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短編です
【五月雨】
降りしきる雨は冷たく、流す涙だけが暖かかった
広い荒野にポツリと置いて行かれたような虚無
そう・・・今彼は・・・
「かごめ様?」「なに?」「い、いえ・・・」弥勒の言葉も少し脅えたような口調
其れもその筈、漆黒の闇の中、傘も差さない二人が話している
この漆黒の闇と同じ色を持つ髪が一片・・・雨の雫が耐え切れないと
流れでる・・・
「かごめちゃん?ほら・・・」「ごめん・・・今は濡れていたいの・・・」
珊瑚が傘を差し出し、かごめは其れを拒んだ
二つの緋色が濡れたまま・・・目の前で話をする
近くに居る訳ではないので、話までは聞こえてこないが
数刻前に不意に現れた桔梗。
犬夜叉は気が付くとすぐに歩み寄り、かごめを振り返ることなど一度たりとも無かった
「ねぇ、私・・・居ない方が良いのかな?」不意に珊瑚に問いかけたかごめの瞳は
泣いているような・・・それでも、其れを分からないように・・・雨に染まっていた
「そ、そんな事ないよ!かごめちゃんが側に居ないと・・・って、かごめちゃん!!」
珊瑚の叫びに犬夜叉は気が付き振り返る
「かご・・・かごめ・・・」
金色の視線に先にはかごめを追おうとする珊瑚、じっとこっちを凝視している弥勒
そして・・・・
そして・・・・
辛そうな顔で走り出したかごめ
「もう・・・行け」桔梗の声がしっとりと響くと、犬夜叉は振り返る事無くかごめを追いかけた
「何で来たのよ!」「う・・・」「桔梗と話しあったんでしょ」「も、もう終わった・・・」
「来ないで・・・・」「かご・・・め?」
見られたくは無かった、犬夜叉に自分の嫉妬と言うものを
「来ないでよっ!!」「ば、ばかやろう!何勘繰ってやがる!」
犬夜叉の叫びも、耳には入れたくなかった
そんなかごめは、犬夜叉におすわりと・・・一言掛け逃げ出して居た
前日から続く雨は・・・まだ五月と言うだけあって冷たい
その冷たい雨を全身で受けるとかごめは、はぁ・・・と
溜息を落とし、また、空を見上げる
嫉妬と言う名の汚れを。愛という名の思いを。
「全部流れてしまえば良いのに」
そう呟いたとて・・・叶うはずの無き願い
既に心は犬夜叉だけなのだから
「ねぇ・・・犬夜叉?聞こえる?」
「あぁ・・・」
ぽたっぽた・・・落ちる雫。
木の上で立ち、かごめを見据える犬夜叉。かごめは其れを目で確認する前に問いた
「気付いてたのか?」「うん・・・ごめん。」「いや・・・」
会話は途切れる。犬夜叉も、かごめも・・・声を掛けれないのだ
互いに傷を与え、互いに・・・・
なめあう存在
胸がきりきりと痛む。互いを思うと・・・痛くて痛くて
二人同時に胸を握り締めた
強く、痛みを無くそうと必死に抑える慟哭は、留めなく流れ落ち、
零れ落ちる涙を強さに変えてゆくのだ
「雨って・・・優しいよね」手を広げかごめが見上げる空は
未だ泣き足りないと、どんよりと灰色に染まったままだった
「あぁ・・・優しいのかも知れねぇ・・・」犬夜叉も其れに答える
傍から見れば何が優しいのかと、そう問われる会話を
二人はゆっくりと口ずさむ
手に滴る雫は、ゆっくりと形を膨らませ、玉を作ってはかごめの指間をすり抜け
腕を伝って落ち行く
「おれ・・・」
かごめは不意に聞こえる犬夜叉の声に視線を向けた
「側に・・・来てくれる?」
答は行動で示された。かごめの横へドサリと腰を落ち着け、鉄砕牙を横わきへ置くと緋衣をかごめの肩に掛ける
そしてまた、両の腕を組みかごめの視線とは別の方を見据える
「おれ、桔梗とは奈落の話しかしてねぇぞ?」「うん・・・ごめん」「ったく」「え?」
クイッと引かれた肩が先ほど濡らしていた冷たい雨の名残が無いほど抱き寄せられた
「妬くな」「な、なによ・・・妬いてなんか・・・」「妬いてねーのかよ?」「う・・・妬いてなんか・・・」
「妬いてただろう?」「す・・・少し・・・」
簡単な会話・・・妬いたか妬いてないか・・・ただそれだけで良かった
二人で乗り越えれるなら。
この先同じ思いで居れるのなら・・・
「寒くなったね?」「熱出す前に帰るぞ?」「うん。」
二人の会話は、そこで終わった
重なる影を、月だけが・・・・・そっと、見つめていた
FIN
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【青嵐】
夕方に突然襲い掛かって来た雨
しとしとと降る雨よりも、酷く何もかも流してしまいそうな強い雨
ぴたん・・・
ぴちゃん・・・・
雨漏りが激しい小屋の中で犬夜叉一行は休みを取るしかなかった
『ったく、これだから人は・・・・』
犬夜叉のぼやきにかごめの胸がずきりと痛む
人・・・犬夜叉は確かにそう告げる
『まぁまぁ・・・』弥勒が宥める様に言う夜叉へと言葉を繋ぐが
かごめの心は沈んで行った
(前までは・・・あまり感じなかったのに・・・)
『かごめ?どうかしたのか?』七宝がかごめの膝の上から問いかけてくる
見透かされたかと胸を強く握りかごめは立ち上がった
『ご・・・ごめん・・・なんでもないから』降りしきる雨の中を・・・飛び出してしまった
降りしきる雨
打ちつける雨
寒くて
辛くて
『はぁ・・・なんだろ?』『なにがだ?』『うわぁ・・・犬夜叉?』
驚くかごめにパサリと掛けられる優しい犬夜叉の心使い
それさえ・・・・
『・・・・・・・・て・・。』
犬夜叉に投げ掛けてしまった・・・
言いたくは無かったでも・・・辛くて
『何だよ?おれなんかしたかよ?』少し怒った様に声を掛けてくる犬夜叉へ・・・
『一人で・・少し考えたいの・・・・』
『何をだよ?』
『いいじゃないそんな事』
『良く・・・良くねぇだろうが』
『な、何よ!あんたのせいで!!っつ・・・・』
(な、何を言おうとしてるの・・・私、犬夜叉に何を・・・・)
『言っちまえよ』
『いや』
『なぁ・・・言えって』
『っつ・・・優しくしないで!!』
気が付いたら・・・逃げ出す手を犬夜叉の熱く強い腕で・・・捕らわれて
『な・・・ん・・・なんだよっ!!こら、かごめっ!!』
揺さぶられても・・・怒鳴られても・・・・声が・・・
『ごめ・・・』
謝るしか・・・声が出せなかった
もう・・・かごめの手を捕らえる腕は・・・なかった
ざぁぁぁぁぁ
許す事無く降り注ぐ雨
空を仰ぎ犬夜叉を思う
『妖怪になって欲しくない・・・・犬夜叉は犬夜叉のままでいいのに
犬夜叉が一番差別してる・・・半妖だからとか・・・人間だからとか・・・
そんなの関係ないのに、いつも・・・いつも
そんなに人間がうっとおしいの?そんなに・・・っつ・・・・うわぁーもぉーひっく・・・っつ』
かごめの心は・・・先程の言葉に胸を痛め
そして、その言葉に悲しい思いが込み上げてくる
(いつもの事なのに・・・・)
雨と同化した涙は、地面へと流れ落ちて行く
『そう言う事かよ・・・・ったく』『!!』『ばーか』
振り返る先には
『犬夜叉?』『くだらねぇことで泣くな』『なによ・・・くだらないって』
かごめも、既に聞かれてしまったんだと諦めたように犬夜叉へ思いをぶつける
『もし、あんたが妖怪になって・・・そして・・・』
『分かっちゃ居ねぇんだよ』『え?』
抱き締められて・・・雨が入り込む場所もない位強く引き寄せられて
『おめーは・・・分かっちゃ居ねぇ』『え?』
どっくん どっくん 心臓が早く刻んで行く
抱き締められると良く伝わってくる
『おれは、お前を守りてぇ・・・』『いぬ・・・やしゃ?』『守って・・・守って・・・』
『もう・・・言わすな』『だって・・・言ってくれなきゃ分からない・・・』
はぁと、深い溜息を落とし、顔を空へと向けて呟いた
『守りてぇから・・・・強くなりてぇんだ、だけど・・・まだわからねぇ
心が・・・惑わされてるのかと・・・時折思う。お前の事もおれの絵空事・・・
そう思えてくる・・・おめぇが居ねぇと・・・不安なんだよ!!だーぁーもういいだろう』
ばりばりと頭を掻き毟り再び空を見上げる
恐らく、この密着は犬夜叉にとってはめったに無いことで、あったとしても
おんぶと言う形なのだ
『い・・・ぬ・・・・』ずるりと落ち行くかごめを慌てて片手で支えると
額に手を置いた
『ば、ばか、こんなに熱出しやがって・・・・』
しとしとと
雨の降りが揺らいだ頃
犬夜叉はかごめの横で”たおる”をしきりに気にしながら
かごめの眠り入る姿を見つめる
『かごめ・・・妖怪には・・・おめぇが・・・嫌だと言えば・・・なるわけねぇだろう?なぁ・・・
そんなに・・・不安になるな。』
薄く微笑み
タオルを額へと運び微笑む
背後で皆が見てる中、視線を感じながらも、犬夜叉はかごめの瞳が帰って来るのを待った・・・
『いつか・・・』
『・・・・な?かごめ・・・・』
言葉は、かごめの寝返りを打つ布団のこすれる音で消され
寝返りを打ったかごめが赤くほほを染める
(ありがとう・・・犬夜叉。)
再び瞳を伏せた
青い嵐は終焉を向かえ
葉達に溜まった雫が落下音を響かせる
ぴちゃん
ぽたん
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FIN
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