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続きです
悔しいと…こんな事まで出来ちゃうんだなと口を押さえながら思う。
「閏葉!?」
「あ、ごめん…加奈」
部屋に戻り話をする事を決めた
もし、それが本当なら苦労するのは、閏葉なんだと加奈に言われ
確かにそうだろうと思ってはいた。
「でも、私葵が好きなんだ…もし、あれが嘘だとしても」
「うん、だったら良いよ。悪さされて泣くことがあるならまた、話ししよう!?」
「うん、ありがとう加奈と話せて良かった。」
加奈が、ぎゅっと閏葉の肩を抱いた。
「優は、ヒロに頼んでおくからね」
首を上下に振ると、安心してお腹が減った。
二人は、1日笑い泣きながら思いを固めていた。
翌日、加奈が、頑張れと言葉を残して帰って行った。
少し街をふらつきながら買い物を終わらせると、帰路についた。
夕暮れ時の赤い光が目に飛び込んできた。
その中に一人の影。
「閏葉…」
「葵?」
迎えにでも来たのか、はたまた買い物の帰りなのか…
「15日後の20日…加奈さんを誘って部屋に来てくれないか!?」
その言葉に首を傾げた。
「夕日が沈む6時頃…」
「解かった。」
その旨を伝えると、勿論加奈も時間を作ってくれると答えてくれた。
葵は執筆活動にひたすら励んでいるのを最近は、見ていてわかる
そして、葵の書く話も佳境に入る。
差し入れを渡したり頼まれた資料を持ってきたりはするものの
最近は、キスさえして来なくなった。
足りないと…唇が言ってる。
抱き締めて欲しいと体が言ってる。
閏葉は、自分の全てで彼を受け入れようとしているのかもしれない。
「葵…この小説が上がったら…言うから待っててね」
ポツリと呟いたのは、自分の決心。
あっと言う間に時間が過ぎ、約束の日の前夜。
何時ものように資料を持って葵の部屋を訪れると
彼は、閏葉に気付きもせずにカタカタとタイピングをしていた。
夕飯も、手を付けていなかったらしく膳の上に綺麗に乗せられた時のまま。
「葵?」
呼んだ所で返事は来ない。
集中しているのは良いが全く気付かれないのも悲しい。
前みたく熱い視線を向けて欲しかった。
だから…
「気付いてよ、ばーか…」
と、後ろから抱き締めた。
「あ…閏葉?」
首に回された手にそっと手を重ねてくる。
「葵、ご飯食べないと病気になるよ」
「あぁ…そうだな、ごめん食べるよ」
その場にあった閏葉の頭をグッと軽く抑え、チュッと頬に唇を落とすと
スッと立ち上がり、膳の前に座った。
約束の日まで後3日。
何があるのかは解らなかったが、その日までは一生懸命仕事をこなす。
けれども、彼は優秀で調べて欲しい事など大した多くは無かった。
殆どが、葵の頭に入っているのも凄いと思うが
もっと凄いのは、その言葉の一語一句間違いが無い所。
あやふやな認識だと調べなければならないのだが、それだけではなかった。
「美味しいよ」
昨日から食べてないのを知っていた閏葉は、手作りの膳を持ってきたのだ。
相手に解られるかもしれないが…何せプロの板前相手に、
自分が作った料理を変わりに出すという不届き者だ。
「閏葉の味だ」
「え?」
「閏葉の手作りだろ?」
「う…うん。」
解ってくれた嬉しさが胸を熱くしてくれる。
こんなに相手の事を思ったり気付いて欲しいと持った事は無かった。
知らないままで居たら良い。と前までの閏葉なら思っていたかもしれない。
「葵…頑張ってね」
「あぁ、ありがとう」
彼は、またカタカタとタイピングを始める。
そんな後姿を見ながら、彼は本当に狼なのか
前に見たあの銀の髪と赤い瞳は見間違いではないだろうか?
不意にそんな事を思った。
「閏葉?」
「ん?」
「少し側に居てくれ」
「うん」
一人用の椅子に座っている葵の横に、鏡台の椅子を引き寄せて座った。
相変わらずカタカタと文章が打ち込まれ、それを除き見る特権を貰ったようなものだ
だけど。
「閏葉?」
カタカタと響く音が気持ちよくてそのまま昼寝となってしまった。
「ったく、無防備すぎるだろう」
閏葉の身体を抱き上げてベットルームへと運んだ。
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