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2です
漆黒の闇の中。風が舞う
草木を揺らし、舞い踊る
★風-弐-★
「神谷・・さん・・・・」
「っ・・・沖田先生!」
いつから居やがった?と土方の声が総司の耳に届く
苦笑いしながら、総司はセイ目掛けて足を進めた
「だめ、来ないで!」
セイの悲鳴に近い声が室内を埋めていく・・・・
「ダメです、来てはダメなんですっ!」
「病なんて怖くありませんよ。」総司は優しい笑みを浮かべ
セイに向かってゆっくりと足を進める
後ずさりながら来ないでと連呼するセイを、正面からぎゅっと・・・抱きしめた
「ダメッ・・・だめです・・・・いやぁ・・・・」
涙が止め処なく溢れ、総司の肩口をシトシトと降り注ぐ雨のように濡らしていく
「一人で苦しませてごめんなさい。怒ってしまって・・・ごめんなさい」
消え入るように、総司が言葉を優しく掛け、ぎゅっと優しくそして離さないと言わんばかりに
胸の中で束縛をすると、セイの張り詰めた意識が飛んだ。
布団に寝かされたセイの周りに4人の男
「私が、残してしまったのです・・・・」
女子としてのセイを己の独占欲から残したのかもしれない
強く、もっと強く追い出そうと思えば、どうとでも出来たのだ
「大人の振りをして、神谷さんに甘えていたのは私なんですよ」
儚げに言葉を綴り、総司は一筋の涙を流した
たった一筋
涙は流さないと決め、今まで泣く事を忘れていた
それを、思い出させるようにセイの事に関しては涙が出てしまうのだ
「総司、お前はどうしたい?」近藤が優しく声を掛ける
「わかりません、でも、神谷さんを殺したいとは思いませんし
きっと局長の命でも、私はこの人を斬る事は出来ません。
隊士のまま、生きたいと彼女は言うでしょうけど、そうなれば
隊の仲間を裏切った士道不覚悟だと言い出すでしょうし」
法眼がその言葉を聞き、ふっとセイから視線を外した
「言うなと言われているが、女の身で何人殺めたか・・・・
コイツは、自分の狂気で人を殺めたと、女でありながら男として隊士として生きる
だったら、最後まで隊士として居たいと言うんだよな。
でなければ、こいつは今まで殺した奴らの怨念をただ、その身に受けるだけの
ただの咎人だと・・・・・」
その言葉に近藤が涙を流し、セイの頭を優しく撫でた
「辛かっただろうに・・・・」
土方に至っては、ただ無言でセイを見つめるだけで何かを深く考え込んでいる
「私が、休憩所を持ちます」
総司の言葉に唖然となった3人
恋愛に疎い総司が、女への激情の扉を開けたように見えて
近藤が総司の手を握り締めた
「総司!そうしてくれるか?」
「私は、神谷さんを剣士として育ててしまった咎があります。
そして、局長を初め、皆さんを憚(はばか)ってた咎もあります。
そして・・・・
一生女子を愛さないと決めていた・・・その誓いを破った咎も」
総司の視線がセイに向けられ、どれだけ助けられたかを
今更ながらに再確認した。
この思いはきっと、言ってはいけない、言えるはずも無い
そう思っていたのに、ここに来て、また総司の矜持を崩すセイ・・・・
(本当にあなたには敵いませんよ・・・・・)
土方が袖に両の腕を居れ考え込んでいたのだが、ふっと視線を総司に向けると
「咎なんかじゃねぇよ、神谷は総司、お前がお前の色に染め上げながら
女剣士を作り上げて行ったんだ。
それは、神谷の望む地獄であり、総司の望む天国でもあるって事だ」
「もぉ~土方さん難しいですよぅ~」眉間に皺を寄せ総司が解らないと言う
「いいか?総司・・・お前ぇは、これまでのお前とは違う
それは、神谷のお陰だと言うのは自分でも言っていたから解るだろう?
神谷の明るさや、優しさ、全てに癒され地に足を着けた。
局長を守ることは、変わりない事だが、お前は同時に守りたい女も出来た
だからこそ、総司は天国へ昇れた
そして。神谷は、敵討ちを終わらせ隊に残ったのは恐らくは総司・・・お前ぇが居たからだろう
今までの神谷の行動や言動を考えると納得がいく
そうやって地獄へ自ら踏み入れたんだよ」
土方の言葉が終わると、近藤は疑問を投げかけた
「総司・・・一つ聞くが、神谷君と共に居ると言う事は
お前の体もやがて蝕まれる可能性もある、染らないとは言い切れない
それでも、神谷君を側にと、言えるのか?」
「病は仕方がないですからねぇ~私が染ってしまったなら、それはそれで
私は受け入れれますし、神谷さんが苦しんでるならば、尚の事ですよ・・・
染ら無いとは言い切れませんし、ひょんな事から違う所で感染してしまったりも
する病ですから、怖くは在りません。
ただ、神谷さんが私を受け入れてくれるか・・・・それが心配ですけど・・・。」
昏々と眠るセイの手を取り、スリスリと優しく摩る
「娘・・・」「え?」総司が声のする方へ視線を向けると
松本が涙を流しながら総司に伝えた
「セイは娘みたいなもんだ・・・先立ても言ったが、セイを貰ってくれるか?」
「いえ、すいません・・・・正妻は持つ気はありません。この誓いまで破るつもりはありません」
総司!と、周りで声を荒げた
先程と言ってる事が違うのだ、側に置くと告げたと言うのに、妻にはしないなどと、在り得るはずも無い
「神谷さんは武士ですから・・・・」
悲しそうに一言告げると、総司は言葉を紡いだ
「想い合い、願い合い、共に戦い傷つき育って来ました。人の心の大きさや
思いの強さを思い知り、この人以上にきっと、愛しいと思える人は出て来ないと思います
だって・・・同じ剣士ですから。
武士の志を持った女を、一介の普通の女に戻せる訳もありませんし
それを私が望んだ所で、きっと神谷さんは首を縦に振らないと思います。」
「セイがお前の為にここに居てもか?」
法眼の声にクスリと笑い、続けた
「恋情は人を狂わせる、それに堪えれなくて逃げ出した私は卑怯者なんです。
神谷さんがもし、このまま治らないで命を失えばきっと、私は狂ってしまう
正妻になんてしたら、独占欲で困らせるのは目に見えていますし・・・・
だったら、側にいつも居て、戦う孤独な時に共に戦った記憶を抱きしめながら
共に散りたいのです。」
総司の儚い言葉に、ゴクリと息を呑み法眼がパンと、己の足を叩いた
「おめぇら、良い夫婦になれるのにな、セイも似たような事を言ってたぜ」
ふぅ・・・と深い息を吐き、仕方ないと言葉を続け立ち上がった
「ともあれだ・・・かかっちまったもんは仕方ねぇし、セイを沖田の休憩所に
行くように仕向けるしかない。
沖田よ・・・こいつには手を焼くぜ?途中放棄はしないでくれよ?」
クスリと笑いながら、「承知」とだけ言い残し、総司は監察の山崎の隠れ家へ向かった
土方も、セイの不在の理由を考えたり、それについての書面を用意したりと
なかなか協力的である。今まで可愛がった部下である、情が移るのも無理がねぇと
着々と準備を進めた。
翌朝、セイが目を覚ますと其処には人の気配がなく
薄く開いた目の先に、団子が3本置いてあった
(・・・・沖田先生?)
辺りを見回すが、その人は居なく、ふぅと溜息を落とし布団を握り締めた
知られてしまった・・・・どうしよう・・・・
セイの頭の中はごちゃごちゃに入り乱れ
自分の口から沖田を傷つけた事やら女だとばらした事から
あまりに、昨夜は多くの出来事があり過ぎて・・・・
「私はもう、甘える訳には行かないんだ・・・」ぎゅ・・と紡ぐ唇 と・・・
「団子を食べてから考えましょう」と、声がする
え?と、振り向いた先には沖田
セイは慌てて布団をかぶり、怒鳴る
「出て行け~黒ヒラメ!」
「くるなー」
折角心に決めて頑張ろうと決心した先から、この男はすぐに
その決意を揺らしてしまうのだ
そんな人が側に居ては、考えも纏まらない
「酷いですねぇ~神谷さん本気で私を嫌いなんですか?」
その言葉に、ちがっ!と、顔を出した時だった
唇が・・・・何かに捕らわれた
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