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なつめっぐ 保管場所

倉庫です。

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淡雪

短編です!







漆黒の闇が辺りを飲み込み
その闇を輝かせるかのように降り積もる雪
月の光が反射し、人の住む世界ではないかのような
そんな幻想を繰り広げた

京都は盆地で有名である
雪が降れば、かなりの積もり方をするのも盆地の特長であろう

「はぁ・・・」と、手に息を吹きかけ暖を取ろうとする少年が
不意に見上げた格子
髪を上に束ね、羽織を一枚着込んだだけの姿で暖かい訳も無い
きゅっきゅと踏み込む草鞋が、下の雪を踏み付け足跡を深くする

「遅いなぁ・・・」
降り積もる雪が月代の上にも積もり、既に体温は奪われて感覚すら自分で確認する事が
出来ずに口から白い息を吐き出した

一刻はその場に立っていた。土方の付き添いと言う形で、屯所を出た時は
こんなに降るとは思えなかったほどなのに、お天と様と言うものは本当に当てに成らないと自笑した
身体の震えがドンドン強く身体を揺すれと伝えてくるほどの寒さに
少年は空を睨み付けた
(あんの、鬼副長!全く・・・妓も良いけど、私が付いて来る必要なんて無かったじゃないかっ!)
眉間に皺を寄せ、ぷりぷりと寒さを忘れる為にか、少年が怒りをぶつけて居る鬼副長
一刻(約二時間)前に入った時には雪など降り積もっていなかったと言うのに
あっと言う間に降り注ぎ、少年の頭を白く染めたのだ

「今日は冷える・・・・」
妓の横で呟くと、服装を整え刀を二振り差し込むと部屋を出た
草履を履いた所で雪が見え、神谷清三郎と言う隊士を同行させてた事を思い起こした
「神谷っ!」慌てて飛び出ると、神谷は土方をギロリと睨んだが、何事も無かったように
土方の後ろに付いた

「す・・・スマン、雪がこんなに降るとは」
「仕事ですから」
後の言葉を告げさせずにセイが答えた
屯所へ戻ったら暖かい酒でも飲ませてやらないとな・・・と思った時には
既に散りばめられた殺気

「副長!下がって下さい」
「アホか、お前に守って貰うほど落ちぶれちゃいねぇよ!」
スラリと刀を抜き去り、単身で人気の少ない林へと身を潜めた
「良いか神谷、お前は帰って総司を呼んで来い」
「これだけ囲まれれば無理ですよ・・・その間に副長が怪我でも負ったら溜まったもんではありませんし」
神谷も腰からスラリと身の丈に合った刀を抜き、背中合わせに対峙する
既に逃げ口など無かった。
何処から外出が漏れたのだろうか・・・・?
土方を狙っているのは間違いなかった

「くっ、数が多いぜ」
ガキンとぶつかり合う音に土方が神谷を見やると既に辺りの二人は事切れていて
三人目の男を相手にしている
そんな姿に、ふっと思う事は小さな体で良く此処まで戦えるものだと言う思い
だが、その一瞬の隙が土方を追い詰めた
二人の男に追い詰められ、土方が、崖の端まで追いやられると、一人を斬り
最後の一人を睨みつけていた

神谷も無論ホッと胸を撫で下ろす余裕さえあった
神谷の相手をした男は三人とも事切れ、後は土方の対峙している輩一人
滲み寄りながらも、神谷は男の動きに注意しながら
土方の側へと辿り着いた

「もう逃げられないぞ」
神谷の声にビクリと身体を振るわせたと思ったら、急に土方目掛けて刀を振り上げ突進してきた
「うわぁああああああああ」
狂ったように声を張り上げ、土方に辿り着く前に腰を落とした神谷が其処から腹へと入り込み
男の腹部を一太刀刺し込んだ
片足を男に掛け、刀の先を抜くと、土方の前を再び守る

「神谷、もうこいつは戦えん、戻るぞ」
土方の声にハイと返し、踵を返した時だった
男が土方の身体を押しやり、ニヤリと笑った

「冥途まで一緒に行ってもらう」

神谷の背後から聞えたその声は
既に目の前で土方の身体を抱え込みながら崖に身を委ねていた

「っ! 副長!!!!!!!」

神谷は、土方の袖を捕まえる事が叶い、勢いで引くと身体が土方の重みで反転する
ふわりと・・・宙を舞った神谷が最後に視界に入れたのは
美しいほどの淡雪

「か み や ぁ あ あ あ あ あ 」

叫ぶ土方の声が遠く聞える
身体が寒さを強く感じると、身体を丸めた

宙に舞う体
空に舞い踊る雪

あぁ・・・私は逝くんだ・・・・

沖田先生・・・・・

沖田先生、先生の大事な人を守って逝ける事を幸せに思います

きっと、あなたは彼が死ねば泣くだろうから

泣けなくても・・・きっと涙は出るから

その涙を止める役目をさせて下さい

沖田先生・・・苦しまないで下さいね

大好きでした・・・・

あぁ、本当に副長を守れてよかった

我侭を言えば、最後に先生の笑顔が見たかったです



ドサリと、受けた衝撃が神谷の口から血飛沫を吐き出させ
冷たい白銀に朱色の模様が浮かんだ



『沖田先生・・・・』
「あれ?神谷さん何時巡察に紛れたんですか?」
ふっと総司が振り返ると、一番隊の隊士達が不思議そうな顔で総司を見つめた
「あ・・あれ?」
きょろきょろと見回す総司に、一番隊の隊士達が一斉に吹き出し
神谷の居ない寂しさに耐え切れず幻を見たとまで言われ出した
「もぉっ皆して何を言うんですかっ、寒くなったんで早く終わらせますよっ!」
恥ずかしいからか頬を赤く染めて、前に進んだ

不意に・・・思った

帰ったら神谷さんを誘って雪だるまでも作ろうと


だが、運命は簡単に願いを受け入れてはくれなかった

「沖田先生!あれっ!あそこ!!副長ではないですか?」
目の前によろよろと、急いでいる土方の姿
返り血を浴び、ふっと神谷が付いて出かけている事を思い出した

「土方さんっ!」
「そう・・・じ・・・・すまねぇ・・・すま・・ねぇ・・・・・」
繰り返される言葉に総司は胸を鷲?みにされた

自分に謝る事とはすなわち・・・・
自分の大事な弟子の神谷清三郎に何かがあったとき・・・・

「皆さんは土方さんを!私は神谷さんを探します!」

土方が降りて来た道を戻ろうとして、土方の声が響いた

「そっちじゃねぇ!」

「崖の下だ・・・そっちじゃ・・・・ねぇよ・・・」

指を差された先に、総司の心臓がどくどくと早鐘を打ちつけた

崖から落ちたと、言う事は死の宣告を受けたのと同じ・・・


「神谷さんっ!」
悲鳴に近い叫び声だった
隊士達も土方も、目を伏せるしか出来なかった


林の中を分け入り、雪が総司の行く手を阻む
けれども、ソレを掻き分け押し進むと一点の朱色の滲んだ場所に目が行った

「かみ・・・や・・・」
慌てて駆け寄ると、姿が無く男の骸
ほーっと安堵の息を吐き、再び辺りを見回すと
その男の数歩先に再び朱に染まった血液を見つけ、総司が再び其処へと足を向けた

「神谷さんっ!何処ですか?」

血液だけが其処に落とされ、小さな痕をつけていた。だが神谷の姿が何処にも見当たらない
総司は腰を折り、その血の付いた雪をグッと握り締めると、頬に落ちてきた生暖かい朱

頬に手を当てて、その色を見た時に慌てて上を見上げた

木に引っかかった状態の神谷がそこには居た

「っ!」


総司は木を登り、セイの身体に辿り着くと、一番太い幹に腰を掛け神谷の身体を抱き締めた

「先に逝くなんて・・・許しませんよ・・・っ・・・神谷さんっ」
ペチペチと頬を叩きながら総司が叫ぶ
その声に、その暖かさに
神谷の指先がピクリと反応を示した

「せ・・ん・・・すい・・せん・・・」
「気が付きましたか?今木を降りて法眼の所へ運んであげますからね」
「すいま・・・ん・・・」
本当に無茶をするんだから・・・・と、何度も何度も
総司は声を掛けた
息が浅く、決して予断が許される状況でないのは総司とで理解していた
けれど、息があるならば・・・・・


はらはらと・・・身体を白く染める雪が不意に止んだ

白銀の世界で、二人だけな気が襲ってきて総司が身体を震わせる

怖い・・・怖い・・・・

失いたくないと・・・何度も思ったのに

怖い・・・怖い・・・・
この子を失う事が怖い

「神頼みなんてした事など無かったのに・・・・」
総司は願った
セイの無事を。

命を戻せる事を祈り、急いで法眼の元へと滑り込んだ


先に診察されていた土方が、事の次第を総司に伝え
それを静かに聞き、ただ、その手を力一杯握り締めていた

診療所の中がバタバタと忙しくなり、法眼の叫び声が聞える
何が起きているのか・・・側に居たい
命を、セイを失いたくない・・・

その思いから戸を開くと、法眼と目が合った
「沖田!セイを呼び戻せ、心の臓が止まった」

ビクッと身体が硬直した気がする。けれど、次に意識を戻した時は
子供のように縋って泣いていた・・・・。

「戻って来て下さいよ・・・私を置いて行かないで」
一人にしないで下さいと、こんなに情けなく懇願する自分を、初めて見た

法眼は、かちゃかちゃと器具を使いセイの身体を縫ったり切ったりと作業を進める

その間もセイの手を握り締め涙を流しながら総司はただただ、戻ってと願った

「法眼、どうか・・・治して下さい私の命と引き換えでも良いです・・・神谷さんを
セイを治して下さいっ!」

全ては無意識の事
こんなに懇願している自分を認めたくない自分が居る
けれど

彼女への恋心を認めた今


その思いを断ち切る事など出来なかった


唇から、血が流れセイの手を伝い流れ落ちた
それほど深く付けられた噛み傷さえも解らないほどに


三刻は過ぎただろうか。やっと治療を終え、心拍も薄くはあるが戻っている

「沖田、今夜が山だ。」
「はい・・・」

聞えているのだろうか?
返事はするものの、セイを見つめたまま視線を反らさない総司を見て法眼が
深く溜息を落とし土方に報告をすると、土方も部屋へと入ってきた
すっと、総司の口を懐紙でふき取りセイを見やった
あちらこちらに木で付いた傷が無数に付けられ、見るからに痛々しい

「くそっ!俺がこうなってたかも知れねぇのに・・・・神谷・・・すまねぇ」
「いいんですよ、それがこの子の仕事なんですから」
土方が自分を責めているような言葉を発した折に沖田総司が戻った
鬼なのだ・・・一人の隊士の為に涙など流す資格は無い
無情に人を斬り
悲しんで行く人を思いながらも誠の為に人の命を絶って来た自分が
今更命を落とさせたくないなど虫が良すぎる

「すいませんが、神谷さんは私が見たいんで明日休暇を頂けませんか?」
「あぁ、2・3日休んで神谷を見てくれ・・・・」
「はい・・・。ありがとうございます。」

土方は、その場を離れ屯所へと向かい近藤に報告に戻った


二日、セイは命を残しまだこの世に留まっていた
総司は何も食べずに、ただセイの手を握り戻ってくれと願う
だが、流石に2日目にもなると体が睡眠を欲する

うとうとと意識が移ろう中、総司の夢に女姿のセイが浮かび上がった
「・・・逝くんですか?」
「そうかもしれないです・・・。」
悲しげに微笑むセイに総司が駆け寄り抱き締めた

「せんせ・・・っ・・・」

「逝ってはダメです、戻ってください」
「苦しいです・・・・」
「死んでしまえば、苦しさだって解らなくなっちゃうんですよ?」

「先生・・・私先生に伝えたい事が有ったんです」
「だったら戻って伝えてください、今は聞きません、早く戻って・・・神谷さん」

「神谷清三郎は、沖田先生を慕っておりました。ですから、先生の誠を守って死ねる事を誇りに思います」


その言葉にハッと意識を戻しセイを見やった

「かみ・・やさん・・・?」
手を口元に宛がうと、呼吸が
「止まってる・・・・嫌だ!ダメですよ!戻りなさい神谷さんっ!セイ、セイ!」
叫ぶ総司に、法眼が寝床から急いでやってくると
総司を押しのけ、胸を何度も圧迫した

「セイ!戻れ!正月も目の前だって言うのに死ぬな」


「神谷さんっ!私も貴女を、好きなんですっ!置いて行かないでっ・・・お願い・・・します・・・」

トクン・・・
       トクン・・・

心音が戻り頬に赤みが差してくると、ホッと法眼の手が止まった

「沖田、お前の声は届いたみたいだな・・・・」

うっすらと、開けられた目が総司の今にも泣き出しそうな顔を捉え、セイが薄く微笑んだ
「もう・・・戻らないかと思いましたよ」
「せん・・・せ・・・ありがとう・・・ございます」
「良かった、神谷さんの声だ・・・」涙が再び総司の頬を濡らした
淡雪が再び京に降り注ぐ中
セイの命が、長らいだ

「おかえりなさい」

微笑む総司を見ながらセイの瞳からも涙が零れ落ちた


「後6日で新年ですよ・・・今年は此処で年越しですかね?」
クスリと微笑む総司にセイが薄く笑い首を縦に振った
「土方さんを守ってくれてありがとう・・・」
「はい。」

それが全てだった

恋心を互いに知っても、互いに知らないでも
新選組と言う場所で共に暮らす事を望むのであれば

知らないままが良いのかもしれない

黙って手を握り、総司は揺れる明かりを見つめた

「暖かい・・・」
「はい」

「ほんとうに・・・ありがとう」



狂ったように泣き叫んだ事も、好きだと告げた事も
伝わらなくても良い


貴女が



側で笑ってくれるだけで強くなれる



しんしんと・・・降り積もる雪は足跡を隠し、まっさらな道を作り上げる
その道をいつか

二人で手を繋いで歩きたい

そんなささやかな願い


「神谷さん、早く治して雪だるま作りましょうね?」

「えぇ、そうですね・・・・」


峠を越えて言葉を交わせる喜びを

共に分かち合おう


2009.12.24

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