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≪ 狼と私2章21 | | HOME | | 【優2】2 ≫ |
優を読んでから閲覧お願いいたします。
この話は現代のセイちゃんの性格を呼び起こす前の
麻耶と総司のお話になるため、苦手な方は回れ右でお願いします。
では本編↓
★番外編<総司と麻耶>★
【 -優- 】
うららかな昼下がりだった
友人の拓海(タクミ)に呼び出され、総司は公園にいた
呼び出しの内容は、合コンでの人数あわせ
を
拒否した総司への償い作業として
拓海の親戚とのデートと言う名の”子守”を与えられたのだ
コースは動物園…
総司は、深い溜息を吐いた
(15歳って…言ったよな…)
総司の家族は、姉はいれども、己は末っ子
人の面倒など見たことも無いし、気を配分してまで
一緒に居る事など避けて通りたいのだが
(はぁ、たかが合コンを避けただけなのに…)
噴水の前で座って下を向いていると
急に日が翳り、総司は慌てて上を見上げた
「えっと…沖田さんでしょうか?」
ジーンズに白いTシャツ
デートと言う雰囲気では全く無い様子のその子を見て
総司は再び深く息を吐いた
(なんだか、私だけ気合入れているみたいで…恥ずかしいかも…)
Tシャツの上に、黒のワイシャツをルーズに着て、ジーンズ姿に、ネックレス
デートなどした事も数回だと言うのに
一生懸命昨夜、姉に相談しながら服装を吟味した自分がちょっと切ない
「私、麻耶と言います…拓海兄ぃから、聞いていますか?」
ペコリと名前の後頭を下げる辺り、礼儀正しい子なんだなと
総司が座っていた腰を上げた
「沖田です、麻耶さん、よろしく」
二人は其れから言葉を吐かずに、黙って電車に乗り、動物園に到着した
「中学生一枚と、大人一枚」
総司が、財布を尻ポケから引き出すと、ジャラリと鎖が揺れた
「すいません、お…大人二枚で…」
横から麻耶が、売り場の人に声を掛けると
ニッコリと微笑んで、売り場の女性がチケットを二枚差し出した
「あっ、ごめんなさい…高校生ですもんね…」
あまりの小ささに、中学生と言ってしまったのを素直に謝ると
麻耶はニッコリと微笑んで、気にしません
と、はっきりと答えた
そこから二人は会話をチョコチョコと弾ませつつ
園内を楽しく回り、昼すら忘れて、サル山や、ライオンやらを堪能した
「動物園なんて、何年振りかな~?案外楽しいですね~」
「あっ!え、えぇ、良かったです」
麻耶は、夕刻になると段々と上の空になり、会話が途切れがちになって行った
「面白く…ないですかね?」
総司が覗き込んでくると、麻耶はフルフルと頭を左右に振り
総司のワイシャツの裾をギュッと握った
「どうしました?」
「また…会ってくれますか?」
その声が、あまりに小さくて、聞き取れず
総司が再び聞き返すと、何でもありませんと返答が来た
夕暮れ、近くのファミレスへと入り、夕食をしていると
麻耶の携帯が鳴った
メールが来たと告げ、失礼しますと断りを入れ画面を見ると
拓海兄ぃ
Re:総司にも見せろよ
お二人とも、お疲れさん
お陰で彼女とデートができたぜ!
麻耶へ
そいつは優しかっただろう?
総司へ
変な事に使って悪かったな
たったそれだけの短い文章に、麻耶がギュッと唇を噛み締めた
「ん?どうかしたんですか?」
「あっ、拓海兄ぃからです…」
差し出されたメール画面を見て、総司も役目を終えたとホッとした
食事が終わると、麻耶が急に総司に聞いてくれと言うかのように話しだした
「私…沖田さんが剣道やっているの知っているんです」
突拍子も無く始まったその話に、総司が、え?と、疑問を投げると話が続いた
「大会で優勝した沖田さんを知っていて…
それで、拓海兄ぃが勝手にセッティングしちゃって…
でも、剣道やってる男って、好きになれなくて…
総司だったら、お前の思っている男とは違うとか言い出して…
あの…その…」
なんだか、切羽詰っているような話し方に、総司が薄く微笑んだ
「うん、ちゃんと聞きますから、焦らないでゆっくりで良いよ?」
その言葉に、麻耶が真っ赤になる
麻耶も、剣道をやっていて、総司の存在は聞かないはずも無かった
何しろ、日本一の座を取った男なのだから
だが、麻耶の居る剣道部の男達は、乱暴な人が多く
女子剣道部の予算などを勝手に使ったり、乱暴を働き、出場停止にわざと
させられた経験があり、挙句
その男達に反抗的な麻耶を襲うと言う事件まであった
結局先生が不穏な動きに気が付いて、間一髪で逃げ出せたのだが
麻耶にとっては、男そのものが好きにはなれなかった
無論、その事件以来
麻耶は男と関わりたくないと、告白されても断り
着飾る事を辞めてしまった
だから、男なんて親族以外は皆一緒
総司の剣道の腕には憧れるが、男など皆同じだと思っていた
「なのに…この前、拓海兄ぃが、沖田さんは違うって…」
合コンにも、あまり参加しないし
告白されても、あまり乗り気にはならず
剣道を一途にやっているんだと聞いて
そんなはずは無いと反論したのだ
だが、そんな麻耶に拓海が、来週動物園な!と
勝手に日取りを決め、その目で確かめて来いと総司とのデートが決定したのだった
だからこそ、麻耶は着飾らず来たのだが
「だから、その…沖田さんは違うんだと、解りました…」
「あはは、私は良く抜けてると言われますからねぇ~」
と、のほほんと返してくる総司に、麻耶が微笑み
「あのっ、また…会っていただけますか?」
と、もう一度今度ははっきりと、問い掛けてみた
「ん~…私も稽古が有るんで、なかなか時間が取れないと思うんですよね~」
と、顎に手を当てながら伝えてくる総司
麻耶が、羞恥から頬を真っ赤にして立ち上がると
「すいません!なんか、図々しくって…
あのっ、さっきの忘れて下さい!すいませんでした!今日は帰ります!」
麻耶が、財布から1000円取り出し、テーブルに置くと
総司の止める言葉も聞かずに、ペコリと一礼し
その場を去ったのだ
其れが二人の出会いだった…
二人がその後に会ったのは、半年後
麻耶が、今回の試合に出場すると決まり、拓海が見に行くと言い出したのが
きっかけである
拓海が、総司に映画に付き合ってくれと頼まれ
麻耶の試合を見に行くと伝え断りを入れると
剣道バカの総司が、其れを一緒に見に行くと言い出したのだ
「はぁ?だって、お前女子だぞ?身内も出ねぇのに面白くねぇじゃん」
「ん~まぁ、麻耶さんは一度会ってるし、剣道自体は好きだから、男女関係ないでしょ?」
ニッコリと笑う総司に溜息を吐き、わかったわかったと連呼して
見学決定である
ヤー… メーン…
広い体育館で、声が響く
男の太く地響きするような声がしない違和感はあったが
呼吸や、その場の気迫の篭った雰囲気は男子と変わりは殆ど無い
まぁ、女子と言うだけで、甘い香りがしたり
動いている人間の筋肉の付き方がまるで違うのだけは、仕方が無いものなのだが
「先鋒!」
呼ばれて、竹刀の先端を合わせる
「あっ、拓海!麻耶ちゃん、もう出番みたいだよ?」
「はぁ?何言ってんの?次峰って聞いたぞ?」
「え?でも、あれ…麻耶ちゃんじゃないかなぁ?」
総司の指先を見て、拓海も身を乗り出してみると
マジか!
と、叫び、審判に睨まれる事となる
紛れも無く、その面の下の少女は、麻耶
勝負は一瞬で付いた
麻耶の面が綺麗に入り、次に胴を奪い
勝利を得た
だが、次峰が負けると、負の連鎖のように全てが負け
団体戦敗退となった
「ふぅん、麻耶ちゃんって、結構やりますね」
麻耶に会いに行く途中に吐いた総司の言葉に、拓海が目を見開いた
「なんだ、麻耶に興味あんのか?」
「興味って…剣道の腕の事を言ったんですよぅ~」
「まぁ、そうだよなぁ~15のガキじゃ、手すら出す気起きねぇよなぁ」
総司だけは違うと…デートから帰った麻耶が言った
それでも凄い進歩だと拓海は思っていたのだが
15歳と20歳…その5年の差が、拓海には麻耶を子供と思わせるのだ
長い廊下を進むと、麻耶と同じ剣道着を身に纏った少女が三人で何かをコソコソと
話しているのが耳に入った
「レギュラー取ったからっていい気に成りやがって」
「折角先鋒にしてやったのに、次峰だったら、先鋒も勝てたとか」
「ったく、生意気なんだよ、アイツ」
その言葉を聞きながら、待機室に入ると
麻耶が、両の手を合わせ確りと握り締め、椅子に座ったまま下を見つめている姿が
二人の視界に飛び込んできた
「お、おい?麻耶?」
「ぇ? ぁ…え?お、お、沖田さんっ!」
ガタッと勢い良く立ち上がったせいで、椅子がバタンと後ろに倒れる
麻耶はポカンと総司を見つめた
「まーやー?見に来たのは俺だぞ?」
その言葉にハッと我に返り、麻耶が、ありがとうと二人に告げたが
敗北の後の姿は本来見られたくないものだ
それも、よりによって
沖田総司に見られるとは…
しょんぼりと俯くと、総司の手が麻耶の顎を持ち上げ、そっと、
頬に手を添えてきた
「え・・・?」
「殴られた…んでしょう?」
頬が赤くなり、目の下辺りが擦り傷になっている
その赤くなった場所が人の手形と見て取れるほどはっきりと付いている
「私が…生意気言いましたので」
「そうですかねぇ?あなたの実力だったら、大将でも良い位なのに」
「え?」
「まぁ、先輩を立てるのも大事ですけど、貴女は強いですよ」
ポンポンと頭の上に手を置かれ、麻耶は顔を更に赤く染めた
その後、三人で食事を済ませ、総司は自宅へ向かう為
その輪から離れた
「じゃーな、総司」
「あっ、拓海っ、麻耶ちゃんに私の携帯とメアド教えてやってね?」
「は?」
数歩離れた所で、総司がニッコリと笑う
「麻耶ちゃん、稽古に行き詰ったりしたら連絡してきて良いですからね~?」
「えっ? あっ、 ハイ!ありがとうございますっ!」
「総司のヤツ…なんだよったく、ガキ相手に」
「拓海兄ぃ!」
「あ?わりぃわりぃ。赤外線しとくべ…」
総司と、麻耶が剣道の先輩として
繋がった…
恋愛感情ではない
総司の心は、まだ、愛など知らなかった
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2011.3.24
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