗・・・お願い・・・犬夜叉を・・・連れて行かないで・・・私・・・私・・・』
先に何があるかなんて分からない・・・でも、犬夜叉と一緒に居たい・・・忘れるなんて・・・出来ない
あの時、そう犬夜叉に告げた・・・だから・・・もう少し・・・
かごめの涙が止まる頃、楓はもう一つの疑問をかごめへ向けた・・・
無論答えは分からない・・・考える事もしたくない・・・そんな疑問
『分からない・・・いつ・・・私がこの地に来れなくなるのかなんて・・・考えても居ない』
再び湧き上がる涙を今度は空を見上げて堪える
『だが、お前と、あやつが・・・出会ったのは運命・・・お前と犬夜叉の絆も・・・ちゃんと在るのだからな?』
その言葉が胸に響いて来る。楓とは時折、このように深く話し合いをする。
無論犬夜叉達が傍に居ない時に。
『なーんか!うじうじ考えても仕方ないよね?私と桔梗は違うんだし!犬夜叉は・・・今は傍に居てくれる』
『あぁ、犬夜叉は人を信じない目をしていたあの頃とは違うからな・・・かごめが傍に居るだけで・・・違うのじゃろうて』
自分の存在理由が分からずに居たかごめにとって、その言葉は嬉しかった。
無論、犬夜叉もかごめにはそう言う雰囲気の言葉を何度か掛けてはいるが・・・それでも、
態度で守ってくれるだけで・・・分かってても・・・時には言葉が欲しかったのだ。
きっと、そんな事を言ってしまえば、犬夜叉は困るだけだろうし。言葉を言ってと強要するつもりは・・・毛頭無かった
『戻ろうか?もう、犬夜叉も帰って来るでしょ?※夕餉(ゆうげ)の支度・・・珊瑚ちゃんしてるだろうし・・・手伝いに帰るね?』
心が薄く晴れると、かごめは足を階段へ向け進もうとした時、『!!』『お、おぅ』『い、犬夜叉!』
階段のすぐそこに、犬夜叉は座り込んでいた。聞かれたのか?かごめの頭は其れで一杯になる・・・・
『あ、飯・・・だぞ?』『え?あ・・・うん・・・』なんとも気まずい・・・。
音を察知したり、匂いですぐ分かる犬夜叉なのだから、聞いていたとしても、さっさと身を隠してくれれば
平然な顔で犬夜叉に接したのに・・・・そんなところに座ってるなんて反則よ!
などと、心で思うが、どこまで聞かれたのだろうか?其れすら頭から離れなくなってしまっていた
夕餉が終わり、それぞれの時間を過ごしていると、犬夜叉が、かごめに声を掛けて来た
普段ならその場でごろごろとしながらあーでもないこーでもないと話をし、就寝時間になるのだが・・・・
そよぐ風は湿気を含んだ冷たい風に変わり果て、先ほど居た場所へ再び二人並んだ
草が風に撫で上げられ、さわわ・・・さわわ・・・・と、葉の擦れる音が聞こえる以外に音はなかった
『さ、さっきは・・・悪かったな』『え?』『さっき・・・おめぇが・・・その・・・』
しどろもどろと話し始めた犬夜叉・・・何を言うかなんてほとんど分かっていた。
きっと・・・恥ずかしくなって手を払ったと・・・・
『お前を抱きしめちまいそうで・・・・』(え?)『だから・・・手を払ったんだ・・・その・・・すまねぇ』(え?)
鳩が豆鉄砲を食らうとはこの事なのだろうか?キョトンとしたかごめ・・・赤くなって全てを語った犬夜叉・・・
視線が互いに違う方を見る
(な、なによ・・・いきなり・・・・)『どうして私を抱きしめるのよ?あんたには桔梗が居るでしょ?』
その問いには・・・答えてはこなかった
『桔梗と・・・抱き合ったり、キスしたりしてるのに、なんで私を抱き締めたくなるのよ?』半分は怒り・・・だが
ほんの少しの期待が胸を過ぎる
『かご・・・め・・・』いきなりだった・・・肌が、身体が・・・全てが・・・犬夜叉を感じ、暖かさが伝わってくる
『な!』何するのよ・・・だとか、やめて・・・なんて・・・言えなかった
好きな人に抱き締められる幸せは、どの時代だって同じなんだ。
『お前に・・・桔梗がいるなんて・・・言われると・・・胸が痛ぇ・・・』『犬・・・夜叉?』
『おれは・・・ずるい。けど・・・お前に、そうやって言われるのは・・・すげー嫌だ』
『な”!それって・・・あんたの勝手じゃない!あの時、あんたは桔梗を選んだのよ?』『分かってる』『わかってるなら・・・』
分かってるなら・・・抱き締めたりしないで
『お前の・・・強さが好きだ・・・笑顔も、怒ってる時も・・・』
離して・・・・
『夢の中で・・・何度も・・・おれはお前を・・・抱き締めていたんだ』
離して・・・もう・・・離して・・・これ以上・・・・やめて
『おれは・・・お前を・・・・』
もう・・・止められなくなる・・・聞いてしまえば・・・思いは止まらない
『お前を・・・』『犬夜叉!だめ!』『かご・・・め?』『今は・・・まだいい・・・言わないで・・・』
聞いてしまえば・・・また、私は自分を失う・・・・
『何を言うかは、分からないけど、今は・・・まだ・・・聞く勇気が無いの・・・』『勇気?』
『何を聞いても・・・聞かされても・・・犬夜叉を信じる事に変わりは無い・・・でも、今は・・・まだ・・・』
辛い・・・そう告げているような表情をされたら犬夜叉とて、思いを打ち明ける事など出来なかった
『おれは人を信じれなかった・・・今も、全てを信じるなんてできねぇ・・・でも・・・
弥勒や珊瑚・・・それに、お前は違う。だから、お前が今聞きたくねぇ・・・そう言うなら・・・言わねぇ
おれも、はっきりしてから伝える。その方が・・・お前の望む形だと思う・・・
全ては。。。奈落を討ってからだ・・・かごめ・・・それまで・・・それまでは、傍に・・・
傍に居てくれ』『私で・・・いいの?』『お前じゃなきゃ・・・力がでねぇんだよ』『うん』
静かに虫達が囁く・・・りんりん・・・ちちち・・・・
草が擦れて出す歌は・・・静かに二人を包んだ・・・・
二人だから・・・強くなれる
皆だから・・・戦える
命の重さを分かち合い・・・・
一行は再び前へ進む
『じゃ、いこっか?』『おう!』
風を切って先頭を歩くかごめに、犬夜叉は微笑を向ける。
そして・・・・
『お前以外・・・傍に居てくれる奴なんか。。。いらねぇよ』
聞こえないように呟きかごめの後を追った・・・
FIN
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