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葉月

友達に送らせて頂いた小説でございます。
どうぞ、温い目で見てやってくださいw
======================




緩やかに流れる川のせせらぎとか。

揺れ動く緑の深さだとか。

全ては自然と言う生き物。

【葉月】=8月の恋=

ある日の事、不意にナルトは昔の事を思い出し
今ではあり得ない程の蔑みを受けた記憶が蘇った。

別に木の葉の人間を恨んでいる訳ではないし
現に今だって、周りの人間は自分を、あの時のような冷たい目では見なくなっていた。
それに安心してしまい、どっぷりとその世界に漬かって居たのかもしれない

「うわぁっ!」

はぁはぁと、落ち着かない息を整えようと、汗だらけの体を起こして窓を開けた。
と、同時に目に飛び込んできたのは、屋根伝いに任務から帰ってきたであろう忍びの姿。
しかもその姿はいつも見知った人のモノで
ナルトは思わず息を飲んだ。

月の中に飛び込んでいくような…高い跳躍と
風の抵抗に素直に従い揺れ動く銀の髪。

一瞬見惚れていたが、自分の息苦しさにハッとして
意識を自分へと向けると呼吸がどうにも整わず、ハッハッハと段々と荒ぶる息を
自力で止めるのは困難だった。

(やば…これ、前になった過呼吸って奴だ…袋…呼吸しなきゃ…)

そんな事を考えてる暇があるなら探せばいいものを…
窓枠に掛けていた手がゆるりと揺らぎ、カカシに見惚れていた一瞬後には
意識が遠のいてしまった。

床に叩きつけられる体は、思いの外痛みを感じず
覚悟をしていた衝撃が来ないことに目をゆるりと開いた。

「大丈夫?」

「か…せ…っは…せ…」

「無理にしゃべらないでいいよ」

自宅へと向かっていたであろうカカシが、腕の中に己を抱え込んでくれている事に気付いたのは
ベットに体を持ち上げられた時だった。

「何考え込んでた?」

「ちが…っは…っは」

「っと、収まらないと質問出来ないね…袋どこにある?」

キョロリと見渡した部屋は、袋はあるけれども…
カップ麺の空が入ってたり、どれが綺麗なものなのか一見では解らなかった。

「少しは片付けなさいよ…嫌だろうけど、自業自得なんだから我慢しなさいね?」

クスッと笑ったカカシが、おもむろにいつも隠していた口元を曝け出した。

息が上がる中、ナルトはボンヤリと…あぁ、カカシ先生ってこんな綺麗な顔してるんだ…
そう思ってた矢先、その顔が今までに無いほど目の前に降りてきてニッコリと笑った。

「嫌すぎて、酷くならない事を祈るよ」

と、ポツリと呟いた後カカシはナルトの顔を手で固定して顎先を持ち上げた。

「応急処置だからね?」

その言葉と共に、唇に温もりが降ってきた。
そしてそこから送り込まれる息…

「ホラ、もっとしっかり吸い込んで」

「んっ…」

フーッと息を吹き込んでは離れていくそれは
夢なのか、幻なのか…

「ゆっくりでいい…息を吸い込んで」

「んっ…」

苦しくて、カカシの胸元を握り締めて目には涙を浮かべたナルトが
縋るようにカカシの呼吸を受け止め、ゆるゆるとではあるが
上がった息が落ち着きを見せて来る。

「っは……は……」

「まだ、苦しいか?」

「すこ…し」

「もう少し空気をあげるから」

そう言って…カカシの唇は何のためらいもなくナルトの唇に重なった。

それから先…記憶が途切れがちになり、気が付けば眠っていたらしく
ナルトが目を開けるとそこにはカカシが下半身を下に置き、上半身だけをベットに乗せて眠っている姿が
目に入りナルトは先程の事を思い出すと一気に頬が赤く染まった。

「カカシ先生!」

「あー…起きた?」

「な、何でここに居るんだってばよ!」

眠そうに眼を擦ると、ふわぁ…と一つあくびをしてから
ニッコリと微笑んだ。

「なんでって…任務帰りに通りかかったらいきなり窓が開いたから、気になって見てみれば、
お前、急に崩れるように倒れたでしょうよ…」

「…あ、すまねぇってば…」

「うん、先生もうね、疲れて早く寝たいのよ…この手…そろそろ放して貰えない?」

スッと上げられたカカシの手、そこに繋がる自分の手に驚いてナルトがパッと手を離した。

それを待っていたかのように、カカシがスクッと立ち上がると”じゃ”と一言残し
去って行った。

仄かに香る硝煙のような香り、起爆札でも使ったんだろうか?
いつものカカシであれば、絶対に臭いを付けないで動く為
時折任務帰りなどで何かの移り香を感じると、カカシがそれに染まってるんだって
不意に思うことがあった。

それは、勿論自分も一緒で、体に臭いをさせている忍は、恐らく下忍位だろう。
それ以上になれば任務もレベルが上がり、サクラもせっけんの香りをさせていたのを
やめたのも…恐らくは中忍に上がった後だったはずだ。

暗黙の了解的に自分で気付く者もいれば、ナルトの様に螺旋丸の旅の途中に
自来也に言われたように、使う石鹸を忍用に変えた者も居るかもしれないが…

「結構きつい任務だったんかな?」

なんてポツリと呟いてナルトはベットに体を投げ出した。
空に視線を向け、またゆっくりと目を伏せ…

「っ!」

ガバッと体を起こした。

「カカシ先生にキスされた!」

随分と遅くに反応を見せたためカカシにその姿は見られなかったが
急に先程のカカシの素顔だったり、近寄ってくる唇だったり…触れた温もりや
送り込まれた息…

ボン!

と音を発するように一気に真っ赤になったナルトが恨めしそうに空を睨んだ。
正確には…月を睨んだ。

耳まで真っ赤に染めながら睨むその眼は、憂いを含むような…そんな視線だった。

あれから、二日…ナルトがふらふらとサクラの元へと姿を見せた。

「…なによ、アンタ任務なかったじゃない、どうしてそんなに寝不足なの?」

目の下のクマ、ふらふらと歩く足取りと、安定しないチャクラ…
それを見てサクラが大きくため息を吐き出した。

「…やっぱ、解っちまった?にゃはは…なぁんか、夢見悪くってすぐ起きちまうから
サクラちゃんに眠れる薬用意してもらいたくってさぁ…」

話を聞けば、既に三日は眠れていない。
しかも夢見が悪く寝ようとすると過呼吸が出るのだと言う。
サクラにしてみれば、ナルトがそこまで精神的に追い詰められる事など
任務に出た時はほとんど感じなかったし、その日は泊まりで
ナルトもよく寝ていたらしく寝坊して騒ぎながらの帰還となったのは記憶にも新しい。

「ねぇ…あんた、綱手様にその話した?」

「え?んな恥ずかしいじゃん、寝れねぇなんて…」

唇を尖らせ言うナルトに、サクラが溜息を大きく吐き出した。

「もしかしたらアンタ何かの術がかけれれてる可能性とか考えなかった訳?」

「はぇっ?術…?」

「そう、精神を攻撃するような術が掛かってるって考えなかったの?」

きょとん…として何の事に付いて言ってるのか、全くワカリマセンみたいな顔で言う。

「…考えてねぇってばよ」

「てばよじゃないわよ!とりあえずいらっしゃい!」

グッと掴まれた腕は痛いわ、寝不足で足元はフラフラだわ…
ナルトはげんなりとしながらサクラに大人しく従った。

 

とぼとぼと、ナルトが一楽の前を見向きもせずに通り過ぎる。

「はぁ…オレってばついてねぇ…」

しょんぼりと肩を落として歩く姿に
カカシがラーメン屋の暖簾を中から押し上げた。

「珍しいねぇ…アイツがここの前を黙って通過するなんて」

カカシが横目で見てる中、中の親子はそれどころではなく
カカシの素顔に目をハートにするので一杯だった。

スッと口布を上げ、スッとお金を置くと
カカシはナルトの後を追った。

小高い丘、演習場ではナルトは既に修行を付けれず
申請が必要な上忍と同じ扱いの為、そっちへ向かっているのだろうと思ってたが
どうもそれとは違うようで

ナルトは修行を始めるどころか、ごろりとその場所に寝転んで動かなくなってしまった。

(どうしたのよあの子…悩み?…まさか…)

ナルトは元来深く考え込む事をしない。
自分の気持ちをダイレクトに伝えて来るし、それに対して後ろ暗い事など一つもない
だからこそ、皆がそれを受け入れてきていたし
今だって、ナルトを疎ましく思う人など木の葉の里には殆ど居ないと言っても過言ではないだろう。

黙って見守っていると、ナルトの体がビクリッと跳ね上がって
小さなうめき声が聞こえたと思ったら、体をガバッと起こし、短く息を切る。

(寝てたのか…?)

途端、ハッハッハと息を切らし、ナルトはポケットに手を押し込むと
持ち歩いていた紙袋を口へと宛がった。

「ナルト!」

たまりかねたカカシが声を掛けると、苦しそうに額に汗をにじませながら視線だけが
カカシを見やって、情けないな…とでも言いたそうに眉尻を下げた。

傍まで近寄ると、背中をゆるゆると撫でてやる。
袋の効果もあってか、苦しそうな息が落ち着きを見せだすと

「ありがとな、カカシ先生…みっともねぇトコ…2回も見せちまったってばよ」

なんて、苦しそうにしながら薄く笑う。

「バカだね…みっともなくないでしょ。
それにしても、お前が紙袋を持ち歩くって事は
こんな症状が良く起こるって事だよね?それも、結構な高い頻度で…」

「…うん」

「何か悩んでるのか?」

「いや…そんな事はねぇんだけど、夢が…いっつも、オレの闇の部分が出ちまって
そのせいで寝れねぇんだ…最初はサクラちゃんがなんかの術とかに掛かってるんじゃねぇかって
心配してくれたんだけど、綱手のばーちゃんが見てくれて、それはないって解ってさ
オレの心の問題だって…言われてサクラちゃんが眠れる薬くれたんだけど
飲む気になれねぇっつーか…いや、貰いに行ったのはオレなんだけど…
で、場所を変えれば夢見も良いかと思って、ここで寝てみたんだけどさ…」

「変わらなかったって事か」

「…うん」

息が落ち着き、ハーッと深いため息を落としながら
ナルトはしょんぼりと項垂れた。

「何日寝てないのよ?」

「カカシ先生が助けてくれる前の日辺りから…だったと思う」

「…三日ね、よし、おいで」

「へ?」

「お前が魘されたら起こしてやるから、今日はオレのうちに泊まりな」

思ってもない誘いにキョトンとしているとカカシがナルトの手をグッと引き
背中にナルトを背負おうとするから、慌てて”歩けるって!”と、カカシの手を払った。

「あ…わ、わりぃ…」

「いいよ、今のお前凄く神経が逆立ってるの解ってるから、ダイジョーブ」

カカシがスッと足を前へ出すとナルトもそれに従い、カカシの後を追った。

それを視線だけで確認すると、付いて来る気はあるんだなとクスッと笑いながら
ナルトの呼吸の邪魔にならない速度で自宅へと向かった。

部屋へ入ると、ナルトは嬉しそうに目を輝かせて
お泊まりなんてシカマルんち以来だってばよ!とカカシの部屋の中を見て歩いている。
そんな姿にクスッと笑って、カカシが口寄せでパックンを呼んだ。

「ナルトぉ~?パックンに頼んだから、お前のパジャマ持って来て貰いな~
部屋のどこにあるか教えて鍵わたして~」

風呂場でゴウゴウと音を立ててるカカシが普段よりもしっかりとした声で言ってくれる言葉に
小さく、おう!って返事を返して、ナルトは傍に歩いて来たパックンに鍵を渡す。
そのカギを加えて消えていったパックンを見送り、カカシが風呂場から出て来ると
シュルリと額あてを外した。

「ほら、泊まるんだからお前も寛げばいいじゃない…ナニ固まってるのよ?」

「あ…いや、せんせ…顔」

「この前見たでしょ?」

「あ、うん…いや、うんじゃねぇ!見たけど!こんな…普通に見たの初めてだってばよ
なんか、先生ずりぃ」

「…何がずるいのよ…」

「だってさ?先生は出っ歯とかたらこ唇とかさ…もっと、芸磨けよ!
んな、綺麗な顔だったら、皆の望み通りじゃねぇか…」

「はいはい…どうせ普通の顔ですよ、いいから文句言う前にお前も上脱いだら?
結構室内暑いから、半袖くらいは着てるでしょ?」

「…まぁ」

ナルトはそう言葉を吐き出してジャージを脱ぐと、体に掛かる空気が何だか心地良かった。
その間にカカシはお湯を止め、再び風呂から出て来るとナルトにタオルを投げて渡し、
ナルトはそれを難なく受け取った。

「湯船に最低でも10分は漬かりなさいよ」

「…うん、解った」

「あーそれと…風呂では寝るなよ?溺れても気づかないからね?」

その言葉を受けながらナルトが脱衣所で服を脱ぎ、ぎぃぃ…と風呂場のドアを開ければ
湯気で中が不鮮明だが心地いい香りが漂っていた。

「忍者は臭いを体に付けねぇんじゃねぇのかよ…」

と、呟きながらも、珍しくいい香りのする久しぶりの浴槽に体を洗ってすぐに浸かった。
体の芯がジンと音を立てて温まってくるのが久しぶりで凄く心地いい。
いつも湯船に漬かるのは、一人ではなく、カカシやサスケ、サイ…ようは、任務中が殆どだったから。
暑い日のはずなのに、凄く心地よくて眠気が何度も襲ってくるが
寝てはダメだと言われている以上、眠くなるとシャワーを浴びたり頭を洗ったりと
どうにか言われた時間漬かる事に成功したナルトは脱衣所に戻ると
パックンが持ち帰ったのだろう己のパジャマと下着がそこにあった。

「カエルのパンツ…これ、そう言えばずっと履いて無かったっけな」

なんて笑いながら、ナルトはイソイソとパジャマを着てカカシの待つ部屋へと出た。

「お?上がったな。暑いだろうから少しの間チャクラで体温調節しときなね?汗かいたら寝る時不快になるだろうから」

「へーい…」

言われる前から、やってはいたが
そう言われるとなんだか心地いい。

家族と言うモノを知らない…
そんなナルトがこうやって言われる事は凄く心を浮き立たせてくれた。

座ってと、引かれた椅子の先には湯気の立ったどんぶりが一つ…。

「…なんで一人分?」

「オレはこれ」

奥の棚から取り出した酒の瓶をドンと目の前に置き
コップを一つ置くと、ナルトには水の入ったコップを差し出した。

「さ、食え」

「おう…いただきますってばよ」

「はい、どうぞ召し上がれ」

くすくすと楽しそうに笑うカカシに何がおかしんだと首を傾げながら
一口…野菜だらけのスープを運んだ。

「なにこれ!?カカシ先生が作ったの?」

「そうだけど…口に合わなかったか?」

「すっげーーーーうめぇってば!」

「そ…そりゃ~良かった」

またクスクスと笑うカカシに、なんだかからかわれてる様で頬を膨らませた。
だがすぐに食欲に負け、ナルトが犬の様に口の中へと掻き込んでいく雑炊を綺麗に食べ終わると
ナルトがキッチンにそのまま食器を持ち下げて、茶碗を洗いだした。

「あらら、別にいいのに」

「せめてもの御礼だってばよ!」

「お礼って…お前の食ったもんだろ?」

「あ…そっか」

にゃははと笑ったナルトに薄く微笑むとナルトが頬を染めて、素顔のカカシ先生は慣れないってばよと
ポツリと呟いた。

「口布…つけた方が良い?」

「あ。や、違う…見慣れねぇってだけだから」

「そ?」

なんて言いながらも終始笑顔のカカシに、ナルトは心地良さを感じていた。
自分では解らなかったが、それが証拠の様に何度もあくびをしているのにカカシが気付き
スッとレンジで人肌に暖めたホットミルクを出され、首を傾げた。

「それ飲んだら歯を磨いて寝なさいね」

「え?」

「お前、あくびしてる…眠たいでしょ?」

「あ~…言われてみれば、眠い気もする」

寝る…と言う言葉にまた恐怖が蘇ってくる。
冷たい視線…あの視線を何度も受けるには、今の時間は優しすぎた。

解ってる…寝ずにカカシの優しさに甘えてる事は出来ないと

けれど…怖い。

コップを持つ手が震えていたのだろう…カカシの手がナルトの手の上に乗った。

「え?」

「大丈夫…一緒に寝るし、何かあったら絶対起こしてやるから」

「そ、そんな不安そうな顔してたか?」

「かなりね…」

「…そっか、ダメだな~カカシ先生の前だとどうしても自分を隠しきれねぇってばよ!」

ニッコリと笑うナルトに、そりゃどーもと返してポンと肩を叩いた。

「布団用意してくるから、ゆっくり飲んでな」

「おう!ありがとな!カカシ先生!」

「はいはい、嬉しいのは良いから声の音量下げなさいね?一応音響く普通の家なんだから」

その言葉に、小さめにへーいと答え、カカシの足音を聞きながら胸の苦しさを忘れていた。

飲み終わったコップを下げ、うとうととする前にと歯を磨いたらカカシにベットへと誘導され
ナルトは布団の中にダイブすると、カカシがギシッと音を立ててナルトの寝てる横に座った。

「ほら、目を潰れ」

「せんせ~?」

「なに?」

「さんきゅーな…」

「うん、礼は良いからゆっくりしてな…」

カカシは思い起こしながらナルトの昔の話をポツポツと話だし、ナルトはそれに
相槌を打っていると、あっという間に眠りの世界へと意識が持っていかれる。

必死にそれを留めてカカシと話をしたいと思ってるのに

眠気はドンドンカカシの声までも睡眠の世界へと誘導してくるから
ナルトはあっという間にその世界へと意識を飛ばしてしまった。

「でね…ナルト?…寝ちゃった?」

さらりと…まだ少し生渇きの髪を梳いて微笑んだ。
だが、ゆらり…と一度チャクラの揺れを感じたカカシが眉間にしわを寄せる。

「ナルト?」

顔を覗き込めば、唇を噛みしめて息を止め、眉間には深いしわが刻まれていた。

「ちょ、寝てまだそんなに経ってないじゃない…ナルト?起きて!」

ユサユサと体をゆするとゆるりと目が開かれた。
けれど、その眼は…

「お前…ナルト?」

「カカシ…か、そうだよ、オレはナルト」

ニィ…と、口角だけを上げる笑い方を見せるナルトに、はぁ…と息を吐いたカカシがそのまま
声を掛ける。

「違うよね…お前が…そうか、お前修行の滝でナルトと会ったって言う闇のナルトってやつ?」

「…まぁ、アイツはオレの事をそう呼んでるな…九尾の力を手に入れ仕返す力も手に入れたってのに
こいつはそれでも里を守るとか抜かしてるから、意識を乗っ取ってやってるんだ」

その言葉にカカシが深く息を吐き出した。

「お前ねぇ…ナルトに変わりはないんだから、たとえお前がその為にこいつを寝かさないって思ってやってるなら
お前自身も危ないって自覚しなさいよ?
このままじゃ、睡眠不足でナルトの体が参っちまう…そうなればお前だって簡単に出てこれなくなるじゃない」

「心配なのか?ナルトが」

「そりゃー心配するでしょうよ」

あっさり肯定する男に、ナルトはつまらなそうに視線を外した。

「…皆ナルトナルトって、今じゃ調子良い事言いやがって!
親父だって四代目だって解った途端掌返した奴だっている!
こいつはそれまで一人だったんだぞ!?どんなに苦しかったか解るもんか!」

叫びだしたナルトをカカシが布団の上からギュッと抱き締めた。

「離せ!カカシ!」

「お前にそんな風に思わせた里は…良くなかったとは思うよ?
でも、九尾の力で崩れた木の葉を支えたのも、九尾へ対する憎しみだった…
それを一身に受けたナルトが辛くなかったなんて…それこそ誰も思ってなんかいないよ。
四代目の息子と知られればもっと酷い事をされたり攫われる可能性だってあった…
オレも若かったからナルトとは殆ど接点はなかったけど、噂は嫌でも耳に入るからね
それに耐え、ナルトは大きく育ったじゃない…一度はナルトと一緒に
受け入れようと考えたお前がなんで今こうやって悪さをするの?」

「悪さじゃない…守ってるんだ」

「…守る?」

「そう…守るんだ、こいつは悪意ってもんに滅法弱い…そんなナルトに今向けられてる目は
昔の蔑むような目ではなく…偽りの笑顔なんだ。
火影になるかも知れねぇこいつに取り入っておけば、とりあえず安泰だと言わんばかりの
ずる賢い奴らが最近オレらの周りをうっとおしい位に付きまとってる…
お前も知ってるだろ?中忍の男とか…上忍の女とか…」

「…まぁ、聞いて無い訳ではないけど…そこまで酷くもないでしょうよ…」

スッとナルトが逃げなさそうなのを見計らってカカシが被さっていた体を横へとずらし
ごろりと横になった。

「それに…お前は何からナルトを守ってやってるんだ?」

「え?」

「ナルトは自分で立てる人間だってのはもう解ってるだろ?お前の事を認め
そんな自分も、自分だと受け止めた男だよ?
それが、ちょっと心が揺らいでるからってお前が出なくても
ナルトはちゃんと前を見れるでしょうよ…
それだけの精神力は付けてると、オレは思うけどねぇ」

ははは…と、笑うとナルトはズイッと顔をカカシへ寄せた。
その眼は色気を孕んだような…百戦錬磨?なカカシの心音を跳ねさせるような表情を一度見せると口を開いた。

「アンタさ…ナルトを性の対象に見た事ねぇだろ?
アイツ結構男にモテるんだぜ?
いつ掘られるか心配して何が悪い?アイツはそういう事に疎いからな…
お蔭でアイツの中でオレが冷や冷やしなきゃなんねぇんだよ。
この前だって、アイツ持ち帰られる寸前でオレが此奴を助けてやったんだ…」

その言葉にキョトンとしていたカカシが目を見開いた。
それはもう、驚くほど大きく開かれ写輪眼の片目を閉じる習性まで忘れ見開いた。

「その視線が…ナルトにしてみれば幼い頃の蔑む体験に似てるんだろうよ
アイツこのまま行けば人間が怖くなって、一人どこかへ籠っちまうかもしれねぇぜ?」

その言葉に、カカシがジッとナルトを見やり、クックックと肩で笑う闇の部分のナルトの言葉の真意を量っていた。

「嘘なんか言ってねぇし、お前も見てると解るぜ?7班は良いんだよ…
でも最近の任務は、お互いばらけちまってるだろ?
実力の高い者を集めて任務に充てるのは、効率がわりぃからな…
そこまでは解ってるんだ…ナルトも、ただ、そこで知り合う男や女も時折居るが
必要以上に心の中へと入りたがるんだ…ナルトはそれに戸惑ってるのは確かだ」

「…そう、そういう事だったの」

「だから、協力者が必要なんだ」

「協力者?」

「アンタ、彼女いねぇだろ?あんなエロ本堂々と見てるくらいだし」

その言葉にがっくりと頭を項垂れたカカシが諦めたように言葉を吐き出した。

「…お前失礼極まりないな」

「でも図星じゃねぇの?」

「ま、彼女ってのは作るもんじゃないからね…特にオレみたいな人間には
彼女なんて勿体ないし、狙われると解ってて作ろうとは思わないけどね」

クスリと一つ笑うと、そのままナルトの言葉が続いた。
  
「だから、そのアンタがナルトと付き合っちまえば
里の至宝が里の英雄を手に入れたってなら、アンタに喧嘩を売るようなバカは
他の里の人間位だろ?あ~…数人マジでナルトに惚れてるんじゃねぇかって奴はいるけど
まぁ、そんなの掻い潜れるだろう?
ナルトはオマエ目当てで来る殺人者を追い払うだけの力もある…
だったら、お前がナルトと付き合えばいいんだよ!」

「…お前、それ本気で言ってるの?」

「いい案だろう?」

ずる賢い笑顔を一つ零すとこう続けた…

「それにコイツは、アンタと居る時は安心しているし最近はアンタにキスされたって
ウヒャウヒャ大騒ぎしてのたうち回ってたしな…案外、あっさり付き合ってくれるんじゃねぇ?」

「…なんでオレが男と、しかもナルトと付き合うとか言う話になるのよ…」

「可愛い教え子の尻を守るため…?」

くすくすと笑うナルトに深いため息を吐き出した。
カカシは元々男同士でどうとか、そういう類には全く無関心だった
しかも、幼かった頃から知ってる14も離れた男に…付き合おうと言わなければならないのか?
ただ、闇のナルトの言葉は確かに本当にそう言う状況であれば、有効ではある。

「ま、状況を判断して決めるのはオレって事でいいんだよね?
ナルトがこのままじゃまずいのは解ってるつもりだから、よく考えてみるよ」

「んじゃ、こいつ結構深く眠ってるから…頼んだぜ?カ・カ・シ・先・生・!」

カカシの頬にチュッと軽くキスを落としそのままカクンと力を失ったナルトが被さってきた。

「ちょ、まだ決めてないってのに!」

突然のキスにアタフタしている間に、ナルトの体から力が抜け
カカシの胸の上にコテンと頭を落としてスースーと寝息を吐き出すナルトを
首だけを上げてみてから深いため息を吐き出し
枕に頭を預けた。

「男同士で付き合うって…闇のナルトは一体どこからそんな情報得るのよ…
しかも、ナルトが尻を狙われてるとか…露骨にも程があるでしょうに…」

気持ちよさそうに眠るナルトを邪険に跳ね除ける事も出来ず、カカシはその場で
腕を己の頭の下に差し込みもう一度溜息を吐き出してから目を伏せた。

嫌に…胸に引っかかる。

ナルトが他の男に狙われてると知ってから、何故かざわつく胸を知らない振りで通し
カカシもその日は眠りに落ちた。

カタカタと聞こえる音。
カカシはゆるりと目を開くと、人の気配に目覚めなかった己にポカンとしつつ
ナルトが泊まった事を思い出し、ベットに居ない彼を見るために部屋を出た。

「おう!カカシ先生おはようってばよ!」

にっぱりと笑ったナルトが片手にフライ返しを持ち、テーブルには
ベーコンと目玉焼き、そして牛乳が置かれていた。

「…洋食」

「あ、味噌汁とかわかんねぇし…出来るのったらこれくらいでさぁ。
昨日のカカシ先生の料理ほど上手くはねぇだろうけど…食えねぇ?」

テーブルに腰を落とし、食べれるよ…ありがとね、と声を掛けると
目の前にコトンと焼かれたパンが置かれた。

それを食べ終えると、ナルトがニッコリと微笑んでよく眠れたみたいだと
カカシに伝えると、それは良かったと答えてカカシは任務へと出向く用意を始めた。

普段見る口布を横目で見て、クスッと笑う。

「なぁに笑ってんの?」

「いやぁ、口布の下がアンだけ気になったのに…
知ったら知ったでなんで、隠すんだって思っちまってさ…なぁんか
オレだけ贅沢な気分だってばよ!」

「…贅沢って、オレの素顔知ってる奴なんて其処ら辺にたぁっくさん居るんだけどねぇ?
ガイとか紅は知ってるだろうし、綱手様だってもちろん…」

「ンな事じゃねぇんだってばよ!カカシ先生になんか…近づけた感じがするっての?」

その言葉に昨日のナルトとのやり取りが思い起こされてドキリとカカシの心音が跳ねた。

「な、何言ってるの…ンな事より、お前も任務あるんでしょ?」

「…いや、今日は外された、後でばーちゃんに見てもらう」

あぁ、そうだった…この子は眠れてなかったのだと
カカシが苦笑いを浮かべ、ポンと黄色い頭を撫でた。

「そうだったね、鍵は今度会った時返して…とりあえずオレはもう出るから」

「で、でも?」

「いいよ…お前だったら家に居ても問題ないさ…んじゃ、行ってくるね?」

「お、おう!気を付けて行って来いってばよ!」

「はいはーい…」

カカシはそのまま姿を消し、ポツンとナルトが部屋に残された。
綱手の所へは昼に行けばいい…それを考えてからカカシの寝室へと向かい、布団を窓から出して
何度か叩き、部屋を綺麗にしてから鍵を閉めた。

ちゃり…と音を立ててナルトの手の中に握りこまれ、カカシの部屋からナルトが出ると
静まり返った部屋にポンとパックンが現れ辺りを見渡す。
そしてすぐに消えると、カカシにナルトが部屋を出たことを伝えた。
任務があると言うのは嘘ではないが、昨日の闇ナルトの言葉の真意を確かめようと
暫くの間カカシはナルトに忍犬の監視を付けたのだ。

そして己もとりあえずは調査してみようと動き始めた。

闇のナルトの言葉は遠からず、あてはまる行動をしている忍を何人か確認した。
と言うより、あまり噂話に耳を傾けてなかったカカシが一度その話に捕らわれると
あっという間にその話題はあちらこちらからと入ってくる。

(…アイツもてるのね)

カカシは、そろそろ綱手の元に向かっているであろうナルトに変化をして
今日は特別綱手に任務を入れて貰った。

実際カカシはさほど気には留めていなかったが
サクラ辺りから、綱手に進言していたらしく、その話をすると
綱手が自ら任務を与えてくれた。

最近ナルトにちょっかいを掛けている上忍のサキラと言う男らしいが
ナルトが空いてると知ると、必ず任務にナルトを指名するらしい。
相手は上忍、そしてナルトのチャクラは特別なもので、解る人にはあっと言う間に
知られてしまうだろうが、千の技を持つ男。
幻術と、変化の組み合わせでナルトにすり替わる事をやってのけた。

「よ!ナルト」

集合場所へ出向けば、その男が背後からナルトの首に手を回し巻き付いて来る

(…これはうっとおしいねぇ)

「なんだよ…溜息なんて?どうした?なんか悩みでも抱えてんのか?」

「あ…いや、何でもないよ…じゃないや、何でもないってばよ!」

と、慌てて言い換えてハハハと笑うと首を傾げて来るので
カカシは冷や汗を垂らしながら、ちょっと腹の調子が悪いだけだと付け足した。

多少の違和感は、病気だと言う事にしておけばある程度は凌げる。
カカシはそのまま、短時間ではあるがその男のチームでナルトとして任務を遂行した。

「よく眠れたようだな…」

ナルトの目をジッと見ながら言う綱手に、どうにか…と薄笑いを浮かべたナルトに
先程カカシから聞かされた言葉を思い出す。

闇のナルトがカカシに告げた全ては聞かされていないが…
ナルトに取り入ろうとする人間がいる事や、怪しい視線を闇のナルトが感じ取ってる事を
聞かされても、それをダメだと言える訳もなく…

カカシが軽く調査を申し出てくれた事に、協力するしかできない。

人の心にまで踏み込んで縛る事は出来ないのだから、そういう目で見るなと言っても
恐らくは…思い違いだとか、気のせいだとかで済まされてしまうような話なだけに
綱手も手を出せずにいたのだ。

その視線を肌で感じそれに嫌悪感を抱きつつも、その気持ちをやり過ごそうとして
気付かぬうちに、ナルトの神経がピリピリと張りつめているのではないだろうかと
そう聞かされた時は、本気でありえんだろうと思った…

だが数日の睡眠不足だった事と、今回カカシから聞かなければ
夢見が悪いだけでなぜ寝れないのだと言う疑問は生まれただろうが
ここまで酷く過呼吸まで出てしまっているのだと言う事も、最初に聞いた時は
もっと、簡単な問題だと思っていた。

里から離してやろうか…?

雷影も風影も、ナルトを預かるのは恐らく賛成してくれるだろう…
だが、その後はどうだ?
戻って来てすぐに火影になったとしたらそのプレッシャーにこの子は耐えられるのだろうか?

黙ってそんな事を考えてると、ナルトが不思議そうな顔で綱手を覗き込んだ。

「なぁ、ばーちゃん?オレそんなに悪いのか?」

「は?」

「オレってば、病気なのか?」

「いや、お前は何も考えずともいい」

「…んまぁ、大した考えてねぇんだけどな」

今はカカシが動いている…上手く事が運べば、ナルトへ向ける視線も
どうにか変えられるかもしれない。
カカシの腕次第だがあの男が期待を裏切る事はほとんどない…
ただ相手は対人、どうしても上手く行かない事だってあるのは綱手も十二分に解ってる。

「ナルト…お前最近気になる女はいないのか?」

その問い掛けに飲みかけの水を噴き出した。

「なっ、何言ってるんだってばよ!」

「お前もそろそろ年頃だろう?浮いた話の一つくらいあるだろう」

「…オレは、別にねぇってばよ?それにサクラちゃんはサスケと仲良くなっちまってるし
オレはそんなの気にした事もねぇし。」

と少ししょんぼりしたようなナルトに、綱手がポンと数枚の写真を渡した。

「結婚するなら、その中から選ばせてやるぞ?」

「…ばーちゃん、オレってばまだ19!んなもんに構ってる暇あったら
修行して強くならねぇとならねぇの!」

「カカシに、弾かれた女どもはダメか?」

その言葉にトクンと脈が跳ねた。

「カカシ先生が…見合い?」

「あ?はたけの血を断つ訳にはいかんと何度も言うんだが
アイツは自分の思うように生きると言い張ってな…見合いは全て蹴られてるが
このままじゃ、私も立つ瀬がない!絶対にカカシの思い人を調べてやる!」

と、気合十分の綱手の言葉に胸が苦しくなった。

(なんだこれ…)

過呼吸とも違う苦しさ…
あの素顔を知る人間は多いと言ってたが…
それが、女で里の人間じゃなくて…

(え?ちょ…なんか変だってばよ)

むむむっと考えては首を傾げてると
そんな所で油を売ってないで帰って明日の用意をすれと返されてしまう結果になってしまうのだが。
胸の靄が拭いきれず、ポケットに入ったカカシの家の鍵を取り出し
手の中にそれを握りこむと、ジッとカカシの家の方へと視線を向けた。

(カカシ先生結婚すんのかな?)

そんな事を考えると、なんだか胸苦しさが収まらず
ナルトは自宅へと帰った。

本当はこのままカカシの家に行きたかったが
昨日泊まったばかりの家に、居座るのもどうかと…考えたのだ。

けれど、気になる事はその事ばかりで、ナルトは夕飯も食べずに
机に黙って座ったままでいると、カタリと音が聞こえゆるりと視線を向けた。

「あ…カカシ先生」

「相変わらず、窓は開放的だし…電気も点けないで…どうかしたの?」

「あ~…うん、なんかさ…カカシ先生結婚するの?」

ガックリと肩を落として口布の下で口があんぐりと開かれた。
それほどまでに衝撃な言葉…カカシが苦笑いして何言ってるのと諌めると

「そ、そうだよな…オレってば何言ってるんだか…」

と、笑い出してしまった。

ふむと、一つ考えたカカシは、今日綱手の元に行ったことと
ナルトを見る目を話した事…それを総合して考えてると、つい数日前に
渡された見合い写真を思い出した。
それを関連付けてしまうと、己が断った写真の女達をナルトに勧めたかも知れない…

「ま、結婚はオレはするつもりはないよ。
オレにはやらなくちゃならない事もあるしね」

「…やらなくちゃならない事?」

「そ…お前だよ」

「は?」

その言葉にキョトンとした表情を向けて来るナルトにカカシは続けた。

「オレはオマエが火影になるまで見届ける…それは結婚するより
オレにとっては幸せなんだよ…火影になったお前を守って行けるのも嬉しいねぇ~
ま、オレは人を幸せにする事なんて出来ないだろうから、お前を見守ってるので十分だよ」

その言葉にポカンと開けた口が塞がらないナルトをくすくすと笑って
ポンと頭を撫でた。

「お前はオレの光だから」

その声にぴくっと一度反応を示してから、少しの間をあけて
小さな声でそれは綴られた。

「…カカシ先生はオレが、オレが幸せにする」

「は?」

「あ、いや…だからさ、オレが幸せにしてやるってばよ!
だから、カカシ先生がソバにいてくれればオレってば、それだけで幸せなんだ!」

「ちょーーーっと、待ちなさいよ…ナルト君?」

目をキラキラさせて告げる事柄なのか?
嬉しそうに言う事なのか?
カカシは一度頭を整理すると、深くため息を吐き出した。

「オレと付き合うとか…そういう事では無いって事だよね?」

この言葉の真意を測るためには、可能性を消していかなければならない…

「へぁ?付き合ってもいいよ?」

「は?」

「へ?」

話がかみ合わない…。
だがナルトの言葉は恐らく傍に居たいとか幸せにしてやると言うのは
きっと…

「恋愛感情はそこにはあるの?」

その言葉にナルトが目を大きく見開いた。

「は!?何それ…なんでレンアイカンジョ~?」

その言葉にカカシが大きく息を吐き出した。
やっぱり彼は解ってない…

先程一緒に任務に就いた男もそうだった…

ナルトの傍に居たいと、彼は告げ、それを快諾したナルト…
だから、カカシがそう言う理由で承諾したのではないと…どうにか話をまとめ上げたのだ。

(…なんだってこんなめんどくさい事になるのかと思えば…ナルトは本気で
天然じゃないか…このままじゃ確実に次の犠牲者が出る…)

しばし考え込んだカカシが、諦めたように溜息を吐き出した。

「解った…ナルトオレと付き合おう、しかも恋愛感情付の付き合いだ」

ナルトの手をグッと握って告げたカカシに、ナルトはまた目を大きく見開いた

「ちょ…カカシ先生?先生はオレのこと好きだったのか?ってより
オレ達男同士って奴で、そんなんで皆にばれたら、サクラちゃんやイノ辺りが大喜びするってばよ!?」

その言葉にカカシが苦笑いを零した。

「イノを喜ばせておけばいいでしょ?どうする?付き合ってみる?」

「…ってか、カカシ先生はオレと付き合いたいの?」

正直男と付き合うなんて思ってもなかったし、これから先もそんな事はないだろうと
そう思って生きて来た。
性への対象はあくまでも女性で、男性なんて眼中にも無かったのだが
闇のナルトに提案されて、それもアリかなと思ってしまった事実は変えられない。
それに、ナルトの存在が気になるのは確かで…ナルトに新しい恋人が出来ると言う考えを持つと
何だか自分の中であまりいい気持ではないものが生まれていた。

「ん~…まぁ、微妙なんだけど、お前と居ても別に嫌じゃないし
付き合ってみてもいいかなぁ~?的な?」

「…なんか、それっていい加減じゃねえか?」

「そう?そこから本当に愛が芽生えるかもよ?」

その言葉にガタッと音を立ててナルトが立ち上がり、多少青ざめた顔で
数歩引き下がった。

「うっわぁ~愛とか…カカシ先生が言うと寒いってばよ!」

「寒いって…お前本当に失礼だな…大丈夫だよ恋人には優しくしてあげるから。」

「な、なんかケッテーしちゃってる言い方だけど…」

オドオドとするナルトを横目にカカシがクスッと笑って声を掛けた。

「お前好きなやついんの?」

回答が来る前に、カカシは対面に座ってた場所から立ち上がり
ゆっくりと足をナルトの方へ向けた。

「いや、いねぇけど…」

挟まれた机が、もどかしかったか、カカシが何かを確かめるかのように
ナルトの体をそっと己の胸に抱き込んだ。

その行動にカチンと固まるナルト…だがカカシがくすくすと笑って、悪くない…と吐いた。

「わ、悪くないってなんだよ!」

「ん~?抱き心地…結構悪くないもんだな~とね?」

「とね!じゃねぇ!離せって!」

「え~?良いじゃない、付き合うって言うまで離さないよ~♪」

「…先生遊んでるだろ?」

「あ…ばれた?でも付き合うのは本当、ね?少し付き合ってみようよ
女の子と付き合うのとちょっと勝手が違うかもしれないけど
お前がオレの事好きになる可能性が無ければ、お前のタイミングで別れてもいいから
とりあえずは、一か月だけ、付き合おう」

そう言われてしまえば…カカシのかっこいい顔やら、前にされたキスやら…
綱手の言葉でもやもやした胸の事やらが目まぐるしく回って
ナルトはハーッと息を吐き出し首を縦に振った。

「そ?んじゃ~よろしくね?
あ~それと…他の人間は傍に置かない事ね!
友達としてならいいけど、それ以外はだぁめっ!」

ナルトの鼻をギュッと軽く握るとニッコリと微笑んだ。

「わかったってばひょ…」

「よし、それじゃ…とりあえず今夜はオレの家に行こう」

「は!?」

そして、結局お持ち帰りされてしまうナルトは
その日の夜は過呼吸も出る事無く、カカシの部屋で同じ布団に眠る事に成功した。

月が綺麗に輝いている。
数分前に言葉を切ったナルトが眠りに落ちたのは解っていたが
読みかけの本をもう少し進めようと、カカシはページを捲っていた。

「上手くやったな」

その声に視線を向けると、向こうから送られてくる視線にニッコリと笑った。

「あー…お前また出てきたの?」

「へぇ、オレだって良くわかったな」

「ま、口調が違うしね…」

「へぇ…それでナルトが本気になったら責任取るのか?」

ようは、言われて付き合ってその先の話をしているのだろう。
カカシにしてみれば、軽い感情だけで、その話を決めた…とも思える行動だった
だから、本当のナルトも多少なりと不安は胸に抱えてしまって居るかもしれない。

「…ま、どうだろうねぇ…でも、嫌いだったらこんな提案しない事は確かだよ」

「…おいおい、オッサン本気かよ」

目を見開いた闇のナルトにどうだろうねぇ~なんて悠長な言葉を掛けながら
カカシは本を横のチェストに置き、体を布団の中に押し込んだ。

「さぁて、寝るよ!」

バフッと布団を被りカカシが背を向けると
ナルトがウオ!と声を上げた

それからしばらくは黙っていたが、急にナルトが声を掛けた。

「カカシ…すまないな、アイツの言動でお前が尻ぬぐいしなきゃならねぇこと
結構あると思う…」

「いいさ…小さい頃からナルトの尻拭いし続けて来てるしね?
それがオレの生き甲斐みたいなもんだし…」

「ふん!」

と、鼻で息を吐き出すとナルトは空を見上げた。
二人で見上げる天井は狭かったが、何だか心地良く眠る事が叶った。

【葉月 完】

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