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灼熱の思い

短編です。
閉鎖されたサイト様へ送った作品です。
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【灼熱の想い】

一行は村外れにある、小さな溜池で休息を取っていた。
人と接するのがあまり得意でない犬夜叉は村で休息を取るより、こういう仲間だけの休息を好む
其れは皆も知っているし、実際村に入ると犬夜叉の耳に気が付き、妖怪と言い出され
其れを弥勒とかごめが説明して良い人だと納得させる・・。
犬夜叉はあの性格だから、結局はうるせぇーだの、けっだの、悪態を付き、己から溶け込もうとはしない
だからこそ、村が近くにあっても宿を取る以外は村へは極力入らないようにしていた

年頃の女が二人も居るのに、買い物も行けない始末・・・
と言っても、無駄な出費は控えるのが、この旅の掟みたいになって居たが・・・
弥勒は違った。銭の管理をしているお陰で浮いた銭を遊女と遊んだりして使っていた
が、最近は己の嫁に・・・と、珊瑚へ言ってしまったが為に浮気・・・は許されず、
旅費にも多少の余裕が出来ていた。
『珊瑚・・・これを・・・』弥勒が懐から小さな袋を出し、中には金子(銭)が入っていた
『え?どうしたのさ?』『かごめ様とお買い物でもして来なさい。』
いきなりの弥勒の申し出に怪しいと、珊瑚は思った物の、退治屋の里以来、買い物らしい事を
していなかった事に気が付いた。『え?良いの?』かごめは其の言葉に逸早く飛び付き、
珊瑚が答えを出す前に、手を引き村へ向かった
かごめの足でも、数分有れば着く位の近場、女の買い物は長い!と言う事は犬夜叉自身、
かごめの国で経験済みだった為、其の場に残ると言い出した
女二人の姿が薄くなる頃に犬夜叉が弥勒に問う
『てめぇ・・・何企んでやがる?』『おや、其れは些(いささ)か失礼だぞ?』
ふっと視線をかごめ達の消えて行った村へ向けた弥勒は其の姿勢のまま話を続けた
『女と言う者は、やはり、買い物や見て歩きたいと思うのです。ましてや、お前と知り合ってから
かごめ様はこっちの時代ではそういう事はしていなかったのだろう?』

そう言われれば・・・・と、犬夜叉は思い当たる節が無いので首を立てに振った
『だからな、たまには女子同士、思いっきり遊ばせてやる事も大事なのですよ?』
と、まぁ、己が村へ行く訳ではないしと、溜息を落としながらゴロリと、かごめの国のピクニック
シートの上に身体を横たえた『さて、私も村へ行きます・・・お前はどうします?』
弥勒の不敵な笑みに、『けっ・・・結局そっちかよ・・・行かねぇよ・・・』
と答えた、珊瑚が居るお陰で隠れて行動しなくてはならない・・・と、ぶつぶつ言いながら
弥勒も里へ降りた・・・が、七宝が珊瑚に頼まれたと弥勒の後を追った
『珊瑚の奴・・・しっかりしてるなぁ・・・』と、感心しながらも
ぽかぽかと当たる日差しに犬夜叉は瞳を閉じた


『ねぇ?犬夜叉達にもお土産買おうよ?』かごめがきゃいきゃいと買い物をする・・・
そんな姿は初めて目にする珊瑚、
(そうだよね、かごめちゃんだって普通の女の子だもんね・・・クス 妹持ったみたいだ)
と、珊瑚も一緒に簪(かんざし)や櫛(くし)や、帯、着物・・・などを見て周った

ドン・・・『きゃぁ・・・』かごめの小さな声で珊瑚が振り返ると、尻餅を付いたかごめと
風体の良い青年が居た『かごめちゃん?大丈夫??』珊瑚に問い掛けられ、イタタ・・・
と言いながらも、立ち上がり男に手を差し伸べた『ごめんね・・・私よそ見してて・・・』
其の男はかごめの手を取り立ち上がる事無く話を続ける
『お前、名は何と申す?』『え?あ・・かごめだけど・・・』『ほぉ・かごめ・・・かぁ』
何だか嫌な予感がしてかごめは手を離そうと引いたが、其の男の手は強く、離れる事が無かった
『ちょっと、離してよ!』其の言葉に珊瑚が立ちはだかった

『手を離せ!嫌がってるだろう!』強い口調でにらむ瞳は鋭く、其の男も離す外無いと、
かごめの手を渋々離した『かごめとやら?おぬし、どこぞの姫か?手が綺麗だ・・・』
『普通の人よ!』と答えると、珊瑚とかごめの手を強引に引き、近くの団子屋へ入った
『ぶつかったお詫びです。どうぞ食べて下さい』と、団子を沢山注文した
一人では食べきれないと言う男・・・確かに皿3つは男の人には甘党でもない限り無理であろう。
かごめは、ヒョイと、団子を持ち上げありがとう・・・と食べ始めた。

この時代の団子は甘味は少ないが、粉の香りが良く出ていて、餅自体はかなり美味しいのだ。
それに、悪い人では無いと感じた。かごめも、珊瑚も・・・
『で、どっかのお武家さんかい?』風体が、袴に腰刀、髪を後ろで束ねたいかにも侍と言う
雰囲気をか持出してるのだ、其の質問は男が答える前に、店の女将が答えた。
『新さんは、この村の役人さ。少し大きい村になるとこうやって役人が何人か配属されるんだよ
独身で、女どもは、この人に夢中なんだよ・・・ね?新さん?』
そう言いながら女将はかごめと珊瑚の前にお茶を出した
『へぇ・・・そうかい。道理で、着物をきちんと着込んでると思った・・・・』
着物には色々種類があり、其の種類で階級も決まっていた。
紋付袴は、武士の証でも有った。
『かごめ・・・と言うのだよな?少し歩かないか?』と、新さんと呼ばれる男に言われたが
かごめは断った・・・犬夜叉が待ってるから、そろそろ帰ろうと思っていた所だったのだ
『そうか・・・では、次は・・・いつ逢える?』
其の言葉に、珊瑚がピンと直感を働かせた『あんた・・・かごめちゃんに惚れたのかい?』
かごめも、其の言葉にドキリと、胸を鳴らし、『そそ・・・そんな訳無いじゃない・・・もぉ珊瑚ちゃんったら』
と、否定した所で、『あぁ、どうやらそうらしい・・・胸が躍るのだ・・・』と・・・

名は、倉橋 新之助(くらはし しんのすけ)
年は、19で、顔も悪くは無かった・・・・
だが、かごめにしてみれば、犬夜叉の時のようにときめいたり、心拍数が上がったりする訳でもなく、
恋心とは程遠い物だった・・・
『ごめんなさい。私・・・彼居るし(彼?でいいの?)あ・・いや・・好きな人居るんで・・・
其の思いには・・・答えられません』と・・・断った・・・。

団子屋から出た二人は、無言で犬夜叉達の待つ溜め池へと向かった
帰りの畦道(あぜみち)珊瑚が堪(たま)り兼ねて口を開いた
『かごめちゃん?』『ん?』『犬夜叉・・・とは・・・』『うん。付き合ってる訳じゃないんだ・・』
『だって、犬夜叉だってやきもち焼いたりしてるじゃない?』『うん・・・でも・・・』

『珊瑚ちゃんだから言うけど・・・好きだとか、付き合おうとか・・・言っても言われても無いんだ
只、一緒に居るだけなの・・・』
悲しそうに、辛そうに話を続けるかごめ・・・
(そうか、きっと、桔梗が絡むから・・・でも、犬夜叉だって、見え見えじゃないか・・・)
『犬夜叉はかごめちゃんの事好きだと思うよ?』『有難う珊瑚ちゃん・・・』
其の後の言葉が見付からなかった・・・ただ、犬夜叉はもう少しかごめの事を考えるべきだと珊瑚は
思っていた。女は、言葉が欲しい時がある・・・其れを解れと忠告でもしてやろう、とか、
今日の出来事を話して、妬かせてやろうとか、色々と策を練った


『もぉ~まだ寝てたの?』日は陰り、風が冷たさを孕む中、かごめが犬夜叉を起した
『けっ・・・てめーらが買い物でおせ~からだよ』と、あいも変わらず悪態を付く
が、かごめの手からりんごと、団子が出て来て犬夜叉は上機嫌に食べ始めた
『犬夜叉、七宝ちゃんたちの分も有るんだからね・・・全部食べないでよ?』
と、かごめは七宝と弥勒が居ない事に気が付きキョロキョロと辺りを伺った
『あーあいつらは村へ行ったぞ?だから、これは俺が食う!!』
何とも不可解な言い訳だが、お腹が減って居たらしく、バクバクと、引っ切り無しに口へ運んでいた
其の横でかごめはリュックからお茶を出して喉に詰まるよ。。。と声を掛け渡す
(あんた達、こうやって見てると、恋人同士みたいなのにね・・・)
珊瑚が悲しげに見ると、村の方から悲鳴が聞こえた
『犬夜叉、珊瑚ちゃん!!』『あー妖怪か・・・良し、行くぞ!』
団子片手に走り出した犬夜叉の後を女二人が追う・・・
村には弥勒も居る、被害は酷くならない・・・だろう・・・。


案の定、村の外れで戦闘は始まっていた。
村の衆も集まっていて風穴が使えなく、苦戦を強いられていた。そこそこ強さを持った妖怪は
容赦なく村へ侵入を試みる
流石の犬夜叉も、風の傷を放てば村が壊れると、刀を振り、威嚇するだけに終わってしまう
『皆離れなさい!』と、弥勒が言うが、村の連中は自分の村は自分達が守ると言い張り
弥勒も、犬夜叉も其の為に苦戦を余儀なくされた
村人が、戦うのは悪い事では無いが、鍬(くわ)や鎌を持った百姓が、無鉄砲に飛び出すのだ
『ちょっと・・・待ってておめーら!!』そして。犬夜叉も妖怪と見なされ、攻撃の的になる
『お待ちなさい!其の者は敵ではない!』弥勒の説明も聞かず、人は襲い掛かる・・・
『弥勒、これじゃー埒があかねぇ・・・どうにかしろ!!』『どうにかって・・・どうしましょうか?』

戦いは苦戦中の苦戦・・・其の中でシュン・・・と、一筋の光が犬夜叉の背後から放たれた
『かごめか!?』『犬夜叉!大丈夫?』駆け寄った時に、かごめは何かに引っ張られ、
体が宙に浮いた『え?あ・・・新之助さん?』そう、かごめを引き寄せたのは新之助。
妖怪に向かって走る女。かごめを止め新之助は己の背にかごめを隠した
『妖怪、私が相手だ、この娘には手を出すな!!私が守る!!』
其の光景にあっけに取られていた犬夜叉が、状況を理解すると、ブチッ・・・と
切れた・・・(あ・・・キレた・・・犬夜叉・・・あぁ~怒ってるよ~~~)
『あ、あの、新之助さん・・・あの人は・・・』『人ではない、妖怪だ、騙されるなかごめ!』
犬夜叉は、妖怪と言われるのは仕方ないとは思えるが、騙されるな!と、言われ更にはかごめを
呼び捨てで呼び、更には自分が守る!と、声を高らかに言う男が許せなかった・・・

『ち、ちょっと待って・・・犬夜叉は、あの人は、違うの・・・新之助さんの思うような奴じゃない』
かごめの必死の抗議が新之助に届き、話が始まった
『私の仲間なの・・・だから、争わないで?人を、下げて・・・後は私達がするから・・・』
其の言葉に新之助が答える『好きな女を戦いに出す訳には行かない、私は、かごめを守る!!』
一途なのかなんなのか・・・物分りが悪い奴だとかごめが思う・・が、
犬夜叉はそうは思っては居なかった。
『好きな女だぁ?守るだぁ?』低い声がどれだけ犬夜叉が怒りを感じてるかを伝えて来る
『犬夜叉・・・落ち着いて!!』『これが落ち着いてられるかよ!俺を何だと思ってやがる!』
と、犬夜叉は怒りを弥勒の相手にしていた妖怪へ向けた
『弥勒、どけ、俺が殺る!』ザン・・・と、土煙を上げながら犬夜叉は宙へ飛躍した
人では決して届かぬ高さまで体が浮くと、刀を下へ向けて全ての体重を切先へ向けた
『いい加減大人しくくたばりやがれぇ!!』
刀の先から妖気がシュゥゥと立ち込め、動きを止めた妖怪が、ゆっくりと倒れた・・・
ズズズン

一段落と、村の衆と、弥勒が死んだ妖怪を運び出した。
妖怪の死気は、妖力を持つ為、他の妖怪が其の妖力を欲しくて寄って来る・・・
だから、土に返したり、焼いたり、封印を施さねば次の妖怪が現れるのだ。

一方犬夜叉は、不機嫌なままかごめと、新之助の話を聞いていた・・・と言うか
珊瑚に止められて、大人しくせざる終えなかった・・・なにせ、妖怪封じの札を弥勒から貰い
犬夜叉に貼るぞ!と脅しを掛けているのだ・・・・(流石珊瑚ちゃん・・・けど・・・怒ってるよね)
ちらりとかごめが犬夜叉を見る『なんでい?』『え?あ・・・なんでもない・・・』
このまま、この村を去ると、犬夜叉は言い出し、珊瑚がはぁ・・・と溜息を付く

『犬夜叉?かごめちゃん、昼間あいつに惚れてるって言われたんだよ・・・』『な!ぬわにぃ~』
『でもね、好きな人居るからって断ったんだ・・・あんたの事なんじゃないの?』『え?』
珊瑚に言われ真赤になる(ったく・・・顔だけ素直でどうするよ?素直じゃないんだから・・・)
『あのままじゃ・・・取られるかもよ?』『はぁ?』『だって。あんた達って、付き合ってないんだろう?』
『え?あ・・・』確かに、付き合うとか、好きだとか・・・言った記憶は無かった・・・が
寝てるとは言え、かごめに笑顔が好きだとは・・・伝えたのだが・・・そんなのは寝てるもの
解る訳も無い・・・・しかも、笑顔と、限定までされていたし・・・

『あ・・・いや・・・その・・・』『好きなんだろう?かごめちゃんの事?』『ば!だ、誰があんな奴』
『いいのかい?あれ・・・』珊瑚の視線の先に犬夜叉も目を向けると、
かごめを抱き寄せて離れたくない!と、叫ぶ男・・・
『な!って・・・をぃ』珊瑚が犬夜叉の背中に妖怪封じの札をペタリと貼った。
『かごめちゃんの返事・・・大人しく聞いてなよ・・・』犬夜叉の肩に手を乗せて珊瑚が薄く微笑む
(肩・・・震えてる。そんだけ大切なのに・・・ったく正直じゃないんだから)
『珊瑚・・・放せ・・・』低く呟かれ、珊瑚も遣り過ぎたかと、手を離した
『犬・・・夜叉?』

妖怪封じの札は、弥勒で無ければ、力は半減する。だが、それでも、動きを止める位の効力はあるはずなのに
犬夜叉はゆっくりとかごめへ向かった

『新之助さん、ごめん。私はここには残れないし、好きな人が居るって言ったじゃない
どれだけ思いを打ち明けられても、やっぱり私は貴方を愛する事は出来ないの。
好きな人と一緒に居るのが楽しい・・・苦しくっても、切なくても、それでも・・・
一緒に居たいと思うのは貴方じゃないのよ・・・ごめんなさい。それと、好いてくれて、ありがとう』
ゆっくりと新之助の抱擁を両の手で解いた『かごめ・・・』『私は、答えれないの、ごめんね』

『話の最中悪ぃが、かごめは・・・渡さねぇよ!其れにお前は振られたんだ・・いい加減諦めろ』
そう言うと犬夜叉がかごめを抱き上げ、其の場から連れ去った
『あーあ・・かごめちゃん・・・あれじゃ、怒られるかも・・・はぁ・・ったく、嫉妬深いね~』
と溜息を付いて弥勒を見ると・・・・
『あーそうですかぁ~私の子を産んでくれるか?ほぉほぉ~~』と、
『イカレてるのが・・・ここにも居た・・・』
ズンズンと、弥勒へ向かって歩き、飛来骨をお見舞いしてやった。流石に弥勒も
大人しく珊瑚と、宿へ向かった『犬夜叉は、臭いで解るし・・・まぁ、良いでしょう』



ざわわぁ・・・
風が吹き抜ける中二人とも無言のままで立ち尽くしていた・・・
(うわぁー気まずい・・・。)
言葉を発するでもなく、只黙って二人は風に身を流されていた
『かごめ・・・』『ん?』『お前、あんな奴が良いのかよ?』『あんた・・・妬いてるの?』『ば・・・っち、違う』
あからさまに変色する顔色を見れば誰だってそう思うだろう・・。ましてや、相手は犬夜叉なのだし
『断ったじゃない。』『だけどお前、嬉しそうだったじゃねぇか』『な、何よ!そんなんじゃないわよ』
また、何時もの喧嘩が始まってしまった・・・
どろどろと流れ落ちる嫉妬の想い・・・晴れる事無い心の中・・・
いつも側に居るからこそ、見えなかった思いがあった。
(お前に何か言ってやりてぇ・・・けど・・・。)言葉が見付からないとは今の状況を指すのだろう。
風がふわりとかごめの髪を攫い、犬夜叉の鼻に優しい香りを届ける
『何て言ったら良いか、わからねぇけど・・・俺は、その・・・なんだ、・・・大切だぞ?お前の事・・・』
あっけに取られた。かごめが、ぺたりと其の場に膝を落とし、冷たく頬を吹き抜ける風が暖かく・・・
今まで頑張って来た自分が、そして、一途に思っていた心が、嬉しくって飛び上がりたくなる。
そんな感覚に襲われ(私って・・・単純)と、小さく微笑んだ
『犬夜叉?』『ん?』『ありがとうね?』『けっ・・・』
短い会話でさえ、心地良く、かごめは空を仰いだ

漆黒の空に輝く流星群 幸せを形や言葉に替える事が出来ないが、それでも、何かを犬夜叉に伝えたかった
『ねぇ?夜空ってさ・・・怖いけど、月や星達が輝くのには、必要なんだよね・・・』『そうだな・・・』
『あんたが輝ける・・・夜空に私はなってるのかな?』『・・・。』

沈黙は弥勒の声により答えを聞けず終いで村へと向かった。
もう、夜中・・・今夜はこの村で世話になると決めた弥勒が伝えに来たのだ
村へ戻ると、村人が一斉に犬夜叉とかごめを迎え入れた。妖怪にも良い人が居ると・・・
先ほどの御礼の為に子供が犬夜叉に花を渡し、其れを、受け取ると、顔が赤くなり、下を向いてしまった。
そんな犬夜叉を、可愛いと思うのは、きっと、本人に伝えたら必死になって怒るだろうから、心にしまった
視線を感じふっと目をそちらへ向けると、切なそうな新之助が只かごめを見詰めていた
申し訳ないと心が痛むが、犬夜叉も其の視線に気が付き、かごめの前に隠すように出、新之助を睨んだ
かごめは、犬夜叉の背中を感じながら、クスリと笑うと、弥勒も珊瑚も、思ったより素直になったのか?
などと想い、宿に辿り着いた

『かごめちゃん?』珊瑚に声を掛けられて部屋の隅で話し込む二人・・・
犬夜叉と弥勒が、窓の近くであいも変わらずぎゃーぎゃーと遊んでる
『犬夜叉・・・客だぞ。』と、七宝に声を掛けられ皆が一斉に振り向いた。犬夜叉に客・・・それ自体が一行を驚かせるが
其の客の正体を知り更に驚く・・・
『新之助さん?』『何度もすまない・・・犬夜叉殿・・・少し話が有るのだが・・・』『あぁ、いいぜ・・』
カチャリ・・・鉄砕牙を再び腰に刺し、一瞬だけかごめを見ると、戸をくぐった・・・
一言も掛けず、二人の足音が遠ざかった
珊瑚に先程の話を聴いていた弥勒が、決闘か?などと言い出しかごめの心がざわつく
『私・・・行かなきゃ・・・』其の手を弥勒が止めた『え?弥勒様?』『かごめ様の姿はわからなくとも、犬夜叉は鼻が利きます
ここは大人しく待ちましょう・・・』何時もなら真っ先に見物を決め込む弥勒が止めた。
『あいつだって、決める時は決めるでしょうしね?そんな姿見られたら恥ずかしいでしょう?』と・・・
だけど、かごめの心は・・・大丈夫かな?怪我しないかな?と、不安が押し寄せてくる


『なんでぃ?』犬夜叉が問う
『お前はかごめを・・・幸せにしてやれるのか?』『けっ・・・そんな事かよ!』
ざざぁと、白銀の髪が白滝のように風に攫われるのを押える事もせず話は続いた
『私はあの勇気、あの、可愛らしさ・・・全てが欲しい。置いて行っては貰えないだろうか?』
ギリと、唇を噛み締めた・・・
半妖の己に、頼み込んでくる奴の姿は・・・犬夜叉には眩しかった。一途に思う心・・・其れを実行する行動力
半妖に、恐れる事無く話し掛け、かごめをくれと・・・そう伝える一人の男
己が人なら、かごめを渡さないと言い切れたのだろうか?己が人なら・・・妖怪に同じ事を問えたのであろうか・・・

『お前は・・・かごめに・・・惚れてるのか?』『・・・。』『そうか・・・答えては貰えぬか・・・。』
何度も思った、好きだと言っても己は妖怪・・・人の血は混ざってはいるがそれでも、純粋な人ではない
だから、桔梗が、<人になれ>と言ったあの時、迷わずに桔梗と生きる道を選んだ・・・
奈落により引き裂かれた思いは・・・深く、今はかごめを守る為に、妖怪になりたいと願った
だが、共に生きる事は、桔梗を裏切る事となる、そして、桔梗と逝く事は、かごめを裏切る事になる
(おれは・・・生きる事も、死ぬ事も・・・許されない・・・)
『私は、かごめに出会って思った事がある。妖怪も、人も慈しみ、優しい心で包む・・・
心が広く壮大で、何事も恐れず進める力を持つと・・・』

『お前、どれだけかごめを知ってるんだ?偉そうに御託並(ごたくなら)べやがって
確かに、妖怪も人も・・・あいつには偏見がねぇ・・・だが、心は広くなんて無い。ちっちゃな事でも怒るし、
くだらねぇ事で笑ったり、泣いたり・・・(そうだ、俺は・・・こんなに・・・かごめを知ってるんだ)
俺なんて何時も・・・(あいつを・・・泣かせてばかりだ・・・。)』
不意に犬夜叉の心に影を落とし、其の影がじわじわと膨れ上がって行った。
『では、置いて行っては貰えないのですね?』『手放す気はねぇ・・・』正真証明の己の想い。
手の中で納めておきたい。蝶のように飛び立つかごめを、己が手折る事になろうと、それでも渡したくは無い
かごめは、己の、居場所なのだから・・・
昔のように自分の居場所は自分でぶん取るもし逃げるなら・・・逃げないように枷を付け、鎖で繋いででも・・・

『私の・・・刀の相手をして頂けないでしょうか?』『俺は優しくないぞ?』『それでも、けじめは付けたいのです』
犬夜叉が鉄砕牙の鍔(つば)に手を掛け鞘から引き抜いた・・・が、
刀は錆びたまま・・・変化をさせなかった。
『行きますよ!』掛かった声と同時に、キィンと、夜空に響く鉄の音・・・
(こいつ・・・思ったより力が有りやがる!)
どんなに、力が強くても、犬夜叉の絶対的な強さには敵うわけが無い・・・其れを知っててあえて、戦いを挑む
犬夜叉からは攻撃をしなかった・・・かごめを本気で好きだと言う男だからこそ・・・
殺したくは無かった・・・嫉妬の思いは渦を巻いてはいるが。それでも、本気だけは犬夜叉の心に伝わって来ていたのだ
(明日・・・かごめに・・・選ばせよう・・・俺と行くか・・・残るかを・・・。)


犬夜叉は刀を納め、新之助に言った・・・明日、発つ前にもう一度この場所へ来いと・・・。


ざりっ・・・地面の土が擦れる音でかごめは瞳を上げた・・・
『待って・・・いたのか?』犬夜叉の瞳に映るかごめ、下の砂地に棒で犬夜叉と書いて・・・慌てて消したのか、まだ
字が読み取れるくらいの形は残していた
『ごめんね・・・ややこしくしちゃって・・・』『お前、明日あいつに会え・・・そして、お前が決めろ行くか、残るか』
其れだけを言い残し犬夜叉は宿へ戻った・・・・
(お前が選ぶなら・・・俺も後悔はしねぇ)
だが、犬夜叉の決断は・・・かごめの心を深く傷付けた・・・
大切だからこそ、かごめの思いを優先してやろう・・・そう考えただけだった。だが、かごめにしてみれば
今まで焼きもちを妬いて、どんなに他の奴が言い寄って来ても妨害していた犬夜叉・・・そんな犬夜叉が
今回はお前が決めろと言う・・・
『私は・・・要らないの?必要ないの?』
川原で、小石をポチャンと投げ入れ、波紋が出来上がる前に流れに攫われる
一刻(二時間)ほど経った・・・かごめは、其の場から動けず、色々な思いを巡らせた・・・。
犬夜叉が、お前が決めろ・・・と言ったのは何故か、何故一緒に行こうと言ってくれないのか・・・
投げ込む石が答えを出してくれる訳でもない、だが、何かをしていないと、思いに押し潰されそうで、
又小石を川へ向ける・・・川原の尖った石に指を引っ掛け、少しの痛みを感じ、指を見詰めた・・・

ジワリ・・・
浮き出て来た血液は、零れ落ちるまいと、円形を保つ・・・だが、想いと同じく溢れ出た朱が、つぅ・・・
重力に逆らえずポタリ・・・と、下へ落ちて行く
と同時にかごめの目からも流れ出る涙・・・。(犬夜叉・・・)


宿に戻ったが犬夜叉も寝る事が出来なかった。明日選ばせる・・・そう心に決めたはずなのに
かごめが己から去って行く事などないはずなのに・・・
不安と言う闇が犬夜叉の心拍数をどんどん上げて行くのだ(気分わりぃ・・・)
どろどろと心が粘着質な何かに締め付けられる様で、苦しかった・・・
かごめ・・・かごめ・・・何度も心が叫んでいた。求めていた。

『!!』(かごめの血の香り?)鼻に届いた少量の血の香り、心がざわついて、窓から飛び出した。
弥勒も、珊瑚も・・・二人が決める事と言葉を掛けずに居たが飛び出した犬夜叉を見てホッと胸を撫で下ろした
防音加工もされていない木の建造物、話し声など丸聞こえ、しかも、窓の真下で話がされていた為、弥勒も珊瑚も聞いていたのだ
『犬夜叉・・・もう少し正直になればいいのに・・・』『そうですね・・私達から見たら見え見えなんですがねぇ・・・。』
と、そんな会話が成されていた


川原は静かで、犬夜叉が辿り着くと、静かな空間がザッ・・・と。音を成した
『かごめ・・・』声を掛ければ、きっとかごめは怒るだろうと思っていた、己が先程言った言葉がかごめを追い込んでる
そう感じたから・・・だが、振り向きもせず『なに?』と、答え、オズオズと、かごめの横へ立った
『怪我・・・したんだろう?』『あ・・・うん。石で切っちゃった・・・』『大丈夫か?』
『血の臭いした?』『あぁ・・・』『じゃー私があんたを呼んだんだね・・・』『あぁ』
引き合う心は決して離れる事は無い。例え離れても、又一つになりたいと願う
『見せろ・・・ったく・・・』『ごめん・・・え?』
指先から流れる血を犬夜叉が口へと運んだ。赤くなるかごめを他所に、懐からかごめの国のバンソウコウと呼ばれる止血用品を
出し、指に貼り付けた『眠れねぇのか?』『あ・・・うん。』『俺もだ・・・』『え?』

『お前に、決めろって言っておきながら・・・怖ぇーんだ・・・』(怖い?)
『発つまで、お前と話をしないって思ってたけど・・・こうやって来ちまった』(どうして?)
『かごめが・・・あいつを選んだら・・・って・・・』(犬夜叉?)
『あいつも、本気でお前に惚れてるって・・・だから、お前が決めるのが良いと思った・・・鋼牙と違って人だしよ・・・
だけど、お前に選べって言って選ばれなくても、後悔はしねぇって・・・思ってたのにいざとなると・・・怖ぇーんだ
お前が俺の前から居なくなるって・・・考えれなくて、』

かごめが犬夜叉の肩にすっと寄り掛かった・・・かごめの温かさと、優しい香りとが犬夜叉の不安感を包み込む
『あんた、解ってない・・・答えはもう出てるのに・・・確かに私は四魂の欠片が見えるだけかもしれない。でもね
玉発見器なんて言われても、あんたの側を離れないって決めたのは私なんだよ?』『か・・・ご・・・め・・・?』
『何があっても、あんたから離れる事は無い・・・離れる時は・・・今じゃないから。』
犬夜叉がかごめの肩を優しく包んだ。想いが溢れ出て来て、己の嫉妬の心さえも綺麗に消えていった
『離れる時・・・が、』『来るよ・・・きっと、あんたが・・・。』其の後の言葉が言えなかった
『俺は嫌だ、お前が離れるなんて・・・やだからな!!』(こいつは・・・・。)
『お前が側に居る限り、俺は死なねぇ・・・お前を守り続ける・・・』バッ・・・と、かごめを己の懐へ引き寄せた
冷たい風が吹いていた為か、念珠が冷たくて・・・それでも、犬夜叉の胸の中は温かくて・・・
『うん。私も、あんたが守ってくれてるから・・・頑張れる。だから、忘れないで・・・私はあんたの側に居るのが一番
私らしく居れる。あんたの側が一番優しくなれるし、本気で怒ったり出来る・・・
だから・・・あんたから離れない。』

心地良い居場所が互いの胸の中で、本心を偽りなく出せる場所で・・・
『お前・・あったけぇ・・・』『犬夜叉も温かいよ・・・生きてるんだもん』『そうだな・・・。』『うん』
温もりを、手放したくは無い
かごめを・・・離したくは無い・・・
想いが溢れ出る


『俺、明日あいつともう一度話し付ける・・・お前を・・・置いて行けねぇって・・・』
『犬夜叉?』
『俺が言い出したんだし、俺がけじめ付けるから・・・』

どんなに思ってもかごめは、かごめだった
己の深い場所に住み着いて決して揺るがない
離れて行くのが怖いなんて、母親に感じた時以来で、それでも、母は己を置いて命を落とした
己は置いて行かれた・・・・
母にも
桔梗にも・・・

不安はあった、いつか己を置いて行くと・・・
一人にされると・・・
だが、かごめはそんな不安さえ打ち消してしまう

『やっぱり、おめ-は強ぇー』『はぁ?』『お前は強いって思ってよ?』『あんたが居てくれるから強くなれるんだよ?』
『俺・・・が?』『あんたが、私の支え・・・だから・・・』
『支え?』『うん。頑張ってるあんたを見ると私も頑張ろうって思える』『俺も・・・同じだ・・・お前は夜空だからな。』
二人の影が重なった・・・
抱き合っているだけなのか?唇を寄せ合ってるのか・・・其れすら解らない空間で
温もりを求めた。
焼けるような熱さを心の中に感じ、漆黒のどろりとした嫉妬の熱が溶かされ
灼熱に変わる・・・互いの胸に刻み込むように、サラリと心が凪いで行く

嫉妬・・・相手を思いやる心・・・全てが紙一重で繋がる
どれだけ相手を思えば、心の泉は満たされるのか?どれだけ言葉を紡げば相手を満たしてやれるのか?
そんな事は二人で見つければいい。
満たす事を求めて、人は恋に落ちるのだから。
灼熱の思い、それだけは、否定できない思い


翌朝、かごめたちが村を後にした。
犬夜叉はかごめの横に、かごめは犬夜叉の横に・・・
新之助へ伝えたかごめへの思いは、誰も知らない・・・だが、真実はそこに有るのだから

FIN



=余談=
『新之助様?どうしたの?泣いてるの?』
『嫌、泣いては居ないよ・・・あの男の心が綺麗だったからな。』
『あの男?』
『あぁ、嘘偽り無い心・・・』

さて、クエスチョン!犬君は新ちゃん(をぃ)に何を言ったでしょうか?



悪戯に吹く川の風が、二人の男を呼んだ
『かごめは?』
『わりぃ・・・やっぱり。置いて行けねぇ・・・俺の大事な人だから・・・』
『やはり・・・惚れていたのか・・・。』『あぁ。』『かごめ・・・は、なんと?』
『俺は、まだかごめに想いを伝えてねぇ・・・。やる事があるからな・・・でも、かごめが居ねぇと、それも叶わねぇ
だから、お前に譲れねぇ・・・かごめも、俺と行くと・・・思ってくれてる、だから・・・・』
『解かっては、居たのだが・・・やはり、辛いな・・・もう行け、そして・・・忘れてくれ』
新之助の声が俄(にわ)かに震えていた・・・犬夜叉が其れに気が付かない訳も無かった
『大事にする!お前が惚れた女、そして俺が惚れてる女・・・大事にする。』
『そうだな・・・。』
『俺が憎いなら、其れは其れで構わねぇ・・・だが、かごめを・・・あいつを恨まないでくれ』
『解かっておる。さっさと行け、かごめが待ってるだろう?お前も、かごめも・・・憎いとは思わんから、安心しろ。
それと、又機会があれば、この村へ寄ってくれ。泣かせたら・・・私がかごめを貰ってやるから』

『おぅ、例え泣かせても、俺は離さねぇけどな・・・』『・・・。それも、解かっておる』

『えぇい、さっさと行け、私が惨めになるだけだ、』『新之助・・・すまねぇ・・・』

犬夜叉はこうして己の心を認め、そして、其の想いを新之助に答えた。
其れが同じ女を好いた男の礼儀でもある。
半妖、それでも・・・想いは人とは変る事は無い。
犬夜叉、そう呼ばれる男が成長を一つ遂げたのだ・・・。
『俺が惚れてる女』かごめに伝えられるのは、きっと、遠くは無いだろう・・・。

FIN

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